倍率1倍の医学部があることを知っていますか?
医学部といえば、人気で偏差値も倍率も高いと思う方が多いと思います。しかし、穴場の入試方式が存在するのです。
事実、2023年度の岩手医科大学医学部・秋田県地域枠では、定員2人に対して受験者も2人。※1 全員が合格し、倍率はまさかの1.0倍でした。
このように、「地域枠入試」では競争率が低くなる傾向にあります。
さらに、2024年の昭和大学では一般入試の合格点が400点中240点に対し、地域枠入試の合格点は189点と、50点以上も差がありました。※2そもそも、この地域枠という入試方式に馴染みのない方もいるかもしれません。これは、医学部入試の有識者の間では、“簡単に医学部に入れる方法”として知られています。
しかし、残念ながら、何事にもうまい話には裏があります。偏差値が低い(=人気がない)理由となる条件があるのです。
特に、最近では医学部の地域枠は「人権侵害」なのではないか、という議論が巻き起こるほどです。
この記事ではこのような地域枠に関する
そもそも地域枠とは?
地域枠入試の落とし穴とは?
どのような人には向いているのか?
といった疑問について、現役医学生がわかりやすく解説します。
※本記事内に誤りがあり、一部修正が行われています。予めご了承ください。
誤)岩手県立医科大学・秋田県地域枠
正)岩手医科大学医学部・秋田県地域枠
そもそも地域枠とは?―制度の概要
医学部の地域枠選抜は、卒業後の勤務地に制限のある、医学部の特別な入試制度です。都道府県ごとの枠が設けられ、卒業後はその都道府県での勤務が前提とされます。
実際に、東京科学大学の長野県枠の例を見てみましょう。※3 入学にあたっての確約書(誓約書)から引用
私は、令和7(2025)年度東京科学大学地域特別枠推薦選抜 (医学部医学科)の長野県枠において最終合格した場合は、必ず東京科学大学医学部医学科に入学いたします。また、将来、長野県内で地域医療を担う意思を持っており、入学後、長野県医学生修学資金の貸与を受け、卒業後は長野県知事が指定する県内医療機関にて、貸与期間の1.5 倍の期間、勤務することを確約いたします。
このように、地域枠での入学者は医学部卒業後、都道府県の指定する医療機関で9年間の勤務が求められます。
また、定員については全体のおよそ15-20%が地域枠での入学者になっています。全国では、医学部入学者約9300人中、約1700人が地域枠で入学します。※4,5
現に、東京科学大学医学部でも、一般入試が79名、推薦入試が5名、地域枠推薦が15名(茨城・長野・埼玉で各5名)と、約15%を占めています。※6

なぜ地域枠が必要?―地域枠の背景
地域枠が設置された最大の理由は、「医師の地域偏在」にあります。日本では、都市部に医師が集中する一方で、地方や離島では深刻な医師不足が続いています。例えば、2020年時点での人口10万人あたりの医師数を見ると、東京都では344.6人であるのに対し、青森県は194.2人、福井県では178.4人と、地域によって大きな格差が生じています。※7
実際に、東京の進学校から地方の医学部に進学し、卒業後は東京に戻って勤務するケースも多いです。
また、医学部生である筆者も、「東京の病院は倍率が高い」という話をよく耳にします。
このような医師偏在の問題に対応するために設けられたのが地域枠です。地域枠の卒業生を、都道府県の指定する病院に勤務させることで、地方や離島の医療の担い手を確保しようとしているのです。

地域枠はこの上なく美味しい
先述の通り、地域枠での入学者は、卒業後の勤務地が指定されてしまいます。一見すると、得がないように思えますが、なぜ入学するのでしょうか?
簡単に医学部に入れる
まずは、入試の難易度の低さです。「医学部入試の穴場」とも呼ばれることもあります。難易度が低い理由は、勤務地の制限から敬遠されやすく、また、地元出身者しか受験できない場合もあり、志願者数や倍率が低い傾向にあるからです。
実際に、点数面でも地域枠の「入りやすさ」ははっきりと現れています。
たとえば、2024年度の昭和大学入試では、400点満点中、一般入試の合格点が240点だったのに対し、静岡県地域枠では189点と、50点以上の差がありました(※2)。
また、倍率でもその差は顕著です。 2025年度の富山大学の入学試験では、地域枠は定員15人に対して志願者49人、倍率は3.3倍。 一方で、一般枠は定員70人に対して志願者560人と、倍率は8倍でした。※8
つまり、地域枠のほうがはるかに競争率が低かったのです。このように、学力が足りない生徒でも医学部を狙えるのです。
金銭的な援助
地域枠の利点は入試の難易度だけではありません。金銭的にも有利なのです。
具体的には、学費が免除になったり、奨学金の貸与を得たりすることができます。さらに、この奨学金は返済が免除になる場合もあります。
このように、入試の難易度や金銭的な面から、地域枠は「この上なく美味しい制度」と言えるでしょう。

