あなたの周りに、子どもに有害な影響を与える親「毒親」はいないだろうか? 

愛情の行き過ぎが「毒親」認定される現代では、子供に”毒”だと判断されるような「行き過ぎた教育熱心」な親の姿をたびたび目にする。 

今回のテーマは、そんな「毒親」と「教育熱心」の境について。 

例えば、「パチンコの駐車場に5時間放置」と「東大理三を目指す熱血教育」—— 同じ「毒親」というレッテルで語られがちなこの2つには、実は決定的な違いがある。 

前者は誰が見ても明らかに有害だが、後者は賛否が分かれる複雑な問題だ。 

未来図でもたびたび取り上げられる「教育虐待」や「毒親」問題。教育情報発信で11万人を超えるフォロワーを持つ伊藤滉一郎氏(じゅそうけん)と、ハーバード大学卒業のパックンが、この微妙な境界線について本音で語り合った。 

戦記さんの事例から見る「教育虐待」の実態 

伊藤:今日はパックンさんと一緒に、教育熱心な親がいつ「毒親」になるのかという境界線を探っていきたいと思います。まず、前回取り上げた戦記さんの事例から見ていきましょう。 

パックン:戦記さんといえば、娘さんを東大理三合格に向けて、小学1年生からサピックスに通わせて、6年間にわたって厳しい塾で学ばせていますよね。 

伊藤:そうです。東大理三は日本最高峰で、定員わずか100人、偏差値80という超難関です。

戦記さんの娘さんは、このサピックスの最下位クラスから這い上がって、一番上のクラスの席を勝ち取った。本当にすごいことなんです。 

中学入学後も鉄緑会というスパルタ塾で4年目。すでに東大理三に届くかもしれないレベルまで到達しています。 

パックン:でも、戦記さんの娘さんが東大に落ちたら「戦記さんのメンツが...」という声もありますよね。 

伊藤:そうなんです。界隈では戦記さんの娘の動向がすごく注目されている。それはすごいプレッシャーですよね。 

パックン:戦記さんもインタビューで「親子二人三脚でスポーツをやっているような感じ」と言ってましたね。ただ、戦記さんの教育方針で印象的だったのは「他人から奪う人生か奪われる人生か、1分以内に決めろ」という発言です。 

伊藤:あの鬼の形相で言ったかどうかはわからないですけど、本人も実際にそう言ったと認めています。戦記さんは極めて資本主義的な思考の持ち主ですね。 

パックン:でも、高学歴な人が「奪う人」というセッティングはどうかと思うんですよね。弱肉強食という考え方なんでしょうね。 

でも僕は、資本主義が弱者を食い物にしているとは思わない。資本主義はみんな頑張れば、それなりに幸せになれるシステムだと思うんです。 

伊藤:戦記さんの場合、世界には勝者と敗者がいて、勝つ側に回らなければならない、それがまず学歴だという考え方で努力を重ねている。娘さんにもある種、そういう価値観をインストールしている部分があると思います。 

毒親か教育熱心か?賛否両論の現実 

パックン:戦記さんは俗に言う「毒親」だと聞いていますが... 

伊藤:そうなんです。でも僕は結構賛否分かれるんじゃないかと思ってるんです。見方によっては毒親とも取れるし、でも子供自身も楽しんでいるし...ある種理にかなっている部分もある。 

パックン:毎朝学校前に公園で野球の100本ノックする父親と同じだと感じますね。 

学校に行く前に、息子が喜んで野球の練習をして、甲子園やプロ野球選手を目指している。子どもが喜んでいれば、それはいいんじゃないかと思うんです。戦記さんの娘さんも喜んでいるなら。 

伊藤:でも、それを「洗脳」だという人もいるわけですよね。戦記さんがマインドコントロールをして、娘さんはそれが解けた時に絶望してしまうんじゃないかという意見もある。 

パックン:そうですね。もしくは、ここまでやって東大に落ちた時に「今までの10年間は何だったんだ」と思ってしまうかもしれない。 

学歴だけで考えてしまったらそうかもしれないですね。伊藤さんはどう思います? 

