あらゆる投資は元手が多いほうが成功しやすい。教育投資も例外ではなく、特に中学受験や大学受験は「Pay to Win」を象徴する最たるものだろう。テストや面接の結果自体に下駄をはかせることはできないとしても、純粋に受験機会を金で増やせるからだ。
国民的ゲーム『スーパーマリオブラザーズ』をプレイするとして、あなたの残機(ミス許容数)は2なのに、金持ちの子どもは99から始まる……なんて、到底公平には思えないだろう。だが、現実にはこれがまかり通っている。
逆を言えば、豊富な資金があるなら出願のタイミングで集中投資したほうがよい。大学受験の世界では、俗に「私立乱れ打ち」と呼ばれるが、もしかしたら想定外の収穫を持ち帰れるかもしれないからだ。今回は「『私立乱れ打ち』の結果、チャレンジ校に滑り込めた」と語る現役慶應生のNさんにお話を伺う。
「乱れ打ち」の理由
__大学受験ではいくつの学校・学部に出願されましたか?
N:レベル的に妥当かと思われた明治大学を中心に、12学部に出願しました。一部の学部は共通テスト利用も併願しているので、それらを別にカウントすれば、15学部出願したと言えるでしょうか。
__15の学部に出願となると、大分多い印象がありますが……。
N:確かに、ちょっと多いと感じられたかもしれませんね。私は浪人していて、後がなかったことが大きな理由です。
もともと東大志望で浪人した私は、予備校に通いながら牙を研ぎ続けましたが、どうにも結果が振るわなかった。そこで、第一志望の国立を横浜国立大学に変更したうえで、実際には明治大学理工学部を実力的な落としどころだと探っていたんです。
「自分ならいける」と楽観視して挑んだ現役時の早慶・国立受験はほぼ全滅したこともあり、理科大や早慶の厳しさがトラウマのように刻まれていたことも大きいかもしれません。
いくらなんでもここで浪人継続はしたくなかった。だからこそ、実力的に伯仲すると考えられるマーチ・理科大あたりを志望に据え、安全ラインとして工学院や芝浦工大も出願しました。私はこれだけでよいと考えており、親も「大学に進学してくれればどこでもいい」といった感じだった。
「教育=最高効率の投資」
__親御さんから「こんなに出すの?」など言われませんでしたか?
N:全く言われていません。むしろ逆で、親は私の出願幅を広げようとしていました。もともと早慶レベルは手広すぎると対策が追いつかなくなると感じた私は、慶應だけに絞って出願するつもりだったんです。
しかし、両親は「とりあえず早稲田も出しておきなさい。行くだけ行ったら受かるかもしれないんだから」とダメもとでの受験を許してくれた。私自身手広く選択肢を持っておきたかったので、ここは言葉に甘えました。実は、早稲田の他にも親の勧めで出願を増やした学部が結構あります。気になるのは出願費用ですが、これについても、特に何も言われませんでした。
結果的には、この「乱れ打ち」は大正解でした。当時の私は「明治に受かればいいな」くらいに考えていましたが、慶應まで手広く選択肢を広げたからこそ、今の私は慶應生として大学生活を謳歌できているわけです。
「もっとうまくやれたかも」と言われればそれまでですが、実際に多くの選択肢から選べる状態で、リラックスして受験期を乗り越えられたからこそ、合格につながった気もします。
父親は昔から「一番のリターンが大きい投資は教育」が口癖でした。理由さえ説明できれば、勉強や進学に関するお金はほぼ何も言わずに出してくれた。
私は高校から、私の姉は中高私立に通っていて、きょうだいそろって私立大学に進学しましたがそれでもやはり何も文句や嫌味を言われていない。
私自身も「教育投資こそが最高効率の投資」と信じています。私の出願には合計で45万程度がかかっていますが、いい大学に行けるかどうかを決める45万なら払ったほうが得でしょう。
親の受け売りですが、「出願しないと可能性も生まれない」のですから。
金星の秘訣は「メンタルの安定」
__ここまで受験のスケジュールが過密化すると、忙しいのでは?
N:いえ、実はそうでもありません。むしろ、試験前の微妙な時期に一日中部屋や自習室にこもって悶々とした思いを抱えながら勉強し続けるほうが、私は嫌でした。特に、直前期特有の駆け込みインプット勉強などは、やっぱり退屈でしたね。
それよりは、午前中からざっくりテストを受けてから、試験終わりにマッサージでも行きながらゆっくり休憩して次の試験に備える毎日のほうが、ずっと気が楽。
もともと東大志望だったこともあって、過去問対策自体もそこまで負担ではありません。東大ほど難しくないし、試験科目も絞られていて、時間制限も緩い大学ばかりですから、「東大対策に比べたらずっとマシ」と苦に感じることはありませんでした。それに、全ての大学を平等に対策するのではなく、志望度の高い順に重みづけして、どれくらいの年数を解くか決めていましたから、スケジュールに無理が生じることもありませんでした。ただ、理科大の入試では、過去問の感触から自分が当落ライン上にいると直感したので、神経を使ったそのあたりの時期は確かに厳しかったですね。
前期国立枠で出願した横浜国立大学は、共テリサーチの時点でE判定でしたし、明治大学の合格ももらっていたことから、半ば記念受験のような勢いで試験会場に向かいました。
この頃はとにかく「もうちょっとで、つらかった浪人生活が終わる!」しか考えていませんでしたし、受験結果とかも仲のいい一部の友人としか共有していなかったので、本当にストレスフリーな生活ができていました。結局、厳しいと感じていた横国も慶應も合格していましたが、メンタルが安定していたことが勝因かもしれませんね。
まとめ
受験は金が物を言う。受験の合否は金で買えないが、合否判定のチャンス自体は金で買えるからだ。「受験は水物」というが、A判定でも第一志望に落ちていく学生は毎年発生する。相性の悪い問題、当日の急な体調不良、天候不順による遅刻……急なアクシデントの発生確率は、どうしたってゼロにはできない。
だからこそ、「乱れ打ち」=「金で受験のチャンスを買う」ことが、最良のリスクヘッジになり得る。もし筆者が資金を無限に抱えて受験に挑戦するならば、出願可能なすべての大学・学部に対して出願するだろう。そして、どの大学の試験を受けに行くかは、出願してからじっくり考えればいいのだ。
合格しても行ける大学はひとつ。だが、進むべき道を大量に抱えておくこと自体は、むしろ賢い選択と言えるだろう。投資のタイミングを計りかねているのであれば、受験直前の1月から3月までに集中投下すべきかもしれない。





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