みなさんは「将来の夢」を決めていますか? 文理選択、学部選び、就活……様々な岐路で「将来」を考えさせられますが、実はハッキリ将来像が決まっている学生は多くありません。
それもそのはず、学校では「どんな仕事があるか」をほとんど教えられません。世の中には様々な仕事がありますが、それらについて詳しくないうちから「将来の仕事」なんて決められませんよね。そこで、この連載では、世の中のいろいろな専門家に「どんな仕事か」を聞いていきます!
記念すべき第一回でお話を伺うのは、株式会社ブシロードムーブ代表取締役社長の大貫佑介さん。『転生貴族、鑑定スキルで成り上がる』『君のことが大大大大大好きな100人の彼女』など、数々の有名作品でプロデューサーを務め、先日は『アニメビジネス 漫画・小説・アニメが100倍おもしろくなるアニメの教養』を上梓された大貫さんから「アニメのプロデューサーとは?」を語っていただきましょう!

プロデューサーにもいろいろある?
__アニメ制作における「プロデューサー」とは、どのようなお仕事なのでしょうか?
大貫:プロデューサーといっても、幹事P、制作P、音楽P、宣伝Pなど、色々あります。私がよく務めるのは、その中でも宣伝・音響・代理店などです。
もちろん、分野が異なれば、やることも大きく変わります。ただ、どのプロデューサーについてもある程度共通して言える仕事の方針としては、「予算の中で、最大限いいモノを作って、いいモノを届けるために、どうするか考える人」と表現できるかもしれません。
__「いいモノを作るために、どうするか考える人」ですか?
大貫:方針を決めて、ヒト・モノ・カネをそろえ、全体としてどのように動いていくかのプランを練る人のことですね。現場の制作プロセスに関わることもあるのですがどちらかと言うと、「製作に関わる企業を集める」とか「制作陣を呼んでくる」とか「制作陣の作業場を確保する」といった方が、イメージがつきやすいでしょうか。
例えば、地元のサッカーチームを思い浮かべてみてください。実際にプレーする選手たちの活躍ばかりが目立ちますが、実際には「練習場所の確保」とか「ユニフォームの手配」とか「遠征バスの確保」とか、チームが最大限力を発揮するために必要な、環境を準備しないといけませんよね。これを準備するのが、私の大きな仕事のうちのひとつです。
__なるほど、アニメでいえば、監督さんや声優さんをキャスティングしたり、スタジオに依頼したりといったところでしょうか。
大貫:声優さんのキャスティングや、台本・収録スタジオの準備はまさに音響Pの仕事のうちの一つです。それぞれに関わるスタッフを決めて、音響監督さんと一緒にどういう音作りをするか考えるのもそうですし、間接的には作品作りにもかかわっています。
声優さんでも、「これまで世に出ていない新しい声を届けたい!」と考えれば新人さんに依頼しますし、「この人はいつもイケメンの役どころばかりだけれど、今回は三枚目で頼んでみよう」みたいな思い切ったことをすることもありますよ。

知られざる宣伝の世界
__たまに、山手線がアニメ仕様にラッピングされたり、新宿の大モニターで宣伝が流れたりしているのを見かけますが、宣伝Pとはああいったことを決めるのでしょうか?
大貫:どちらかといえば、それよりもっと前の段階ですね。
そういった施策を打つ前に、「この作品は今ある予算の中で、求められている効果を出すにはどうすればいいんだ」とか考える段階があるはず。私が担当するのは「今回は今の予算で求められた効果を出すにはこういう方針で宣伝を打ち出そう」とか「この予算で宣伝をするなら、こういう効果を出すことがゴールになるだろう」などを決めるところなんです。
例えば、宣伝をするなら目指すべきなのは「①国民のほとんどが知っていて」「②その作品を熱心に時間や費用を割き」「③愛着があり、ずっと応援される」作品にすることだと思うんです。
でも、そんなの恐ろしい費用が掛かります。
なので、今予算化されている費用の中で、①②③のどれを目指すのか、それをまず考えます。もともとの作品の特性、ファンの特性、参加している企業の特性などを考えながら。
そしてその①②③の方針が決まった後に、
①なら認知を広く獲得しなきゃいけないからテレビCMやらSNS広告が有効だ。
②ならファンだけをまず盛り上げる必要があるのでピンポイントにターゲットを絞れるWEB広告やファンイベントだ!
③なら屋外広告や電車の広告、ラッピングバスでファンやその周りの人の愛着を獲得しよう!
とかを細かく考えます。
このように、方針によって、取るべき施策は大きく変わります。受験で言えば、一般受験なのか推薦受験なのかとか、どの大学・学部を受けるのかとかで、大きく勉強スタイルが変わる感じでしょうか。それで言えば、「どの塾にしよう」とか「どの参考書を選ぼう」みたいな悩みは、もっと下流に位置しますよね。

