幼い頃から並外れた才能を発揮する「早熟な子供たち」。メディアで「天才児」として注目を浴びる一方で、その後の成長について語られることは少ない。
教育心理学の分野では、早熟な子供が思春期以降に様々な課題に直面することが知られている。同年代の子供たちに追いつかれることで自信を失ったり、周囲からの期待の重さに押し潰されたり、あるいは早い段階で燃え尽きてしまうケースも少なくない。
では、幼少期に注目を浴びた子供たちは、実際にその後どのような道を歩むのだろうか。
そこで今回2014年、小学6年生で宅建士試験(合格者平均年齢は35.9歳)に史上最年少合格を果たした杉浦健斗さんのその後の11年間に迫る。
自身も宅建士に関する情報発信を行う父・パパリン宅建士さんに取材した結果見えてきたのは、早熟な子供が持続的に成長し続けるための重要な要因だった。


12歳で全国ニュースになった少年
2014年12月、愛知県在住の小学6年生、杉浦健斗君(当時12歳)が宅地建物取引士試験に史上最年少で合格したニュースは全国を駆け巡った。読売新聞が取材し、試験実施機関も「小学生では初めて」と確認した快挙だった。
きっかけは小学4年生の時に観た「高校生クイズ」。参加した高校生の一人が小4の時に漢検1級に合格したと知って「自分は何の資格も持っていない」と悔しがった健斗君に、父親のパパリン宅建士さんが自らも取得していた宅建士を提案したのが始まりだった。
5年生で初挑戦するも2点差で不合格。その悔しさをバネに500時間の勉強を重ね、6年生で見事合格を果たした。
しかし、多くの早熟な子供たちがその後の成長で躓く中、健斗さんの本当の挑戦はここから始まったのだ。
勉強に困ることのなかった中学時代
史上最年少合格により、健斗さんの名前は地域で一気に知れ渡った。
「宅建に受かってからは、学級委員の選出でも生徒会長の選出でも、もう名前が知られているので、割と楽に当選するようになりました」とパパリンさんは振り返る。
中学生では、その知名度に見合う学力を身につけていた。中学時代の成績の推移を見ると、1年生から3年生までほとんど学年3位いないと抜群の成績だったようだ。
「中学生ではほとんど勉強に困ることはなく、特に中3の2学期以降は1位が指定席でした。本人も自分は勉強が得意だと思っていたはずです」

早熟児が直面する典型的な挫折を経験
地域トップクラスの愛知県立岡崎高校に進学した健斗さんを待っていたのは、人生初の大きな挫折だった。
「入学して最初の定期テストは学年120番前後でした。400人ぐらいいる学年での順位です。そんな順位は取ったことがなく、ちょっとショックでしたね」
これまで常に上位だった健斗さんにとって、初めての大きな挫折だった。多くの早熟児がこの段階で自信を失い、学習意欲を失ってしまう。
しかし、健斗さんは違った。
「だんだん勉強するようになってきて、定期テストは最終的には学年20番ぐらいまでいっていました。模試で一番いい時で校内成績3番まで取ったこともあります」
この復活劇の裏には、父親の的確な進路指導があった。
「中学3年生の時の担任の先生が『先生の母校刈谷高校はどう?』と言ったんです。刈谷高校ももちろんいい高校なんですが、岡崎高校と比べれば一段下がります。
私は『岡崎高校はより優秀な人が集まるため、絶対得られるものがある』と息子に勧めました」
「厳しい環境で揉まれることでダメになる子もいる一方で、息子は逆に火がつく気質ではないかと読んでいたんです」
結果は大成功だった。岡崎高校では生徒会長も務め、京都大学を視野に入れるまでの学力を身につけたのだという。

「普通の子」としての側面が支えた成長
健斗さんが挫折から立ち直れた理由のもう一つの側面として、早熟児によくある「完璧主義」や「過剰なプライドを持つこと」に陥らなかったことにある。
実は健斗さんには、メディアが描く「優等生」とは程遠い一面があった。
「もちろん反抗期はありました。特に高校の時はかなり反抗していましたね。私と取っ組み合いの喧嘩をしたこともありました」
さらに、そのいささか強すぎる正義感を示すエピソードも。
「横断歩道で信号が青に変わる前に渡ろうとしたおじさんに対して、『ちゃんと信号を守れ』って注意することもあったんです。
争いやいさかいを避けるような、普通の優等生だったら絶対やらないことじゃないですか」
父親のパパリンさんは笑いながら語る。
「うちの子はそんな”勉強のできる優等生的な”優等生じゃないんですよ。活発でたくさんの友達がいて、喧嘩する時は喧嘩するし、そういう意味では極々普通の子なんです」
塾に依存しない自学自習の習慣
驚くべきことに、健斗さんは一度も塾に通ったことがない。
「体験入学で塾に行ったことはあるんですが、息子が『どうもこういうところは自分には合わない』と言い出して。
『知っていることばかりを言っている感じ』だと息子は感じたようです」
この自学自習の習慣は、大学受験まで一貫して続いた。中学時代も高校時代も塾に頼らず、名古屋大学法学部に現役合格。現在も法科大学院で自立した学習を続けている。
長期的視点と一貫した目標設定
健斗さんの成長を支えたもう一つの要因は、長期的視点と一貫した目標設定にある。
12歳での宅建士合格は、実は保育園の卒園式での「弁護士になりたい」という宣言から始まった長期計画の一部だった。
「弁護士を目指す方々が司法試験の勉強にあたって、まず宅建から取得していく例があるんです。宅建には民法があるということが一番大きいですね。
民法をしっかりと押さえておけば、その後の上位資格も取っていけるんじゃないかと」
つまり、メディアが「12歳の天才児」として報道した宅建士合格は、17年間ブレることのない一貫した目標に向けた戦略的な第一歩だったのだ。
現在も法科大学院で司法試験予備試験に挑戦している健斗さん。保育園での宣言から17年、その夢は着実に現実に近づいている。

早熟児の持続的成長に必要な要素
最後に、健斗さんの11年間を追跡した結果、早熟な子供が持続的に成長し続けるために必要な要素が見えてきた。
- 自発性を重視した教育環境 外部からの詰め込みではなく、本人の興味と自主性を育てる
- 「普通の子」としての側面の保持 早熟性に囚われず、年齢相応の経験も大切にする
- 段階的成長の許容 早期ピークを求めず、長期的な視点で成長を見守る
- 挫折を成長機会と捉える環境 失敗や挫折を責めず、学びの機会として活用する
- 一貫した長期目標 目先の成果に一喜一憂せず、長期的な目標に向かって歩み続ける
幼少期に注目を浴びる早熟な子供たちが持続的に成長できるかは、周囲の大人たちが作る環境によるのかもしれない。

.png&w=3840&q=75)



.png&w=3840&q=75)

.png&w=3840&q=75)
.png&w=3840&q=75)





.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
