<blockquote>「７００座の山に登ったら、慶應に合格できちゃいました」そう笑顔で話すのは、慶應義塾大学環境情報学部に公募推薦で合格した田邊さん。 彼女の合格を引き寄せたのは、勉強でもビジコン優勝でもなく、2歳から18歳にかけて毎週家族と行っていた「山登り」へのひたむきな情熱でした。幼少期から登山を続け、地元の山岳保全隊にも所属。自然と向き合う中で環境問題への関心を深め、高校ではそのまま独自の探究活動にも取り組んできました。 驚きの進学ストーリーの裏には、塾や課金型の教育ではなく、子どもの「やりたい」にとことん寄り添い、ときに一緒に山に登ることさえ厭わなかった家族の存在がありました。「やらされる勉強」ではなく、「好きなことに夢中になる力」で勝ち取った合格。 ただお金をかけて塾や習い事に外注するだけでは、本当の意味で子どもの力は育たないのかもしれません。大切なのは、子どもが本気で夢中になれることを見つけ、それを親自身も理解し、寄り添い、サポートすること。 田邊さんの挑戦を支えたのは、まさにそんな“家族の本来の在り方”だったのです。</blockquote><h2 id="h21cc62e29a"> 幼少期——山と本に育てられた日々</h2>「うちの近く、本当に山しかないんですよ」と語る田邊さんが育ったのは、山梨県の山の中。コンビニより先に野生の動物に出会えるような自然環境に囲まれていました。海の近くに住んでいる人が海に行くような感覚と同じで、「近くのお出かけ」が田邊さんにとっては山だったそう。2歳から山登りを始め、まずは山梨百名山をコンプリート。高校生までの間で通算７００座もの山に登りました。家族も自然が大好きで、山目的で旅行に行くほど山に登るのが楽しくて仕方なかったと本人は語ります。山登り後の達成感や頂上から見える美しい景色が彼女を夢中にさせていきました。 そんな土地で、彼女は「森のようちえん」に通い始めます。「森のようちえん」という言葉に聞き馴染みがある人は少ないと思います。「森のようちえん」とは遊具を使わず、森の中で自然と触れ合いながら遊ぶスタイルの保育園です。木登りや川遊びを通して、全身で自然を感じることができます。雨が降っても雪が積もっても外に出る。五感をフルに使って自然と向き合う日々は、彼女の中に“知りたい”という「探究心」と「感受性」を育んでいきました。「山に行くたびに、見るもの全部が新鮮でした。初めて見る植物など、わからないものがあるとすぐ本で調べていました。」田邊さんの根底にある“好奇心”は、この頃に自然と形成されたものでした。<hr><h2 id="hc162c1c7eb">中学時代——勉強って楽しい！自然とつながる知識の世界</h2>そんな田邊さんの好奇心は、小学校高学年から“学ぶこと”にも向き始めます。中学受験を通して勉強の楽しさに目覚め、第一志望の私立中学に合格。思春期真っ只中の時期ですが、彼女はネットやゲームとも無縁でした。「そもそも周りがインターネットに夢中になってなかったので、環境の影響が大きいと思います。スマホ依存にはなりませんでした。何のゲームが流行っているのかすらも全然知りませんでした笑」インターネットに毒されずに、スクスクと伸び伸びと育っていったのは幼少期の環境が関係しています。小さい頃の自然体験は、ネットに囚われない、彩のある世界を田邊さんに教えてくれたのです。<h2 id="h9d9cedce2a">高校時代——“ただの趣味”から“社会課題”へ</h2>転機が訪れたのは高校進学後。選んだのは、90分×4時間の特殊カリキュラムや校風が変わっているなどユニークな私立高校。部活動ではフェンシング部に入部。活動日は週2.3回とそこまで忙しくなかったため、自分の好きなこと「山登り」の追求を止めることはありませんでした。当初は「登るのが好き、楽しい」という純粋な想いだけだった山登り。しかし、高校生になると、より現実的な社会課題としての山の側面が見えてきました。山の問題を深掘りするために「生態系を守るため」の登山道整備を掲げた北杜山守隊に参加。フィールドワークを重ねる中で、山の荒廃や観光資源としての消費、獣害被害、地元の過疎化など、自然と人間の関係にひそむ複雑な問題が見えてきたそうです。「それまでは“山って気持ちいいな”っていう感覚だったけど、実際に現地を歩いて、山守隊のみなさんや専門家の話を聞いていくと、“このままだと山が壊れる”って気づかされたんです」山岳を保全するために整備の案を考え、実行の繰り返し。北杜山守隊のすごいところは、事業委託ではなく、自分たちで資金を回して運営するボランティア団体という点。助成などを受けずに団体を動かすことの難しさを目の当たりにし、現実を痛感したといいます。田邊さんは、北杜山守隊の活動の一環として、ワークショップを自ら企画・開催しました。その背景には、山が直面する過酷な現状や、土木事業が果たす重要な役割について、より多くの人に知ってもらいたいという強い思いがありました。現状への認知度を高めることで、人々が「いま」行動を起こす必要性を訴え、多くの人々を山岳保全の取り組みに巻き込みたいという願いが込められていました。