「カスタマージャーニー」から逆算する
__かなり世の中の様々な要素に精通していないと出てこない発想な気がしますが、そうした方針を立てる際には、どのようなことを意識されているのでしょうか?
大貫:私は、むかしから世の中の仕組みとか流れを考えることが好きでした。
何かが流行ったときに、「どうしてこれは流行っているのだろう?」「この結果として、人々はどこへ案内されるのだろう?」と考えるんです。このような「サービスを知ってから、購入・利用してリピートにつながるまで」の設計を、用語では「カスタマージャーニー」と呼びます。
私は、常にカスタマージャーニーを考え続けています。もちろん、仕事でも考えますが、仕事以外のプライベートでも同じく考えは止まりません。「どうしてこのトレンドができたのか?」を考えれば、「こういう施策を打てば、トレンドに乗るかもしれない」と予測できますよね。
__トレンドや流行のでき方を考えていらっしゃるから、その方法がわかるんですね。
大貫:でも、もちろんどんなモノでもイケるってわけではありませんよ。
何かを宣伝するときは、必ずおカネがかかります。どんなに良い戦略を立てたとしても、予算を超過してしまうなら、実行できない以上それは絵に描いた餅にすぎません。
アニメは、予算が結構厳しい中でやりくりすることもしばしばあります。それに、拙著にも記した通り、アニメの製作には色々なプロや企業関係者が集まります。それぞれの立場が違う以上、「ここを見せたい」のポイントも違ってくる。
でも、そのたびに宣伝を打ち直す余裕はないわけです。だから、「このポイントならみんな宣伝指標にしても許せるよね」といえるところを探り、それを打ち出して宣伝していく。プロデューサーは、とにかく調整する人なので、ここが腕の見せ所です。

プロデューサーは「調整人」
__「調整する人」ですか?
大貫:「相手の事情を理解する人」にならないと、この仕事は務まりません。「俺が俺が」で自分の利益ばかり考えていても、「みんな」にとって損するならば、「いいもの」を届けられなくなってしまいます。
ただ、相手ばかりを優先していても、今度は言いなりになってしまう。大事なのは「相手にとって都合のいい状態が、自分にとっても都合がよい」ように、各所と調整する力でしょう。これが、本当に難しい。
ものすごく雑に言うなら、ここに何枚も重ね着している人と、タンクトップ1枚の人がいたとします。暖房だと、厚着の人は暑い。でも、冷房だと薄着の人が寒い。
プロデューサーの役割は「じゃあ、重ね着してる人が1枚か2枚薄着の人に分けてあげれば?」と提案して、みんなにとっての適温を調整することです。実際には、服のように見えてこないものですから、なかなか難しいわけですが……。
ニッチなものに光をあてたい
__本当に大変そうなお仕事ですが、どうして今のご職業に就こうと考えられたのでしょうか?
大貫:今の私は経営者として、どちらかといえば「プロデューサーをプロデュースする人」に移りつつあるわけですが、昔からやりたいことはある程度変わっていません。
言葉に出すのは難しいですが、「私自身が好きなもので、あまり世間から評価されていないようなものを、もっと認知されるようにしたい」のだと思います。
__「世間から評価されていないもの」ですか?
大貫:例えば、ゴルフって仕事になるかと言われれば、プロゴルファーの方はともかくとして、どちらかといえばスポーツに分類されるものですよね。
でも、実際には、社交として市民権を得ている。ゴルフを通じて仕事の話をすることもあるでしょうし、ビジネス色もあるスポーツとして認知されているように感じます。
それこそ、昔はアニメなんてビジネス的には見向きもされませんでした。それが、いまでは「アニメビジネス」として、日本の誇る一大産業になろうとしている。これは、本当にうれしいことです。日本の輸出物が増えれば、私たちの生活も向上するでしょうし、海外の日本好きも、増えるかもしれない。
私がやりたいのは、これと同じこと。いまはあまり評価されていないニッチなものだとしても、お金がついてくるようになれば、評価されるかもしれません。少数派とかマイナーだから縮こまらないで済むようになれば、それが私にとって一番うれしいことだと感じます。
相手のことをよく知って
__ありがとうございます。では、最後に読者へ応援のメッセージをお願いいたします。
大貫:繰り返すようですが、この仕事は「相手の事情」を第一に考えて、初めて成り立ちます。これは、利益だけではなくて、「相手がどんな人間でどんな立場・環境に置かれているか?」までを考えなくてはいけません。
例えば、漫画家の先生にとって作品はまさに子どもだといいます。それは、作品を扱う側として、我々も重々承知している。でも、承知していることと、相手にとって「預けられる」ことは、また別なんです。
あなたが一番大事にしているワンちゃんや猫ちゃんを預けるとして、さっき初めて会ったばかりのプロと、昔からずっと付き合いがある人のどちらに預けたいでしょうか? 私なら、間違いなく後者に頼みます。
「相手のため」を誤解して、メリットばかりを提示してくる人もいますが、それでは安心できません。本当に大事なのは、「相手は、何を重んじる人なのだろう」「この人は、どのようにして信頼できる人とそれ以外を分けているのだろう」と考えることであり、これを考えるためには、相手がどのような環境で育ち、どのような人たちと暮らしているかを知らなくてはいけません。
だからこそ、「相手を知る」ことが、この仕事では一番重要になります。もしプロデューサーに憧れているのであれば、まずは身の回りから「相手の事情」を考える練習をしてみてはいかがでしょうか。







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