この連載では、みなさんからフォーム・セミナーや、感想に寄せられたご質問に孫さんが回答していきます!今回の質問はこちらです。

Q.生徒に志望理由書を書かせているのですが、「なぜ他大学ではなく、この大学なのか」という部分がどうしても浅くなり、パンフレットの引き写しのような文章になってしまいます。何をどのように調べさせれば、説得力のある「この大学でなければならない理由」が書けるようになるでしょうか?


大学を調べる前に「研究テーマ」を具体化させる

生徒が「この大学でなければならない理由」を書けないとき、多くの場合は大学のリサーチ不足ではなく、生徒自身が持っている「問い(研究テーマ)」の解像度が粗いことが原因です。

例えば「地域活性化を学びたい」という粗いテーマのまま大学を調べても、どの大学の地域連携プログラムや少人数ゼミを見ても同じように魅力的に見えてしまいます。その結果、「貴学は地域との連携が盛んで〜」「カリキュラムが充実しているため〜」といった、どの大学でも書ける志望理由になってしまうわけです。

逆に言えば、「過疎地域における高齢者の移動手段の確保」や「伝統工芸の後継者不足における流通ルートの課題」といったレベルまで問いが具体的になっていれば、調べるべき対象は自然と絞られていきますよね。

つまり、他大学との差別化は、大学のパンフレットを隅から隅まで読み込むことではなく、生徒自身の研究テーマの解像度を上げることが重要だと思います。


シラバスは「授業内容」まで確認させる

研究テーマがある程度決まったら、大学のカリキュラムを調べさせます。ここで重要なのは、科目名だけではなく、実際に授業で何を扱っているのかまで確認させることです。

多くの生徒は、学部案内の「地域創生論」「観光社会学」といった魅力的な科目名だけを見て満足してしまいます。しかし、科目名が同じでも、大学や教授によって扱うアプローチは全く異なります。

例えば、同じ「地域活性化」を扱う講義であっても、以下のように中身が分かれます。

  • 行政学や地方自治の制度設計からアプローチする講義
  • 観光経済やマーケティング、データ分析からアプローチする講義
  • 文化人類学的なフィールドワークを中心に据えた講義

生徒にシラバスを開かせ、「第3回〜第5回で扱っている内容は自分の知りたいことと合致しているか」「指定されている参考文献は、自分が関心を持っている論点に近いか」を確認させます。

ここまで具体的に一致していれば、「貴学の〇〇教授の『地域政策論』第6回で扱われる〇〇の手法を学ぶことで、自身の問題意識である〇〇を解決したい」という、コピー不可能な固有の志望理由が作れます。


教授の研究は「論文のタイトル」と「直近の共同研究先」で調べる

次に重要なのが、教授の研究です。

大学の教員紹介ページだけを見て終わってしまう生徒が結構いるんですけど、そこに書かれている「主な研究分野」だけでは、実際に何を研究しているのか分からないんですよね。

なので、僕だったら次の2つを調べさせます。

  1. 「CiNii Research」で直近3〜5年の論文タイトルと要旨(アブストラクト)を見る
    その教授が今まさにどういう課題設定で研究しているのかが分かります。
  2. 大学の社会連携ページ等で、外部連携先を確認する
    どの自治体や企業とフィールドワークを行っているのか、現場のリアルなフィールドが見えてきます。

例えば、過疎地の交通課題を追いたい生徒なら、「地方交通を研究している教授」という大枠だけでなく、「実際に生徒が関心を持っている地域や、類似する中山間地域の公共交通計画に携わっている教授」を見つけ出すことができます。現場のフィールドと生徒の関心が結びついたとき、志望理由は他大学には置き換えられないものになります。

自分が研究したいテーマと、教授が実際に取り組んでいる研究が一致している。

ここまで調べられると、その大学を志望する理由にも説得力が出てくると思います。


他大学と比較して「違い」を言語化させる

もう一つ、実際の指導でやっていただきたいのが、他大学との比較を行うワークです。

「この大学でなければならない理由」を考えるうえでは、検討から外した他大学と志望大学のシラバスや研究室を並べて比較させることです。

「この大学は素晴らしい」と考えているうちは、比較の視点が抜け落ちています。なので、同系統の学問を学べる他大学を最低1〜2校ピックアップさせ、簡易的な比較表を作らせてみてください。

  • A大学(志望校):現地での実地調査を重視し、質的研究(インタビュー等)に強みがある
  • B大学(比較対象):計量経済学を用いた統計分析やデータモデルの構築に強みがある

このように並べてみると、「自分は理論モデルを組みたいのではなく、住民の合意形成プロセスに深く入り込みたいからA大学なのだ」という引き算のロジック(他大学では自分の目的が十全に達成できない理由)が言語化できます。「なぜ他大学ではないのか」という面接官の問いに詰まってしまう生徒には、この比較作業が極めて有効に機能します。


大学の学びと卒業後の進路を「一本の線」でつなぐ

最後に確認したいのが、大学での学びが卒業後のビジョンと無理なく一本の線でつながっているかという視点です。

注意が必要なのは、大学のリサーチが深まった生徒ほど、大学4年間の学びの記述だけで満足してしまいがちなことです。しかし、推薦入試の大学側が見ているのは「そのカリキュラムや研究環境が、生徒が将来果たしたい役割にどう直結しているか」です。

例えば、「将来は地方公務員として過疎対策に取り組みたい」と考えている生徒の場合、単に大学で講義を受けることだけを理由にすると、「公務員試験の勉強ならどの大学でもできるのでは?」と返されてしまいます。

「将来、地方公務員として現場に即した政策を立案するためには、学生時代に学問としての地域行政論を修めるだけでなく、学部が持つ〇〇市との実証実験プログラムに参加し、住民の合意形成の難しさを現場で体験しておく必要がある」

このように、「目指す将来像に必要な資質」と「その大学固有の環境」が必然性を持って結びついたとき、志望理由は完成します。生徒が調べた大学の特徴を、本人の将来構想へ接続できているかどうかを、最後のチェック基準にしてみてください。


「なぜこの大学なのか」は、研究内容との一致で考える

このように、「なぜこの大学でなければならないのか」が弱い生徒には、大学の魅力をたくさん調べさせるだけでは不十分です。

まず、自分が研究したいテーマを具体化する。そのうえで、シラバスや教授の研究を調べ、他大学との違いを比較していく。

そして最後に、その大学で学べることが、自分の研究テーマや将来の目標とどうつながっているのかを考えさせることが重要です。

「この大学には魅力的な授業がある」ではなく、「自分がやりたい研究を進めるために、この大学の環境が必要なんだ」と説明できるかどうか。

ここまで生徒自身の言葉で説明できるように指導していただくことが大事だと思います。


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