日本でもおなじみのアメリカ人タレント・パックン(パックンマックン)。ハーバード大学卒業という華麗な経歴を持ちながらも、日本でお笑い芸人としてデビューして以来、テレビのコメンテーターやラジオ、執筆活動など幅広い分野で活躍しています。
この連載では、日本の教育を客観的に考えるために、パックンさんに取材を行っていきます。パックンの目から見て、日本の教育はぶっちゃけどうなのか?海外の教育と日本の教育にはどのような違いがあるのか?第2回目となる本記事では「インド・アメリカ・日本の教育比較」というテーマについて語ってくれました。(インタビュアー:未来図編集長 西岡壱誠)
―――今回のテーマは、「インド」と「アメリカ」と「日本」、どの国の受験がいいか?です。インドでは現在、大学受験が非常に加熱化しています。詰め込み型の教育で、試験の難易度も世界水準で見ても高く、トップ大学は約100倍とも言われるほどの受験倍率であり、IIT(インド工科大)の卒業生たちは平均初任給が約2000万円を記録し、インドの一般的な大学卒の初任給(約50万円)とは比較にならない水準となっています。
一方でインドの高校生の間では、受験の失敗や成績の不振によって自殺してしまうケースが非常に多く、2021年には13000人以上の学生が自殺したと報告されています。それに対してアメリカは、ペーパーテストにおける大学受験はあまり盛んではなく、面接や調査書などのさまざまな要素によって評価がされる場合が多いです。その代わり、アメリカでは識字率が低かったり、計算ができない人が多かったりして、問題になっている面があります。そして日本は「一般選抜入試」と「総合型選抜入試・学校選抜入試など」の割合が50%-50%程度となっていて、「インド」と「アメリカ」の間といった形になっています。
―――ただ、それはそれとして、それでも今のインドの躍進はすごいですよね。
パックン「そうなんですよね。アメリカの時価総額トップ500社のCEOの中にはインド生まれの方が多いです。例えばGoogleがそうですよね。インドからアメリカに移民し、アメリカトップ企業のトップになっている方もいるくらい、とんでもなく優秀な方を輩出できる教育制度でもある。ちなみに500社のCEO長の中に日本人は1人もいないんです。」
―――残念ですね。いてもいいのに、いない。
パックン「ですから、全部否定するつもりはないです。とはいえ、もしかしたら詰め込み式よりも効率よく、クリエイティビティやイノベーションに繋がるような、もっといい教育も考えられるかもしれないですよね。模索していくべきだと思います。なぜ今インドがあんなに成功してるのかというと、絶対数が違うからです。ベースで母数が違うから、同じ1万人に1人でも、それが100万人になるわけですよね。ですから、もっとさらにその精度を上げれば、もっとすごい人を輩出することができるかもしれないし、もっと底上げにもなるかもしれない。」
―――なるほど、ありがとうございます。
パックン「これ逆にどう思います?西岡さんの見解は?」
―――そうですね。学ぶべきところがあるのは本当に正しいだろうなっていうふうに思います。どう考えてもすごいので。競争ってやっぱ人間を成長させますよね。インドの競争と日本の競争は全く違い、カーストがあって、この「カーストの下位だからこそ、自分は頑張らなきゃなんない」という意識があるというか。ここで一発逆転しなかったらもう人生が終わるみたいな子もいるし、昔の中国のような「村を背負って試験を受けます」という人が実際にいるんです。 今でも、インドの農村部の代表として学校に行くという子がいるので。ただ、そういう子が競争に敗れたときに、すごく悲惨なことになる現状もあります。インドでは、1万3000人ぐらい受験で自殺してるんですよ。
パックン「なるほど。母数が違うので一概に比較できないですが、でも(人口が10分の1の)日本って1300人も受験が理由で自殺しないですよね。」
―――とはいえ、インドがこれから生き残っていくためには、これが必要だと言っているインド人が結構多いという状況ですよね。あと10年~20年したら、この受験システムも、大きく変わると思うんです。ただ、おそらくそういうときにインドは、今の日本と同じように、「30年前の受験形態の方がよかったな」と言ってる人も多いという時代になるんだろうな、と。
パックン「インドではカースト制から、一発逆転できるというハングリー精神のもとがある。日本はもう中流階級が厚くて、満足している子供が多いと思うんですよ。アメリカは貧富の差が激しいけど、その分、ハングリー精神も強いという分析もある。日本は逆に、格差社会が進むことがあれば、ある一面においては、ハングリー精神を生むということも言えるかもしれませんね」
―――うーん。それはその通りだと思うのですが、もちろん格差を作るべきかというと、そういうわけではないですよね。どうすればいいのでしょうかね。
パックン「文化ですよ。熱くなる文化をどう導入するか。いい意味で熱くなる。僕は、競争は大事だと思うんですけど、英語でcut throat、首切り競争という言い方もあるんです。そうではなくて仲良く仲間と競争し合って、高め合う切磋琢磨的な文化を強化すべきだと思うんですよね。日本の和を大事にする文化も、素晴らしいと思いますよ。」
―――なるほど。
パックン「インドの熱、アメリカのイノベーション、日本の和。これが全部持ち合わせるような教育ができたらいいんじゃないかと思います。」
―――アメリカの今の受験システムについては、パックンはどう思われてるんですか?例えば『イノベーティブですごい。それこそスティーブジョブズが生まれるような教育だ』ということを言う人もいれば、逆に、『格差社会だからこそ、識字率などの面で日本には劣る』という批判もありますよね。
