「うちの子に中学受験はむいていないのではないか」

そう思ったことはありませんか? 「子どもが全然勉強しない」「偏差値が志望校に届かない」……。親には親なりの悩みがあります。

子どもの成績が振るわないのは、仕方がない。問題は、志望校を下げて受験を継続するか、それとも受験自体から撤退するか。払ったお金、つぎ込んだ時間、親子二人三脚で努力した日々の思い出……様々なサンクコストのせいで、「勝ち目が薄い」と見込んでも、「受験を中断する」決断は下しにくい。

実は、最近「中学受験の撤退」がホットなテーマになっています。合格の見込みが薄い時、受験を続けるか、撤退する方が良いのか。やはり、多くのご家庭に共通する悩みなのです。今回は「中学受験の撤退基準」をテーマに、教育投資ジャーナリストの戦記さんにお話を伺います。「早くに撤退すべき」と語る理由に迫ります。

戦記氏プロフィール

教育投資ジャーナリスト(@SenkiWork)。子どもの教育・中学受験・英語学習・資産運用・家庭での教育スタイルなどをテーマに情報発信されています。

1.撤退は早くすべき

ーーまず、「中学受験の撤退」について、どう考えればよいでしょうか?

撤退自体は悪くありません。子は必ずしも親の期待通りに育たないので、仕方がありません。問題は「このまま頑張れば何とかなるかも」と、判断を先延ばしにすることです。判断が遅れれば遅れるほど、中学受験関係での無駄なコストが発生しますし、いちばん勿体ないのは小学生時代の残りの時間という貴重なリソースをドブに捨てることです。

一方で、早期に撤退判断ができれば、別の道を模索できます。例えば、戦場を高校受験にシフトする。英語の勉強に力をいれ、場合によっては、中学受験で使う予定だった予算を使って親子で海外留学をすれば、英語学習の貯金ができます。 

 

2. 撤退判断は「小学4年の終わりまで」

__では、撤退判断はいつまでに下すべきでしょうか

そもそも「撤退するか」を検討する時点で遅すぎます。現実問題として進退に悩んでいる事実があるのならば、悩むだけの問題があるのでしょう。子どもがちゃんと勉強していたり、目標とする偏差値に到達していたりすれば、そもそも撤退なんて考えませんし。

企業経営の世界でも一緒なんです。会社がうまくいってない場合、最初にすることは、利益の出ていない事業をやめること。「利益がないからどうしよう」ではなく、「利益が出ないならば、サッサと諦めて別の道を探そう」と考えるべきだと思います。

 

――では、撤退を考えるべきタイミングはいつでしょうか?

私の考える目安は「小4の終わり」です。

中学受験において算数は重要科目なのですが、算数的(数学的)なセンスや抽象的な思考力の伸び具合がおおよそ見えてくるためです。ここで期待値に届いていない場合、どんなに頑張っても分の悪い賭けにしかなりません。

だからこそ、私は中学受験というプロセスは撤退前提で開始すべきだと考えています。低学年からの塾通いが一般的になっていますが、さすがに小1や小2では算数のセンスの見極めは難しいですし。

低学年から塾通いをするとしても、小4の終わりでgo or no-goを判断すると事前に決めておけば、親としての過剰な期待値やエゴ抜きで考えられます。また、そこまでにかけた時間やお金も、初めから捨てるつもりなら気になりません。実際には、中学受験から撤退したとしても、それまでに培った学力があれば公立中に進学した場合には大きなアドバンテージになりますので、捨てることにはならないのですけどね。

中学受験からの撤退を考える場合、資産運用の世界の常識が参考になると思います。資産運用では、出口戦略を綿密に練った上で投資をするのが常識です。例えば、これからこの株を買うけれど、株価が10%下落したら諦めて全て売る、などの損切りルールを事前に決めておきます。損切りをしないと10%以上の損をするかもしれないし、その資金を他の投資にも使えない。中学受験も資産運用もリスクテイクをする行為であることでは同じなので、投資判断を間違えること自体は仕方がありません。しかし、投資判断を間違えたことを検証しないのは愚者の行為だと思います。

私の娘は2022年に中学受験をしましたが、低学年時代から以下の3パターンを考えていました。女子校志望でしたので、共学は視野に入れていません。

Plan A: 桜蔭・豊島岡レベル(SAPIX偏差値60以上)
Plan B: 頌栄レベル(SAPIX偏差値50)
Plan C: 大妻レベル(SAPIX偏差値45)

上記4校は校風やカリキュラムが大きく違いますが、私が社会に出てから知り合った様々な人たちを参考にして決めています。正直に告白すると、私が商社マン時代に銀座コリドー街での合コンで出会った好印象の方々の出身校です。印象なんて個人差が大きいではないか、、、とも思いますが、OGが私のような商社マンとの接点を持ちえるコミュニケーション能力を保有していたと考え、志望校群選定の参考にしました。勉強だけできても、社会では成功しませんから。

Plan Cにも偏差値的に届かなそうであれば、中学受験は撤退する予定でした。

 

