「受験勉強なんて、できればやりたくなかったんです。」

大阪大学経済学部1年の前田一成さんは、そう笑いながら話してくれました。
共通テストでは871点を取り、一般共通テスト利用で申し込んだ同志社・上智・明治など併願校にもすべて合格。それでも彼は「受験が大嫌いだった」と言います。

彼の高校3年間は、“勉強”よりも“探究”に熱中した時間でした。
生まれ育った和歌山県新宮市をどうにかしたい――そんな思いから始まった活動が、結果的に阪大合格へとつながります。受験がゴールではなく、学びの通過点として「地域を変える」ことを選んだ高校生。地域のヒーローのたまごである彼の3年間の軌跡をたどります。

自分の興味が、まちを照らす光に変わった

高校1年の秋、前田さんはそれまで続けてきたサッカーを辞めました。コーチである父に認められるためだけに、ひたむきに取り組んでいた彼にとって、父のいない高校のサッカー部はあまりやる気がでなかったそう。今まで熱心に取り組んでいたものがなくなった喪失感と時間の余白の中で“自分が本気になれること”を探すように。

生徒会に入り、企画をどんどん立ち上げ、主催していきました。最初の挑戦は「バレンタインランタンFes」。タイの祭りを参考に、夜空にランタンを飛ばす企画を生徒会で立ち上げました。その光を見上げる人たちの表情を見て、人を笑顔にさせる、活気づけるイベントの素晴らしさを知ったといいます。

「最初はただ単純に自分の興味でこういう企画を始めたけど、このようなイベントをもっと活発に行って自分の周りだけでなく、地域全体を盛り上げたい!!」という気持ちが芽生え始めたそう。

学内でのバレンタインランタンfes終了後、さらにレベルアップした「七夕ランタンFes」の企画も決定しました。前田さんが自分たちの行っている企画について、美容室で雑談をしたところ、地域の青年会のメンバーであったその美容師さんが興味を持ってくれ、その流れで地域とのコラボイベントも決定しました。新宮商工会議所青年部主催の「和傘の灯り2023」とコラボできることに。高校生が大人と並んでまちづくりに関わる姿は、地元で大きな注目を集めました。

好きなことを通して気づいた違和感

「和傘の灯り2023」を無事成功させた前田さんにはとある疑問が残りました。

「自分は地域振興のためのイベントをやっていたつもりだったけど、これで地域の現状は何も改善されていない。自分がやっていることって本当に地域活性化に繋がっていたのか?」

確かに、イベント自体は多くのお金や労力をかけて成功させたけど、自分が地域振興に貢献できている実感は全くなかったそう。そこで、やみくもに取り組んでも意味がないと気づいた前田さんは「地域活性化」の定義を決めるために、新宮市の現状分析を始めました。

市内の高校3年生に向けてGoogleフォームでアンケートを行ったり、「くまのこどもサミット」という市内の中高生が熊野の文化・魅力・課題について話し合うイベントに登壇するなど、複数の手段で情報収集を開始。

イベントを通じて立初創成大学設立準備団体の方々から連絡をいただき、業界の人との人脈もできました。

その方々からも力を借りつつ、分析を進めていた時、前田さんの目に留まったのは、地元・新宮市にある世界遺産「熊野古道」です。観光地としての知名度があるにもかかわらず、地域全体が活気を失っている現状に疑問を感じました。

「せっかく世界遺産があるのに、誰もそれを活かしていないと気づいたんです。だったら自分が動いてみようと思いました。」

自分の「好き」を社会に生かすために

 地域を盛り上げたいという思いから始まった活動は、いつしか「地域の構造を理解したい」という探究心に変わっていきました。

立初創成大学設立準備団体の方から誘われ「熊野円卓会議」に参加。さらにアップデートした自分の現状分析を発表。自身の研究を見直すきっかけにもなりました。

 高校3年の夏、前田さんはそれまで阪大理学部志望だった進路を阪大経済学部へと切り替えます。理由はシンプルでした。

「地域の課題を考えるうえで、経済の仕組みを知らないと本質的な解決にはつながらないと気づいたんです。」

 そう語る彼の決断には、これまでの探究がしっかりと根を張っていました。イベントで人を動かすだけではなく、なぜ人が動かないのか、その背景にある経済的要因や人口構造を“データ”で見つめ直す。高校生の段階でその発想に至ったことこそ、探究活動の成果といえるでしょう。

