みなさんは「地方の進学意識が低い」といううわさを聞いたことはありますか?
文部科学省の『学校基本調査』によれば、令和6年度時点で大学進学率は62.3%。しかし、都市部と地方部で大きな差があるのが現状です。同じ学力、同じ学習意欲をもった学生でも、都会生まれか否かで、進学結果に大きな差が生じている可能性がある。
確かに、地方部の大学進学率は低く、進学先も大半が地元の国公立を選択する傾向にあります。上京する方は少数派で、後ろ指を指されながら都会へ赴く。そんなイメージを持っていた方も少なくないのでは。
今回取材班は、同じ地方といえども、それぞれの県によって、上京や大学進学への意識は異なるのではないか、といった仮説の元に2名のインタビューを行いました。しかし、そこから見えてきたのは「終わりつつある地方に見切りをつけつつある現役世代」のリアル。全く出身の異なる2名の交錯する本音からは、都会へ進学する学生たちの等身大の姿が描き出されていました。もはや地元の国公立進学は、人生を詰ませる選択肢になりつつある。都会に進出する人々の本当の動機について伺います。
○地元には仕事がない
今回お話を伺ったのは、青森県出身で早稲田大学に通う現役大学3年生の田中宗明(たなか・そうめい)さんと、新潟県出身でMARCHの一角に通う現役大学3年生の高橋みゆ(たかはし・みゆ 仮名)さん。
2人とも、大学進学を機に東京へ進出した上京組ですが、その動機は全く異なるところにありました。田中さんは「地元産業に見切りをつけた父からの勧め」に従って東京へやってきたのに対し、高橋さんは「田舎特有の近すぎる距離感と、選択肢の少なさ」に見切りをつけ、上京に踏み切ったのです。
田中さんの地元・十和田市は人口減少が止まらず、町の事情に詳しい父から「今後この町で食っていけるのは30年が限界だろう」と話をされたのがきっかけだそう。産業の基本単位である人がいなくなり、増加(=成長)の見込みもないことから、地元に残るメリットよりもデメリットの方が大きいと判断したのだとか。そこで、「どうせ地元を出るならば、一番市場規模として大きい東京に進出したほうがいいのでは」と考え、東大志望になりました。惜しくも一歩届かず早稲田大学に通われていますが、その選択に後悔はありません。
一方高橋さんは、地元の産業事情とは全く別で、人間関係の付き合いの濃さに辟易して東京へやってきました。「○○さんの家の息子さん、大学受験で失敗したらしいですよ」「○○さんのおうち、どうやら旦那さんとうまくいってないみたいですね」など、家族間のプライベートな情報すらも一瞬にして町内に出回る閉鎖的な環境。ふとした自分の行動が、あっという間に筒抜けにされるプライバシーの無さ。さらに、少子高齢化の影響から高校の選択肢も減り、放課後に友達と遊びに行く場所も、塾の選択肢もない。仮に街のほうへ出たければ、親に頼んで車の送迎をしてもらう必要が。こういった窮屈さに見切りをつけるのも無理はない話でした。
高橋さんの通っていた偏差値60程度の公立高校からは、地元の国公立である新潟高校を選択する方が大半。東大京大レベルならともかく、一段落ちる国公立を志望すると「そんなとこ行くなら、新潟大でいいんじゃない?」と止められるそう。中には「新潟大に変えるなら、車買ってあげるから」と説得された方もいたとか。
ですが、そうして新潟大に進学した彼女の同級生たちは、今になってその選択を後悔する羽目になりました。地元のエリートコースたる新潟大学に進学したならば、大きな会社に就職して、故郷に錦を飾りたい。でも、地元新潟には目立った大企業が少なく、当然席もわずかしかない。東京や大阪など大都市に来れば席はありますが、今度は「新潟大卒」の威光が効果を発揮しない。なんなら、かつては日陰者だったMARCHや関関同立など都会の私立組のほうが、就活カードとして強くなっている。今になって、座るべき椅子の少なさに気付いてしまった同級生から「就職先がない」と相談されるのだそうです。
○進学意識は意外と低くない
気になる進学意識の差ですが、意外にも「進学反対派は少ない」という結果に。
田中さんの場合は、早稲田に受かったと報告すると、友人、学校の先生方、親戚一同全員が「おめでとう!」と言って祝福してくれたそう。もちろん、「最終的には地元に帰ってきなさい」みたいな圧力も感じることなく、大手を振って上京できたとか。ただ、彼の祖父母からは「いつか地元に帰ってくるよね?」といった雰囲気を感じたそうですから、世代によっては「地元信仰」が残っている可能性があります。東京に行って東京で働き口を見つけて自立を促した彼の両親とは、対照的です。
高橋さんも、親から反対されることはなかったそう。彼女の母も、地元新潟から東京の大学へ進学した過去を持ち、その際に両親(高橋さんにとっての祖父母)から猛反対を受けたことが、自分を引き留めない理由になったのかもしれないと振り返っていました。肝心の祖父母ですが、こちらも特にお咎めなし。高橋さん曰く「祖父は学歴や大学のネームバリューにこだわる側面がある」そうで、MARCHの威光があったから、東京行きも反対されなかったのではないかとのことでした。東京の私立の立場が弱いのは、地方高校の内部に限る話なのかもしれません。
○「女に学は必要ない」は過去の話
かつては「女性に学は必要ない」なんて話もあったようですが、それも今となっては過去の話。田中さん、高橋さんともに性別を理由に差別されることはなかったと答えています。
特に、田中さんからは興味深い話が。むしろ「女の子だからこそ、進学すべき」といった雰囲気を感じていたそうなのです。地方都市では、建設など力仕事の労働需要は残っていますし、長男なら実家の家業を継ぐ選択肢も残っている。ですが、女性だと働き口があまり残っておらず、結婚して主婦になるとか、数少ない事務仕事の口を見つけるかしかない。
結局、地方都市ではキャリア形成に行き詰まる未来が見えているため、むしろ東京など大都市に行って選択肢を広げるべきといった考え方が一般的だったようです。もちろん、彼の通っていた学校は進学校だったことも大きな理由になるかもしれませんが、少し進学校になると県外に出そうとする雰囲気を強く感じていたのだとか。
○まとめ
上京に至った理由は全く異なる両者の話でしたが、現在に至るまでの結論を聞く限りでは、「地元に残る選択肢の意外な落とし穴」が見えてきました。地方の少子高齢化、人口流出が止まらない現状を鑑みるに、地方産業の成長余地は、どんどんすり減っています。何かしらのブレイクスルーがない限り、この動きは今後も継続するでしょう。
大学は、研究機関です。ですが、大半の人々にとって、よい大学に行く動機は、「一流企業に就職したいから」でしょう。となれば、一流企業に就職できる可能性が低い選択肢は、いくらネームバリューがあろうとも、キャリア形成にとってマイナスの作用を引き起こすのではないでしょうか。
今回、2人のお話から見えてきたのは、衰退する地方のリアルと、地方大学進学者の選択肢の少なさ。地方の高校の進路指導室という閉鎖された空間では、地元の国公立が神のように崇められているのかもしれませんが、実はその先に未来はないのかもしれない。そして、進路指導の先生方も、地元進学を勧める親兄弟、親戚も、みんな人生の終わりまで面倒を見てくれるわけではありません。
もはや地方大学進学に明るい未来はないのでしょうか。こんな時代だからこそ、周囲の圧力に屈さず、「行きたい大学」を叫ぶ勇気が求められます。





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