人生を変えるきっかけは、どこに転がっているのでしょうか? 周りを見渡せば、自分とは違う「特別」な人生を歩む人々の幸せそうな、充実した毎日の様子が流れてきます。SNS越しに見える彼らの人生は、自分とは全く異なるオートクチュールのようで、判を押したように同じ既製品めいた毎日を送る私たちは、ただ指をくわえて羨望のまなざしを送るしかありません。

 ですが、本当に「SNSのあの人」の人生だけが特別で、私たちの人生とは違うのでしょうか? もしかしたら、誰しもが、つまらない日常から一歩を踏み出すきっかけさえあれば、ヒーローになれるのかも。問題は「きっかけ」の作り方でしょう。

このウィークでは、高校生ながら類まれな行動力をもって自らの人生を切りひらいた方にお話を伺います。現在ICU(国際基督教大学)3年生の橋本大輔さん(はしもと・だいすけ 仮名)は、かつて弱い自分と強くありたい理想のギャップに苦しんでいました。鍛えるために始めた柔術は、やがて彼のライフワークとなり、今でも人生の目標として輝き続けています。偶然出会った格闘技との出会いに人生を変えてもらった橋本さんに、「熱中のやり方」について教えてもらいましょう!

ICUへの進学は“自分らしさ”を貫いた選択だった

___なぜICUに進学されたのでしょうか?

橋本:キャンパスが好きだったからです。日本で唯一リベラルアーツを学べる大学で、入学前に専攻を決めたくなかった私にとっては、まさに夢のような環境でした。メジャー(主専攻)とマイナー(副専攻)を決められるので、幅広く学びたい学問に合わせて、時間割をカスタマイズできるのがうれしいですよね。ほかには先輩の勧めもあって早稲田大学の国際教養学部を見ましたが、個人的にはICU一択でした。

___きれいに好みに当てはまったんですね。どうすれば、後悔しない大学選びができるとお考えですか?

橋本:自分が「どう成長したいか」「何を学びたいか」「どんな環境に身を置きたいか」を徹底的に掘り下げることが重要です。

実際、僕自身も大学を選ぶ際に、周囲の評価やネームバリューに心が揺れたことがありました。しかし最終的には、自分が本当にやりたいこと、例えばリベラルアーツ教育で幅広く学びたいことや、自分の意思で行動しやすい自由な校風を求めていたことに正直になって今の大学を選びました。

また、進学後に部活動を自分で立ち上げたり、インターンで教育に携わったりと、「選んだ大学でどう過ごすか」の方がはるかに重要であることを実感しました。大学の名前だけではなく、自分の行動で価値をつくる姿勢が、進学後の納得感や満足度に直結するのだと思います。

だからこそ、後悔しない大学選びをするためには、「人からどう見られるか」ではなく、「自分が何を得たいか」「どこで一番自分らしく挑戦できるか」を軸に考えることが大切ではないでしょうか。

___現在はどんなことを研究されているんですか?

専攻はビジネスで、会計やマーケティング、財務評価、リスクマネジメントなどの基礎を学んでいます。また、個人的に塾に通ってUSCPAの資格を取るために勉強中です。というのも、いつかインドネシアで起業したいと考えているんです。

“自分を変えたい”が、すべての始まり

___インドネシアですか、それはどんな内容で起業されるんですか?

橋本:柔術のジムです。私が、今ほど自信を持つことができたきっかけが「柔術との出会い」にありまして、格闘技を通して人生観が変わった経験を、色々な人に体験してほしいと感じた思いは、今でも私の胸の内で燃え続けています。これは高校生の頃からの夢で、大学でもレスリングサークルを立ち上げて、今では部員80名を超える大所帯にまで成長させることができました。

___柔術は、そこまでメジャーな格闘技ではないように感じてしまうのですが、なぜ柔術のジムなのでしょうか?

橋本:もともと私は、クラシックバレエを習っていたのですが、踊りこそうまいけれど、原始的な「男らしさ」をもたない自分がコンプレックスで、とにかく「強い自分」に憧れがありました。中学1年生の頃、友人の誘いで柔道を始めてから、興味がブラジリアン柔術に発展し、街の道場に通い始めることに。当時は香港に住んでいて、ほとんどの門下生が外国人の中、唯一日本人で柔術を学ぶ私が珍しかったようで、道場を経営している会社の社長には、よくかわいがってもらいました。彼が日本人だったことも、シンパシーを感じさせたのかもしれません。

ある時、向こうの学校で「ワークエクスペリエンス」に参加することになりました。いわゆる就業体験ですが、1カ月間にも及ぶ長期プログラムです。私は仲良くなった道場の社長に頼み込み、彼の会社で働くことに。彼は事業領域が広くて、柔術道場の他に、お米の精米や資源リサイクルなどを手掛けていました。毎日朝7時に集合しては、レストランに訪問して、納品したコメの品質について話し合ったり、警察に柔術を教える会の手伝いをしたり、楽しく就業体験をさせてもらえた。そこから、自分でも経営をやってみたくなりました。

この頃にはすっかり柔術に染まっていて、高校入学前に日本へ戻ってきたころには「柔術をもっと広めたい」と考えていました。柔術は、格闘技ですが、殴られず、競技性が高く、危険性が低いのに、鍛えられて自信がつく最高のスポーツ。私自身、頑張って「強い男」になり、香港では大会優勝するまでに。とても自信がつきました。練習すれば、強くなれるし、試合にも勝てる。努力すれば、自分を変えられる。この経験を、色々な人にしてほしいんです。

小さな成功体験が、自信と未来をつくる

___熱中するほどの努力によって人生を変えられたのですね。橋本さんの場合は、柔術がぴったりはまって、努力にハマることができたようですが、熱中するものが見つからない人は、どうすればいいのでしょうか?

橋本:私の周りにも、熱中するものが見つからない人はいました。熱意を持った経験がない。きっと、努力をして本当に得たい目標にたどり着けた成功例や成功体験がないのでは。自信がないから、一歩踏み出せないのかもしれません。

日本社会には「周りと違うことをするために本気になるのはおかしい」みたいな雰囲気が蔓延している気がします。高校で柔術サークルを立ち上げたときにも、私を取り囲んだのは奇異の視線でした。

つまり、「社会からのプレッシャー」と「努力による成功体験の欠如」が合わさると、何も挑戦できない「熱中できない子」になってしまうのではないでしょうか。

私は、今の自分の活動が、これを乗り越えるきっかけになると信じて、柔術を広め続けています。最初こそ歯が立たないでしょうが、半年もやれば勝てるようになる。この勝利は、きっと輝かしい成功体験として、胸の内を照らす太陽になってくれるはずです。

“違い”に慣れることが、挑戦への第一歩

何かに没頭するのは、何かで成功することが必要でしょう。そのための一番のハードルは、きっと周囲からの目線。私は帰国子女だったので、白い目で見られることに慣れ切っていました。慣れていないのであれば、まずは周りの人と違うことをちょっとずつ、小さなことから、自分を変えることに慣れていけばいいのではないでしょうか。