2005年と2025年。この20年間で、日本の音楽業界に静かな変化が起きていたことをご存じだろうか？
ヒットチャートに登場する大卒アーティストの数が、20年で18組から35組へと約2倍に増加していたのだ。

日本の大学進学率がこの20年間でほとんど変化していないことを考えると、音楽業界は急速に「高学歴化」している。

かつて「ロックバンドなんて、勉強できない奴がやるもんだろ」と言われた時代は終わり、今や慶應義塾大学、東京藝術大学、早稲田大学といった超難関大学出身のバンドマンが、ヒットチャートを席巻している。

「高学歴芸人」がテレビ界を変えたように、「高学歴アーティスト」が音楽界を変えようとしている。

※JOYSOUND「あの頃のヒット曲2005」とBillboard JAPAN Hot 100（2025年10月22日公開）のデータを参考とした。

2005年、18組（18%）が大卒

2005年のTOP100組において、確実に大学を卒業していたアーティストは18組（18%）だった。公式情報、インタビュー、信頼できる報道から精査した結果、以下のアーティストが大卒と確認できた（一部）。

ケツメイシ（Ryo・大蔵：東京薬科大学薬学部卒、2人とも薬剤師資格保有）
B'z（稲葉浩志：横浜国立大学教育学部卒）
サザンオールスターズ（桑田佳祐：青山学院大学経営学部卒）
嵐（櫻井翔：慶應義塾大学経済学部卒）
Dreams Come True（吉田美和：北海道教育大学卒）
平井堅（横浜市立大学卒）

残り82%のアーティストは、高卒または専門学校卒だった。BUMP OF CHICKEN、ORANGE RANGE、ポルノグラフィティ、大塚愛、倖田來未、浜崎あゆみなど、当時のヒットチャートを席巻したアーティストの多くが高卒である。

2025年、35組（35%）が大卒

一方、2025年の最新チャートでは、大卒アーティストが35組（35%）に増加している。公式情報から精査した結果、以下のアーティストが大卒と確認できる。

Official髭男dism（藤原聡・楢﨑誠・松浦匡希：全員が島根大学卒）
YOASOBI（幾田りら：日本大学芸術学部卒）
King Gnu（井口理：東京藝術大学音楽学部声楽科卒）
スピッツ（草野マサムネ・三輪テツヤ・田村明浩：全員が東京造形大学卒）
Snow Man（渡辺翔太：城西国際大学卒、目黒蓮：明海大学卒ほか）

その他、ジャニーズ系グループやバンドにおいて、メンバーの一部または全員が大卒というケースが増加している。

大卒率は上がっても、トップは依然として非大卒

興味深いことに、大卒アーティストの割合は確実に増加しているものの、チャートの最上位を占めるトップアーティストは依然として「大卒ではない」ケースが目立つ。

2025年のチャートで1位、3位、4位を独占する米津玄師は専門学校中退。

チャートに15曲もランクインするMrs. GREEN APPLEの大森元貴は通信制高校卒業後、大学には進学していない。BUMP OF CHICKENの藤原基央は高校中退、RADWIMPSの野田洋次郎は慶應義塾大学を中退、King Gnuの常田大希は東京藝術大学を中退している。

つまり、「大卒が増えた」ということは「大卒でないと売れない」ということではない。音楽業界は依然として、圧倒的な才能があれば学歴に関係なく成功できる世界のようだ。

しかし、確実に言えるのは、「大学で学ぶ」という選択肢が、プロミュージシャンへの道として一般的になってきたということである。

なぜ音楽業界は高学歴化したのか

2005年と2025年の最大の違いは、音楽制作が「感覚」から「技術」に変わったことだろう。2005年はCD全盛期で、ギター、ベース、ドラムを覚えれば誰でもバンドを組めた。レコード会社が「売れそうなバンド」を見つけてメジャーデビューさせ、勢いと事務所の力で売れる時代だった。

2025年の音楽制作は様相が大きく異なる。DAW（デジタル・オーディオ・ワークステーション）を使った緻密な作業が中心となり、音楽理論、プログラミング、マーケティングまで理解していなければプロとして生き残れない。

例えば、Official髭男dismの藤原聡は島根大学法文学部を卒業後、地元の銀行で営業マンとして2年間働きながら音楽活動を続けた。大学で学んだ音楽理論や、銀行員として働いた社会人経験が、現在の歌詞や音楽制作に直結しているのかもしれない。

リスクヘッジとしての大学卒業

音楽業界の収益モデルも大きく変化した。CD売上が激減し、ストリーミング時代に突入した今、「音楽一本で食べていく」ことの難易度は上がっている。Official髭男dismは全員が「音楽で食べていけなかったら就職する」という選択肢を残しながら活動していた。藤原聡が実際に銀行員として働きながら音楽活動を続けたように、大学卒業という資格が「保険」として機能している。

音楽業界は「高学歴化」しているが、「学歴社会」ではない

20年間で大卒アーティストが18組から35組へとほぼ2倍に増加し、割合も18%から35%へと上昇した一方、チャートの最上位を占めるのは依然として非大卒のアーティスト。

音楽業界はまだまだ「学歴社会」になったわけではないようだ。

むしろ、この変化が示すのは、音楽業界における「選択肢の多様化」だろう。

かつては「音楽か、勉強か」の二択しかなかったが、今は「音楽も、勉強も」という選択が可能になった。大学で学ぶことが、音楽の道を開く鍵になる時代が来ている。

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