<h2 id="hb8bb1cef40">探究活動としての山</h2>田邊さんは、北杜山守隊に参加することで、実際の現場の声を聞き、山岳保全の現状に対する理解を深めました。それをきっかけに、以前よりも山岳保全に強い関心を持つようになり、自ら探究活動を始めるようになります。探究のテーマに選んだのは、「山岳とビジネスの掛け合わせによって、持続可能な関係性を築けないか」というもの。この着想は、まさに北杜山守隊の活動を間近で見た経験から生まれたものでした。情報収集にあたっては、関連する論文を中心に読み進めるとともに、実際にシンポジウムにも足を運び、そこでは登壇していた大学教授と直接話す機会にも恵まれました。さらに山岳地域が抱える課題を調べる中で出会ったのが、慶應義塾大学名誉教授・岸由二先生の「流域思考」という考え方。これが田邊さんの中で新たな視点をもたらし、問題解決への方向性に大きな影響を与えました。そのうえで、慶應大学が公開しているシラバスを酷使し、大学４年間の計画を一人で立てました。入学後は一ノ瀬友博教授のもとで生態学・景観学・グリーンインフラについて学ぶこと、1年次から研究会に所属し、自分の研究テーマと真摯に向き合っていくことを決めていたそうです。また、山と下流域都市との関係性を再構築する“インターローカル”な繋がりを創出することも視野に入れており、官民連携の戦略を学ぶために、飯盛義徳教授の地域イノベーションプロジェクトにも積極的に参加したいと考えています。このように、700座もの山に自ら登ってフィールドワークを行ったり、山岳団体の一員としてワークショップを開催したり、自らアクションを起こしている点が田邊さんの強みとなりました。また、入学後の学びと研究のビジョンを明確に描けている点も、田邊さんが本気で「何を学び、何を実現したいのか」を自分の言葉で語れることの証であり、志望理由に説得力を持たせています。<h2 id="hce4f50566c"> すべての活動の土台にあった「家族の伴走」</h2>田邊さんの慶應合格は、700座の山登りという圧倒的な実績だけに支えられたものではありません。 その山登りを出発点に、地域課題への関心や環境問題に関する探究活動へと関心を広げていけたのは、「本人の意欲」と、それを徹底的に尊重し、環境を整え続けた「家族の支え」があったからです。たとえば登山に通うための移動手段の確保、現地調査の同行、資料集めへの協力、プレゼン準備のサポート 。一見すると本人の成果に見えるこれらの経験の裏には、常に「やりたいことをやらせてあげたい」という親の姿勢がありました。田邊さんは「親が小さい頃から、森のようちえんに入れたり、山登りに連れて行ってくれたり、自然と触れ合う環境を作ってくれたからこそ、今の私があります。」と話します。 今では、教育は塾や外部の専門家に“外注”されることが当たり前になりつつありますが、田邊さんの家庭は違いました。 お金ではなく“時間”をかけて、親が子どもの学びに寄り添う——そんな本来あるべき家族のかたちが、彼女の活動のすべてを支えていたのです。 <h2 id="h3b77e173fb">“好き”を貫く勇気が未来を切り拓く</h2>田邊さんの原点は、ただ「身近な大切な山を守りたい」という、純粋でシンプルな想いでした。最初はただの趣味だった登山が、やがて山岳保全の探究へとつながりました。そして調査や活動を重ねる中で、彼女は慶應義塾大学名誉教授・岸由二先生の提唱する「流域思考」に出会いました。この出会いが、田邊さんの視野を一気に社会全体へと広げていきました。山というローカルな課題を起点に、都市、流域、ひいては社会構造全体へと関心を向けるようになり、「好きなものを守る」ことから、「社会をデザインする」という志へと変化していったのです。彼女の取り組みから学べることは、「好きを貫くことの価値」だけではありません。さまざまな場所に足を運び、論文を読み、人と対話し、現場で体を動かす——その一つひとつの行動が、彼女の視野を広げ、思考を磨き、学びを深めていきました。田邊さんは、自分の興味を出発点に、そこからどんどん“アンテナ”を広げ、多角的な視点で課題にアプローチしていったのです。だからこそ、この記事を読んでいるあなたにも伝えたいのは、「好きなものをあきらめないで」ということ。たとえ今は「好きなこと」が学問と関係ないように見えても、視点を変えれば、それは十分に「武器」になります。探究学習の理想は、まさに田邊さんのように、“好き”を出発点に社会を見つめ、問いを立て、未来へのアクションにつなげていくことにあります。大学受験は、“得意科目で勝負”するだけではなく、“自分の物語”で挑戦することもできます。自分の好きなものに向き合い、世界とつなげる努力を続けたその先に、「自分だけの合格」があるのかもしれません。ぜひあなたも、“大好きなこと”を武器にして、自分だけの道を切り拓いてください。

700座の山に登って慶應合格？！ 好きなものを突き詰めて唯一無二になっちゃおう

700座の山に登って慶應合格？！　好きなものを突き詰めて唯一無二になっちゃおう