日本にはたくさんの特徴的な学校がある。筆者の趣味は、そんな「オモシロイ学校」の行事、制度、制服、校舎、校章、校歌などを研究し、巡礼すること。今回は宇都宮まで足を運び、突撃取材してきた。
栃木県宇都宮市に位置する宇都宮短期大学附属高等学校は、今年で創立125周年を迎える私立高校だ。東大・京大はさることながら難関大学に多数の合格者を輩出し続け、存在感を放っている。

宇短附が目指すのは「生徒一人ひとりの個性を精いっぱい伸ばし、それを磨いていく教育」。特色あふれる5つの学科を設置し、「総合大学」ならぬ「総合高校」と呼ばれている。今回は、同校教頭先生の萩原俊和先生にお話を伺った。学校の特色から先生の思いまで、宇短附の真髄に迫る。

カレッジではなくユニバーシティー、「高校」ではなく「総合高校」
宇都宮短期大学附属高校には「普通科」に加え「生活クリエイト科」「情報デザイン科」「調理科」「音楽科」という専門的な学科がある。さらに普通科は志望別に5つのコースに分かれる。多様化が進み個性の輝きが求められる今日に、「総合高校」を称した教育を行う宇短附の秘密を質問した。
Q.なぜ学科が5つもあるのでしょうか?どういった魅力がありますか?
萩原教頭:社会には様々な考え方、信念を持った人たちで成っています。そこに出ても生徒がうまくやっていけるように、本校は、いろんな価値観を持った人の集団を作りたかったんです。例えば本校の部活動は学科を横断します。普通科の生徒もいれば、音楽科の子も調理科の子も中高一貫の子も一緒になって、いろんな考えの子が交流できる。
本校は遠くから来る生徒も多い。1時間半以上かけて通学してくる人も新幹線で来てる人もいる。遠い生徒だと福島とか埼玉とかからも。やっぱり同じ地域の人って、考え方も似てるんですよ。地元が違えば、視点も違う。それも含め本校は、いろんな価値観を持った人の集団になっています。
社会に出て、価値観が違う人から「お前の考え間違ってるよ」なんて言われたときにつまずいて立ち上がれなくなっちゃう子がいます。ずっと考え方が似ている集団の中にいると、こういうことが起こるんです。
社会ではそれでも這い上がって行かなくちゃいけない。ここでの学生生活は、そのための練習期間です。高校生のうちにいろんな人と出会える。総合高校の魅力ですね。

Q.普通科にはコースが5つも(特別選抜コース・特進コース・進学コース・応用文理コース・中高一貫コース)ある。効果はありますか?
入試の得点でコース分けをしていますが、最大の違いは授業スタイル。特別選抜コースは一つのクラスに2人先生がつくんです。そうすると先生が生徒一人一人を気にかけやすくなる。ゆっくり家庭教師と勉強するのが合う人にお勧めです。
友達と競い合いながら伸びる生徒も多い。次の特進コースはそういう生徒に合っています。ここでは成績順で、能力別のクラス編成がなされます。
例えば数学が苦手なグループがあるとする。普通の学校だと先生は真ん中の生徒に合わせて授業をするので、得意な子は物足りないし、苦手な生徒は分からない。だけど、志望別なら各自に合った授業が受けられるんです。
でもうちは細かいクラス分けがあるので、その生徒に合った授業ができる。どんどん力をつけていく。だから過去には、試験の内容は同じなのに一番下のクラスの平均点が一番高かったこともあります。
「入試のボーダーが高いから良いコース」ではない。勉強スタイルに合ったところを選んで欲しい。一人ひとりに合った勉強ができるように、いくつもコースを用意しています。実際に、学年が変わるタイミングでコースも入れ替わりますから。
Q.行事にも「総合高校」ならではの良さが?
一番盛り上がるのは学校祭。模擬店や出し物をコースやクラス単位で出します。情報デザイン科が毎年売る名物の焼きそばがあったり。調理科は1人ずつ卒業制作を作ります。そこで、和食、洋食、中華、製パン、お菓子など自分の得意な料理を展示します。普通科では、探究学習の研究発表をして、来た方に投票してもらうコーナーもあります。なかなか活気がありますね。

運動会も盛り上がりますね。Jリーグの大会も行われる巨大スタジアムを貸し切ります。大きなスクリーンに応援メッセージを出したり、競技が見えるようにズームで映したりとスタジアムならではの設備で。保護者生徒合わせて5000人ほど集まり、大規模校だからこその盛り上がりがあります。

何でも「見てみる」「やってみる」。宇短附の探究学習に迫る
Q.思考力養成とか探求学習といった取り組みはどういう思いで実施していますか?
もう偏差値のみを高める教育の時代ではない。大切なのは、自分で考える力を育てること。行きたい大学を自分で決めて、浪人してでもそこに行ってほしい。
そういった意味で、これからは生徒にレールを敷くのではなく、SIY(「Study It Yourself」。株式会社リクルートと株式会社カルペ・ディエムによる「”高校生の本当のやりたい”をサポートする」プロジェクト)など、自立を促すような教育こそ必要だと考えています。

Q.具体的にはどういう探究学習がありますか?
夏休み明けに2日間、全校を上げて探求活動をやりました。内容は色々選べるんですが、例えば味噌づくり体験が挙げられます。餃子も作ってる宇都宮の有名な味噌屋さん「青源味噌」の社長さんにお越しいただいて、味噌づくりを探求します。

