冷蔵庫の中の「ちりめんじゃこ」。
一見なんでもないその小さな食べ物に、Hさんが魅了されたのは中学生のときでした。
顕微鏡をのぞくうちに、生命の不思議、海の環境、そして食料問題や環境経済といった社会課題への関心が広がっていったといいます。
「将来の食料危機には、理系の技術と、文系の知見を社会に応用する力の両方が必要だと思った」
そう語るHさんが選んだのは、京都大学農学部・食料・環境経済学科。
“食べること”への興味が、やがて社会を変える学びへとつながっていきました。
どのようにして、食や生き物への関心が芽生え、京大特色入試の合格へと結びついたのか。
難関大を目指す受験生や保護者がモデルとすべき先輩に迫ります。
プロフィール
Hさん
京都大学農学部食料・環境経済学科 特色入試
共通テスト810点
大阪 天王寺高校出身
研究のきっかけは”ちりめんじゃこ”
農学部出身の父につれられ、小さい頃から山に出かけては、蝶やバッタ、トンボを捕まえて遊んでいたというHさん。
中学生の頃に、 「ちりめんモンスター」という”ちりめんじゃこ”のパックにまざっているイカやエビの存在から、海のプランクトンに興味を持つようになりました。
「ちっちゃい生き物たちがすごいかわいいと思ったんです。」

wikipediaより
中学の自由研究では土の中のプランクトンについて調べ、高校で必修だった探求活動でも、プランクトンの研究をつづけます。
「研究担当の生物の先生が微生物を専門にしていたこともあり、『プランクトンの研究をやりたい』と相談しました。学校の繋がりから天王寺動物園の水をもらえることになって。そこで、天才的な閃きがあって、『プランクトンを水質の指標生物にできるのでは』と思ったんです。」
「水質の指標生物があるじゃないですか。蛍がいたら水がきれい、みたいな。それをプランクトンでもできるんじゃないかという研究をしました。」
生物の先生が阪大の先生も紹介してくれ、研究を見てもらえるようになりました。
研究が進むにつれ学会発表を勧められ、高2の2〜3月ごろは毎週末のように学会に参加。ポスター発表だけでも5〜6回経験することに。
最終的には、プリマーテス研究会では優秀中高生ポスター発表賞、化学工学会では奨励賞を受賞することができました。

