慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)が2027年度から「多言語能力評価」をAO入試において実施すると2025年3月に発表した。
従来のAO入試(アドミッションズ・オフィスによる自由応募入試)での評価項目に加えて、ドイツ語・フランス語での面接や構想書提出を求めるこの制度。
一見すると一大学の独特な取り組みに見える。しかし、この動きが他大学に波及した場合、日本の教育界に与える影響は想像以上に大きなものになる可能性がある。
慶應SFCという影響力の大きな大学が踏み出したこの一歩が、どのような変化を引き起こすのか。そして、それが高校生や教育現場、さらには社会全体にどのような影響をもたらすのかを分析してみたい。
「多言語能力評価」とは一体?
「多言語能力評価」制度は2027年度のAO入試から導入される。大学側の説明はこうだ。
多言語能力(ドイツ語またはフランス語)を有し、受験時に多言語能力評価を希望する場合は、出願時に「多言語能力評価」に申請することにより、その能力が評価対象となります。
具体的には、書類審査および面接において、入学後の構想を、選択した言語(ドイツ語またはフランス語)で表現できる能力を評価し、その結果を通常の審査対象要素に加えて合否を判断します。提出される言語能力試験の証明書のみで判断することはありません。
この制度は「ドイツ語またはフランス語にて研究を行うレベルに値する言語能力を持った者を歓迎」するという慶應SFCの方針により、高校在学段階でいわゆる”2外(第2外国語)”を履修した学生を対象とした制度のようだ。

高校教育の構造変化
大学入試制度の変化は、必然的に高校教育に大きな影響を与える。現在、多くの高校では第二外国語の授業は選択制で、履修者数も限定的だ。そもそも授業自体がないという高校が大半だろう。
しかし、多言語能力が大学入試で評価されるようになれば、この状況は一変する。
私立の中高一貫校では、既に中学段階からドイツ語やフランス語の授業を必修化する動きが見られている。これらの学校は、6年間の一貫教育を活用して、高校卒業時に相当レベルの言語能力を身につけさせることを目標としている。特に、海外大学進学実績を重視する学校では、多言語教育が新たな「売り」となる可能性が高い。
公立高校の対応はより慎重だが、進学実績向上のプレッシャーから、徐々に第二外国語教育を充実させる動きが出てくる可能性もあるのではないか。ただし、専門教員の確保が課題となるため、オンライン授業や外部講師の活用が進むと予想される。
学生の国際意識と学習姿勢の変化
最も大きな変化が予想されるのは、生徒の進路選択意識だ。
これまで「とりあえず英語を頑張れば何とかなる」と考えていた生徒が、「自分の興味分野に合わせて戦略的に言語を選択する」という発想に変わる。
環境問題に関心のある生徒がドイツ語を、国際政治に興味のある生徒がフランス語を選ぶといった、目的意識の明確な語学学習が増加するだろう。
懸念される課題と格差拡大
一方で、多言語教育の普及には課題も伴う。最も深刻なのは教育格差の拡大だ。首都圏の私立中高一貫校に通う生徒と、地方の公立高校に通う生徒の間で、語学学習機会の格差が拡大する可能性がある。
経済格差も問題となる。語学スクール費用、検定試験受験料、海外研修費用など、多言語教育には相当な費用がかかる。家庭の経済状況により、子どもの進学機会に差が生じることは避けなければならない。
教員確保も大きな課題だ。現在でもドイツ語・フランス語の専門教員は不足しており、需要急増に対応できない可能性がある。質の低い指導が横行すれば、逆に学習効果が低下するリスクもある。
決してよい側面ばかりではない多言語教育。
慶應SFCは一体どんな学生を、どんな試験で選抜するのか。来年5月中旬に公開される募集要項に注目したい。

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