我々が大事にしているのは「見て学ぶ」こと。もちろん作り方は学びますが、実際に味噌を作らないとわからないこともありますから、材料をもらって、各家庭で作ってもらった。そうすると、「泡が出てきた」「白いのが出てきた」「これが発酵?」「温度が高すぎたのかも」とか、色々気がつくところがいっぱい出てくるんです。
今はYouTubeで何でも見れちゃう時代だから、見ただけで満足しちゃう生徒が多い。実際に体験する経験が不足してるんですよね。YouTubeもいいんだけど、「やってみないとわからないことがある」と気付いてもらいたい。
125年の歴史を紡ぐ教育理念とは?
Q.先生の働く環境が整っているという話を聞きました。
「働き方改革」は進んでいると思います。本校が一番大切にしてるのは先生方なんです。以前先生は、朝6時に家を出て、6時半に学校に着いて、7時から補習授業やってたんですよ。そして授業やって、放課後、また補習授業やって、部活動やったり。家に帰るのが22時とか。今はもうそういう時代ではないんで。「分業していこう」と。
本校では誰が何時に帰ったかをパソコンで一元的に把握するようにしています。今週はあの先生が毎日20時を過ぎてるなっていうのを見たら、その先生を責めるんじゃなくて、仕事を減らしてあげるんです。仕事量が多いんだなと判断するわけです。
定期試験もデジタル採点にしました。スキャナーで全部読み込んで、さらに今後考えているのは、定期試験を海外で採点してもらえないか。日本語がわからなくてもいいんですよ。〇か×で判断するので、同じか違うかの間違い探しなんです。日本が夜中でも昼間の海外では1時間以内に採点されて戻ってくる。そして生徒にはすぐ返却され、その日中に復習ができる。
先生って大変だから、なり手が減ってますよね。だけど、やりがいがある仕事だと思います。先生は一番身近な大人だから、先生の姿は生徒たちによく映るんですよ。そんだけ影響力がある。そんな先生を大切に、先生が働きやすくなるような環境づくりを工夫しています。
Q.今年で創立125周年。長い歴史があるからこその良さはありますか?
例えば就職。社長さんが卒業生とかだと困った時に助けてくれるんです。長い歴史を持ってるからこそですね。学校の前の歩道橋も技術者の卒業生が心をこめて制作してくれたんですよ。
あとはありがたいことに、地域の方々に名実ともに支えられてきたこと自体が、「地域密着」という良さを示している気がします。新入生の話を聞くと「おばあちゃんが卒業生だから入学した」なんてことも少なくありません。こういう信頼関係はやっぱり一朝一夕で築けるものではないですね。

Q.先生はどういう思いで教育にあたっていますか?
「学力をつける」だけではなく「生きる力」をつけてほしいと願っています。僕が一番残念なのは行事を欠席してしまう生徒。「実地で雰囲気を味わった経験」は必ず後の人生で生きてくる。そして、その経験を積める環境こそが学校教育だと思うんです。
生きていくには、知識だけでは不十分で、体験からしか得られない大事なものも数多くあります。そして、それらを学びの中で得られるような教育こそ、本校の建学の精神である「全人教育」(人間形成の教育)だと考えています。
全人教育を僕なりに解釈すると、「率先垂範」です。先生が見本を見せる。例えばゴミが落ちてたら、「拾いなさい」って言うんじゃなくて黙って先生が拾う。口で言うんじゃなくて見本を見せる。そういう姿を見てると生徒たちは街の中でゴミを拾う。みんなが1つ拾うと街がどんどん綺麗になっていくと。そういう輪を広げていく。
それが私立学校が長く続いていく秘訣でもあるんじゃないかと。あの学校に預ければ安心だ、ちゃんと育ててもらえる、っていう。「なくてはならない学校」にしておけば、絶対どんな時でも生き残れると思う。勉強オンリーでどんどん学力をつけていくというだけじゃなくて、「生き方」をしっかり教えていく。そうすると勉強は自然とついてくるかなと。人間性をどう高めていくかっていうのが一番重要かなと思います。それが、本校が125年の間歴史が続いてきた理由かな。
この学校から育った生徒が全国に広がって、そのDNAが広がっていけば、少しずつ日本や世界が変わるのではないかと信じています。いきなり変えるのは難しいですし、なによりも地道な努力が必要ですが、それが教育だと思っていますから。
まとめ
「知ってるだけ」と「やったことがある」の間には大きなギャップがある。実際にやってみることで見えてくるものもたくさんある。人生の役に立つことは、机の上だけから得られるわけではない。だからこそ、色々な体験をしてほしいし、色々な学生と交流してほしい。
当たり前な願いのようだが、誰しもがお手軽に動画やネット記事で簡単にハウツー情報を調べて入手してしまう現代だからこそ、「実際の経験」の重要性が高まっているようにも筆者には感じられた。
机の上のお勉強だけに偏っていない人を作るのが「全人教育」。「総合高校」としてのスタイルを貫く理由でもあるだろう。「机の上のお勉強」に終始しがちな昨今の受験闘争だが、実は「机の外の教育」こそが、今の学校に最も求められているものの一つなのかもしれない。
.jpg&w=3840&q=75)




.png&w=3840&q=75)

.png&w=3840&q=75)
.png&w=3840&q=75)





.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
