今回は、埼玉の公立中学校から県内模試1位を取り、高校入試では県トップ校と開成高校の両方に合格し、そのまま東大文科一類に現役合格した村瀬理紀さんに取材しました。
東大に入ってからも成績を追い求めるのではなく、「高校そのもの」を研究対象にしてしまった村瀬さん。全国約5,000校のうち1,500校分のデータを独自に集め、「高校マニア・高校マイスター・高校ソムリエ」を自称する、かなり“尖った”東大生です。
この記事では、彼がどのようにして「ただの優等生」から、「偏差値を信じない高校オタク」になっていったのか。そして、その裏側にある親との関わりや、高校選びへのメッセージをお届けします。
習い事まみれの小学生から、県模試1位の中学生へ
村瀬さんの原点は、意外にも「ガツガツ勉強していた子」ではありません。そろばん、習字、英会話、サッカー。とにかく習い事が多い忙しい小学生でしたが、そのどれもを“なんとなく”こなせてしまうタイプでした。
「小学生の頃から計算テストはだいたい1位、漢字100問も満点。家で特別に勉強した記憶はあまりなくて、小5から塾で先取りしていたら、自然と一番前にいる感じでした」
家庭の教育方針は放任寄り。ただし“放置”ではなく、環境づくりとご褒美が中心。
「『100点100枚で3DS買ってあげるよ』みたいなご褒美はありました。実際に2年かけてこれは達成しましたね笑。でも、勉強しろとは言われなかったです。やりたい習い事は全部やらせてくれる感じでしたね」

毎年楽しみにしていた「高校生クイズ」を見ながら、全国の高校名が並ぶ光景に胸が高鳴っていたと言います。ここで“高校”という存在が、うっすらと心に刺さり始めていました。
中学受験で仙台二華中に挑むも不合格。その後、公立中に進学、埼玉に移住。定期テストは常に学年1位で、特別な努力をしなくても勝ててしまう状態は変わりませんでした。
転機が訪れたのは中3。埼玉県の中学3年生、総勢5万人が受ける「北辰テスト」で県内1位を獲得したのです。
「県内1位を取ったとき、『あ、俺ってマジですごいんだな』って思いました。浦和高校とか、県トップの高校にはどうやっても受かるって確信しました」
そこから“遊び心”が爆発。
「東京の一番頭のいい学校を受けて、受かったうえで蹴ったらかっこよくない?って。入るつもりは最初なかったんですけど、名誉だけ欲しくて。都内の私立・国立トップと地元公立トップを全部受けて、全部受かったらおもしろいな、って」
狙い通りの私立全勝。4人兄弟で、公立進学を望む親の本音もありましたが、本人の「どうせなら東京の超ハイレベルな世界を見たい」思いが最終的に勝ち、開成高校に進学することを決めました。
しかし、念願のトップ校に合格した彼に待ち受けていたのは、思わぬ肩透かし。多くの受験生にとっては“雲の上の存在”ですが、村瀬さんの第一印象は、少し意外なものでした。
「入学してすぐの中間テストで、クラス3/50位だったんです。もちろん、周りもめちゃくちゃできるんですけど、『もっとすごい奴らしかいないんだろうな』と思ってたから、ちょっと拍子抜けして、『あ、こんなもんか』って。東京のやつらの方が圧倒的に強いと思ってたので、ちょっぴりつまんなかったですね」
開成には、学年全員が受ける模試があり、その上位100人が名を連ねる「100傑表」が配られます。そこに名前が載っていれば「東大は安泰」と言われるような世界です。学年の一定数が当たり前のように東大に進学し、「東大進学率」は学校文化の一部になっています。
「『学年のかなりの割合が東大に行く』という数字は、正直そこまで驚きませんでした。東大進学実績全国1位なので、多いのは当たり前というか。ただ、その頃から『自分も東大に行くんだろうな』と、自然に東大進学率を意識するようになりました」
高2の夏、突然「高校オタク」に
開成生活にも慣れた高2の夏。ここから、彼の人生は一気に“高校オタク”方向へと転がっていきます。
「開成って男子校で、高1は友達作り、高3は受験で忙しいんですけど、高2がマジで暇なんですよ。宿題もほとんど出ないし、塾もガチで行ってなかった。加えて、中高一貫の部活に途中から入るのって本当に難しくて。中学3年間で強固になった絆に入り込めるわけなくて、だから部活にも入れなくて。
男子校って、どんなキモい趣味を持っててもいじめられないので、みんな勉強以外の何かに尖り始めるんです。僕の場合、それが『高校』でした」
きっかけは、X(旧Twitter)で流れてきた「じゅそうけん」の高校紹介ツイート。
「高2の夏に、じゅそうけんの高校紹介をたまたま見て、『世の中にはこんなにたくさんの種類の高校があるんだ!』と衝撃を受けました。そこから、いろんな高校を調べる沼にハマりました」
夏休みになると、彼は一気に加速します。
「高2の夏に、高校の進学実績や学校の雑学や豆知識を3時間に1回くらいつぶやくボットアカウントを作成しました。有名な高校とか、この県のトップならここだよね、っていう高校を呟いたり。また、200〜300校くらいの進学実績をエクセルにまとめて、東大合格者を出した高校一覧や高校番付も一気に作りました。
過集中気質で、いったんハマると1日8時間くらい平気でやっちゃうんですよ。コロナ禍でもないのに、夏休みほぼ一日中家で高校調べしてました」
実際に作ったアカウント↓

