「岡本さん、猫ちゃんって日本だとオークションされているの知ってました?命がモノのように扱われているんです。」
悲しみと怒りをにじませながらそう語ったのは、今回インタビューに応じてくれた小峰柚木さん。
環境省によると、全国で行われているペットオークションでは、犬猫あわせて年間12万頭が取引されており、そのうち数万頭が猫と見られています。さらに2018年度には、繁殖業者やペットショップのもとで6,486匹の猫が死亡。命が「商品」として扱われる現実が、数字からも浮かび上がります。
参照:犬や猫2万6千匹、繁殖・販売業者のもとで死ぬ 流通量の3%
こうした現実を前に、高校時代の小峰さんは「猫を守りたい」という一心で奄美大島からマルタ共和国まで飛び回り、保護活動に取り組みました。活動を通じて見えてきたのは、命の軽視や制度の隙間といった、社会の深い闇。やがて彼女は、その根本にアプローチする手段として“法律”に目を向けるようになります。
そして現在は、慶應義塾大学法学部・FIT入試に合格し、猫への愛を原点に社会変革への一歩を踏み出しました。

原点は「猫ちゃん」動物福祉の残酷な現実と初めての活動
小峰さんの人生を変えたのは、猫との出会いでした。
小さい頃から動物が好きだったものの、家庭の事情でペットは飼えず。そんなある日、友人が保護した妊娠中の猫が6匹の子猫を産み、そのうちの2匹を小峰さんの家で引き取ることになり、彼女の生活は一変します。
「私自身も、もっともっと猫が大好きになったんですけど、あんなにダメって言っていた親も猫ちゃんにメロメロで(笑)」
そんな幸せな日常の中、小峰さんは新聞で“動物の殺処分”の現実を知り、衝撃を受けます。
動物の殺処分を法律で禁止している国は、ヨーロッパを中心に年々増えています。しかし、残念ながら日本では現在も殺処分が続いているのが現実です。2024年度の犬猫の殺処分件数は、犬が5,635頭、猫が27,108頭。
合計で32,743頭もの命が、人間の都合で失われています。
(参考:Peace Wanko Japan 犬猫の殺処分件数)
動物殺処分の残酷な現実を突きつけられた小峰さん。
「うちの猫ちゃんかわいい〜なんて言ってる場合じゃない。今の社会って、こんなにも命を粗末にしてるんだ...」
高校1年生の時、地元の動物愛護センターに赴き、職員の方から直接話を聞きました。
これが猫を守るための初めてのアクションだったと語ります。
「僕たちも殺したくない。でもペットショップでは毎日大量生産されている。」
職員の方の言葉に、彼女の中に怒りと恐怖が湧き起こったといいます。
「このときですね、日本って終わってるんだって思いました。」
動物愛護のボランティアにも積極的に参加しましたが、そこで感じたのは“もどかしさ”。
「ボランティアって結局猫のお世話をするだけで、なんか何も役に立ってないなあみたいな感情を自分の中でちょくちょく感じていて。 」
ボランティアの重要性は頭では理解していたものの、根本的な解決には結びつかないことに気づきます。動物殺処分問題の背景を深く理解するため、小峰さんはペットオークションの現場にも足を運びます。
「ペットオークションって政治家が関わっていたりして、本当にセンシティブなんです。動物の命がまるで商品みたいに扱われている。日本の裏を知った気がしました。」
ペットオークションとは、主に業者間で子犬や子猫を競り形式で売買する仕組み。命が「モノ」として流通する現場に触れたことで、小峰さんは絶望します。
そんな中、朝日新聞が主催する猫に関するイベントに参加。
そこで記者が問題提起していたのが「奄美のノネコ問題」でした。
これは、捨てられた飼い猫が野生化し、在来種の生態系に悪影響を与えてしまうという深刻な環境問題。奄美大島では、国の特別天然記念物であるアマミノクロウサギが野生化した猫に捕食されるという事例が報告されています。
「この問題にどうしても向き合いたい、解決したい」
そう強く決意した小峰さんは、ここからさらに驚くべき行動力を発揮していきます。

猫の楽園・マルタへの短期留学で気づいた「世界と日本の価値観の差」
なんと、高校2年生の夏、彼女は地中海に浮かぶ小さな島国・マルタへと飛び立ったのです。