伊藤:僕も、本人たちが現状幸せなのであれば、いいんじゃないかと思うんです。ただ、この魔法がずっと解けないままならいいけれど、娘さんが大人になって親元を離れた時にどう思うのかは気になりますね。 

教育は半分「洗脳」?社会規範との境界 

パックン:洗脳という話で言うと、例えば「友達100人作ろうね」という歌がありますよね。99人で絶望する子もいるかもしれない。 

あれも洗脳じゃないかな。「友達が多い方がいい」「毎日笑顔で過ごす」「みんなと仲良く溶け込もう」—— これらも全部プレッシャーかもしれない。 

教育は半分洗脳だと思うんです。学歴やスポーツの頂点を目指す洗脳はアウトで、他は大丈夫なんですか? 

伊藤:すごく難しいところですね。小学校の義務教育で言われていることも、洗脳だと捉える人が最近増えている。だからオプションとして通信制高校や、その洗脳に気づいた人が別の選択肢を検討し始めています。 

パックン:一番厳しいのは「ルッキズム」だと思うんです。整形の力を借りても、塾に通っても乗り越えられないものじゃないですか。社会が規範とする美貌を持って生まれてない子が一番きつい。でもそれも洗脳されている。 

「お金持ちが偉い」という資本主義の価値観「マネーイズム」も友達がフェラーリに乗っているのに、自分は軽自動車で悲しいと思ってしまう。 

塾に通えば、せめて夢として見せられたものに自力で近づくことができる。僕は塾反対派ですけど、自分の好きな分野に熱狂して一生懸命目標に向かって練習や勉強するのは、めちゃくちゃいいことだと思うんです。 

フェラーリは簡単には買えないけど、成績は良くなる。頑張ればできる。だから、数々ある洗脳の中では特別に有害なものじゃない気がします。 

なぜ「教育虐待」だけが注目されるのか 

パックン:言われてみれば、育った環境や容姿に比べると努力が報われやすい分野ですよね。勉強ができることで将来の年収や選択肢の広さにもつながる。とりわけ悪いことではないと思うんですが、なぜこれだけ教育虐待が注目されるんでしょうか? 

伊藤:受験は人口の多いゲームで、勝者と敗者がはっきり分かれる。偏差値という分かりやすい指標がある。 

そこでうまくいっていない人が、相対的にやっかみを覚えやすいのかなと思います。 

パックン:日本はネット社会が特に陰気な気がする。足を引っ張りたくて毎日投稿している人もいる。 

僕は基本的にネットを見ない人なので、コメントの見方もわからない。だから僕も気づかない間に、すごく叩かれてるかもしれないけど(笑)。ストレス発散や鬱憤晴らしのニュアンスが強いと思います。 

ただ、中には行き過ぎた教育熱心な親の姿勢に良心を持って牽制しようとする声もある。その行き過ぎた面は訂正したいけれど、「毒親」というレッテルがひとり歩きすることは怖いですね。 

伊藤:やっかみという説、僕も一番納得します。うまくいっている、勉強ができる他人の子に対して、別の親が思うところがある。「うちの子は全然勉強しないけれど、あの子は戦記さんの娘みたいに放っておいても勉強していい中学に行く」のを見て、「戦記さんは教育虐待だ」みたいな。 

パックン:あまり単純化しそうですね。サピックスに入れただけで「毒親」って言われたら困りませんか? 

伊藤:それは違いますからね。 

パックン:じゃあ、その境界線を探ってみましょうか。 

極端な事例:刃物が登場したら明確にアウト 

伊藤:まず最悪のケースから。実際にあった名古屋小6受験殺人事件です。愛知県の名門・東海中学を目指していた親子の話で、お父さんがスパルタで、子供の偏差値が上がらないと刃物で脅しながら勉強させていた。 

