みなさんはMENSAをご存じだろうか。「およそIQ130以上」が入会条件とされる、高IQ集団サークルだ。もともとはイギリスの弁護士が、高知能で結婚相手探しに行き詰まった妹のために立ち上げたそうだが、今となっては出会いよりも、もっぱら「高IQ」のもつ社会的ステータスのために入る人間のほうが多そうだ。
著名人やタレントにもMENSA会員は多く、脳科学者の茂木健一郎氏や、クイズプレイヤーとして名を馳せる芸人「ロザン」の宇治原史規氏、日向坂46の影山優佳氏などが挙げられる。IQは学歴やテストの得点などとは独立した別個の能力であり、あくまで処理速度や短期記憶能力のような、人間に備わった基礎的な機能を測るものだ。逆を言えば、だからこそ、誰もが「もしや自分は」と可能性を感じ、計測したがるのかもしれない。
謎に包まれたMENSAだが、いったいどれほど知的な会話が繰り広げられているのだろうか。今回、取材班は今年メンバーになったばかりの佐藤洋一氏(仮名)とコンタクトを取ることに成功した。だが、彼の口から語られた「MENSAの素顔」は、我々の想像からかけ離れたものだった。証言を基に、謎の高IQ集団の素顔に迫る。
__佐藤さんはなぜMENSAに入ったのですか?
佐藤:もともとは、「自分は何か認知機能に障害があるんじゃないか」と心配になったことがきっかけでした。私はパニックになりやすくて、色々な仕事を同時に振られたり、様々な箇所を同時に気にかけたりが苦手なんです。ひとつひとつ落ち着いてならできるのに、「マルチかつ臨機応変に」ができない。だから、アクションゲームが好きなんですが、いつまでもすごく下手で。
それで、ある時「自分の下手さは、もしかしたら何かの障害?とかかもしれない」と考えたんです。でも精神科に行ったら門前払いを喰らって。それで、高いけど2万ちょっと自腹を切ってIQテストを受けに行きました。ネットで受けられるようなチャチなものではなくWAIS-Ⅳというしっかりしたテストです。テストの内容は口外できませんが、色々面白く解いているうちに、終わりました。
数日後、結果が出てきたときは、びっくりしましたよ。総合のIQが137もあるって書いてあるんですもん。人類の上位1%とかそこらの数字。まさか自分が?って感じでした。後日友達にこの結果を話したら「それ、もしかしてMENSA入れるんじゃないの」って言われて。ダメもとで送ってみたら、通っちゃったんです。
__MENSAに入りたかったわけではないんですね。入ってみてどうですか?
佐藤:それが、正直期待外れでした。MENSAって基本的には入っているだけでは何のメリットもないんです。公式イベントはほぼなくて、有志の方が勝手にイベントを企画している。それに参加したければ参加表明を出せばいい。逆を言えば、参加表明を出さない限り、誰も誘ってくれません。
それで、僕もさっそくオフ会イベントに申し込んでみたんです。とはいっても、仕事の都合とか、場所の都合とか、参加人数の上限とか、いろいろ難しくて、なかなか対面イベントは都合が合わなかった。なので、通話アプリを使ってオンライン上でオフ会をするイベントに参加したんです。
開始は夜の7時か、8時くらいだったかな。僕は仕事の都合でちょっと遅れての参戦でした。入ってみると、僕より10か20くらい年上の男性の方が何人か話されていて。僕もさっそく自己紹介をしてからトピックに混ざろうとしたんです。でも、そのトピックがあまりにもひどいものだったんですよ。
__いったい、どんな話題だったんですか?
佐藤:よく、ネットで「IQが20違うと会話が成立しない」なんて馬鹿げた戯言が流れてきませんか? 僕の参加した会のトークテーマが、よりによってそれだったんです。
しかも、「そんなことないよねぇ」ってみんなで笑う会なのかと思ったら、みんな神妙な顔をして「やっぱり、みなさん職場で話合わないって経験ありますよね?」って「コミュニケーションエラー前提」な話の振り方をしている。
まぁ、結論から言ってしまえば「そんなことはありえない」。僕はいろいろあるIQの中でも言語性IQとか処理速度が飛びぬけて高くて、140くらいあるんですよ。言葉の知識や概念理解、短期記憶や耳から得た情報の解析速度なんかは、自慢じゃないですが、普通の人どころか、並みのMENSA会員よりもずっと早いし正確です。そんな僕ですら「会話が合わないなぁ」なんて日常生活で感じたことないんですよ。彼らのIQは知りませんけど、少なくとも「20違うと会話が噛み合わない」なんてことはありえません。
__あまりにも聞くに堪えない話題ですね。
佐藤:多分ですけど、あの人たちは職場とか、家庭とか、所属している社会集団の中で浮いてるんでしょうね。しかも、その浮き方の根源はきっと、「俺は能力がある」とか「俺はIQが高い」とか、そういう人を見下す態度が無意識に出てしまっているところにもあるのでしょう。
ですが、それを認めてしまうと、彼らの心が壊れてしまう。だって、話が合わないのは、単純に性格が悪かったり、ジョークのセンスがつまらなかったり、流行を知らなかったり、教養がなかったり、はたまた仕事ができなかったりして、嫌われているからなのでしょうけれど、40や50にもなって、そんなことを認めてしまったならば、あまりの情けなさに僕なら表を歩けませんよ。
だからこそ、「IQが違うと会話が弾まない」なんて馬鹿げた俗説にすがるしかない。もちろん、僕の偏見も入っていることは認めます。ですが、そのあとの話題も「俺たちは学歴こそないけれど、能力はある」だったことを、ここに付け加えておきます。