当日の試験の様子

迎えた大阪大学の面接当日。会場の机の上には、3枚のプラカードが置かれていました。
そこには「需要曲線」「多数決の問題点」「103万円の壁」という3つの経済トピック。
「どれか1つを選んで説明しなさい。」という指示が試験官から出されました。
いきなりのスピーチに少し驚きながらも経済用語対策は十分に行っていたので、堂々と話すことができました。

その後は志望理由書をもとに、教授から「具体的に経済学を学んでどう活かすのか」「セン(アマルティア・セン)はベンガル大飢饉をどう評したか」「“ケイパビリティ”とは何か」といった質問が続きました。問いの深さは大学レベルでしたが、前田さんは落ち着いて、自分の言葉で答えたそうです。

 「教授たちはずっと穏やかで、笑顔で頷いてくださっていました。反応は読み取れなかったけれど、自分の言いたいことはすべて出し切れました。」

 特別な面接練習は一切せず、準備は学校の教室で友人と行ったディスカッションが2回だけ。

 「台本通りにそれを暗記するより、自分の頭で考えてその場で話した方が自分の良さも生きるし、伝わると思ったんです。」

 “想定外の問いにも、自分の考えで立ち向かう”。その姿こそ、まさに推薦入試で評価された前田さんの強さでした。


前田さんの実際の志望理由書はこちら↓↓↓

 私が貴学を志望する理由は、 貴学経済学部の最先端の環境で学ぶことで、 経済・社会現象を捉える知識と数理的分析ツールを修め、 故郷である和歌山県新宮市、 ひいては全国の過疎地域と呼ばれる地域を活性化させるためである。

 私の故郷の新宮市は、アクセスの悪さや大学がないことによる学生の人口の社会減などから急速に人口を減らしている。世間では、「コンパクトシティ」を旗印に過疎化が進む地方都市の再構築が進む。 私の故郷はまさにこの政策によってコンパクトに集積される側であろう。しかし、経済的効率の中心の政策は私たちの生活を豊かにするのだろうか。

 私たちの青春は、 新型コロナウイルス感染症により不要不急と呼ばれるものとなった。 感染予防のため、旅行やスポーツ、対面での娯楽は全て失われた。私たちに求められた安全と回避の暮らしは果たして「豊か」だったのだろうか。新型コロナウイルス感染症は、我々に経済的効率だけでは測れないある種の「無駄」 こそが豊かさだと教えてくれたのではないか。その人が住みたい場所で便利に住めることこそがこの国を豊かにするのではないか。

 地方創生の成功モデルとして、 兵庫県明石市や千葉県流山市がよく挙げられる。いずれも、政策により転入人口の大幅増を成し遂げた自治体だ。だが同時に、これらの自治体は主要な経済圏に属しており、 ベッドタウンとしてポテンシャルがあった自治体でもある。すなわち、私の故郷のような地理条件や規模の自治体が地域創生を成し遂げれば、それは全国の過疎自治体のソリューションとなりうる。

 私の故郷には、 衰退に危機感を持ち様々な取り組みを行う人たちがいる。だが、その中には経済学の知識を備えるスペシャリストがおらず、 問題の根本的解決には至っていない。 私は、 高校時代に培った行動力と故郷への熱意に加え、 経済学の専門的知識を強力な武器として身につけ、新たな観点から地方創生を成し遂げたいと考えている。

“好き”を信じて動く力が、これからの時代をつくる

「勉強をしていない自分を見て、親が心配しているのは分かっていました。でも“好きなことを続ける姿勢”を見守ってくれていたと思います。」

そう語る前田さんの言葉には、信頼と主体性のバランスがにじみ出ています。
現在彼は、同じ志を持つ仲間たちとともに「Think新宮」という学生団体を立ち上げました。
「地域活性化を“仕組み”にしたかったんです」と前田さんは言います。

教育・観光・まちづくりなどテーマを限定せず、地域に関心を持つ若者が自分のやりたいことをプロジェクトとして形にしていく。SNSを通じて活動は広がり、行政や大学関係者との新たな協働も生まれました。

こうした一連の歩みは、保護者が安心して「信じて待つ」姿勢と、子ども自身が自分の“好き”を信じて動き出す力、その両方があって初めて成り立つものです。

受験勉強だけにとらわれず、興味や探究心を原動力に社会と関わる力を育てていく
――それこそが、総合型選抜が本来求める“学びのあり方”ではないでしょうか。

 そして、前田さんのように、自分の“好き”を信じて動き続ける若者こそが、これからの時代の“NEWヒーロー”なのかもしれません。