パックン:それは毒親ですよ!学歴はそもそも関係ない。 

伊藤:刃物が登場した瞬間に毒ですよね。実はこの事件で興味深いのは、法廷で「私も中学受験の際、包丁で父に脅された」と証言したこと。 

つまりおじいちゃんも同じことをしていて連鎖している。 

パックン:なるほど…同じ教育指導をお父さんも受けていたと。お父さんの学歴が知りたいですね。 

伊藤:調べたところ、お父さんは東大卒でも医師ではなく、いわゆるブルーワーカーの仕事をしていました。自分の現状に満足していないお父さんだったようです。 

パックン:アメリカでもよくある「自分の夢を子供に背負わせる親」、トクシック(toxic:毒)ペアレントですね。 

でもこの度合いが大事ですよね。僕はバレーボールが大好きだったけれど、オリンピックには行けなかった。子供たちにオリンピックに行ってほしいと思うけど、圧力はかけない。 

結果として、2人ともバレーボール部に入って、この後も3人でバレーボールをやりに行く。これで十分楽しいんです。 

夢を「共有」するのと「強制」するのは違うかもしれない。 

伊藤:共有と強制、これは大きな違いですね。 

医学部界隈に多い深刻なケース 

伊藤:次に、医学部界隈でよくあるケースです。医学部浪人母親殺害事件——医学部コンプレックスの医療従事者のお母さんが、娘を9年間医学部に受かるまで浪人させ続けて、体罰やスマホを壊すなどの行為を繰り返した。 

最終的に娘さんがキレて、お母さんを殺害してしまった事件です。 

パックン:お母さんの言い分は聞けませんね。 

伊藤:そうです。娘さんは「モンスターを倒した。これで一安心」とツイートしていました。この事件は受験界隈、特に医学部浪人生の界隈で話題になりました。ここまでいかなくても、このマイルド版は結構ある。 

共通しているのは代々お医者さんの家で、継がなくてはいけない義務があること。何浪してでも受からないといけない。日本によく見られる世襲的な側面です。 

パックン:でも歌舞伎の子供は2歳でデビューさせられてるよね。逃げられない。でもそれはちやほやされる。歌舞伎役者の親も毒親ですか? 

伊藤:脅したり虐待したりするのは絶対アウトです。 

パックン:でも「我が家は何代もお医者さんの家で、ひいおじいちゃんが作ったクリニックをぜひあなたが継いでほしい。お医者さんになってくれれば親も喜ぶし、あなたも幸せな人生です」と切実な思いで言っている親もいる。 

親が医者で医学部を勧められただけで毒親と言われたら困る。 

伊藤:そうですね。お医者さんの家でも、純粋に自分の仕事に誇りを持って、親心から言っているケースも多いと思います。 

でも医学部界隈でこういう暗いニュースが目立つのは、親自身の特権階級意識や選民思想、エリート意識が結びついているからかもしれません。 

パックン:だいたい8浪目ぐらいで、受験に向いてないことに気づくと思うんですけどね。 

伊藤:8回も落ちてますからね。 

パックン:でも虐待を受けた子供は、絶対にかわいそうです。それでも大人なんだから、お母さんを殺さないで家を出ればいい。縁を切って二度と口をきかなくていいから。 

伊藤:洗脳から脱出するところが難しいのかもしれませんね。 

アメリカと日本の「毒親」事情 

パックン:僕も学歴主義者にされたくないんだけど、自分が幸せだと思った人生を子供に勧めるのは自然な流れかなと思うんです。 

伊藤:その道しか知らないですからね。 

パックン:お医者さんや起業家は家業を持っている。僕は漫才師。歌舞伎や落語と違って、息子に譲るものがないんですよ。自分は学問をも、日本語をもお笑いをも勉強して幸せになれた。 

世の中には不幸な毎日を過ごしている人がいっぱいいる中で、「正解の1つはこっちですよ」という導き方はいいと思うんです。ただ、お医者さん以外の選択肢を見せないのは変ですよね。 

伊藤:「お医者さんしか道は正しくない」という見せ方をしてしまう親も少なからずいます。 

パックン:日本は一般入試の受験制度で、親は受験でいい点数が取れるように勉強させる。 

アメリカでも、2019年の事件では推薦制度をハックしようとした親がいましたよね。お金を払って、やってもいないスポーツをやっているかのように見せて入学願書を書かせたり、推薦状を書いてもらったり。 

お金の力で推薦制度をハッキングしようとしたんですよね。 

とんでもないお金を払っての裏口入学だけど、日本でも、成績を上げてくれるチューターが、小論文も一緒に書いたり、代筆してくれるサービスがあると聞きます。学外での活動にあたる、インターンも用意してくれる。 

推薦入試では、高校時代に研究をした子供が入学しやすいですよね。その研究先も用意してくれる。大学院生を見つけて100万円とか払って、2人で研究して論文を出す。 

でも結局、これは子供の自力ではなく、親の経済力で入学できている。これは毒親でしょうか? 

