「あまり覚えていないけど、3000万円とかじゃないかな…親が払ってくれたのであんまり覚えてなくて」
当たり前のように、3000万円の出費について話してくれたのは、今回お話しを聞いた角居くん(仮名)です。この費用は、彼が高校時代にニュージーランドへ留学する際にかかった総額だといいます。
角居くんは、地方の偏差値39の県立高校からニュージーランドへ二年半留学した経験の持ち主。
そのまま帰国子女入試で早稲田大学政治経済学部に進学しています。
いかにも淡々とした口調だが、この数字だけでも多くの受験生にとっては驚愕の事実であろう。
教育熱心な家庭で小学受験し、県内の附属校に進学
角居くんは佐賀県の中心部地域で生まれ育った。両親は地元で経営者として事業を営んでおり、いわゆる「教育熱心な家庭」だったという。
「小学校に上がる前は『お受験』のための幼児教室に通っていました。そこではペーパー試験の対策とか行儀作法の練習とか、当時の自分にはよくわからないことばかり。
でも、母が“このほうが将来いい大学に行ける”と確信していたみたいで……。結局、県内でいちばん人気だと言われる大学付属の小学校に合格しました」
大学付属の小学校に入学するメリットは、小学校から中学まで“エスカレーター式”で進学できる点にある。実際、角居くんの同級生には、車で一時間以上かけて通う者も珍しくなかった。佐賀県のなかでも名門扱いされる環境に囲まれ、角居くん自身も「当時はそれが当たり前だと思っていた」と語る。
「周りも同じような家庭ばかりなので、特段周りより恵まれた環境とかは感じなかったんですよね。両親がそもそも“お金をかけても、子どもの進路を広げたい”と思うタイプだったのは大きいです」
この時点で既に“学歴格差”のレールは引かれていたとも言える。地元の公立小学校には行かずに、県内でトップクラスの附属校を目指せるかどうかは、ほぼ親の判断と出費によって左右される。「あの頃はそれが当たり前と思っていたけど、振り返るとやはり恵まれていたと思う」。
こうして無事に附属中学校を卒業した角居くんだが、「高校受験はまた違う話だった」というのがポイントである。中学から“エリートコース”を歩んでいたはずなのに、思いもよらぬ形で“大転落”してしまうのだ。
高校受験・大失敗 偏差値39に
県立トップ高へ進むのが『普通』だった附属中で、角居くんが受験に失敗したのは意外な展開である。まるで順風満帆な軌道から突如として外れたようだ。
「当時の自分は正直ナメていた。『ほとんどの同級生はトップ高に合格するし、たいして勉強しなくても受かるだろう』と思いこんでいた」。友人たちがこぞって受験対策に没頭する中、角居くんは塾にも通わず“何とかなる”という根拠のない自信に浸っていたという。
結果は無残だった。第一志望のトップ高は不合格。続いて狙っていた県立の二番手校も落ちてしまい、滑り止めの私立すら「今さら行きたくない」と拒否。最終的に回ってきたのは、偏差値39という極端に低い県立高校であった。
「母も父も『そこへ行くなら私立に行ったほうがマシ』と猛反対だったが、時すでに遅し。私立の入学手続きもできなくて、結局その学校に行くしかなかった」。
こうして角居くんは、ちぐはぐな高校生活をスタートさせる。かつてはエリート付属校で“当たり前”に難関大学を目指していたにもかかわらず、今やクラスメイトの半数以上は就職希望という状況に陥ったのだ。
「俺はまだ大学に進みたいと思っていたが、周りは『勉強なんてダサい』とかいう雰囲気。最初の半年くらいは頑張って通ったが、自分にはどうしても合わなかった」
地獄の高校生活 母親が見つけた留学の道
偏差値39の高校では、角居くんにとって“苦痛”ともいえる毎日が続く。校内でヤンキーが喧嘩をする場面は日常茶飯事。いわゆる進路指導も、職員室の掲示板には専門学校や求人票が大半を占める始末であった。
「別に就職するのが悪いわけじゃない。でも『大学行きたいです』というだけで浮いてしまう雰囲気は正直キツかった」。周囲と価値観が合わないなか、なんとか塾へ通いはじめるも、そこで再会する中学時代の友人は県立トップ高の制服を身にまとい、受験科目を着実に先取りしている。そんな光景が“絶望”をさらに深めたという。
救いの手を差し伸べたのは母親だ。地元の塾関係者や過去に海外留学した家族を持つ知人に片っ端から相談し、「ニュージーランドであれば日本人スタッフのサポートがあり、帰国子女枠の受験にも有利」との情報を掴む。そして「どうせなら日本の他の高校に転校するより海外へ行け」と提案したのだ。
海外留学には高額な費用が必要になるが、「偏差値39の環境にあと二年もいるよりはマシ」と両親は決断。「3000万円かかる?それでも出すしかない」。まさに背水の陣のごとき大転換である。
もちろん角居くん本人も「大学へ行きたいなら、ここでこの高校から逃げるしかない」と納得した。こうして地獄のような高校生活を断ち切り、ニュージーランドへ飛ぶという大転換が始まったのである。
ニュージーランドで成績が急上昇