食料環境学部に惹かれ、京都大学を目指す
京都大学を志望した決め手になったのは、農学部の食料・環境経済学科の存在だと語るHさん。
大学に求めていた条件は、大きく3つありました。
まず1つ目は近さ。関西出身のHさんにとって、親元を離れて下宿していてもすぐ帰れる、何かあったときでも両親が駆けつけられる距離にあることが重要でした。
2つ目は部活動。高校生のときから始めたフィールドホッケー部の女子部がある大学は少なく、ホッケーを続けられる環境は魅力的でした。
そして3つ目は、理科と社会の両方を学べることです。
「もともと理科と社会の両方が好きで、特に歴史では『どんな背景で出来事が起きたのか』を考えるのが好きでした。政治経済にも興味があり、『こういう制度や法律のもとに社会が動いているんだ』と知ることが楽しかったんです。
一方で、父の影響もあって生き物も大好きでした。要するに、論理・仕組みがどのように現象につながるか、理系の技術をいかに社会応用するか、に興味があったんです。」
高校1年生の時には生き物が好きということから、農学部を朧げに志望していました。そこで、京大・阪大・神大のHPで調べるなかで、食料・環境経済学科を見つけます。
農学だけでなく、歴史や経済なども学べて、まさに自分の希望にピッタリの学部だと確信したのです。
推薦受験を具体的に考え始めたのは、高校1年生の冬。単純にチャンスは2倍になるし、ある程度課外活動をやっていた意識はあったと語ります。その時点で実績は十分というほどではなかったのですが、高校2年でも作れると思って戦略的に作れるように努力しました。
食糧危機への不安を志望動機に
京都大学を目指すにあたり、志望動機書に綴ったのは「食料危機」への問題意識でした。
その根底にあるのは「食べることが好き」というシンプルな原点でした。中学時代は給食を楽しみに登校していたほどで、「食」はHさんにとって生きる上で欠かせない側面だといいます。
「新聞で目にした『食料危機』の記事に衝撃を受けました。私にとって食料がなくなるのは大問題でした。
そう思っていた最中、水耕栽培を知った時に『これだ』と思ったんです。限られた土地資源の中で、気候や土地の豊かさ・広さに依存せずに作物を育てられるのは理想的だと考えるようになりました。」
「美味しいものを食べることが好き」という個人的な関心と、「食料危機を乗り越えたい」という社会的課題意識。その二つが重なったとき、この大学で学びたい理由がはっきりと見えたのです。
もちろん、プランクトンへの興味が薄まったわけではありません。ただ、プランクトンに強い研究室がある筑波大学は、実家からの距離もあり断念。
「プランクトンは大好きなんです。でも、プランクトンを集めて顕微鏡で覗くだけなら趣味でもいいかなと思ったんです。一方で、農業とその応用を学ぶのは大学でしかできない。」
このような大学への思いを、志望動機書に落とし込みました。
志望理由書を書き始めたのは9月頃。締切が11月の初めだったため、ギリギリ間に合ったと振り返ります。
面接のない推薦入試
この入試の特徴は「面接がない」点。選考は志望動機書と二次の筆記試験、そして共通テストで8割を取ることが条件。志望動機書は多くの受験者が通過するため、実質的に「勝負は筆記試験で決まる」と考えていました。
志望動機書
大学のHPのほかには、実際にその大学に合格した人の不合格体験記を参考に。「食料・環境経済学科 特色入試」と検索して見つけたnoteから、入学後の授業や研究内容について、実際の学生の感想を知ることができました。
「がんばったことをただ並べるだけではなく、ちゃんとストーリーとしてつながるように、
そう意識しながら書き進めました。将来何がしたいのか、なぜ京大のこの学部なのか、いままでどのようなことをやってきたのか、強みは、全てが一本筋の通るように意識しました。」
仕上げの段階では、学校の先生や塾の先生にも何度か見てもらい、客観的な意見をもとに推敲を重ねました。
筆記試験
筆記試験では、農学部の専門論文が出題されます。
英語の論文なので、英語はもちろん読めなければいけない。小論文を書くために国語の能力も必要ですし、数学も必ず1問出題されます。内容も専門的なので、専門分野についての基礎知識もかじっておかなければならない。さらに、量も多く、「総合格闘技みたいな感じです笑」と振り返ります。
対策としては、1ヶ月前から過去問演習として京大のホームページに公開されている過去問2年分を全て解きました。国語・数学・英語・社会の各教科の先生に添削をお願いし、1週間後に帰ってきたアドバイスを元に解き直しを行います。
また、環境経済学の理解を深めるために、実際に京大の食料・環境経済学科で教鞭をとっている栗山先生の『環境経済学を掴む』という本を軽く読み、背景知識を整理しました。
「加えて、社会は全ての分野が範囲になるんです。私は倫理・政経選択で地理に自信はなかったので、先生にプリントをもらって友達に解説してもらいました。実際の試験でも集約的農業という地理の範囲が出題されたので、やっておいてよかったです。」
「1番大きかったのは、 高校3年の夏にオープンキャンパスへ行った際です。学科長の先生とも話をする機会がありました。そのとき「『Choices』という専門雑誌から課題文が出題されることがある」と聞き、その雑誌にも目を通しました」。

卒業後の進路について
「卒業後は大学院に進学したいという気持ちは、入学前からずっと変わっていません。
ただ、研究テーマについては、大学での学びを通じて少しずつ視野が広がってきました。」
もともとは文献中心の研究に興味がありましたが、実際に授業やゼミで統計を学んでみると、数値を通して現象を読み解く面白さに気づいていきます。今では「統計系のアプローチも取り入れたい」と考えるようになり、自分の研究の幅を広げていきたいと語っていただきました。

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