格差広がる東北の闇

 近年、首都圏では中学受験を中心に受験熱が加熱している。東京23区においては3人に1人の小学生が中学受験市場に参戦し、その熱は小学校受験にまで波及している。

 その一方で地方では、少子化(自然減)を主な要因としながら人口減少が進み、それに伴って様々な面で首都圏との格差が広がっていることは皆さんもご存知の通りだろう。

 受験の面からもこうした格差は見て取れる。地方と一口に言ってもその状況はさまざまだが、受験という側面から読み解ける中で最も厳しい状況に置かれている地域の一つに東北地方がある。

 旧帝国大学(旧帝大)に限って見ても、九州大学や名古屋大学などは地元地域出身者の割合が多く、地元の優秀な人材を集めることに成功している。そしてその多くはそのまま地元に残り、その地域の産業を支える存在となる。

 しかし、東北地方が誇る名門大学、東北大学では地元東北地方出身者が3割程度となっている。特に関東出身者が多く、年々地元の公立進学校からの合格者は減少している。

 そこで今回は「格差広がる東北の闇」と題して、現在の東北地方の高校、大学の置かれる状況と今後について論じていきたいと思う。

東北各県の進学校はその役割を果たせているのか?

 上記で触れた「東北大学の地元東北地方出身者が3割程度である」という事実が物語る最も重要な問題は、本来東北大への合格者を輩出すべき「地元のトップ高校の生徒たちが東北大学に合格できていない」ということである。

 この問題が起きてしまっている要因は主に2つあると考えられる。

1 優秀な中高一貫校が極めて少ない

 1点目は東北地方には「優秀な中高一貫校」が極めて少ないことだ。

 都内の高校生の半分以上が私立高校に通う都民からすれば信じがたい事実だろうが、地方に行けば行くほど私立高校の数は少なく、東北でも公立王国が広がっている。

 これは、田舎であればあるほど保守的な傾向が強いため従来の公立校人気が高いことや、公共交通機関が未発達であるため、中学生のうちから遠距離通学させたくない保護者も多くいることが理由だろう。

 近年の大学受験では私立公立問わず6年一貫教育を行い、早め早めに仕上げていかなければ戦えないほど上位のレベルはインフレしている。

 実際、東京大学の在学生のうち東北出身者は3~5%に留まっており、受験界のトップオブトップである東京大学理科Ⅲ類の合格は2024年実績で東北の高校は0名と、最上位層で東北出身者が戦うことが難しくなってきていることがデータからも見て取れる。

 ちょうどいい進学先としての東北大

 さらに首都圏の名門校の元深海魚たちの「ちょうどいい進学先」として東北大学など地方の国立大学が選ばれているという実態もある。

 首都圏の一貫校在学生は当然首都圏の国立大学を優先して受験するだろうが、その学校の中で中間層から下位層に位置し、「東大や一橋などは無理そうだけど恥ずかしくない大学に・・・」となった結果、東北大学を進学先の一つとして候補に入れていくコースも多いという。(当然やりたい研究を出来るのが東北大学だったというケースもあるが)

 つまり、首都圏の中間層にあたる一貫校の中間〜下位層の生徒たちの多くに東北のトップ校の生徒たちは負けてしまうということになる。

 塾に通わないことも多い東北の公立校の生徒たちが、小学生のうちから中学受験の勉強や早期教育を積み上げてきた関東勢に太刀打ちできなくなりつつあるという現状があるのだ。

2 地元トップ校の弱体化

 2つ目には地元のトップ校の弱体化があげられる。

 東北では少子化に伴い、2003年度に福島県、2010年度に宮城県ですべての県立校が共学化しており、受験者のパイは倍になったはずであるが、その受験倍率はどうなっているのだろうか。

 各県トップ校を見ていっても倍率は1.00~1.20の間に概ね収まっており、今年は山形のトップ校である山形東高校が定員割れとなるなど、かなり低い状態で推移しているのが現状だ。

 公立の進学校全般で、10数年前であればとても入学できなかったような層が入学し、トップ校の層が薄くなってきており、そのことが弱体化を招いている。

 各校はある程度は定員を絞るなどして、全体の学力の維持に努めなければこの傾向は加速するばかりだろう。

人口減少の波

 そして、上記2点はいずれも人口減少が大きな要因となっている。

 近年の人口減少率を都道府県ごとに見ても1位の秋田県、2位の青森県を筆頭に6位までに宮城県以外の東北の県がランクインするなど厳しい状況が続く。

 そんな中で、一体誰が東北の未来を担って行くのだろうか……?

東北の医学部は6年間の「医師免許教習所」? 東北の地域医療は誰が支えるのか。

 上述した東北のトップ校のレベルの低下はもはや地域医療の問題にまで発展している。

 東北大学では入学者の約4割、近年新設された東北医科薬科大学の医学科は入学者の5割以上を関東出身者が占めている。

 本来地元の医療を担うべき医学科に関東出身者が多く入学し、彼らは地元の関東に戻り就職する。東北の医学部医学科では関東圏の「医師免許教習所」状態が起きているのだ。

 これは関東に戻り美容科に進む「直美」と呼ばれる現象にも結びついている。

 東北地方の各大学や地元の市民からすれば、たまったものではない。

 関東の恵まれた環境で偏差値を上げ、中途半端だから東北の大学に消去法的に進学し、多額の税金を使って取得した医師免許が地元市民に還元されることはなく「働き方改革」の名の下に「コスパ良く金を稼ぐ」道具に使われる。

 そんな中、秋田大学は自大学の医学部での学びを地元に還元すべく、一般前期の定員を124名中45名まで縮小し、学校推薦選抜枠を10名分増員し54名にする(秋田地域枠24名、東北地域枠10名など)することを表明した。

 秋田県は全国で人口減率が最も高く、県内に上場企業が2社しかないほど経済力が脆弱であり、ただでさえ悪い交通網もバス会社の経営難で弱体化が激しいなど、首都圏からの定住は難しい条件が揃う。

 しかし、秋田大学医学部は河合偏差値62.5と近年かなり易しくなっていることから、穴場として医師免許を取得し地元へ、という学生が後を絶たなかった。

 地域枠の増加について色々な意見があることは承知しているが、そんなことを言っても誰かが秋田の医療を担わなければならないのは変わらない。

 目先の偏差値が下がろうとも、地元の医療を守る決断をした秋田大学は賢明な判断をしたのではないだろうか。

 

まとめ

 本年の医学部医学科の受験倍率を見ても、東北地方を除いた各県の大学は倍率が上がっている。東北が医師免許を取るための「穴場」とみなされている側面はあるだろう。

 「行ける医学部に行く」という選択が悪いわけではないが、東北各県は地元国立大学の医学部の使命を果たすべく、仕組みづくりを工夫していく必要があるのかもしれない。