「バレエが私の人生を変えてくれました。それも、思いもよらない形で」
そう静かに語るのは、この春から立教大学異文化コミュニケーション学部に進学する中村莉佳さん。都内の中堅女子高から総合型選抜(旧AO入試)で合格を勝ち取った彼女の「秘密兵器」は、なんと13年間続けてきたバレエだった。
「バレエを途中でやめてしまっていたら、今の進路には行けていない」
多くの受験生が塾や予備校に通い詰める高校3年の夏になっても、莉佳さんは週に5日、バレエスタジオに足を運んでいたという。一見、大学受験とは無縁に思えるこの習い事が、どのようにして難関私大の推薦入試突破に繋がったのか——。今回は、莉佳さんのバレエと受験にまつわる物語に迫った。
「辞めたい」と思った中学時代が転機に
「正直、中学2年生の時はバレエを辞めようと思っていました」
幼稚園年長から始めたバレエは、当初は「可愛い衣装を着たい」という単純な動機だった。しかし学年が上がるにつれ、技術的な難度も上がり、練習時間も増えていったという。今までは楽しみでしかなかった練習に、行きたくないと思う日が増えたというのだ。
「中学に入って勉強が急に難しくなって。テスト前は特に『バレエなんかやってる場合じゃない』って。でも母は『続けることの大切さ』を説き、父は『お前のバレエが見たい』と言ってくれて...」
そんな時、参加した地区コンクールで予選落ちという挫折を経験する。
「初めての大きな失敗でした。練習不足を痛感して。その日、先生と長時間話し合って...『このまま中途半端に続けるか、真剣に向き合うか』という選択を迫られたんです」
その日を境に、莉佳さんのバレエへの向き合い方は一変する。
「技術だけでなく、表現力や内面の成長も含めて『踊る』ということを考えるようになりました。実は、それが後の推薦入試でも大きな武器になったんです」
厳しい練習環境が教えてくれた「自己と向き合う勇気」
通っていたバレエアカデミーでの練習は、時に厳しいものだった。そこでは、基礎練習の反復、姿勢の微調整、表現力の向上——全てが完璧を求められた。
「壁一面の鏡で自分と向き合うのは、時に残酷です。先生は『鏡は嘘をつかない』とよく言っていました。できていないことは一目瞭然なんです」
莉佳さんは、この「自分と正直に向き合う時間」がバレエの最大の価値だと考えている。
「受験勉強でも同じでした。模試の結果や弱点を正直に認め、対策を立てる。逃げずに向き合う姿勢がバレエで身についていたから、冷静に自分の学力と向き合えたんです」
そして毎日の厳しい練習は、精神的な強さも育んでくれたという。
「バレエのレッスンでは、できないことを『できない』と認めることから始まります。言い訳はできません。この正直さが、受験における自己分析にも活きたと思います」
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足首の怪我で見えてきた「言葉を超えた表現」の価値
高校2年の夏、莉佳さんは重大な試練に直面する。練習中の着地ミスによる足首の捻挫だ。全治3ヶ月の診断を受け、大好きなバレエから一時的に離れることになった。
「動けない苦しさもありましたが、逆に『観る』ことに集中できた3ヶ月でした。YouTubeで海外のバレエ団の公演を見漁って...言葉がわからなくても伝わる表現の普遍性に気づいたんです」
リハビリ中、進路について考える時間も増えたという。そんな時には、両親だけでなく周囲の大人に何度も相談を重ねたのだという。
「バレエと学問をどう結びつけるか悩んでいたとき、担任の先生から立教大学の異文化コミュニケーション学部を紹介されたんです。『言葉を超えたコミュニケーション』の学問的探究ができる場所だと」
怪我という危機が、新たな進路の発見につながった瞬間だった。
「リハビリの間、初めてバレエを『外側』から考える機会を得ました。踊ることが全てだと思っていたのに、観ること、分析すること、言語化すること…その全てがバレエの一部だと気づいたんです」
この気づきは、後の推薦入試の志望理由書や面接でも重要な要素となった。
「怪我がなければ、ただダンサーになりたいという単純な夢で終わっていたかもしれません。でも、立ち止まることで見えた景色があった。それが立教の異文化コミュニケーション学部という新しい道につながったんです」
「時間の使い方」が変わる—学業とバレエの両立術
莉佳さんが通っていたのは、有名大学などへの進学実績が決して多くはない中堅校。彼女は学業とバレエをどう両立させたのか?
