高校生で留学を経験する人は年々増えています。
「英語が話せるようになりたい」「世界中の人と交流したい」

――そんなポジティブな目的で海外に飛び立つ学生も多いでしょう。さらに、その経験を大学入試、とくに推薦入試で活かしたいと考える人も少なくありません。

とはいえ、「留学を推薦に活かす」には、語学力だけではなく、自分の学びや成長をどう言語化するかという大きな壁が立ちはだかります。

今回紹介するのは、高校3年間をオーストラリアで過ごし、上智大学文学部新聞学科に進学したTさん。
彼がどのように留学生活を乗り越え、その経験を推薦入試に結びつけたのか。そのリアルな体験を通して、「留学をどう活かすか」のヒントを探ります。

コンプレックスから始まった、3年間の挑戦

 Tさんが留学をしたきっかけは「英語を学びたかったから」。
オーストラリアとのミックスであったTさんは、英語を話せたものの、帰国子女ほどペラペラではなく、中途半端さがコンプレックスでした。語学修行で高校3年間のオーストラリア留学を決意。

しかし、その旅路は困難にまみれていました。渡航時期がちょうど新型コロナウイルスの流行にバッティング。コロナで国境が封鎖される前日にギリギリ滑り込み成功。

コロナ禍当時は、学校でもオンライン授業が主。クラスメイトと顔を合わせる機会がなく、当然日常会話もなし。せっかく留学しても、英語を学べるのは授業と自習のみでした。

特に最初の1年は授業の内容が聞き取れず、成績はかなり悪かったそう。


登校が再開してからは、生活の中で英語を話す機会が格段に増えたためか、徐々に流暢に話せるように。高校2年生からは初年度がうそだったかのように、グレードAを連発。高3までのトータル評定平均は4.66/5

報道への疑問が進路のきっかけに

彼が高校3年生の時でした。遠い異国と言えども暮らし始めてから3年目ともなれば、オーストラリアに飽き始めて来る時期。オープンキャンパスに行っても、心惹かれず……。

成績優秀な彼はUQ大学(The University of Queensland:世界的な有名大学。世界大学ランキングTOP50にも入る)へ進学可能でしたが、あまり気が乗らず。

人々の雰囲気はこちらのほうが好きだけど、やっぱり母国は恋しい。留学目的の「英語力強化」達成したこともあり、ホームシックに苛まれたこともあり、大学は日本で選ぶことにしました。


彼が進路を考え始めた時のこと。日本ではタレントのりゅうちぇるさんの自殺が報道されていました。同時期には、恋愛リアリティー番組『テラスハウス』の出演者である木村花さんも亡くなっており、どちらも死因はSNS上での誹謗中傷と推測されていました。

これらの報道をみたTさんは、誹謗中傷(ヘイトスピーチ)やネガティブな情報を取り上げ、煽るような日本の報道に対して疑問を抱くようになりました。


「日本のニュースって本当にくだらないものが多い。芸能人のスキャンダルなど『報道する必要ある?』と感じるものがほとんどでした。そんなのニュースにする必要がありませんよね? 視聴率欲しさに、重要度の低い情報を全国放送して、誰の得になるのでしょうか。それよりも、殺人事件や治安悪化など、生活に影響が及ぶことを報道してほしい。

オーストラリアでは、生活に必要不可欠な情報だけが取り上げられていました。もちろんゴシップもありましたが、ニュースとゴシップで扱う番組が異なり、切り分けられていたんです。」


現代日本では当たり前のSNS発信のゴシップを取り上げる報道とそれに伴う「炎上」ですが、こちらも珍しい現象なのだとか。
「SNSの炎上と日常が深く噛み合い、毎日炎上が繰り返されているのは日本だけ」だと語ってくれました。

誹謗中傷の拡大化は、本来のメディアの在り方と異なると考えたTさん。「これを大学で専攻しよう」と決意しました。SNSで誰かを追い込む人々の心境や、それを加速させるメディアの構造などを学ぶためです。

帰国生入試がある大学は限られていましたが、興味ある分野と近い大学・学部をセレクト。入試結果は以下の通り。

第一志望:上智大学文学部新聞学科(合格)

第二志望:学習院大学法学部政治学科(合格)

第三志望:横浜市立大学国際教養学部国際教養学科(1次突破したものの、上智の発表が出ていたため、2次受けず)

第四志望:立教大学社会学部メディア社会学科(1次で不合格)


一人きりの出願準備

高3の7月、いよいよ出願時期になりました。日本ですら出願作業を先生や両親と行う高校生がほとんどですが、当時の彼はまだ海外に住んでいたにもかかわらず、たった1人で日本の大学へ出願手続きを行ったそう。

通常、日本の総合型選抜では、高校3年生の1学期の成績までが評価対象になります。一方で、彼の挑んだ帰国生入試は高3の最後までの成績が見られました。アメリカの学期軸(9月入学・5~6月卒業)であれば、7月の出願は卒業後の出来事となり、時間的・体力的に余裕が生まれます。

一方で、オーストラリアの学校は1月入学・11月卒業というサイクルであり、成績対象となる中間テストと出願時期が丸被りしてしまう。アメリカの学期システムが多数派である弊害で、彼はテストと出願準備の両方を一挙に行う羽目になってしまいました。

