受験の最高峰といえば、やはり「医学部」。
高年収、確固たる社会的地位、やりがい——すべてを兼ね備えた職業として、医師の人気は今も揺るぎません。特に将来が不透明なこの時代、「医師資格さえあれば一生安泰」と言われるほど、その安定性と経済的メリットは大きな魅力です。
実際に、「何がなんでも医者になる」という強い意思を持った受験生が多く、三年以上浪人を続ける多浪生や、大学入学後に再受験・学士編入を目指す人も珍しくありません。
しかし、多浪や再受験というリスクを背負ってまで、医師免許を目指す価値はあるのでしょうか?
どんなに医学部が魅力的でも、入学するタイミングが遅すぎるのでは、生涯年収で一般的な文系サラリーマンに劣後することになりかねません。
今回は、「"多浪して医学部"か"現役でMARCH"か」「何浪までなら浪人の“元が取れる”のか」
といった疑問に答えを出すべく、その“経済的リターン”をデータで比較してみました。果たして損益分岐点は何浪なのでしょうか?
また、他の軸として、「浪人国立医 vs 現役私立医」「東大 vs 医学部」 といったテーマについても考えてみましょう。
高学歴の平均年収は〇〇万円
まずは収入について考えていきましょう。
医師について、厚生労働省の「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、平均年収は1,436万円(平均年齢46.1歳)。 手取り額に換算すると、およそ990万円です。
一方、MARCH卒の平均年収はどうでしょうか。
各大学の就職先の上位に名を連ねる、MARCH文系の定番の就職先とも言える「東京都特別区・みずほフィナンシャルグループ・NEC」を例に考えてみましょう。
※2024MARCH就職先ランキングの上位から選定
https://diamond.jp/articles/-/365241
明治大学就職先TOP10(2024)

東京特別区では最も年収の高い目黒区で、平均月給(給与+諸手当)が約45万円(平均年齢39.8歳)。
みずほフィナンシャルグループでは、平均年収が1117万円(平均年齢41.8歳)。
NECでは、平均年収が963万円(平均年齢42.6歳)。
という結果となりました。

※出典:IRbank、地方公共団体定員管理調査より
以上から、医師の方が給与水準ではMARCHに勝ることが確認できました。
また、MARCHと一括りにされることは多いですが、就職先で大きく給与水準が変わることにも留意することが必要でしょう。
浪人・学費にいくらかかるのか
では次に、支出(卒業までの必要経費)を見ていきましょう。
まずは、浪人費用です。医学部志望者の多くが経験する"浪人"ですが、その費用は決して軽くはないのが現状です。
- 一般的な予備校:50〜100万円/年
- 医学部特化コース:100〜150万円/年
- 医専(医系専門予備校):300〜700万円/年
一般的な大手予備校では、学費として年間50万円〜150万円が必要になります。一方で、医専と呼ばれる、医学部に特化したプログラムや個別指導を行う予備校では、水準が上がり年間500万円程度が目安に。
次に、大学の学費も大きく異なります。
- 国立医学部:約350万円
- 私立医学部:約3,000万円
- MARCH:約500万円
際立つのは私立医学部の学費の高さ。1年分の学費で国立医学部やMARCHの卒業までの学費が賄えてしまうほどの水準です。なかでも特に学費が高い東京女子医大や川崎医科大では、6年間で4500万円程度が必要となり、サラリーマン家庭ではもはや手が届かなくなりつつあると言われています。
この大きな差がトータルでどのように影響するのでしょうか。
浪人で失うのは「学費」だけではない
医学部浪人をしても「合格すれば一生安泰」と思う人は多いですが、時間の損失は生涯年収に直結します。
というのも、働き始めが浪人で遅れても定年は変わらないからです。例えば、40年間働く前提だったとしても、3年浪人した場合は37年しか働けない。しかも、失うのはキャリア後半の“最も稼げる時期”なのです。
年収が平均の1400万円だったとすると、3年間の手取り額で3,000万円。キャリアの最後で1.5倍ほど昇給していると仮定するなら、3浪=最大4500万円の機会損失とも言えるのです。
損益分岐点は〇〇浪
では、何浪までなら元がとれるのか、試算してみましょう。今回は、より実際の生活に近づけるため、手取り額ベースで議論を進めます。
40-45歳時点での年収を基準に、40年間働いたと仮定します。
医師は平均手取りである990万円、MARCHは東京都特別区・みずほFG・NECの平均手取り650万円としましょう。
この場合、
- 医師:990万円 × 40年 = 4億円
- MARCH卒:650万円 × 40年 = 2.6億円
となり、約1.4億円の差があることがわかります。
さらに、これに加えて
① 浪人費用
② 大学の学費
③ 浪人による労働年数の減少(=生涯年収の減り)
を考慮します。

