みなさんは、どんな習い事をしていましたか? 大人も子どもも様々な教室に通う現代。何もやったことがない人のほうが珍しいかもしれません。

 私自身も、貧乏ながら、公営のプールや警察の柔道など、安価で済む習い事を多々経験させてもらいました。これらは残念ながら私の気質には合いませんでしたが、「合わない」とわかっただけ収穫だったのでしょう。

 子どもの習い事といえば「プール」「ピアノ」「野球」「サッカー」「英会話」あたりが定番なのでは。逆を言えば、これら以外の習い事については、あまり情報が回ってこないのが実情。周囲の子がやっていない習い事に手を出すのは、金銭的にも心情的にも勇気がいりますが、意外とそれが人生の転機になったり、自己発見につながったりすることもあります。

 今回は小学生時代、ボクシングを習っていた田村園子さん(たむら・そのこ 仮名)に話を伺います。

もともと引っ込み思案だった

__なぜボクシングを習い始めたのでしょうか?

田村:今は標準体型ですが、当時は人生で一番太っていました。東京から大阪に引っ越したばかりで、関西弁の勢い強さや、下町っ子の気の強さに負けて、いつもからかわれていました。デブで、眼鏡で、名前もおばさんっぽい。小学生の悪ガキがはやし立てるには十分すぎる材料ですよね(笑)。

 小学校4年生の時、ドッジボールをやっていたら、男の子から「おいデブ! お前とろいねん!」って責められて。すごいショックで、大号泣したんです。でも、泣いてるうちに「私別に悪いことしてないよね? なんでこんなこと言われないといけないの?」って考えが変わってきて、絶対に瘦せて見返してやるって決意した。

 ボクシングは、偶然広告で見ただけで、格闘技好きとかではありません。リズミックボクシングといって、イメージとしては10年くらい前に流行った「ビリーズブートキャンプ」に近い感じ。音楽に合わせてボクシングの動きを繰り返して、たまにスパーリングもする実践系のボクササイズジムでした。

ボクシングを始めた当時のお写真

__周りにボクシングを習っている子とかいたんですか?

田村:全くいませんでした(笑)。ジムが、母校が指定される学区域外にあって、同級生どころか、同じ小学校の子が一人もいなかったんです。それに、女の子も私だけで、小学生の男の子に囲まれて、たった一人で始めました。

__周りの目は気になりませんでしたか?

田村:もちろん、最初はちょっと躊躇いもありました。私の使う時間は女の子の利用なんてなくて、更衣室も大人の女性ばかり。親もついてこない中、一人で着替えてジムへ行くと、今度は全然知らない男の子ばかりたくさんいる。彼らの邪魔にならないように、端っこのほうへ飲み物とタオルを置いて、ひっそり時間を待っていました。

でも、周りの子は結局私と違う小学校に通っている男の子だって気付いたんです。この年頃の男の子って、結構目の前のことに熱中しがちで、私のことなんか全然眼中になくて。元々かかわりがないうえに、関わろうともしてこないのだから、全然気にならなくなりました。当時は男の子って私をからかってくる、少し怖いものだったんですが、そうじゃない子もいると知れたから、「男=悪」みたいな考えに陥らずに済みましたね。

__格闘技を通じて得られたものは何でしょうか?

田村:何よりも自立心が芽生えたように感じます。私は、ボクシングダイエットをたった一人で始めて、たった一人でやり切ったんです。別に、誰かと一緒のことをしなくても、誰かと一緒にいなくても、私は一人だけでも頑張っていけるんだって、気付けました。それに、格闘技をやっているうちに、どんどん体が引き締まってきて、クラスでもからかわれなくなった。何かあっても「最悪ケンカになっても勝てるな」って思ってましたし、どんどん自信がつきました。やっぱり、格闘技っていいですね。体が強くなって、心も強くなれて、人を不用意に怖がらなくなりました。私の今の性格を形作ってくれたきっかけになっています。

__マイナーな習い事だったからよかったことはありますか?

田村:誰も知らない場所に飛び込んだからこそ、この経験が得られました。野球とか水泳とか、みんながやってるスポーツって安心感がありますよね。でも、それって日常の関係性を習い事に持ち込んでしまうことにもつながる。当時の私は、誰にも知られずに変わりたかったんです。そのためには、誰も知らない場所で、誰も知らないことに取り組むしかなかった。そういった意味で、ボクシングは最適解だったと感じます。

 もしも、人間関係などで悩んでいるのなら、誰も知らない場所へ勇気を出して飛び込んでみるのも、一つの道かもしれません。考えているよりも、みんなは自分に興味がないと知れれば、一歩踏み出す勇気が湧いてくるかもしれませんよ。