「海外大の受験の決意を固めたのは、高3の10月。日本の医学部は絶対合格できないと絶望したのがきっかけでした」
今回お話しをうかがった、高田幸助さん(仮名)は日本の医学部受験に挑戦していたものの、学力が伸び悩み、海外受験にチャレンジするという変わった経歴の持ち主。
海外大学へのチャレンジのきっかけは「日本の医学部受験を諦めた」こと。
「高校3年生まで、ずっと続けたバスケ部での活動に取り組んできました。9年以上やっていた愛着のあるスポーツで、責任感も感じていたので、勉強の時間を多少削っても部活中心で取り組んでいたタイプでした」
「部活を引退してからの夏は、全く学力が伸びず、地獄のような毎日でした」
部活を引退して時間ができた幸助さんは、中学生のころから通っていた塾に本格的通うようになります。
しかし周囲の受験生が着々と成績を伸ばす中、なかなか理数系の分野などで成績が伸びず、勉強へのモチベーションも一気に下がってしまいました。
思わず予備校に向かう電車と反対の電車に乗って、降りた駅近くのカフェで1日時間を潰すといった現実逃避に走ってしまったそう。
そんな状態だった幸助さんが、なぜ海外大学受験を決断することになったのか。それもなぜイタリアの試験だったのか。彼の受験に対する想いを聞いてみました。
優等生が向き合った「何もできない自分」
幸助さんは東京都で共働きをしている両親のもとで生まれ、教育に理解のある親の元で中学受験などを経験してきました。中学受験では、第一志望の難関校には合格できなかったものの、中堅の私立男子一貫校に入学。
中2からは大学受験を見据えて塾通いを続け、300人ほどいる同級生のうち上位10名以内の成績を維持してきました。部活でもキャプテンとして活躍し、勉強もスポーツもできる「優等生」として周囲からは見られていました。
そんな幸助さんでしたが、転機となったのは部活の引退後。
今までの勉強ができる自分から一転、高3の夏になっても全く志望校のレベルに到達していない自分に愕然としたそうです。
「受験勉強を本格的に始めたタイミングでは、伝統ある国公立大医学部や、慶応医学部などの最難関にチャレンジをするつもりでした。しかし夏休みが終わったタイミングでは、下現実を見始め、中堅校を中心に対策するようになり、最後のころには医学部ならどこでもいいと思っていました」
もちろん医学部志望同士のなかでの競争なので、幸助くんの成績は世間的には決して悪いものではありません。全国の受験生が受ける、受験者の母数が多い模試では、偏差値が70を超えることも珍しくはありませんでした。その一方で医学部受験では、学校では当然成績が最上位だったり、難関中高一貫校で高校2年生で過去問を始めているような受験生ばかり。
普通の受験生と、一つ上の次元で戦ったことで、実力のなさを痛感することになったのです。
決断ができないという密かなコンプレックス
実は医学部受験をする前から、幸助さんには大きなコンプレックスがありました。それは自分で何かを決めることが苦手ということ。
「当時から何かを自分で決断したという経験がなく、何かの責任を持って決めるということに苦手意識を感じていました。塾や習い事、部活までも親や友人に相談しつつ、決めていたことの影響が大きかったと思っています。自分で決めるよりも、周りがいいと言ってくれそうな選択をすることが習慣になっていました」
「受験生の時も、医学部を目指すにあたって、部活で怪我が多かった関係で整形外科やスポーツドクターの方には頻繁にお世話になることが多かったということを理由にしていました。ただ、本当は周囲から成績が優秀なのだから、医学部に挑戦してみては?とオススメされたからだったんです。周囲からの期待に対して、自分が何も考えていないんじゃないかと思う場面が多く、生きづらさのようなものを感じていました」
受験生になっても、周囲の勧めだけで医学部への挑戦を決め、学力が伸びないという二重苦に苦しんでいた幸助くん。そんな彼の受験方式が変わったのは、母から聞いたある一言でした。
国内大学にこだわる必要はない
「これからの時代、日本に進路はこだわらなくてもいいのよ」
母のこの言葉が明確な進路選択を変えるタイミングだったと、幸助さんは言います。「母の気まぐれです」とは言いつつ、日本での周囲からの同調圧力から決断できない幸助さんにとって、海外大学の選択肢は非常に魅力的に映ったといいます。
英語が好きにもかかわらず点数が伸びず、将来のために大学時代は語学力を磨きたいと考えていた幸助さん。
海外大の医学部なら、語学はもちろん世界で通用する医療分野を学べると考え、高3の夏を終えたタイミングで、複数の海外大学への問い合わせを開始したそうです。
最終的にはEU圏内の複数の大学を検討しましたが、イタリアのIMAT試験の存在を知り、最短で合格するために受験を決意することになります。時期は既に高3の10月という、ほぼ直前というタイミングでしたが、焦りはなかったそうです。
「ここで焦ってもしょうがないと思っていましたし、人生で初めて能動的に進路を選んだという実感がありました。その甲斐もあってか海外大受験の開始時点で英語力は平均レベルでしたが、IELTSスコア6.0まで短期間で向上させることができました」