ーーなぜこの3つのパターンに分けて想定していたのでしょうか
Plan A、B、Cという3つのパターンを考えた理由ですが、私のこれまでの人生で、私が描いたベストシナリオ通りにことが進んだことは、ただの一度も無いからです。ベストシナリオ通りになるのは望ましいことですが、これには運の要素も大きいと思います。

 また、私は学生時代からアウトドアが好きで、サイクリングや登山を楽しんできました。サイクリングでは2月の厳冬期北海道をマウンテンバイクにスパイクタイヤを履いて野宿しながら横断をしたり、登山ですと北アルプスの槍ヶ岳から奥穂高岳をテントフル装備で縦走するなど。こういうリスクテイクをする場合、エスケープルートを考えておくのが常識です。事故がおきたときには、エスケープルートで脱出するのです。周到な用意があるから、ベストシナリオから外れても生き残れることになります。中学受験も、全く同じです。

 世の中の大半の人が、ベストシナリオとしてのPlan Aしか考えていないように思います。ゆえに、私は何事に対しても、Plan B、Cまでは考えるようにしています。Plan Cまで考えておけば、失敗したときも心理的ダメージを軽減しつつ、「なぜに失敗したのか?」を冷静に分析することが可能となります。

 ーー娘さんがもし撤退していた場合はどのような教育をする予定でしたか

 我が家は実際には撤退戦は経験しませんでしたので、リアルストーリーとしての説得力はありませんが、以下が当時考えていたことです。仮に娘が小4の終わりで中学受験を撤退していた場合、高校受験に切り替えて英語教育に力を入れていたと思います。恐らく、負け方としては算数が伸び悩んで撤退せざるをえない状況が想定されますので、この時点で「高校受験でも数学は厳しいかもしれない」という仮説に立つことができます。となると、英語を強化するしか高校受験で結果を出す方法はないように思います。

英語は正しいやり方で勉強すれば、誰でも中3終わりまでに英検準1級合格が可能だと私は考えています。中学受験を撤退した場合、仮に小4終わりで英語ゼロ発進だとしても、小5と小6の2年間を中学受験4科目ではなくて英語に投資すれば、英検準2級は余裕でしょうし、2級合格も視野に入ると考えます。もちろん、数学を同時に進めても、です。 

3. 戦記流子育て論

――撤退のタイミング以外に気をつけるべきことはありますか

そもそも、受験という一発勝負についても仕組みを理解しておくことが重要だと思います。
私は中学受験に必要な能力を以下のようなピラミッド構造で考えています。つまり、下の段が崩れると全体が崩壊してしまうのです。

生活の土台がなければ、学力は積み上がりません。中学受験の撤退を考えるような家庭は7、8、9が固まっていないことが多いのではないでしょうか。このような初歩でつまづいていたら、高校・大学受験でも成功は難しい。だから受験勉強を続けるより、まず、これらの事項を達成することが、長期的に最優先だと思います。

もともと、この考え方は、2016年6月25日に「小1/サピックス:小1サピックス通学生の受験結果が芳しくない(?)理由の考察 」として纏めたものですが、高1になった2025年9月に読み返しても、現時点での私の考え方と一致します。

 

ーー戦記さんは7、8、9を達成するためにどのようなことを実際に行ったのでしょうか 

親子で一緒に遊ぶ、ですね。娘が保育園時代には近所の公園でかくれんぼ、砂遊び、木登り、キャッチボール、サッカー、自転車などなど、とにかく遊びました。また、当時小2の娘とは、親子でサイクリングをして東京日本橋から京都三条大橋までの500kmをサイクリングする、などの冒険旅行をしていました。

小2娘と親子でサイクリングして、1日で東京日本橋から箱根峠(標高846m)を超えて静岡県三島まで122km走りましたが、こういう経験を共有すると、アウトドアパートナとしての信頼関係が構築されやすいように思います。

ーーではこのような基礎が固まっていないまま中学受験を続行するとどうなってしまうのでしょうか

本人にやる気がないのに無理やり勉強させても、勉強が嫌いになったり、家族の仲が悪くなったりしますよね。

その結果、勉強嫌いになったり、家族の関係性が悪化したりすると、中高で勉強に集中できず伸び悩むでしょう。こうなってしまっては、大学受験や就職など長期的な視点で成功したとは言えません。

実際に、無理やり中学受験を続行して私立の中学に入ったものの不登校になり、高校から通信制に進んだ事例もあります。せっかく親も子も頑張ってお金と時間も使ったのに、本来の最終目的である幸せな生活や大学受験での成功が得られないとなれば、勿体ないと思います。

まとめ

中学受験からの撤退は決して悪ではない。遅い判断こそが損失を招きます。
戦記さんは「小4終わりの段階で中学受験の是非を見極めるべし」とおっしゃいました。明確な基準を設け、なるべく早期段階で続行可否を判断すれば、最悪の結果に終わっても最終的なダメージも少なく済みます。

また、「家族の信頼関係を見直すことも重要」です。我が子が志望校に届く見込みが薄い時、つい睡眠時間を削って勉強量を増やしたくなります。しかし、学力が積み上がる土台である、生活の基盤がなければ、勉強の成果も発揮されません。落ち着いて、ピラミッドのどこでつまづいているのかを分析してみると、答えが見えてくるかもしれません。