ニュージーランドに到着してまず取り組んだのは“語学学校”の準備コースである。現地の教育システムを把握しながら、午後は高校レベルの科目を先取りするカリキュラムが用意されていた。そこには中国や韓国など、アジア各国から来た留学生が多数在籍しており、角居くんは自然と英語を使わざるを得ない状況に追い込まれる。
「最初は正直、言葉が全然聞き取れないし、勉強の進め方もわからなかった。でも日本に残るよりはずっとマシだと考えてたから、意外に楽だったかもしれない」。彼がこう語るように、母国の“底辺校”に比べれば、はるかに刺激的な空間であることは間違いない。
一年後に正式に現地の高校へ編入した際には、科目が選択制だったことも追い風になった。数学などは日本で中学までそれなりに学んでいたため、英語さえ理解できれば好成績が取りやすい。「ここで点数を稼ぎ、IELTS(アイエルツ)などの英語資格対策を並行すれば、帰国子女枠の出願基準をクリアできる」と確信した。
実際、ニュージーランドには有名大学を目指す海外勢も多く、角居くんは「彼らとつるみながら学べば、底辺校で浮くよりずっと成果が出やすい」と考えたという。海外生活は“自由”というイメージが先行しがちだが、本人が「やる気さえあれば“取り放題”の環境」だと感じたことがポイントである。
「仲良くなったのは現地の学生よりも、同じようなアジアからの留学生たち。でもこれが本当によかった。留学生同士だから、多少英語で間違っても恥ずかしくないし、皆親が裕福という共通点があって、話が自然とあった」
帰国後に努力しないために、英語だけは努力する
「努力しないために努力する」
角居くんがインタビュー中によく、この矛盾めいた言葉を口にしていた。
これは「本当は面倒な努力なんてしたくないが、要領よく最短距離で結果を出すために今頑張るのだ」というスタンスを意味する。角居くんは留学中、英語資格が最短距離だと確信していたという。
「正直、普段は怠け者なんです。だけど英語で点を取らなきゃ早稲田なんて無理だとわかっていたから、そこだけ死守すればいいと開き直った。結果的に余裕も生まれたし、何よりも勉強が一本化できたからラクだった」
帰国子女枠での受験には資格要件がある大学も多く、とりわけ早稲田レベルを狙うならIELTSで6.5~7.0はほぼ必須といっていい。角居くんは「そこをクリアできなければすべてが無駄になる。だから、その部分は全力でやるしかない」と割り切った。
他方で、現地の友達との遊びやハイキング、マウンテンバイクなど、ニュージーランドならではのレジャーもほどほどに楽しんだ。遊び尽くして破滅する留学生がいる一方、彼は「資格試験だけは絶対に落とせない」と自分を律した。
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留学中にはさらに、努力の幅を一本化するため、いわゆる“文系”志望に転向した。
「理系科目を独学で補うのは厳しい。だったら自分が得意な範囲で勝負しよう」という、いかにも“効率主義”な発想だった。
親への感謝と「財力に加えて効率よい勉強も必要」
こうしてIELTSで7.0を取った角居くんは、早稲田大学の帰国子女枠に出願し、政経学部などに合格。GMRCHの滑り止めも、出願した大学は全て押さえた。
周囲から「やっぱり小学校から賢かった奴は強い」と羨まれる一方、本人は「親がお金を出してくれなきゃ何も始まらなかった」と断言する。
「結局、偏差値39の高校でも、親が黙って数千万円をポンと出してくれたから逆転できたわけです。もし経済的に厳しければ、どれだけ挽回したくても留学なんて難しかったと思う」。
学歴の逆転劇は華やかだが、その“主役”には常に「資金力」という舞台装置があった。
一方で、角居くんは「お金だけあってもダメだ」とも強調する。実際、留学に来たものの現地の誘惑に負けて遊び呆け、結局どこにも受からず帰国した留学生も少なくないという。
「親の財力が“前提”だが、それを無駄にしない程度に効率よく努力するかどうかで差がつく。ちょうど自分が“努力しないために努力する”のを実践できたのが勝因だった」。
日本の受験システムでは、このように“海外経由”で難関大を手にするルートが確かに存在する。ただ、それはあくまで“特権”を行使できる人々の話だ。膨大な留学資金を用意できず、高校生活で一度つまずけば取り返しがつかない層もいる。
さらにいえば、国内一般入試だけに頼る学生が多いなかで、金銭面のハードルを超えた者だけが多様な進路を掴める構造があるのだ。
「うちはたまたま親がイケる口だったけど、そうでない家庭なら…と思うとゾッとする」。
角居くんの告白は“学歴と親の財力”が切り離せない現実を示している。彼が早稲田に受かった裏には、留学という“裏技”があり、裏技を使うには“資金力”が必要だったわけだ。つまり「お金の力があってこそ」という、揺るぎない事実があるのだ。
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