数オリ代表者輩出数から見える高校の実力

4月6日、2026年の国際数学オリンピック日本代表6人が発表された。今年は灘高校から3名、開成高校から2名、ラ・サール高校から1名が選ばれた。(https://imojp.org/archive/mo2026/imo/contestants.html

日本は1990年以降、毎年6名の代表を選出しており、その延べ人数は222名にのぼる(複数回出場を含む)。在籍校別ランキングは以下。

52

筑波大学附属駒場

46

開成

33

洛星

6

広島大学附属

5

栄光学園

5

ラ・サール

5

麻布

4

高田

4

武蔵

3

都立武蔵

3

帝塚山学院泉ヶ丘

3

松本深志

3

洛南

3

海陽中等教育学校

3

海城

3

この表を見ると、「灘」と「筑波大学附属駒場(筑駒)」の2校が突出しているということは明らかだ。

数オリ日本代表は、日本の中でも最上位層のさらに上澄みにあたる。その層では「関東なら筑駒、関西なら灘」という認識が共有されていると考えられる。

メディアなどでは、「東の開成、西の灘」とされることも多く、筑駒の世間的な知名度は開成と比較するとそう高くはない。しかしながら、入学難易度を参照すると筑駒の方が幾分高いのが現実だ。参考に、首都圏大手中学受験塾SAPIXの2026年入試結果偏差値表(80%合格ライン)を参照すると、筑駒が70、開成が68となっている。

この認識がある場合、小学6年生の段階で、数学的才能を持つ層はほぼ自動的にこの2校へと収束する。結果として、母集団の時点で偏りが生じており、その後の数オリ代表にも反映されるのであろう。

東大合格者数だけを見ると開成が圧倒的に1位だが、数オリ日本代表という統計に着目すると、また異なる見え方が現れてくるのだ。

それでも開成が沈まない理由

「高校研究家」の私が注目するのはここからだ。3位の開成と4位以下の学校に差がありすぎるのだ。
関東の1番手が筑駒なのであれば、関東の最上位層は全員筑駒に収束するはず。

しかし、開成も一定数の代表を出し続けている。この現象はなぜ生じるのだろうか。

1.校風による開成志向

第一に、進学先選択における志向の違いがある。

筑駒が学力的最上位であるという認識があっても、すべての受験生がそれに従うわけではない。
開成の文化や行事、規模、校風といった要素に強く惹かれ、あえて開成を選択する層も一定数存在する。

開成を象徴する行事は「運動会」だ。学年縦割りで「組」に分かれ、棒倒しや騎馬戦といった種目で争う。
開成生の1年は運動会を基準にして作られているといっても過言ではないほど、生徒が命を燃やす行事が運動会なのだ。
このような熱血的な校風に惹かれて開成を志望する受験生も多い。

また、筑駒は1学年約160人なのに対し、開成は1学年約400人である。開成の強みの一つは「母数の多さ」だ。
母数が多ければ在学中に多様な人と関わることができるし、OBネットワークも豊富だ。そうした面から、開成を魅力的に感じる受験生もいるだろう。

こうした理由から、事実、最上位層の内部で「筑駒蹴り開成」は生じている。実際に、筆者が今まで会った人の中でもそのような経歴の人は少なくない。

それなら関西でも同様になるのではないか、という反論がありそうだ。しかし、関西では、灘に対抗する絶対的な「第二極」が存在しない。

関西中学受験塾大手の浜学園は、灘に加えて兵庫の甲陽学院、京都の洛南、洛星、大阪の大阪星光学院、奈良の東大寺学園、西大和学園の7校を「7冠」と括っている。
絶対的な第二極がないがために、7校をも並列して「学校群」を作っているのだ。

画像はイメージです。

浜学園の2026年第1回「小6合否判定学力テスト」80%偏差値一覧を参照しても、灘64に対して甲陽学院59、洛南58、洛星56、大阪星光学院59、東大寺学園61、西大和学園60と、灘が頭一つ抜けている他は大差がない。

校風や空気感に着目しても、それぞれの学校に良さがある。
それぞれに「灘蹴り」や灘には行けたけど志望校を変えた、という層は一定数いるものの、絶対的な第二極はなく最優秀層もバラける。

結果として、トップ層は灘に集中するほかは各校に分散しているのだ。この違いが、開成の存在感を押し上げている。

2.通学区域による制限

第二に、制度的要因も見逃せない。

筑駒は通学区域を限定しており、首都圏であっても受験できない地域が存在する。これは国立中学校ではしばしば見られる制限ではあるのだが、筑駒は高校募集でも厳しい学区制限を設けている。同じく国立校である筑波大附属や東京学芸大附属が高校募集では学区制限を設定していないこととは対照的だ。

東京や神奈川に住んでいても、自宅からの通学時間が一定以上かかると考えられる市区町村に在住する受験生はそもそも筑駒を受験できないのである。一方、開成は私立なので、学区制限はない。
その結果、本来であれば筑駒に進学し得た層が、筑駒に次いで二番目に難関の開成へと流入することになる。実際、北関東や神奈川西南部から2時間以上かけて通学する生徒も存在する。

これは単なる志向の問題ではなく、制度によって生じる現象である。関西の灘にはこのような制約がないため、同様の現象は起こりにくい。

「経路の固定化」がもたらす再生産

灘、筑駒、開成とそれ以外の学校でここまで差が開いている要因として、再生産構造も考える必要がある。

数オリに到達するためには、単に個人の能力が高いだけでは不十分だ。数学研究会などのコミュニティの質、指導できるハイレベルな教員や先輩の存在、そもそも挑戦を志向する文化など、学校が持つ要素の影響も受ける。

これらのリソースが蓄積され、活発な土壌が揃っている学校では、新たな挑戦者が自然と生まれる。一方で、そうした環境がない学校では、能力があっても数オリに接続されない可能性が高い。

つまり、「実績を多く出す学校に才能が集まり、さらに実績が再生産される」というループが成立している。

灘、筑駒、開成はこの再生産構造を有する。一度多くの数オリ代表が出れば、以後も代表が出やすくなるのである。

入学時点の「偏差値」に目を向けると、関西では灘、関東では筑駒がトップ。そして関東では筑駒の後ろに開成が単独で続く。歴代数オリ日本代表の在籍校を見てもこの3校の生徒の多さは極端だ。開成は校風や学校の規模、また制度的要因から、筑駒とパイを分け合う存在なのである。その上で、このような現象は関西では見られないということが興味深い。

一方で、近年は新興勢力の台頭もある。塾いらずで高い現役合格率の聖光学院や、共学でキラキラした校風の渋谷教育学園渋谷なども勢いをつけている。
近年人気を取り戻している日比谷や小石川中等などの都立勢にも目が離せない。「開成蹴り」も爆増しているというのだ。

高校ごとの関係性は、制度・地理・文化といった複数の構造要因によって形成される。
その典型例が、数オリ代表校の分布に現れているだけであり、開成の地位は今後も安泰とは言い切れないだろう。