みなさんは、大学生になったらどんなことがしたいですか?
中学・高校よりも格段にできることの幅が広がる大学生活。
部活、バイト、サークル、課外活動、研究活動はもちろん、企業インターンシップでビジネススキルを磨いたり、自ら事業を立ち上げたりと、やりたいことは何でもできるといっても過言ではありません。
でも、高校生の内はそれがなかなか見えてこない。
先輩たちの話や、大学のパンフレットなどで垣間見えるものはありますが、「大学生になったら、どんなことができるのか?」がわからないと、夢を描くのも難しいですよね。
そこで、本連載では「大学で熱中する人」に話を聞き、「どんな活動をしているのか?」について徹底的に調査していきます。
今回お話を伺うのは、現在東京大学の大学院2年生の伊藤まどかさん。
現役で東京大学文科三類に入学した彼女は、中高で続けていたダンスの活動から離れ、大学ではダブルダッチサークル「D-act」に入りました。

当初は「なんでみんなが熱中するのかわからない」と思っていた彼女ですが、やがて自身も活動に魅せられていき、今では仕事や研究にダブルダッチの経験を活かすようになったそう。
彼女の心を揺さぶった「ダブルダッチの魅力」に迫ります。
表現の多彩さに惹かれて
__大学に入ってから、どんな活動に熱中していますか?
伊藤:ダブルダッチです。2本の大縄を使う縄跳びパフォーマンス競技で、ストリートカルチャーの文脈を継いだスポーツでもあります。
縄跳び要素とパフォーマンス要素が融合しているのが特徴で、ダンスやアクロバットで魅せる部門もあれば、純粋にどれだけ早く飛べるかを競う部門もあるんです。
大学では「D-act」というサークルに所属していました。
__最近だとテレビにも取り上げられて、有名になりましたよね。どこでダブルダッチを知ったんですか?
伊藤:私がダブルダッチと出会ったのは、高校2年生の秋でした。
当時、私はちょうど本格的に東大受験を意識し始めた時期で、せっかく目指すならと、11月に行われる東大の文化祭「駒場祭」を訪れていたんです。
そこで、ダブルダッチパフォーマンスを鑑賞したのが始まりでした。
__もう「絶対入ろう!」と思えたんですか?
伊藤:かなり面白そうだ!と感じました。ダブルダッチって、縄の中に注目が集まりますよね。
それに、ダブルダッチのチームは3~6人程度で構成されます。だから、背が高くない私にも目立つチャンスが回ってくるな、と。
もともと私は中高でダンスをやっていたんですが、大学のダンスサークルだと人数が多すぎて、各ステージ十数人以上の規模で構成されるんですね。
センター争いとかもあるでしょうが、それ以上に、ある程度身体が大きくないと、埋もれてしまうんです。それを見越して大学ではダンスサークルに入らなかったわけですが……。
それに、ダブルダッチならではの魅力や表現方法にも惹かれました。