実際に作ったシートの一部↓

全国約5,000ある高校のうち、すでに約1,500校の進学実績をシートに整理済み。東大・京大・医学部医学科の合格者数を卒業生数で割ってスコア化した「高校番付」まで作るほどの徹底ぶりです。
高校番付↓

とはいえ、本人には「やりすぎている自覚」はあまりないと言います。
「趣味の域を超えてる自覚はそこまでなくて、単にトリビアを集めるのが楽しいだけなんですよね。
ただ、周りからは『勉強以外にも尖ってておもろいね』って言われることが多くて、『キモい』も最高の褒め言葉です。承認欲求も満たされるし、いいことしかないです」
偏差値は「存在しない」高校はキャラクター
高校のデータを集め続ける中で、村瀬さんは「偏差値」という概念に強い違和感を抱くようになりました。
「高校の偏差値って、基本的に“存在しない”と思ってるんです。SAPIXオープンみたいに同じ試験を全員が受けているなら、その試験の中での偏差値はわかります。
でも、高校の『偏差値〇〇』って、全国の高校生が共通の模試を受けているわけでもないし、学区や受験者層の違いが大きすぎる。比較対象がバラバラなので、数字にあまり意味がないなと」
その代わりに彼が見ているのは、「高校そのもののキャラクター」です。
「僕は高校を、偏差値や単なる立地で見るんじゃなくて、キャラクターとして見たいんです。
学校案内とか、学校が出している一次情報を読み込んで、『うちの売りはここです!』っていうPRポイントを集めています。
『この学部に強い』『こういう教育理念を押し出している』『こういう地域性がある』みたいな、“高校資料集”を作っている感覚ですね」
特に好きなのは、「地方の新設私立で、じわじわ力をつけている高校」だとか。
「富山の片山学園とか、長野の松本秀峰とか。地方で、東大合格者が『たまに出る』くらいの新しい高校が好きです。生徒集めから進路指導まで全部頑張っている感じがして、そこに惹かれます」
データを追い続ける中で見えてきたのは、「県ごとにまったく違う高校文化」です。
「たとえば高知県だと、私立の方が公立より名門とされていて、『滑り止めが公立』みたいな逆転現象もあります。『地方は中学受験がなくて〜』『公立王国で〜』みたいなざっくりした語りって、全国をちゃんと見てないと簡単に言えちゃうんですよね。
僕はまだ“オタク”の域ですけど、将来的にはこういう“エセな語り”をデータでちゃんとツッコめる存在になれたらいいなとも思っています」
高校の学祭に遊びに行く村瀬さん↓