そんな忙しい中で、彼は着々と孤独な戦いの準備を進めていました。日本から海外大学を志望する際の障壁として、「学校の先生にノウハウがなく、有効なサポートを得にくい」ことが挙げられます。Tさんは、立場が真逆であれど、海外から日本の大学を志望していたので、同じように、学校からのサポートを受けにくい状況にありました。


こうなることを防ぐためにも、日本の大学を志望する留学生は、受験までに帰国し、日本で受験サポートを得るのが多数派。しかし、彼は卒業までずっと海外で過ごしたため、一人きりでの孤独な戦いを余儀なくされたのです。


それでも、Tさんは冷静かつ的確な判断を下し続けます。志望理由書の執筆にプロの添削を受ける必要があると考えた際には、帰国子女専門のオンライン家庭教師「エデュバル」を自ら探しだしました。そんな自立性の高さについて、彼はこう語ります。

「親は高卒で、受験にはほとんど関与していません。家庭教師をつけたいとお願いしたのも、選んだのも全部自分。結局は“自分でやるしかない”状況でした。『勉強しなさい』と強く言われることもほぼありませんでしたね」

中学までは親の命令で塾通いをしていたものの、成績は中の上程度。高校入学後は、自分の意思で進路を決めるようになりました。新聞学科を志したのも「単純な興味」から。特別な課外活動をしていたわけではなく、むしろ「新聞学科に行きたい」という熱意と興味を、どう伝えるかを考え、志望理由書を組み立てていきました。

Tさんの書いた志望理由書はこちら↓

私は日本の自殺率の深刻さや著名人の自殺報道により、ヘイトスピーチや誹謗中傷など、人の尊厳を傷つけるような言動について日頃から考えさせられた。日本の若者の自殺率は社会問題であり、こうした言動が人々の生活に悪影響を及ぼすことを知った。
ここから私は、人々はなぜSNS空間でヘイトスピーチや誹謗中傷を行う理由について研究したいと考えた。なぜならば、傷つく人がいるのにも関わらず誹謗中傷する人はたくさんおり、私には彼らの考えや言動が到底理解できないからだ。オーストラリアでの留学生活を通して、現地のSNSとマスメディアに触れた経験から、日本と比べて人の尊厳を傷つける発言が少ないと感じた。
要因としては、オーストラリアがヘイトスピーチに対して取り締まる法律を整備していることや、学校の教育課程で子供達にSNSとの付き合い方の指導を徹底していることなどが考えられる。一方、日本にはヘイトスピーチを規制する法律が未だ存在しておらず、また誹謗中傷などで最悪の結果に至ってからしか取り上げないという報道の問題があると考えられる。日本でこの問題を学ぶことで、日本のヘイトスピーチや誹謗中傷をめぐる現状の特異性を発見でき、その対策に貢献するための知識と理解を深められると思った。
私は貴学で、人間行動とマス・メディアやマスコミ倫理法制論の授業などを通して、人々がメディアでどのように振る舞い、どのように行動変容を促せるか研究したい。またテレビセンター実習の授業を履修し、誹謗中傷やヘイトスピーチをなくすために、マスメディアはどのような役割を果たすべきか現場の声を参考に考えたい。さらに貴学では国際色豊かで、様々な価値観が飛び交う環境で勉強できる。異なる信念を持つ人々との交流を通じて、他国のヘイトスピーチと誹謗中傷をめぐる実態への理解を深め、研究に活かしたい。以上の理由から上智大学文学部新聞学科への入学を強く志望する。 

小論文の対策は週1回 / 1時間を約4〜5か月続けました。特に、高校3年時は自主学習の時間が増え、そのすべてを小論文に費やしたといいます。高3の時点でChatGPTを活用し、小論文の添削や日本語の文法チェックなどを行なっていました。

「8:30〜14:30の授業中も小論文を勉強しました。帰宅後もずっとやっていて、1日10時間くらい。あえて時間は測らず、満足するまで取り組みました。詰め込むだけの暗記科目は苦痛でしたが、考えを組み立てていく小論文は得意でした」

Tさんにとって、勉強は親に管理されるものではなく、自分で切り開くもの。孤独な戦いの中で、最後までやり切る覚悟とスタイルを身につけていったことが伝わってきます。受験が終わっても、現地校のFinal Exam(高校最後の定期試験)で落ちれば、せっかくの合格が取り消しになる危険が。

合格が決まっても最後まで気を抜かずに頑張れたのは、「ここで踏ん張らなきゃ卒業も進学もできない!」っていう切実な理由があったから。だから常に全力で走り切れたそう。

「頑張るコツは、とにかく“時間を決めないこと”です!多くの受験生は『今日は何時間やる』って目標を立てるけど、僕はあえて時計を見ずに、限界まで勉強してました。
サウナで時計を見ちゃうと『まだこんなに残ってる……』ってキツくなるじゃないですか?あれと同じで、時間に縛られないことが僕のスタイルです」

まとめ

Tさんの体験からわかるのは、留学しただけで推薦に有利になるわけではないということです。出願スケジュールの違いやサポート不足など、むしろ大変なことも多い。

それでも彼が合格できたのは、「全部自分でやる」と決めて動き続けたから。時計に縛られず限界まで集中する——このスタイルが、最後まで走り切る力になりました。

留学を推薦に活かすとしても、最終的に問われるのは“自分の覚悟”なのかもしれません。