2024年12月14日・15日にかけて、東京大学学校推薦型選抜入試・通称「東大推薦入試」の試験が実施されました。東大推薦入試は、第一次選抜で志望理由書等が提出されてそれを精査し、それを突破した学生は第二次選抜として面接等が課せられ、そこでの評価と1月の共通テストの結果を加味して合否が決定します。

 今年は志願者がどの学部も例年より多く、熾烈な争いとなりました。学部によっては15倍もの倍率を勝ち取って合格する人もいたとのこと。

 その中でも、メインとなるのが第二次選抜の面接等です。

 「等」、と言っているのには理由があり、これは学部によって面接以外にもさまざまな試験が課されるからです。例えば法学部ではグループディスカッションが課せられ、教育学部ではプレゼンテーションが課せられます。東大推薦入試は、学部によって違いのある、非常に特色のある入試形態なわけです。

 さて、そんな中で今年の東大推薦入試を分析している中で、一問面白い問題が出題されていたことがわかったので、これについてみなさんにお話ししたいと思います。

教養学部の出した「深い問い」

 教養学部・文学部・工学部などの学部では、小論文が課されています。文章を読み、それに付随する問題に対して回答を作るというものです。このテーマは毎年さまざまなものが選ばれており、「日本におけるポピュリズムについての考えを述べよ」というような固いテーマを課す時もあれば、「世界の発明・発見の中であなたが一番独創的だと思うものは何か」のようなトリッキーなものが課されることもあります。

 そして今年、教養学部の問題でこのような小論文が出題されました。

 「『何が歴史に残されるべきか』について自分の考えを述べなさい」

 具体的に言うと、記念碑に関する問題でした。どんな記念碑を残すべきなのかを考える中で、歴史として残されるべきものを考えなさい、というものです。

具体的にはどういう問題だったのか?

 この小論文問題ではまず、記念碑の破壊についてのさまざまな論点が書かれた文章が引用されました。世界的に見て、歴史的な建築物や像はたくさん存在し、それがさまざまな節目で破壊されることもあります。新しい勢力が、対抗勢力の象徴となっているような記念碑の破壊を行うことで自らの優位性や改革に対するイメージを誇示することもあります。

 例えとして、この文章では南北戦争の将軍の像撤去に関する議論が引用されていました。2021年、南北戦争の南部側の将軍の像が撤去されるという出来事がありました。

 南部側の将軍は、奴隷制を肯定する考えを持って戦争を行っており、そうした人たちの像を残すのは黒人抑圧の歴史や人種差別を肯定することになるのではないかという考えのもと、「像の撤去をするべきだ」という意見が多くなり、2021年ヴァージニア州の像が撤去されたのです。これについては賛否両論が存在し、「撤去するべきではなかった」「そうした像も、負の遺産として残しておくべきだ」という考えもあります。

 これらの具体例を挙げながら、「過去のうち、何が残されるべきなのか」について、本文以外の具体例を挙げながら説明しなさい、という小論文問題だったのです。

東大教授は何を聞きたかったのか

 さらに驚くべきことに、この小論文を踏まえた上での面接の中で、受験生の一人は、東大の先生から「広島の原爆ドームや広島平和学習についてどう思うか」という質問をされたそうです。非常に難しい問いですね。

我々は、今回の問題から東大が求める2つの学生像が見えてくると考えています。

1 日常の解像度が高い学生を求めている

 まず1つは、「日常の解像度が高い学生を求めている」ということです。

 東大推薦入試の小論文問題・グループディスカッションのテーマの特徴として、「卑近な物事から思考を発展させられるテーマでありながら、かなり深い発展性のある内容」が出題される傾向があります。

 例えば法学部では過去に「チケット転売の規制に関しての法的規制を加えることの問題点・限界点」ということをテーマにしたグループディスカッションが課されることがありました。チケットの転売規制は多くの人が「やったほうがいい」というものでありながらも、法的に規制しようとすると、個人の権利を否定することになってしまったり、「だったらこういうものもダメなんじゃないか」「これってアリなの?」というような別の議論を産んでしまうことになります。

 これは「チケット転売」という、学生にとってもかなり身近なテーマでありながら、しっかり考えると「法律の限界点」というとても重要なテーマに行き着くものであるわけです。

 これと同じように、記念碑というのは、さまざまな場所に存在している、受験生も今までの人生で日常的に目にしていたであろうものです。ちょっと河川敷に行ったら「この川では昔こういう洪水がありました」という記念碑を見ることがきますし、「碑文」ではないですが、修学旅行で広島の原爆ドームに行ったことのある人も多いはずです。

 それらを見て、そうした記念碑や建築物の意義について考えたことがある人ならこの小論文にも対応できたはずです。東大はこのように、「特殊な物事からだけではなく、日常的に目にする物事を基点として思考することができるかどうか」を問う傾向があります。そしてそのためには、日常生活での出来事を解像度高く捉える思考力が必要になってくるわけです。

2 簡単に結論を出さず、粘り強く考える能力

 もう一つ重要なのは、「結論のないことを考えることができる学生を求めている」ということです。今回の小論文は、模範回答のようなものは用意できない類の問題です。1つの結論に定まるようなものでは決してなく、むしろ考えれば考えるほど、たくさんの回答があることに気付かされます。一般入試の問題が1つに定まるものが多いのに対して、東大推薦入試の問題は「決して1つには定まらない問題」がほとんどです。

 これは「答えのない問いに対して粘り強く考えることができる能力を有しているか」を測るためのものなのではないかと考えられます。「これだ!」という答えを考えることができるというよりはむしろ、「これでいいのかな?」と悩み続ける姿勢を持っている人の方を評価する入試だと言えるのではないか、と。

 過去に東大推薦入試に合格した人の中には、面接官からの質問に対して答えられず、ずっと考え続け、「こういう方向で、こう考えれば答えに辿り着けると思うんですけど……」とたどたどしく答えてしまったという人がいました。その人は試験が終わってからずっと「きっと答えられなかったから自分は不合格だろうな」と思っていたにもかかわらず、蓋を開けてみたら合格だったのだそうです。このように、答えをスパッと答えられる人よりも、悩み続ける人の方が評価される可能性が高いのではないかと我々は考えています。

 いかがでしょうか?結果はこれから発表されるわけですが、こうした試験に合格した生徒がどのように羽ばたいていくか、今後に注目したいところですね。