「完璧主義を捨てました(笑)。バレエで学んだのは『限られた時間で最大限のパフォーマンスを発揮する』こと。毎日の予定を15分単位で管理し、隙間時間を徹底活用していました」
具体的には、独自の「カラーコード勉強法」を編み出したという。
「赤は『完璧に理解すべき』、青は『一通り理解』、緑は『概要把握』と、科目や単元ごとに重要度を色分けしていました。バレエのレッスンでも『今日はこの動きを完璧に』という重点練習があるんです。その考え方を勉強に応用しました」
学年上位20%をキープしながら、バレエでも着実に実力をつけていった莉佳さん。
「両方中途半端になりそうで怖かったですが、限られた時間だからこそ集中力が高まりました。これも推薦入試で『両立の工夫』として高評価をいただいたポイントです」
異なるコミュニティを持つ強み—多様性への理解
莉佳さんの特徴的な経験として、学校の部活ではなく外部のバレエスクールに通い続けたことがある。
「スタジオには違う学校、違う年齢の人たちがいます。小学生から社会人まで。最初は戸惑いましたが、多様な価値観や考え方に触れられたのは大きな財産です」
高校に入ると、スタジオの小さな子どもたちの面倒を見る機会も増えた。
「6歳の子に教えるのは、本当に難しい。『つま先を伸ばして』という簡単な指示でも、伝わらないことがある。どうすれば相手に伝わるか、言葉を選び直したり、実際に見せたり...バレエを教えることで『伝えること』の難しさと大切さを学びました」
学校では得られない、年齢を超えた交流が莉佳さんの視野を広げていった。
「高齢の方がバレエを始める『シニアクラス』に、補助で入ることもありました。70歳を過ぎた方が『いくつになっても新しいことを始められる』と笑顔で踊る姿に、本当に感動して。年齢や背景が違っても、同じ『踊る喜び』で繋がれることを知りました」
こうした「多様性への理解」「コミュニティ間の架け橋となる力」が、立教大学の推薦入試では高く評価されたという。
バレエと言語の意外な共通点—フランス語との出会い
バレエ用語は、そのほとんどがフランス語に由来している。「プリエ(膝を曲げる)」「ジュテ(跳躍)」「アラベスク(片足を後ろに伸ばすポーズ)」など、莉佳さんは幼いころからフランス語に触れていた。
「高校でフランス語の授業を取ったとき、バレエ用語がたくさん出てきて。クラスメイトが苦労している発音も、私には自然に出てきたんです」
その経験が、言語への関心を深めるきっかけとなった。
「言葉と身体表現って、実は密接に繋がっていると気づいたんです。どちらも『コミュニケーション』の一形態。バレエは『身体言語』、フランス語は『音声言語』...でも根底にある『表現したい』という欲求は同じなんだと」
この気づきが、異文化コミュニケーション学部を志望する動機へと発展していく。
「バレエを通じて身につけた『非言語コミュニケーション』の経験と、フランス語や英語といった言語学習を融合させたいと思ったんです。そこに立教大学のリベラルアーツ教育と国際性という魅力が重なって...」
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推薦入試当日—バレエで培った「本番力」が決め手に
選考当日、莉佳さんは緊張していたという。しかし、バレエの舞台経験が彼女を支えた。
「舞台前の緊張感と似ていました。でも『本番に強くなる』トレーニングをバレエで積んできたので、面接室に入った瞬間、不思議と冷静になれたんです」
バレエの発表会では、何か月も練習してきた成果をたった数分間で表現しなければならない。その経験が、面接本番での「パフォーマンス力」に直結したという。
「舞台では、たとえ失敗しても笑顔を絶やさず最後まで踊り切ることを教わってきました。面接でも、少し詰まる場面があっても、慌てずに自分の言葉で伝え切る冷静さがありました」
面接では、「バレエを通じて学んだこと」を中心に、3人の教授と対話。