うまい話には裏があるー地域枠の落とし穴
簡単に医学部に入れて、しかも、奨学金など金銭的な支援まで受けられる。
「これ以上ない制度じゃないか」 「○○県で9年働くだけでしょ?地元だし全然アリ!」
そんなふうに気軽に考える人も少なくないでしょう。
しかし、うまい話には当然裏があります。実際は、地域枠には大きな落とし穴が存在し、場合によっては一生の選択肢を狭めてしまうリスクもあるのです。
以下では、そのリスクを一緒に確認していきましょう。
美味しさの代償①―田舎での生活
地域枠でもっとも大きな制約のひとつが、「働く場所の限定」です。卒業後は、都道府県が指定する病院で、9年間勤務することが求められます。「好きな都道府県で働けるわけではない...」これが人権侵害と揶揄される所以です。
「〇〇市は大きいし楽しそう」「実家があるから大丈夫」と思っている人もいるかもしれません。
しかし、県庁所在地や出身地で勤務できるとは限りません。
実際に、指定病院は都市部ではなく、いわゆる「僻地」に位置することが少なくありません。例えば、茨城県では9年のうち4.5年以上、「医師不足地域」で働くことが求められます。水戸市やつくば市など、都市部は「医師不足地域」に入っていません。
そのため、地域枠での進学を検討するなら、「どこで働くことになるのか」までリアルに想像し、理解したうえで選ぶことが不可欠です。

美味しさの代償②―医師としてのキャリア
キャリアアップにおいても、地域枠の罠が潜んでいます。
具体的には、教育体制や医療設備、研究体制があまり整っていないのです。特に、指導役となる上級医の数が少なかったり、最新の設備が導入されていなかったり、というケースがあげられます。
その結果、スキルの習得だけでなく、学位(医学博士)や専門医資格(〜〜科のスペシャリスト)の取得が遅れるリスクが出てきます。
このように、医師のキャリアにおいて、ビハインドをとるリスクは避けられません。

美味しさの代償③―ライフイベント(結婚・学生生活)
ライフイベントでも不利になることがあります。まずは、恋愛や結婚です。そもそも、僻地での勤務となれば、若い人との出会い自体が限られてしまうでしょう。
ならば、「学生時代の恋人と、、」と思うかもしれませんが、そうは問屋が卸しません。学生時代から、地域枠の罠にはまっているのです。
具体的には、「卒業後は○○県の病院で働かないといけない」と恋人に説明した結果、相手が同意せず、交際関係を解消されるケースもあります。
実際に、私の周囲でもこのような事例は複数あり、珍しい話ではないと思います。
また、残念なことに、地域枠というだけで見下されることもあります。
「地域枠って、バカなんでしょ」と公言する人もいれば、 口に出さずとも、ふとした瞬間にぞんざいな対応をされることもあるのが現実です。

まとめ
地域枠は、「入りにくい」とされる医学部において、比較的入学しやすいルートであり、学費支援などの恩恵も受けられる制度です。しかしその裏には、勤務地や進路など、多くの制約と責任が伴います。 特に、「偏差値が低いから」「学費が安いから」といった誘惑に飛びつくと、後々大きな後悔に繋がりかねません。
他方で、「地域医療に本気で貢献したい」「どうしても医者になりたい」という明確な意志がある人にとっては、地域枠はとても有意義な制度です。
受験というスタートラインだけでなく、医師としての10年後、20年後を見据えること。それこそが、本当に“賢い選択”ではないでしょうか。
参考文献
※1 https://passnavi.obunsha.co.jp/univ/1710/bairitsu/?facultyID=005&nendo=2023
※2出典:だざいふアカデミー「医学部 地域枠の合格ライン比較」
※3 https://www.tmd.ac.jp/admissions/faculty2/system/region/#anchor3
※5 https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000665178.pdf
※6 https://study-search.jp/columns/1766#%E3%80%90%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E7%A7%91%E5%AD%A6%E5%A4%A7%E5%AD%A6%E3%80%91%E5%8C%BB%E5%AD%A6%E9%83%A8%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81
※7 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/ishi/20/index.html
※8 https://www.u-toyama.ac.jp/admission/undergraduate-exam/info/
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