みなさんは大学の学部・大学を選択する際に、どのような要素を重視するべきだと思いますか?

 リクルート総研の調査によれば、大学や学部の選択の要因としては、男女ともに「希望する学部や学科があること」「就職活動に有利であること」が上位にランクインしています。

 大学生活の醍醐味の一つは、自分の興味分野に合った学問に打ち込めることです。興味を持てる勉強ができるかどうかは、4年間を充実させるために欠かせない条件と言えるでしょう。

 多くの場合、最終的には大学だけなく「学部」の選び方も非常に重要です。とはいえ、多くの学生は学部を「なんとなく」で決めてしまう傾向があるのが実情です。

 日本の教育では、高校時点で大学の学問を本格的に先取りする機会は少なく、よほど強い意志がなければ大学の専門分野に触れることは難しいのが現状です。

 そのため、「就職に有利そうだから」「将来稼げそうだから」といった理由から経済学部や工学部を志望する人が集まる一方で、「お金を稼ぐことには直結しないのでは」と思われがちな人文学系の学部は敬遠されやすい傾向があります。

 しかし、実はこれは完全な間違いである可能性が高い、というのが最近の研究で明らかになってきています。

 この記事では、学部選択が生涯年収に与える影響について深掘りしていきたいと思います。

「経済学部=稼げる」は間違い?

 では実際に、大学でどの学部を選ぶかが将来の年収にどの程度影響するのかを見ていきましょう。経済教育学の研究に基づくと、必ずしも「学部=年収」という単純な図式は成り立たないことが明らかになっています。

 大藤(2021)の研究によれば、大学の学部専攻による年収水準の差は統計的にほとんど有意ではありません。分析の結果、年収に対して明確な影響を持つ専攻は「女性の工学部」と「男女の薬学部」に限られていました。他の学部については「文系は不利」「理系は有利」という通説を裏づけるような決定的な差は見られなかったのです。

 むしろ年収に影響を及ぼす要素として大きかったのは、大学時代の課外活動や卒業後の経験でした。具体的には、サークル活動への参加(男女ともに有効)、入社後に専門性を獲得した経験(男女ともに有効)、そして男性に限っては留学経験がプラスに働いていたとされています。こうした活動や経験のほうが、学部専攻よりもはるかに年収を左右するという結果は、日本の就職慣行ともよく一致しています。

 加えて、大学の設置形態や学歴の段階も重要です。国立大学に進学したかどうか、修士課程を修了したかどうかは、いずれも有意に年収へ影響していました。つまり、学部名そのものよりも「どのような大学で、どのレベルの学位を得たか」「そこでどのような経験を積んだか」が重視される傾向が強いということです。

 このことから、文系学部は就職や収入で不利になるというよく耳にする説は、少なくとも日本においては統計的には間違いであると結論づけられます。実際、文学部出身者が金融業界に進むことも珍しくありませんし、逆に理系学部を卒業しても専門外の職種に就く人は多いのが現実です。学部の選択だけで人生の収入格差が決まるわけではない、というのが研究から見えてきた実像です。

 ちなみに、アメリカなどでは就職活動に自身の専攻がもろに関わるので、有意な差があるとのことです。

日本の就活と「ガクチカ」

 少し補足を入れておくと、やはり「ガクチカ」はとても重要な可能性があるというのが有力です。多くの学生は、大学3年から4年にかけて就職活動を行います。もちろん中には在学中に起業する人もいますが、それはごく少数です。大多数は卒業後に企業への就職を選びます。

 このとき日本の就活で非常に重視されるのが「ガクチカ」、すなわち「学生時代に力を入れて取り組んだこと」です。大学での専攻分野よりも、部活動・サークル・アルバイト・ボランティア・ゼミ・留学といった経験が重要視されます。企業はそれらの経験を通して培われた社交性やリーダーシップ、主体性を評価するのです。そして、先ほどの話に戻りますが、どんな学部に行ってどんな勉強をしているとしてもあまり関係なく、「ガクチカ」の方が重要だというのが現在の日本の現実だと言えます。

数学は学んでおくべき?

 学部選択そのものの影響が小さいからといって、学力や基礎知識の差が意味を持たないわけではありません。特に「数学」に関しては、その習熟度が将来のキャリアや収入に影響する可能性が示されています。

 浦坂(2014)の研究では、有名私立大学3校の経済学部出身者約7,000人を対象に、「大学受験の際に数学を選択したかどうか」がその後の年収に影響を与えるかを調査しました。結果として、全体の15%ほどしかいなかった数学受験者は、大学においても全般的に成績が優秀で、年収も非受験者に比べて平均で500万円ほど高かったのです。さらに、1983〜1999年に大学を卒業した人に限定すると、数学受験者と非受験者の間で約100万円の年収差が確認されました。

 もちろん、これは「数学を勉強すれば必ず収入が上がる」という単純な話ではありません。研究が示しているのは、数学を避けずに学んできた学生は学習意欲や論理的思考力が高く、それが大学でも社会に出ても成果に結びついている、という点です。

 つまり「数学が苦手だから文系を選ぶ」という消極的な学部選択は、短期的には楽かもしれませんが、将来的には数学的能力の不足によって仕事で困難に直面するリスクを高めることになります。学部選びそのものは年収に直結しないにせよ、基礎的な数理的リテラシーは現代ビジネスにおいて不可欠な能力として求められているのです。

「学部=将来の収入」とは結びつかない

 今回の記事では、大学の学部選択が生涯年収に与える影響について取り上げ、よく語られる「文系は不利」「理系は有利」といった俗説を検証してきました。引用した大藤(2021)の研究によれば、専攻による年収差はほとんど統計的に有意ではなく、明確な影響が見られたのは女性の工学部と薬学部のみでした。それ以外の学部については、「選んだ学部が直接的に収入を左右する」とは言えないことが示されています。

 一方で、サークル活動や入社後の専門性獲得、留学経験といった「大学生活の過程で積み重ねる経験」のほうが、むしろ賃金水準に強く影響していることが明らかになりました。つまり、学部の名前や専攻分野そのものではなく、大学時代にどのように過ごし、どのような力を身につけたかがその後のキャリアに直結しているのです。

 もちろん、この手の研究は調査対象や条件設定によって結果が変わる場合も多く、逆の結論を導く研究が出てくる可能性もあります。しかし、少なくとも今回紹介した結果から言えるのは、過度に「学部=将来の収入」と結びつけて考える必要はないということです。

 結局のところ、学部選択で最も大切なのは「自分の興味のある分野に没頭できるかどうか」です。関心を持って学びに取り組めば、その経験は就職活動における「ガクチカ」としても生き、社会に出てからの成長にもつながります。結果として、収入面にも好影響を及ぼす可能性が高まるのです。

 「将来のためにどの学部が有利か」ではなく、「自分は何を学びたいか」。その問いに真剣に向き合うことが、最終的にキャリアや人生を豊かにする近道だと言えるでしょう。

引用文献

・大藤修史. (2021). 大学以降の属性変数を考慮した専攻賃金プレミアムの実証分析 (Doctoral dissertation, Waseda University.

・浦坂純子. (2014). 文系・理系どっちが得か—所得比較を中心に—. 電子情報通信学会 通信ソサイエティマガジン, 7(4), 256-263.).