「なぜマルタ?奄美大島じゃないんかーい!」と思った人も多いと思います。しかし、彼女にははっきりとした理由があったのです。
マルタはヨーロッパの中でも治安が良く、特にヨーロッパの学生から留学先として大人気。さらに、ヨーロッパ諸国は“動物愛護先進国”として知られ、動物の命や権利に対する意識が非常に高いことで知られています。
「色んなヨーロッパの人々が集まるマルタなら、動物愛護に対する価値観の違いを肌で感じられると思ったんです。」
留学先にマルタを選んだ背景には、もう一つ見逃せない理由がありました。
「マルタと奄美大島、条件的には似ているなと感じていて。島国という地理的な特徴と猫がたくさんいることが共通していたんですよね。」
“猫が住み着く島”という共通する特徴を、ノネコ問題を抱える奄美大島と重ねます。
「でもマルタって、猫と人が共に暮らす文化が根付いていて。猫が1.8倍に増えても、島全体で共存しようって空気があるんですよね。奄美大島とは大違いなんだろうなって。」
猫が自然に街角でくつろぎ、人々がそれを当たり前のように受け入れているーーそんな風景を奄美大島でも見られたらと想いふけていたそう。
刺激的な環境の中でも、特に忘れられないのがドイツ人の学生から投げかけられた衝撃の一言だったと語ります。
「え、日本ってまだ猫を殺処分してるんでしょ?」
その何気ない一言に、彼女はショックを受けます。日本では当たり前のように見過ごされている制度が、海外から見れば“異常”に映る――そんな価値観のギャップを痛感した瞬間でした。
「学生同士の会話の中で、“動物の命をどう守るか”って話題が普通に出てくるんです。政治や制度って、ちゃんと市民の価値観を育ててるんだなって思いました。」
マルタ留学は世界の価値観に触れ、自国の在り方を見つめ直す。そんな“問い”を彼女の中に残した時間となりました。
高校2年生の時には国際資格であるペットセーバーも取得。
小峰さんは帰国後、ついに奄美大島に足を運び、活動をします。
帰国後、奄美大島へ——“全部守りたい”という覚悟
帰国後はいよいよ奄美大島へ。現地のNPO法人や奄美の政府を訪問し、ノネコ問題の実態調査を始めました。そして、ノネコ保護団体が活動する多頭飼育の現場にも直接足を運びます。
きつい臭い、散乱した家具、猫の保護のために毛だらけになる保護活動者の姿...
「感染症とか糞尿の被害で正直困ってるんですけど……役場に言ってもどうにもならなくて。」
そう語る近隣住民の表情には、どこか諦めの色がにじんでいました。
「住民と自治体の間に大きな溝があると感じました。計画が立てられるとき、住民の声はほとんど聞かれていなかったんです」
小峰さんは、行政と住民の信頼関係の欠如を肌で感じ取ります。
さらに調査を進める中で、行政の腐敗を目の当たりにします。
「本当にびっくりしたんですけど、環境省がノネコを殺す政策を推進していたんですよ。現地のことなんてなんにも知らないまま、”奄美の生態系を守るべき”っていう正義を振りかざしてる感じで。地元の議会すらも環境省の言いなりなんです。」
環境省は生態系保全のためにノネコの駆除を進める一方で、動物保護団体は「命を守るべき」と強く反発。
”生態系だけを守りたい環境省”と”ノネコだけを守りたいNPO”
その主張は、真っ向からぶつかり合っていました。
「どちらの言い分にも一理ある。でも、それぞれが自分の正義だけを主張していて、全体を見た解決策がなかったんです」
最初は“猫を守りたい”という気持ちだけで動いていた小峰さんでしたが、現地で行政やNPOの人々と対話を重ねるうちに、ある想いが芽生え始めます。
「最初は猫を守りたいって気持ちだけだったんですけど、行政の人ともNPOの人とも話していく中で、だんだんと『全部守りたい』と思うようになったんです。猫も自然も、人間も。」
小峰さんの目指す理想郷は、全ての生き物に優しい世界になったわけです。
そして小峰さんは、高校生としては異例の“中立的な政策提言”というスタンスを、少しずつ形にしていきます。
奄美5市町村への意見書の提出、繰り返される環境省への訪問――。
彼女なりの言葉で、丁寧に、諦めずに訴え続けました。
