世の中には、「効果がある」と信じたくなるものが、なぜか根強い人気を保ち続けています。
たとえば、胎教CD。
お腹の中でモーツァルトを聞かせると、子どもが賢く育つ──そんな話、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。もちろん、科学的な裏付けについては意見が分かれます。
それでも「やっておけば安心」「信じていた方が前向きになれる」──そんな気持ちが、その人気を支えているのかもしれません。
そして英語教育の世界にも、少し似た立ち位置のものがあります。 それが「フォニックス」です。
アルファベットに一つずつ音を対応させて、aは「ア」、bは「ブ」と覚える。
理屈としてはよくできていて、小さな子どもでも取り組みやすい。
けれど、「例外が多すぎる」「本当に必要?」という声も、決して少なくありません。英語という“例外だらけ”の言語に、一対一で音を当てはめて学ぶ意味はあるのか──そんな疑問も生まれます。
そこで今回は、実際にフォニックスを学んだ3人に話を聞きました。
成功した人もうまくいかなかった人もいましたが、口をそろえて重要だと語った「あるタイミング」とは?3人のリアルな経験から、フォニックスの真実に迫ってみました。
フォニックスとは
そもそもフォニックスってなに?と疑問を持つ人もいるでしょう。
フォニックス(Phonics)とは、文字と音の対応関係を覚える英語の学習法です。
たとえば「A」は「エー」ではなく「ア」の音、「B」は「ビー」ではなく「ブ」の音、といった具合に、多くの人が聞きなじみのある「エー、ビー、シー」ではなく実際の発音を元にアルファベットひとつひとつの音を覚えていきます。
さらに文字の組み合わせのルールも学びます。「sh」は「シュ」、「th」は「ス」(舌を挟む音)、「ck」は「ク」など。これらのルールを覚えることで、初めて見る単語でも「読める」ようになる、というのがフォニックスの基本的な考え方です。
参照はこちら
フォニックスのメリットと物議を醸す3つの理由
フォニックスを知っていると、初見の単語でもある程度発音を推測できます。たとえば「cat」という単語を初めて見たとき、「c=ク」「a=ア」「t=ト」で「キャット」と読める可能性が高まります。
その一方で、フォニックスって意味ないのでは?といった意見もチラホラ。
物議その1:例外が多すぎる問題
英語には例外が山ほどあります。「one」は「オネ」ではなく「ワン」、「two」は「トゥオ」ではなく「トゥー」。フォニックスのルールに従っても読めない単語が非常に多いのが現実です。
物議その2:「Ghotiはフィッシュ」論争
これは英語の複雑さを皮肉った有名な例え話です。
- 「gh」は「laugh」の「フ」音
- 「o」は「women」の「イ」音
- 「ti」は「nation」の「シュ」音
この組み合わせで「ghoti」は「フィッシュ」と読める、という理屈。もちろん実際には存在しない単語ですが、フォニックスの限界を示す例としてたびたび引用されます。
物議その3:環境による効果の差
英語圏の子どもは日常的に英語を聞いて育つため、フォニックスのルールが「腑に落ちる」状態で学習します。一方、日本の子どもは英語をほとんど聞かない環境でフォニックスだけを学ぶため、効果が限定的になりがちです。
英検1級所持者が語る“やってよかった”理由
最初に話を伺ったのは、英語圏への留学経験もなく、純ジャパながら英検1級を取得している宮田さん(仮名)です。
「私は3歳の時から、翻訳者をしていた母のすすめでフォニックスを始めました。セイハ英語学院にも通っていたのですが、そこでもフォニックスが取り入れられていました。」
宮田さん(仮名)が特に強調するのは、発音の体系的な習得です。
「フォニックスの最大の効果は発音ですね。日本語にはない英語の発音を身につけることができます。例えば『Themapark』は日本語では『テーマパーク』ですが、英語だと全然違う発音でカタカナで表すとしたら『スィームパーク』という発音になります。こういった違いは、フォニックスを学ばないと身につかないんです。」
また、学習効率の観点からもフォニックスの価値を語ります。
「日本人がフォニックスを学ばずに英語を学ぶのは、実は非常に非効率なことをしているんです。フォニックスを学べば、体系的に整理された英語の発音方法を理解でき、それを使って個別の単語の発音を導き出していけます。でも、フォニックスなしだと、単語ごとに発音を暗記しなければならず、とても大変です」
「これは単語学習における接頭語と同じですよね。『pre-』や『re-』などの意味を知っていると単語が覚えやすくなる。フォニックスも同じような役割を発音において果たしていると思います。」
フォニックスの例外が多いという批判についても、宮田さんは冷静に答えます。
「確かに例外はありますが、これは日本語でも同じことです。例えば『日』という漢字は、『日曜日』の『にち』とも読めるし、『ひ』とも読めるし、『び』とも読める。文脈によって読み方が変わるのは言語として当然のことで、むしろそれが自然だと思います。」
「言語学的には例外があるのは当たり前で、英語の発音の複雑さも受け入れるべきだと考えています。」
宮田さんは、フォニックス学習における年齢の重要性も強調します。
「日本の英語教育は文字から学んで、発音される音をマネして英語の単語を覚えていく。でも私たちが日本語を学ぶプロセスを考えてみてください。『パパ』や『まんま』といった音から先に覚えて、それから文字を学びますよね。音を通して物事を学ぶのは、赤ちゃんができる最初のプロセスです。フォニックスは、そのネイティブ的な言語習得プロセスに近いものだと思います。」