「印象的だったのは『失敗からどう学んだか』という質問です。中学時代のコンクール失敗や高校での怪我の経験を率直に話しました。教授の一人が『それはまさに異文化コミュニケーションで必要な姿勢ですね』と言ってくださって...」
面接では、バレエの経験を単なる「習い事」としてではなく、「自己成長の物語」として語ることを心がけたという。
「バレエそのものより、バレエを通じて学んだ『他者への共感力』や『異なる文化への理解』をアピールしました。特に、フランス語をはじめとする言語への興味がバレエから生まれたことに、教授方も関心を持ってくださったようです」
今後の展望—大学でもバレエを続けながら
面接の内容が評価され、結果は無事合格。バレエスタジオのメンバーもみんな大喜びしてくれたという。そんな莉佳さんは立教大学でもバレエを続ける予定だ。
「大学のダンスサークルに入りつつ、週末は先生のスタジオにも通う予定です。将来は国際的な舞台芸術のプロデューサーになりたくて。言語と非言語コミュニケーションの両方を専門的に学べる異文化コミュニケーション学部は、その夢への第一歩です」
バレエと学問を両立させてきた経験は、大学生活でも活きるはず。
「時間管理のコツは掴めたと思います(笑)。大学では語学力を磨きながら、舞台芸術の歴史や理論も学びたい。そして、実際に海外の舞台芸術に触れるため、留学も視野に入れています」
バレエはなぜ「推薦入試の武器」になるのか
今回の取材を通して見えてきたのは、バレエという習い事が単なる「課外活動」以上の教育的価値を持つという事実だ。特に注目すべきポイントは以下の5つ。
- 時間管理能力の向上:限られた時間の中で学業とバレエを両立する過程で身につく
- 挫折と再起の経験:コンクールの失敗や怪我など、具体的な困難を乗り越えた実績が説得力を持つ
- 多様なコミュニティでの経験:異なる年齢・背景を持つ人々との交流が「多様性への理解」を育む
- 「型」と「創造性」の調和:伝統的技術の習得と個性的表現の両立が思考の深みを生む
- 本番に強いメンタリティ:舞台経験が育む「適切な緊張感」のコントロール力
これらの要素は、いずれも現代の大学入試、特に総合型選抜(AO)や学校推薦型選抜で重視される「学力の3要素」(①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性・多様性・協働性)に直結している。
単なる習い事以上に、推薦入試に役立つ要素が多いのが印象的だ。
習い事選びのヒント
最後に莉佳さんに、後輩たちへこうアドバイスを聞いた。
「何か一つでも、長く続けられることを見つけてほしい。それがバレエでなくても構いません。大切なのは『継続する意味』を自分なりに見出すこと。単に『続けているから』ではなく、『何を学び、どう成長したか』を言葉にできること。それが、推薦入試だけでなく、人生の様々な場面で武器になるはずです」
それでも、莉佳さんのこれからの挑戦に、バレエで培った力は確実に生かされていくだろう。
「バレエを続けてきて良かったと心から思います。単なる『習い事』が『人生の軸』になるなんて、小さい頃は想像もしていませんでした。大学でも、バレエで学んだ『限界に挑戦する姿勢』を大切にしていきたいです」
大学入試の多様化が進む現在、「学力」だけでなく「人間力」が問われる時代になっている。習い事を通じた成長と学びの物語は、そんな時代の新しい「推薦入試戦略」として、大きな可能性を秘めているのかもしれない。
注釈:
この記事は実在の人物をモデルとしていません。推薦情報を分かりやすく解説するため、人物をフィクションとして設定しています。
なお、バレエで過去に推薦合格した高校生は複数おり、習い事のバレエを通して推薦入試に出願・合格ができることは事実です。
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