以上から、最もお金のかかるパターン(医専かつ私立医学部)では、 7~8年浪人してようやく現役MARCHと同等になります。社会人のスタートが30歳を超えても、生涯年収では逆転できるのは衝撃の結果です。
一方で、お金のかからないパターン(集団予備校かつ国立医学部)であれば、 13年浪人してもMARCHと同等の水準です。こう考えると、一度大学を卒業したり就職をしたりした後、学士編入を目指す人が多いのにも納得です。
しかも、これはあくまで医師の平均。雇われの勤務医よりも開業医が儲かると言われていることを考慮すると、「医者の子が医者を目指して10浪以上」というのも論理的に捉えられます。
番外編
①何浪までなら私立医学部より国立医学部か
同じ医学部でも学費の面から、私立より国立に入った方が得なのは明らかです。
具体的には、2浪までであれば、浪人して国立に行った方が私立に行ったよりも経済的に成功といえます。実質的には、2,3浪で概ね同等となるのではないでしょうか。
②東大・医学部論争
意外なことに、2,3浪で私立医学部、もしくは5,6浪程度の国立医学部に進学すれば、現役での東京大学と同等の生涯年収になります。医学部82校中、東大と比べられる難易度の医学部は多く見積もっても5-10校。
つまり、成績が東大に届かなくとも、医学部にさえ入学してしまえば、年収で東大を上回る可能性は高い。これは、東大生にとって少し納得しがたい現実かもしれません。

議論の穴
とはいえ、ここまでの試算はあくまで大雑把なシミュレーションです。
具体的には、就職する企業や昇進状況、医師でも開業医か病院に雇われる勤務医か、などの要素で生涯年収の差が大きく開くことも十分に考えられます。
例えば、今回の試算では45歳時点の年収を基準にしましたが、年収のカーブは職種によって異なります。医師は若い頃から一定の水準で安定的に収入を得られる一方、 一般企業では若手時代は収入が低めで、管理職になった途端に大幅に給料が上がることが多くカーブの勾配が急になりがちです。
また、勤務期間も厳密には異なります。定年後も開業医や非常勤医師として長く働けるのは医師の特権とも言えます。こうした差を考えると、「医者=一律に4億円」という図式はやや乱暴かもしれません。
さらに、退職金や企業年金はこの試算には含まれていません。多くのサラリーマンは退職金を受け取りますが、開業医には退職金が存在しません。
まとめ
現役でMARCHに進学した場合と比べると、医学部には約1.4億円の価値があると試算できます。10年以上浪人生活を続けても医学部にさえ入れば生涯年収が同じ、というのは驚くべき数字でしょう。
このように、経済的には浪人を重ねてでも医学部に進む方が表面的な収入ベースではたしかに「得」かもしれません。
しかし、本当にそれで良いのでしょうか。大学とは、本来「興味のある分野を学び、自分のやりたいことに没頭する場」です。
人生の時間を費やすなら、心から情熱を持てる領域に投資する方が、長期的には豊かさにつながるのではないでしょうか。
人生を振り返ったとき、残るのは “お金”か“心”の納得か。
医学部かMARCHか、その答えを出すのは、他の誰でもなくあなた自身です。


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