「実は地元の環境省にはもうめちゃめちゃ嫌われてて。3回ぐらい行ってるんですけど、マジめっちゃ嫌な顔されるんですよ。『また来たよあの女子高生』みたいな。」
“厄介な女子高生”と見られることさえも、小峰さんにとってはむしろ誇り。
「行政って現場を見ずに政策を決めているなって、高校3年生ながらに気づきました。奄美の現場を知らずに“良かれと思って”出す政策が、現実では全然うまくいってないってこともある。」
そしてこの一連の取り組みこそが、慶應義塾大学FIT入試で高く評価されることとなります。
“私は誰の味方にもならない。でも、誰の声も無視しない”――その姿勢が、彼女を慶應合格へと導いたのです。

幼少期からの憧れ、“慶應義塾大学”へのリベンジ
実は小峰さん、中学受験のときから慶應SFCの附属校を第一志望にしていたほど、幼い頃から慶應への強い憧れを抱いていました。
「うちはどっちかっていうと安定志向で、大学までエスカレーターで行けるのが理想だったんです。だから中学受験のときも、附属校ばっかり狙ってました。」
「しかも父が慶應出身だったので、小さい頃から“慶應ってすごいんだよ”って刷り込まれてて(笑)。自然と“憧れの慶應”って感じになってましたね。」
しかし結果は不合格。滑り止めだった立教女学院へ進学しました。
「正直、悔しかったです。だから“絶対にリベンジしてやる”って、心の中でずっと思ってました」
その悔しさが、彼女の原動力になっていきます。
「国際的な視野に立ちつつ、新しい社会を創造し先導する気概を持つ学生を求めている」
——これは、慶應義塾大学法学部のアドミッションポリシーの一節です。
“猫の命を守りたい”という純粋な想いから始まった小峰さんの行動は、日本の行政や制度への疑問へと発展し、その答えを求めてマルタへ。さらには奄美大島での現地活動へと広がっていきました。
その積み重ねの中で、慶應義塾大学が求める「志」と「行動力」は、自然と彼女の中に培われていったのです。
将来のこと、そして受験生へ
小峰さんは今後の展望について、こう語ってくれました。
「奄美の活動は、まだ終わっていません。大学で学んでいる政治や法制度の知識とどう結びつけていくか、今は模索している最中です。でも、現場で感じたことや課題を“政策”という形で提案していきたい気持ちは変わっていません。」
大学では、日本の過去の政策や政治思想について学ぶ授業が中心。でも彼女にとっては、それだけでは足りません。
「授業で学ぶことも大切だけど、やっぱり自分で現場に出ていかないと、何も変えられないと思うんです。だからこれからも、外に出て活動していきたい」
現場を知り、自分の言葉で語る。それが小峰さんの信念です。
受験生へのメッセージ
最後に、これから進路を考える高校生に向けて、こんなメッセージをくれました。
「大学合格をゴールにしないでほしい。大学はあくまで“通過点”なんです。”自分は大学卒業後にはどんな人間になっていたいのか”それを先に考えて、そのためにはどんな学部で何を学ぶ必要があるのかって逆算しながら進路を選んでほしい。」
そして総合型選抜に挑戦する受験生へ、もうひとつ。
「社会問題に対して“どれだけ楽しんで取り組めるか”が大事だと思います。一般入試と違って、総合型は“楽しんだもん勝ち”なところがあるので!」
“猫を守りたい”という想いから始まった彼女のストーリーは、やがて社会全体を見つめる視点へと広がっていきました。
その一歩を踏み出したのは、行動する勇気。そして、それを貫く信念。
「日本はもう終わってる」——そう感じた高校1年生のときの悔しさが、いま、未来を変える力へと育っている。
地元の環境省に何度も足を運び、ペットオークションの現場を目撃し、奄美で政策と現実のギャップを学び、マルタで“共存のかたち”を体感し、慶應の門をたたいた小峰柚木さん。
"社会に貢献したいけど、何をしたらいいかわからない"ーーそんなあなたへ。彼女が一歩を踏み出したのは、“猫を守りたい”という純粋な想いから。未来を変える力は、すでにあなたの中にあるのかもしれない。
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