伊藤:これは難しいですね。日本の推薦はペーパーテストですが、アメリカの入試特有のビジネスとしてそういうものが生まれていますよね。 

パックン:子供を泣かせているのではなくて、むしろ喜ばせてます。甘やかすのも毒親ですかね。 

伊藤:これは毒親というカテゴリーではなく、「ずるい親」ですね。 

でも日本のお医者さんの私立医学部でも似たケースがある。ペーパーの点数が足りなくても、なぜか面接点が100点上乗せされて受かる。親が開業医で大学病院とつながっている裏口入学。 

パックン:アメリカは堂々と「寄付すると入りやすくなる」と公言してますけど、日本はブラックボックスでこそこそやる。 

ちなみに、アメリカは卒業生の子供が入りやすいと言われているけど、実際にハーバード大学の卒業生の子供は3割ぐらいいます。ただし、その3割は周りよりも平均点数が高い。 

だから卒業生の子供だから入りやすいわけではなく、逆により高い点数を取らないと入れない。だから僕は自分の子供には、卒業生の子供だと言わせないようにしようと思ってるんです(笑)。 

ハーバードの入試は、宝くじにあたるようなものだと言われていますからね。 

境界線を決める判断基準 

伊藤:「教育熱心」と「毒親」の境界線は、どこに定めるのがよいでしょうか?パックンさん的には毒親の判断基準は? 

パックン:僕は「精神的なダメージを受けているかどうか、幸せかどうか」だけなんですよ。 

ある程度の洗脳はしょうがないと思う。「人に優しくするものです」「頑張るものです」「健康体で生まれて頭脳も与えられているから使わないともったいない」というのは、0歳から毎日言っていい。 

でも本人がどこかで向いてないことを強制的にさせられて苦痛になっているなら、それを見直すべきです。 

僕の子供も高校は卒業するけど、大学行かないというなら「いいよ。でも頑張らない子供は認めない。どんな道でも、僕の脛をずっとかじったままにはさせないよ。独立させる」と言ってます。ブルーカラーでも全然構わない。僕の家族の半分以上がブルーカラーだし、それでも頑張ってほしい。だから多分、僕は毒親に当たらないかな。 

伊藤:僕も似ていて、「解けない洗脳」ならOKです。戦記さんの今の状態はいいけれど、戦記さんの娘さんが親元を離れて「私の子供時代は何だったんだろう」と思ったら負けだと思う。 

人生トータルで見た時に、最後までそれを持ち続けられるかどうかに境目を持っていきたい。 

親の夢のために子供が犠牲にするものが、その夢がかなっても補えないもの。夢がかなっても、苦痛が将来の幸せとトントンにならないのであれば、それは本当にダメだと思います。 

パックン:例えば、お医者さんの家で教育虐待に近いことをされて医学部に入り、お医者さんとして高い報酬を得ても、心に傷があったらダメですね。 

得るものが犠牲にするものより大きくないといけない。なるべく犠牲は最小限に抑えた方が総合的にプラスになる。 

洗脳から選択へ:親ができること 

伊藤:最後に、洗脳にしないために意識すべきことは? 

パックン:「洗脳が解けない」という言い方は面白かったけど、僕は子供が自ら途中で選ぶ選択肢を見せるべきだと思うんです。 

「パパはこう思ってるよ、ママはこう思ってるよ、おじいちゃんおばあちゃんはこう思ってるよ。我々はこの考え方でそれなりに幸せな人生を過ごせている。 

でも、それ以外の選択肢もある。自分で探してもいいし、他の先輩や大人から聞いてもいい。これが絶対だとは言わない。でもこの道悪くないよ」という。 

洗脳から「選択」に切り替える日があるといいなと思うんです。 

伊藤:間違いないですね。ありがとうございました。