__なんとも、むずがゆくなる話ですね。そういった方が多いのでしょうか?
佐藤:まさか! そんなしょうもない傷のなめあいを夜な夜な集まって繰り返すだけの集団なら、世界中に支部が作れるほど発展しませんよ。今言ったような人は少数派も少数派で、理知的で聡明な方がほとんどです。
ただ、一部にはそういった人も出てきてしまう。というのも、MENSAの称号は、恐らく一部の人にとって「最後の心のよりどころ」になるからです。学歴もない、就職先もいまいちで、年収も地位も高くない。家庭を築いていても、家族仲は良好といえるわけでもなく、そこに居場所を作れるでもない。交友関係も広くないし、深い付き合いの親友もいない。そんな人が、最後に頼れるのは「自分」なんです。社会の中から爪弾きにされた人の最後の砦が、「でも俺には能力がある」なんです。
でも、能力ってあいまいです。普通ならば、学歴や職歴、年収や地位などの「結果」が能力を物語ります。ですが、そういう人には結果がない。ただ漠然とした「自分はできる」という幻想ばかりが付きまとう。では、社会に頼らない個人としての能力の証明にはどんなものがあるか? 確実に迫りくる寿命と、年を取って衰え続ける肉体でも、手にできるような能力、ポテンシャルの証明手段とは? それこそが「地頭」なんですよ。だからこそ、「IQテスト」はいつになっても人気なんだと思います。
__確かに、高IQであることに価値を感じている方は多いかもしれませんね。
佐藤:高IQでも、別に人生は好転しないんですけどね(笑)。あくまで、自分の生き方の目安になる数字でしかないのに、たかだか数字を追いかけて、目を白黒させている人の多いこと。
知ってますか? MENSAに入るために、一番難しいのは、実は入会テストをパスすることではなく、受験すること自体にあるんですよ。MENSAの入会テスト日程は、公式サイトにて不定期投下されます。そして、日程が開示されると、早ければ数分以内に席はすべて埋まってしまうんです。
つまり、ずっとMENSAの入会テストを受けたがっている層が、日本中にごまんといるんです。そして、テストを受験できる機会を、いまかいまかと狙っている。入会テストにIQ判定機能や、検査結果通知はありません。ただ合否が知らされるのみ。それでも、「自分ならMENSAに入れるかもしれない」と信じて、ずっと無数の人々が張り付いているんです。
ちなみに、僕はこの方法で入会していません。IQテストを受けに行って、その検査結果を送れば、これでテスト代わりにできるんです。確かに、お金はかかりますよ。でも、入会テストだって、毎回受験料として1万円を納めないといけない。それなら、結果まで知らせてくれるIQテストのほうが、ずっといいでしょう。それに、入会審査は一生で3回までしか受験できない決まりもあります。IQはそこまで変化しませんけれど、それでもこちらなら何回か受けた中で、一番良い結果の診断書を送れる。
それなのに、なんで彼らは知能検査を受けに行かないのでしょうか? 別にこれは裏技ではありません。そういう入り方もあると、公式ページに書いてあるのに。
これもうがった見方ですが、彼らは結果を知りたくないのではないでしょうか。もしも、仮にWAISの結果が130を下回るようならば、それも、100とか平均近くの数字か、それ以下をたたき出してしまったのならば。生きていくための、最後の希望の光すらも失ってしまうのですから。
○まとめ
謎に包まれた高IQ集団・MENSA。だが、今回の取材で明らかになったのは、知的エリート階級の優雅な暮らしではなく、むしろ社会的承認を得られない孤独な生き地獄に垂らされた「地頭」という蜘蛛の糸にすがる亡者たちの嘆きだった。
頭が良い。能力がある。私たちは能力基準での評価に慣れ切ってしまったが、人は能力に生きるわけではない。むしろ、人間同士の関係性の中に、居心地の良い空間を見つけることこそが至上命題であり、能力はあくまで見つけやすさを向上させる道具でしかない。
だが、一定以上空間が探し当てられないと、能力自体に居場所を認めたくなるのだろう。MENSAは、ある種能力主義の被害者が集う福祉施設のような役割を持っているのかもしれない。
「頭の回転が速いですね」「地頭が良いですね」。そんな言葉すらも、彼らにとっては虎の子であり、切り札であり、常に自らの心をむしばみ続ける猛毒なのだろう。地頭に振り回される者と、地頭をコントロールする者。皮肉にも、筆者にはMENSA内での立ち回りにこそ、地頭の差が出てしまっているように思えてならなかった。




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