「やりたいこと」が見つからない生徒に、どんな自己分析をさせればいいか。
推薦入試の指導では、「やりたいことが見つからない」という生徒も少なくありません。
そんなときは、いきなり将来を考えさせるのではなく、まず過去を振り返ることが大切です。
「やりたいこと」は突然出てくるものではなく、これまでの経験や、そのときに動いた感情の中から少しずつ見えてきます。
「やりたいこと」は、いきなり出てくるものではない
「あなたの強みは何ですか?」
「将来何がしたいですか?」
いきなりこのように聞かれても、なかなか答えられないでしょう。
それは、当然といえば当然です。それらの質問に対する答えは、頭の中から急に出てくるものではなく、自分の過去をたどる中で少しずつ見えてくるものだからです。
みなさんが「こういうことを学びたい」「こんな社会課題を解決したい」「こういう仕事に就きたい」と思うとき、その思いは突然どこからか降ってくるわけではありません。
小さいころの体験、家族との会話、学校での出来事、部活での悔しさ、友達との出会い、ニュースを見たときの違和感。
そうした過去の経験が少しずつ積み重なって、「自分はこれが気になる」「ここに強く反応する」という感覚をつくっていきます。
だから、「やりたいこと」が見つからない生徒には、無理に将来の夢を考えさせるのではなく、まず過去を振り返らせることが大切です。
推薦入試で重要なのは「なぜ、あなたはそう思うのか」
たとえば、「日本の魅力を海外に広めたい」と語る受験生はたくさんいます。
「日本には素晴らしい文化があるからです」
「少子高齢化社会の中で海外とのつながりが大切だからです」
「観光や文化発信を通じて日本の未来に貢献したいからです」
こうした説明は、たしかに間違っていません。
ですが、推薦入試で差がつくのは、その先です。
「なぜ、あなたは、そう思うようになったのですか?」
こう問いかけられた途端、答えられる人が少なくなります。
たとえば、小さいころに海外から来た友人が日本のアニメや祭りの話を楽しそうにしていた記憶があるかもしれません。
家族旅行で地方の伝統文化に触れたときに、「こんなに面白いものがあるのに、知られていないのはもったいない」と感じたかもしれません。
自分自身が海外の人に日本のことをうまく説明できず、悔しい思いをした経験があるかもしれません。
そうした具体的な原体験があると、「日本の魅力を海外に広めたい」という言葉が、一気にその人だけの言葉になります。
推薦入試では、「やりたいこと」を語るだけでなく、なぜそれをしたいのか、なぜそのテーマに心が動くのか、自分の人生のどの経験とつながっているのかまで語ることが大切です。
自己分析には「人生年表」を使う
そこで自己分析の1つの方法としておすすめしたいのが、人生年表の作成です。
これは、小さいころから今までの出来事を、時間の流れに沿って整理していく作業です。
横軸に年齢や学年を書き、縦軸に「学校」「習い事」「部活」「校内活動」「校外活動」「リーダーシップ」などの項目を置くと、経験の流れがひと目でわかるようになります。
実際、年齢・学年を横に並べ、ジャンルごとに出来事を書き込んでいくと、
「自分はどの時期に何に力を入れてきたのか」
「どんな経験が積み重なって今の自分につながっているのか」
がとても見えやすくなります。
人生年表に書く項目は、大きく次の9つです。
- 学校
- 習い事・塾・家庭での学び
- 家族の出来事・家庭環境
- 海外経験・地域経験
- 部活動
- 校内活動
- 校外活動
- リーダーシップ・役割経験
- うれしかったこと・悔しかったこと・価値観が変わった出来事
「すごい実績」を探す必要はない
ここで大切なのは、人生年表を「すごい実績を並べる表」にしないことです。
推薦入試で役立つ人生年表とは、賞や肩書を見せるための資料ではありません。
自分の価値観の根っこを発見するための地図です。
たとえば、部活動であれば、「県大会出場」という結果だけを書くのでは不十分です。
努力をどう続けたか。
チーム内でぶつかった経験。
怪我で悔しい思いをした経験。
後輩への接し方に悩んだ経験。
そうした経験のほうが、人の価値観に大きな影響を与えます。
校外活動でも、「受験のためにやったこと」だけをピックアップする必要はありません。
むしろ、最初は受験を意識していなかったけれど、自分が面白いと思って参加したことのほうが、価値があります。
自分の興味関心が、より素直に表れやすいからです。
一番重要なのは「感情が動いた経験」
人生年表をつくるときに、いちばん大事なのは、その出来事で自分の感情がどう動いたのか、そしてそこで何を大切だと思うようになったのかまで書くことです。
この点が書かれていない人生年表は、ただ出来事を並べただけの表、つまり単なる履歴書のようなものになってしまいます。
推薦入試の自己分析で必要なのは、事実の整理ではなく、その事実が自分にとってどういう意味を持っていたのかを明らかにすることなのです。
- うれしかったこと。
- 悔しかったこと。
- 腹が立ったこと。
- 悲しかったこと。
- 救われたこと。
- 安心したこと。
- 納得できなかったこと。
そういう感情の反応の中に、「自分が大切にしていること」が隠れています。
たとえば、スポーツの試合で負けたこと自体が重要なのではなく、
「負けたときに、自分は何がいちばん悔しかったのか」
を明らかにすることが大事です。
結果が出なかったことなのか。
努力が認められなかったことなのか。
チームに迷惑をかけたことなのか。
それによって見えてくる価値観は大きく変わります。
「推し」「ライブ」「アニメ」でも構わない
もう1つ大事なのは、「すごい出来事」だけを書こうとしないことです。
推薦入試の自己分析では、全国大会や表彰歴のような目立つ実績だけが材料になるわけではありません。
なんでもないことでOKです。
推しができた。
あのライブがよかった。
あのアニメがすごく面白かった。
他の人から見てくだらないと思われるようなものでも問題ありません。
むしろ、そういう一見ささいに思える日常の出来事のほうが、自分が何に心を動かされる人間なのかをよく表していることがあります。
たとえば、あるアーティストのライブに行って「言葉で人の背中を押す仕事ってすごい」と思った経験は、表現やコミュニケーションへの関心につながるかもしれません。
あるアニメを見て「理不尽な社会の描かれ方」に強く反応したなら、それは社会の不公平さに敏感だということかもしれません。
大切なのは、その出来事が世間的に大きいか小さいかではなく、自分の感情が動いたかどうかです。
自己分析は、自己理解
価値観が変わったことを1つずつ振り返ってみると、
「自分は人に認められることを大切にするタイプなのだな」
「一人きりで頑張るより、誰かと協力できたときにやりがいを感じるのだな」
「理不尽な状況を見ると、自分は放っておけないのだな」
などと、自分らしさが見えてきます。
その自分らしさこそが、志望理由書や面接で語るべき中身になります。
だから、「やりたいこと」が見つからない生徒に対して、いきなり「将来何がしたい?」と聞く必要はありません。
まず過去の経験を並べる。
その中で、どこで感情が動いたのかを見る。
そして、「なぜそう感じたのか」を一緒に考えていく。
自己分析とは、やりたいことを無理やり作る作業ではなく、自分が何を大切にしている人間なのかを理解する作業です。
そこから少しずつ、「だから自分はこれを学びたい」という将来につながっていきます。