__ダブルダッチとダンスだと、どこが大きく異なるのでしょうか?
伊藤:人数の違い以外だと、やはり表現の多様さでしょうね。
例えば、縄を回すテンポや回す軌道を変えるとか、音楽と合わせるか、敢えてずらすのかとか、中で何人が飛ぶのか、はたまた誰も飛ばない時間を作るのか……少し考えただけで、「こんな表現もできるかも!」とわくわくしてきました。
高校生ながら、本当に生意気なんですけれど、「今のD-actのメンバーはダンスの要素が薄いから、ダンス経験者の自分なら、また別方向の面白いことが提案できそうだ」なんてことも思っていて(笑)。それで入学後に新歓練習に行ったら歓迎され、そのまま入りました。
部外者だから気付けた「ハードル」
__入会後は、新しい表現を重ねて部内でも引っ張りだこになったのでしょうか?
伊藤:いいえ、最初は全くの初心者でしたから。
同期の子たちは経験者も多くて、パフォーマンスづくりでも跳び方などを指示されその通りに動くということが多く、流れに身を任せるような一年間でした。
もちろん楽しく活動していましたが、ほどほどでも十分面白かったので、全てをかけて熱中するわけもなく、むしろ「どうしてそんなに大会で結果を残したいのだろう?」と不思議でしょうがなかったことを覚えています。
__経験者との差を感じた場面が多かったのでしょうか?
伊藤:そうですね、特に一番の差を感じたのは「常識」の違いでした。
やっていくうちに「なんだかみんなが知っていて、自分が知らないことが多すぎるな」と感じる場面が多いと気付いたんです。
たとえば「○○(伝説的な実績を持つチーム)のパフォーマンスにあったよね」みたいな会話が日常的に繰り広げられるわけですが、初心者の私にはそのチームすら知らないわけで……。
みんな、経験者だったり勉強熱心だったりして、そこをカバーしていくわけですが、初心者でまだハマっていない人には、大分ハードルが高かった。
そこで、2年生になり新歓業務に携わるようになってから、「ダブルダッチまるわかり本」を製作しました。
「これを読めば、初心者でも経験者の言っていることが理解できる」を目指して作った冊子は、思いのほか好評で、新規入会者のみならず、先輩方やOBOGの方々の目にもとまったようでした。
同時に、「こんなにしっかり解説する本を作るなんて、意外と自分もダブルダッチにハマっているのかも」と、熱中しかけていた自分を自覚するきっかけにもなりました。
__そこからは、大会などにも全力投球していった?
伊藤:それでも、大会では勝てませんでした。
大学2年生の夏の大会で、私はチームの演技構成の大枠を決め制作を引っ張る「ブレイン」になりました。
私のチームには4人の経験者がいたのですが、話し合いの末に決められたリーダー任命。重役でした。

先ほど述べた通り、ダブルダッチのパフォーマンスは、表現の幅が無限大です。
だからこそ、コンセプトを決めて「何をするか」「何をしないか」決める必要があります。
そこで、当時の私は「みんなの強みを活かす」のではなく「みんなの弱みを目立たなくする」方向で演技を組み立てようとしました。
「柔らかい動きが苦手なら、固い動きでミスを消せばいいじゃないか」。
一見筋が通っているように見えますが、なぜかこの時のチームは雰囲気が悪くて、一つにまとまれていない気がしました。
それでも、当時は絶対に勝ちたいと思えていなかったこともあって、結果が出なくてもそこまで気にしていませんでした。
取材で得られた"気付き"
__どうしてまとまり切れなかったのでしょうか?
伊藤:最初は初心者のくせに他のメンバーへの注文が多かったからかなと思ったのですが、そうでもなさそうで。
そんな時、10個ほど上のOBから「D-actが20周年を迎えるから、部の歴史などをまとめた記念書籍を作りたい。『丸わかり本』を作った実績を見込んで、伊藤さんに編集長をお願いできないか?」と声がかかったんです。
二つ返事で快諾して、そこから100人ほどのOBOGを含む様々な人々にインタビューを行いました。

そこで、徐々に自分に何が足りなかったかが見えてきたんです。
この時までは、チーム単位でパフォーマンスをするにしても、チームメンバー個々人が抱える思いや得意不得意などには、あまり注目できていなかった。
でも、本当はみんな「ダンスが個性的」「アクロバットが得意」「表情に惹きつけられる」など、個性がありますよね。
チームを組んで、パフォーマンスを作るなら、個々人の個性や考え方、特性を把握して、どんな魅せ方をしていきたいかを計算しなくてはいけません。
経験歴、得意不得意、思考……様々な違いがある人々が、みんなで同じ舞台に立って、一つの作品を作るために動いている。
このバラバラな要素を、1カウントずつすり合わせるのってめちゃくちゃ面倒で、対面でもオンラインでも何回も話し合って、結局ケンカになったりとか(笑)。
自由度が高すぎて、方向性も無限に選べてしまうからこそ、みんなで意思を統一する過程が重要なんですね。

