2026年の共通テスト「得点調整なし」で受験生が怒る理由

 2026年1月23日、大学入試センターは、今年の大学入学共通テストにおいて「得点調整を行わない」と発表した。この決定に、多くの受験生、特に物理選択者から怒りの声が上がっている。なぜ今回の決定がこれほどまでに波紋を呼んでいるのか。その理由を、データとともに詳しく見ていこう。

異例の低さとなった今年の物理の平均点

 2026年共通テストの集計で、物理の平均点は45.55点という結果だった。これは前身の大学入試センター試験を含めても過去最低の数字となった。産経新聞によれば、共通テスト・センター試験の歴史において、物理がこれほど低い平均点を記録したのは初めてのことだという。

 過去の物理の平均点推移を見ると、その異例さが一層際立つ。2025年度は58.96点、2024年度は60.72点、2023年度は62.36点と、例年60点前後で推移してきた。さらに遡ると、センター試験時代の2020年度は61.70点、2019年度は64.31点、2018年度は62.42点など、ほとんどの年で60点台を維持してきた実績がある。

 つまり、物理は通常「60点台前半で安定する科目」として知られており、50点を大きく下回る平均点は受験生にとって想定外の事態だったのだ。受験生の多くは過去問演習を通じて「物理は60点程度が平均」と認識していたため、今回の難化は対策の想定を超えるものだった。

化学との11.30点差、社会はわずか1点台

 得点調整が行われなかった今回、理科の中で最も差があったのは化学(56.85点)と物理(45.55点)の11.30点差だった。化学を選択した受験生と比べて、物理選択者は10点以上も不利な状況に置かれたことになる。

 一方、地理歴史や公民の科目間格差はどうだったか。地理歴史で最も差があったのは「歴史総合,日本史探究」(62.31点)と「歴史総合,世界史探究」(60.91点)で、その差はわずか1.40点。公民では「公共,倫理」(64.21点)と「公共,政治・経済」(63.59点)の差が0.62点と、理科に比べてかなり公平な結果となった。

 この対比が、理科選択者の不公平感をさらに強めている。社会はほぼ科目間格差がないのに対し、理科では10点以上の開きがある。同じ教科選択制でありながら、これほどまでに不平等な状況が放置されたことに、受験生が憤るのも無理はない。

得点調整とは何か、そしてなぜ実施されなかったのか

 そもそも得点調整とは、複数科目から選択して受験する方式において、科目間の難易差による不公平を是正するための措置である。受験者数1万人以上の科目を対象に、原則として20点以上の平均点差が生じた場合、または15点以上の平均点差が生じかつ段階表示の区分点差が20点以上ある場合に実施される。

 今回、物理と化学の差は11.30点であり、「15点」の基準にも満たないため、得点調整は実施されなかった。この基準は形式的には満たされているが、受験生にとっては「11点も差があるのに救済措置がない」という状況に納得がいかないのだ。

 過去に得点調整が実施されたのは、1989年の共通一次試験(理科)、1998年のセンター試験(社会)、2015年のセンター試験(理科)、2021年の共通テスト(公民)、2023年の共通テスト(理科)などである。今回はその基準に届かなかったというわけだ。

理系受験生、特に医学部志望者への深刻な影響

 理系受験生の大多数は物理を選択している。2026年共通テストの理科選択者数を見ると、物理は約15万人、化学は約18万人、生物は約6万人が受験している。理系の中でも工学部や理学部を目指す受験生のほとんどが物理を選択しており、今回の難化は理系受験生全体に大きな打撃を与えた。とはいえ、難しい試験であれば平均点全体が下がるため、打撃を受けつつも点数差とはならない。だが問題は、物理選択をしていない受験生の層である。

 特に深刻なのが医学部受験生だ。医学部受験では、理科の選択肢が比較的自由であり、物理・化学、物理・生物、化学・生物などの組み合わせが可能な大学が多い。そのため、「物理は難しいから避けて、化学・生物で受験しよう」という戦略を取った受験生が有利になってしまった。

 医学部入試における共通テストの配点割合は大学によって異なるが、多くの大学で4割から6割を占めると言われている。例えば、東京医科歯科大学や千葉大学医学部など、共通テストの比重が高い大学では、11点の差は致命的になりかねない。共通テストで900点満点中720点(80%)が必要とされる医学部において、物理選択者は最初から10点以上のハンデを背負ってスタートすることになったのだ。

 同じ医学部を目指し、同じだけ努力してきた受験生が、科目選択の違いだけで大きな不利益を被る。これでは「物理を避けて化学・生物で受験した方が得」という風潮が広まり、本来の学力評価とは異なる戦略が求められることになってしまう。

物理選択者の悲痛な声

 SNS上では、物理選択者から「今まで物理を勉強してきた時間を返してほしい」「科目選択で人生が決まるなんておかしい」といった声が相次いでいる。特に、物理・化学で受験した医学部志望者や、物理・生物の組み合わせで受験した受験生からは、「物理を避けた人が有利になるなんて納得できない」という怒りの声が上がっている。

 ある受験生は「過去問で物理は60点台が普通だったから、その前提で勉強してきた。まさか45点が平均になるとは思わなかった」とコメントしている。また大学合格者も、「医学部は共通テストの配点が高いから、この11点差はマジでかわいそう。二次試験で挽回できる範囲を超えている」と指摘する人もいる。

制度の課題と今後への影響

 今回の問題は、得点調整の基準そのものが適切かどうかという議論も生んでいる。15-20点という基準は、確かに大きな差ではあるが、11点でも受験生にとっては十分に不公平と感じる数字だ。特に社会科目の公平性と比較すると、理科における科目間格差の大きさは看過できない。

また、今回の物理の難化は、今後の受験戦略にも影響を与えるだろう。「物理は平均60点台」という常識が崩れた今、受験生は科目選択において慎重にならざるを得ない。特に医学部を目指す受験生の間では、「物理回避」の傾向が強まる可能性もあるかもしれない。

 本来、科目選択は自分の得意分野や興味、志望学部の特性に応じて決めるべきものだ。しかし、今回のような不公平が生じると、「戦略的に有利な科目を選ぶ」という本末転倒な状況が生まれかねない。

まとめ

 2026年共通テストの「得点調整なし」という決定は、物理選択者、特に医学部受験生に大きな不利益をもたらした。過去最低の平均45.55点という異例の難化に加え、化学との11.30点差が放置されたことで、一部の受験生が怒りを感じるのもやむを得ないことだろう。とはいえ、共通テストはセンター試験時代に比べて難しくするというのは公言されており、物理が過去最低の点数となっていることと矛盾はしない。今年の結果がどういう波紋をもたらすのか、今後とも注目が必要だろう。