東大は「全国高校図鑑のリアル版」
そんな高校オタクの彼が、最終的に東大文科一類を選んだ理由も、やはり「高校」でした。
「早慶って、だいたい関東出身者が多いんですよ。でも東大は、本当に全国から人が集まってくる。だから僕にとって東大は、『全国のトップ高校が一堂に会する夢の場所』なんです。
各県トップの高校出身の人と実際に会って、自分が集めた高校情報のファクトチェックをしたかった」
東大生になってからは、「高校の人だ」として一気に顔が広まりました。
「大学1年のとき、いろんなサークルの新歓に行ったんですけど、相手の高校はだいたい知っているので、高校トークで一瞬で仲良くなれました。高校オタクがコミュニケーションツールになって、人脈がどんどん広がりました」
活動は個人にとどまらず、サークルという形にも広がっています。
「大学1年の秋に、『この活動、もっとおもろいことできるぞ!』と言われて、同じクラスの3人で『東京大学高等学校進学教育研究会(東大進学校研究会)』を立ち上げました。今年4月の新歓で部員は45人になりました。
みんな母校愛が強かったり、『偏差値じゃなくて高校の個性を見たい』という理念に共感してくれた人たちです」
実際に東大進学研が出した会報誌↓

見守ってくれた親の姿勢
これだけ尖った活動をしていると、「親御さんも相当教育熱心なのでは?」と思うかもしれません。
しかし、話を聞くとむしろ逆でした。
「そもそも親は、頭がいいタイプではないです。4人兄弟の中で、僕だけが異常なんですよね。
親は『選択肢を与えるだけで、選ぶのはあなた』というスタンスで、勉強しろとも言わないし、高校研究についても、今も何をやっているのかよくわかっていないと思います」
東大関連のテレビ番組に出演したときも、家族で観てくれたものの、反応はあっさりしたものでした。
「『さんまの東大方程式』に出たときも、みんなでテレビは観てましたけど、『それはつまり何なの?』みたいな反応でしたね(笑)。でも、何も口出しせずにただ見守ってくれている、という感じです」
受験校を決めるときも、「数字を見ているのは本人」という前提がありました。
「模試の結果とか共通テストの得点とか、数字でずっと示していたので、親も『東大行けるんだろうな』くらいには思っていたみたいです。早稲田法は共通テスト利用で出せるから受けておいて、あとは東大の勉強時間に全部振る、というのも自分で決めました」
経済的な事情から、公立進学を望みつつも、「開成に行きたい」という本人の選択を最終的に尊重した親。
高校オタクという“奇行”にも干渉せず、「よく分からないけれど見守る」距離感。
このほどよい放任が、彼の“歪まないオタク性”を育てたのかもしれません。
まとめ
最後に、進路に悩む中高生や保護者へのメッセージを聞くと、村瀬さんは真っ先に「偏差値への違和感」を挙げました。
ネットに出ている数字だけで“自称進学校” “この高校だから無理”と決めつけるのは、本質から大きくズレていると言います。全国には、偏差値では語れない魅力を持ちながら、東大合格者を輩出している高校がいくつもあります。
だからこそ高校選びで大切なのは「その学校のキャラクター」。探究活動に力を入れる学校、自由度の高い学校、地域性が色濃く出る学校――学校案内やホームページの“うちの売り”には、その高校が大切にしている個性が必ず現れています。
偏差値ではなく、“ここに通う自分はワクワクできるか”。そんな視点で高校を見てほしい。
村瀬さんはそう語りながら、今日も全国の高校のキャラを集め続けています。
10年後、彼のような高校オタクが、進路選びの新しい常識をつくっているのかもしれません。
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