たった2分半のパフォーマンスのために、3,4か月、毎日みっちり会議や練習をする日々。
その過程を乗り越えて、1人1人が満足するパフォーマンスを作り切った先輩たちの話を聞き、いつのまにか涙を流していたこともありました。
こうした経験から、それまで疑問を持っていた「勝ちを目指すための準備の時間」が、「学生の今しかできない仲間との協創の時間」という非常に意味あるものに見えてきたんです。
この、面倒だからこそ学びの多い時間に、自分も打ち込んで胸を張って舞台に立ちたいと、覚悟を決めることができました。
__そこで対話の重要性に気付くことができたんですね。
伊藤:だからこそ、大学3年次の最後の大会では、メンバーひとりひとりについて徹底的に研究しました。
何が得意で、何を重視していて、どんな作品が作りたいか。
これらをまとめて、チーム全員が目指す場所としての作品コンセプトをまとめるのは、本当に大変でしたが、結果、全員が満足のいく作品でノーミスを出し入賞することができて、本当に報われたと感じました。
いま思えば、大人になってからも使う「チームビルディング」の考え方にも通じるわけで、本当に貴重な経験でした。
ダブルダッチを架け橋に
__それ以降は、ダブルダッチを引退されてしまった?
伊藤:実は、大学を卒業して、大学院に進学した今でも続けています。
「ダブルダッチって、縄と場所さえあればどこでも、だれでもできるスポーツなんだ」と気付けたことがきっかけでした。
もともと、大学4年間を通じて私の学問的な関心である地域産業や農業について研究しているなかで「どうにかして、都会と地域の相互交流を増やせないかな」と考えていたんです。
でも「過疎地域の農業を盛り上げよう!」みたいな真面目なスローガンを掲げても、誰も動いてくれません。
当たり前ですが、「じゃあどうすれば人は動くのだろう?」と考えました。
そこで注目したのが、ダブルダッチ。
中でも「フリーロープ」と呼ばれる練習方法は、本当に緩くて、適当にかけた音楽に合わせて誰かが縄を回し、周囲のメンバーが自由に入っては、気の向くままやりたいムーブを披露していくんです。出たいときに出て、飛びたいときに飛ぶ。ダンスがしたければ踊ればいいし、アクロバットの練習をしてもいい。

極論、縄と十分なスペースがあれば、どこでもできますよね。
つまり、アーバンスポーツでありながら、地方でもできるんです。
なら、地域活動と結び付けられないかな?と考えるようになりました。
カントリーストリートスポーツってありかも、と。
__実際にイベントを企画されたこともあるのでしょうか?
伊藤:福島県の飯館村で、ダブルダッチイベントを開催しました。
私は「地域創生」みたいな「都会の人が何かをしてあげる」みたいな立場が苦手で、「お互いに関わり合っていきたい」と考えたので、ここにもひとつ仕掛けを施したんです。
まず、ステージを設置してダブルダッチパフォーマンスを披露します。
村の人々からすれば、あまり見る機会がないものでしょうから、多くの人にとって「都会的な非日常」を提供できたように思います。
ですが、それだけでは終わりません。
今度は村の人々の案内で、家庭料理を作ったり、畑に種まきをしたり、藁を編んで縄を作ったりと、ダブルダッチメンバーたちが「村の日常」を体験したんです。
都会出身者が多い彼らにとって、今度は「地域的な非日常」を体験する番が回ってきました。

お互いの日常は、実は外から見れば非日常です。
だからこそ、実際に見て、聞いて、体験しあってみることで、お互いの文脈をより理解できるようになる。
知らないことを知ることで、都市の人々は地域の、地域の人々は都市の生活に興味が湧いてくれるかもしれませんよね。
これが、私なりの「真面目じゃない地域交流の入り口」でした。
__素晴らしい試みだと思います! これからもその活動を続けていくのでしょうか?
伊藤:私は広告系の会社に就職する予定ですが、その進路決定に役立ったのが「人は好きなモノがきっかけで動いてくれる」と知ったことでした。
「真面目じゃない入り口」を用意できれば、環境問題などについても興味を抱いてくれる人が増えるかもしれません。
広告業界に行けば、そういったノウハウが多く学べるのではないか、と考えての進路でした。
また、ダブルダッチ自体の可能性にも魅せられたままです。今後も、これをかけ橋に地方や環境問題への入り口を整備していきたい。
とはいえ、まだまだ私は業界内では実力・肩書ともにたりません。ですから、長い道のりになることは覚悟の上で、今はソロ部門の世界一を目指して修行中です。
ダブルダッチを通して、様々な交流に参画出来たらいいなと感じています。





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