パックン「アメリカは抜きん出るものを抜き出せる教育になってるんですよ。『お前結構才能あるじゃん。 今この学校に行け、このクラスに行け。奨学金あげるから、丸々夏はこのサマースクールに行きな!』っていうのが、システムとしてできている。でも『お前はできてない』と見捨てることも多いです。」
―――そう言う面はありますね。
パックン「その点において、日本の底上げ教育は本当に素晴らしい。国際教育調査、世界3位ですよ、2022年。なぜそれができるかというと、誰も取り残さないから。識字率が高い。読解力がある。計算力がある。アメリカはすごいいい点数を取る子もいれば、とんでもない点数を取る子もいるから、平均値が日本より低いわけです。日本は平均値がめちゃくちゃ高くて、だからこのうまく機能する社会になってるんですよ。どこのお店入ってもお釣りを間違えられたことない。それってすごいですよ。」
―――ないですね、確かにね。
パックン「お釣りをわざと誤魔化して盗んでいる人も、会ったことないですよね。アメリカで、何回手数料を間違えられたか。何回店員さんがプライベートの電話で忙しくて、僕のレジをやってくれなかったか、わかりませんよ。『すいません』って言っても、今電話中だからって。で、話を聞くと、『だから後で、ご飯行こうよ』とか言ってるんです。(笑)」
―――流石に日本ではそれはないですね。(笑)
パックン「PISAは測ってもいないけど、日本の教育には倫理を身につける要素もあって。これも世界一だと思うんですよ。治安がこんなに良い国、和をこんなに保てる国。これも教育制度の利点であって、これを絶対なくしてほしくない。
だから日本の底上げをしつつ、アメリカの『抜きん出す』力もつけてほしいなと思うんですよね」
―――難しいですよね、それは。コインの裏表みたいな話なのかな、とも思ってしまいますが。
パックン「でもそこは、底を上げながら、『天井を下げる』必要は、ないんじゃないかなと思うんです」
―――なるほど。もしパックンさんが日本の教育全部改革できるとなったら、『天井を下げてる部分』ってまずはどこだと考えられますか。
パックン「わかりやすい例。うちの子供は英語うまいんです。当然です。でも小学校で、アルファベットから学ばなきゃいけないんです。アルファベットを学ぶ時間はうちの子はすごくつまんないし、伸びてないです。だったら、試験で『この1年間の英語力はもう身につけた。わかった、この英語の時間はあなたは本読んでていい。小説を読んでください』みたいなことをしてもいいですよね。結構天井下げてると思うんですよ。飛び級もできない。例えば西岡さんは、数学とかめっちゃ得意でしたか?」
―――まあまあですかね
パックン「周りがまだ全然できてないもの、自分ができているならば、その授業の時間は、違うものにかけていいと思ったことはない?途中で、受験勉強のために高校の教室のカリキュラムを、ほとんど無視する人もいますよね?」
―――ありますね。
パックン「そうそう、それすごい賢い選択だと思うんですよ。でもそれも、正規の方法として学校の中に盛り込んでいいと思うんです。僕も高校のときには、授業の内容は全部先にできてるから、数学の授業は違うことに時間かけていいということになったんですよ。どうぞ僕の部屋を使っていいと、先生が言ってたんです。教室の裏に自分の事務所、ちっちゃい部屋があって、先生の机とか置いてあるんですよ。僕はそこで何やってたと思います?
―――何をやってたんですか?
パックン「昼寝です」
―――(笑)
パックン「はい。でも数学コンクールのチームキャプテンにもなってるんですよね。すごい数学の授業中は寝てるのに、結局一番できるしリーダーシップもあるから。学校のチームを僕がまとめて州大会に連れて行ったんですよ。でも試験で点数が下がったら、もう駄目。『もう、お前も勉強しろよ』ってなる。当たり前だし、それでもいいんじゃないかと思うんですよね」
―――なるほど。そう言うのはいいかもしれないですね。
パックン「ここまで色々お話ししましたが、日本は改善の文化がすごく深く根付いてるんですよ。一生懸命変えようとしてる。海外の良い点を参考にしようとしている。一方で、アメリカは「アメリカが世界一だから」と傲慢になって改善しない面があるとも思います。ただし、日本は、アメリカではなく『日本の』国民性にも合わせるべきだとも思います。日本の強みを見いだしていった方がいいです。」
パックン「そうですね。僕は日本の入試を知ってから30年近く経っているんですけど、ずっと言ってるのは『スマホを持っていたら答えられるような試験は、もういらないんじゃないか』と言うことなんですよ。スマホやパソコンを使って仕事をするのが当たり前の時代において、なんでスマホを使わない試験が行われているのか、と。
結局、仕事でも知らないデータが必要だったら調べられるじゃないですか。引き出せるんですよね。 大事なのはトレンドとか、原理とか、セオリーとか。知識そのものを知っているかどうかを測る試験に、どれくらい意味があるのか。むしろ情報の調べ方と使い方を身につける教育がほしいですね」
―――なるほど。とはいえ、調べたり、その内容を理解するには、基礎知識も必要ですよね。ですから、ある程度までの詰め込み式は必要だと思います。
パックン「もちろんです。しかし、つまりどこかで脳をハードディスクではなく、を使うのではなくて、CPUとしてを使う教育に切り替えなきゃいけないと思っているんですよ。その定義で言えば、インドは全部そのハードディスク型です。その教育であれば、行き過ぎている。AIが全ての入試に簡単に答えられるような時代に、AIにないものを、人間にが育まなきゃいけないと思うんですよ。だから、AIに何ができないのかをしっかり考えなければならない。
おそらくは、コミュニケーション・イノベーション・リーダーシップなどですね。とはいえ、変な話、手先の器用さとか職人技とかもまだAIにできないんだったら、それを育てるのも学校の仕事かもしれません。」
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