「日本とは異なり、イタリアのIMAT試験は倍率が1.5倍から高くても8.0倍ほどで、自分の努力が結果に結びつくイメージが湧きました。試験形式も論理的思考が最も重要視され、科学知識なども実践的なものだったため、受験に限らず勉強になることが多かったと思っています」
海外大受験のためには専門のスキームが必須
また受験の時に非常に力強く感じたのは、教育に関する情報はあるところには集中してあるということだったそうです。
「当時イタリア医学部受験を集中してサポートする塾に通っていたため、必要なルートは全て提示してもらえていました。英語で生物や化学を学ぶなど、日本の普通の学校では対策できないような内容でしたが、頼りになる先輩や講師の方が多くいた印象です。自分で選択したことで、躊躇なく周り自分の目標を伝えられ、多くの助けをしていただくことができました」
とはいえ、海外大受験には心配なことも多かったそう。特に英語力が平均程度で、得意な意識がなかったことは大きかった。
「実際、イタリアに来て壁を感じることは少なくありません。しかし、親日的なイタリアでは日本から来たと伝えるだけでも、すぐに親しくなれることも多いです。これも当時通っていた塾で、先輩から親日的な国や地域を選ぶことが生活上は大切だというアドバイスがあったからだと思っています」
先輩医師の「日本の医学部に入ったことへの後悔」
順調にイタリア医学部への進路準備は進めていた一方で、安定してイメージができた日本の医療システムに魅力を感じるタイミングも、幸助さんにはあったそう。
「もともとは日本の医学部を絶対に受験しようと考えていて、海外なんて考えもしませんでした。高校3年生で今から海外にシフトチェンジしても合格できるのか?日本語でも教科の学習は大変なのに、それを英語でできるのか?などずっと考えていました」
しかし受験勉強を完全に海外大受験にシフトするためには、最終的に先輩医師からのアドバイスがあったといいます。
「知り合いの現役医師の方が、日本の医学部に入ったことを後悔しているとおっしゃっていました。海外では日本と比べてチャンスを掴む機会が多いらしく、将来の選択を広げることができる。また海外の医学生は自分の時間をかなり持つことができ、本当に興味がある分野を探求できる。この話で最後の決意が固まりました」
決意が完全に固まったタイミングから、翌年9月に行われるIMATの試験のみの対策にシフトした幸助さんは、英語に続き理数系科目も順次克服。翌年には見事イタリアのカターニャ大学医学部への合格を勝ち取ります。
言語の壁と文化の驚き
合格後、イタリアでの学生生活がスタートした高田さん。現地での生活は、驚きと発見の連続だという。
「正直、IELTSのスコアは6.0で、周りの学生には7.5以上のスコアを持つ人も多かったです。最初は自分の英語力に劣等感を感じることもありました」
とはいえ、英語で伝えたいことがうまく言えなかったときのもどかしさはあったものの、語学の壁が決定的な障害になることはなかったという。そう感じた背景には、イタリアの文化的な特徴も大きかった。
「『I am from Japan.』と一言伝えるだけで、すぐに打ち解けられることが多かったです。イタリアの人たちは本当に親日的で、『日本に行ってみたい』とよく言われます」
「『じゃあ行ってみたら?』と返すと、『日本は物価が高そうだからなかなか手が出せない』と言われるんです。そういうやり取りを通じて、国内で感じていた日本のイメージと、海外での日本のイメージにはギャップがあることを実感しました」
言葉の壁や文化の違いはあれど、それらを前向きに受け止めている様子が印象的だった。まだイタリアでの生活が始まって間もないものの、「すでに、海外大を受験して本当によかったと感じている」と話してくれた。
海外進学を目指す受験生へのメッセージ
最後に、これから海外の大学、特に海外の医学部を目指そうと考えている受験生に向けて、高田さんからのメッセージを紹介したい。やはりこだわるのは、いかに語学力を向上するかだ。
「海外の大学には本当に多様な国から学生が集まっています。そこで感じたのは、英語を話せないのは日本人くらいだという現実でした。でも、誰もそれを馬鹿にしたりはしません。むしろ『島国だから文化に触れる機会が少ないんだろう』と理解してくれて、逆に挑戦を応援してくれたりします」
そうした経験から、「完璧な英語力がないと挑戦できない」と思い込まないでほしいという。
「もちろん最低限のスコアは必要ですが、そこを超えれば、あとは現地でいくらでも伸ばすチャンスがあります。大切なのは“挑戦すること”。最初の一歩を踏み出すことが何より大事だと思います」
英語力に自信がないからと迷っている人にこそ、「思い立ったらすぐ行動してほしい」と強調する。
「あとから『やっぱり行きたい』と思っても、そのときに“もっと早く始めていれば”と後悔するかもしれません。だから、迷っているなら今すぐ英語の勉強を始めてみてください」
日本の英語教育については「他国に比べて遅れている」と感じることもあるが、それを理由に挑戦をあきらめないでほしいとも語った。
最後に「これから海外大を目指す皆さんが、自分の可能性を大きく広げられることを願っています。私もまだ道半ばですが、これからも挑戦を続けていきます。一緒に頑張りましょう」と力強く語ってくれた。
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