「ある程度日本での英語学習になれてしまうと、カタカナ英語でインプットされます。一度身に着けたカタカナ英語を正しい発音に修正するのは難しいと思うんです。英語と日本語の発音は全然違いますから。実際に、”Thema park”という単語は英語の先生や大学生ですら”テーマパーク”と発音してしまう。」
「自分はフォニックスの他に英会話を習っていたので定期的に英語に触れる環境はありました。でも英語圏にいたわけではないので、環境よりも早い時期に本物の英語の音に触れていたことが大きかったと思います。」
宮田さんは、幼少期のフォニックスで英語の発音を学び、継続的な学習を続けた結果、英検1級を取得し、高い英語力を身につけることができました。
「正直意味がなかった」導入タイミングの重要性
一方で、効果が微妙だったという声もありました。
「中学1年生のときにフォニックスを学校でやっていましたが、全然意味がなかったです」
このように語るのは、偏差値56程度の上智福岡中学校に通っていた井上さん(仮名)です。中学受験の時点ですでに英語学習を進めていたという同校の生徒たちにとって、中学1年でのフォニックス授業は“簡単すぎる”内容だったといいます。
テストの内容は、ネイティブの先生が放送でリスニングテストを行い、「今の音はアルファベットで何だったでしょうか」といった問題や、単語を発音してつづりを書かせるというスタイル。
「正直中学でアルファベットからやられても、”もう知っているんだけどな”、といった具合でした。僕自身もフォニックスのテストでは一学期から二学期にかけて100点を取っていましたし、友人もこの授業はテストで点数が取りやすいから楽と言っていました。」
それもそのはず、井上さんは小学生の頃から英語塾に通い、すでに英検準2級を取得していました。英検準2級というと、高校在学中と同等の英語レベル。そんな彼にとって、中学1年で「アクティブフォニックス」の教材を使った基礎的な授業は物足りなく感じられたようです。
発音に関しても課題がありました。
「発音はすごくわかりやすく誇張してたんですが、実際の英語の表現はリンキング(音の連結)で発音が変わるじゃないですか。授業の発音と実際の英語にギャップを感じました。」と振り返ります。
ただし、全てを否定しているわけではありません。
「イラスト付きで『cat』とか本当に簡単な単語を覚えていくのは楽しそうでした。小学校の頃に使いたかったですね。」と、導入タイミングの重要性を指摘します。
井上さんの体験から見えてくるのは、フォニックスの導入タイミングと学習者の英語レベルとの適合性の重要性です。すでに英語力がある程度身についている人にとっては、フォニックスの内容がかえって学習意欲を下げてしまう可能性もあります。
アメリカでは当たり前ーー帰国子女の事例
「アメリカではフォニックスみたいなことを幼稚園~小1くらいまで実際にやっていました。”フォニックス”という名で取り入れるものではなく、”当たり前”でしたね。」
このように語るのは生まれたときからアメリカに在住し、現地校でフォニックスを経験していた大野さんです。
「アルファベットを学ぶベースはいわゆるフォニックスで、歌やイラストで楽しく学んでいた。海外の人の基礎ってフォニックスで構成されているんじゃないでしょうか。フォニックスを取り入れていた時期は幼稚園~小1まででした。海外では、小1からみんな本を読み始めるので、本当に英語におけるベースだと思います。」
大野さんの周りでは、家庭でゲームやアプリを通して1歳、2歳からフォニックスに触れていた子どももいたそう。
一方で、日本では「例外が多いから意味がないのでは?」という批判の声もあります。これに対して大野さんはこのように語ります。
「確かに例外があると意味がないと思われる方もいるかもしれませんが、例外の単語よりも、例外でない単語の方がもっと多いから、小さい頃に発音の基礎として学ぶのは問題ないのではないかと思います。」
ただし、フォニックスが万能であるとは限らないと補足します。
「当たり前だけど、フォニックスだけやれば英語ができるわけではないです。あくまで小1までの基礎だから、それ以降は本を読んだり、リーディング、リスニング、スピーキング、それぞれのスキルを身に着けていかないとバランスよく英語力は伸びないと思います。」
また、TikTokのフォニックス動画も、大野さんの目には「子どもが楽しそうに英語を学べる手段」として映ると言います。
「私も将来子どもができたら、フォニックスはやらせたいです。最初は英語に楽しく触れてほしいですから。」
最後に、フォニックスを学ぶには“英語を浴びる環境”が必要なのかという問いに対してはこのように語ります。
「環境というより年齢だと思います。とにかくカタカナ英語が身につく前に、ネイティブの発音に触れられるかどうか。いったん自然に身についてしまえば、環境はあまり関係ないのかもしれません。」
まとめ
いかがだったでしょうか。
成功者・失敗者含む3名が口をそろえて言うのは始める時期が早ければ早いほど効果があるということでした。
特に今回紹介した中で成功者たちが強調していたのは、「カタカナ英語が定着する前に本物の英語の音に触れることの重要性」です。日本語の言語習得プロセスと同様に、音から学ぶことで自然に英語を身につけられる可能性が高まるのではないでしょうか。
あくまで個人の意見ですが、これから子供に英語を学ばせたいと思っている親御さんは、早めに始めてみると効果的かもしれません。

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