今回は、かえつ有明中・高等学校で勤務されている特別研究教員の前田圭介(まえだ・けいすけ)先生にインタビューをしました。

 前田先生は、東大教育学部卒であり、東京大学院教育学研究科比較教育社会学コース修士課程を修了した教育のプロです。そんな先生に、今の時代の生徒との接し方についてお話を伺っていきます。

令和だからこそ、先生が「思考実験」を教える理由

ーーー本日はよろしくお願いします。まず、前田先生は学生向けに「思考実験入門」という新書を作られていると思うのですが、これについて少し教えてください。

「ありがとうございます。この本は、思考実験・つまりトロッコ問題やテセウスの船など、さまざまな『答えの出ない問い』を一冊にまとめたものです。

 もう少し詳しくお話しすると、そもそもこの本を出そうと思ったのは、小さいときからスマートフォンに触れて、学校でもタブレットを使った授業を行うのが当たり前になった令和の時代の生徒たちは、『答え』を簡単に求めてしまって、『考える』という時間が奪われているように感じたからです」

ーーー考える時間が奪われている、ですか。

「はい。今の生徒たちはすぐにGoogle検索を使って、情報にアクセスします。わからないことが出てきたら、ChatGPTを使って答えを出します。こうしたツールを駆使する能力は非常に高く、先生である自分でも、追いつけないと思う瞬間も多いです。

 しかしその分、『粘り強く考えること』が苦手になっている場合が多いです。1つの問題に対して向き合う時間が少なく、あまり自分で考えずに答えを出した気になってしまう生徒の数が大きく増えています」

ーーー確かに、昔だったら単語がわからなかったら辞書で調べていたけれど、今はスマホで調べれば10秒もかからず検索できてしまいますもんね。辞書で調べながら『これってどういう意味なんだろう』って考える時間は無くなってしまったように感じます。

「これは私の持論ですが、生きていくうえで『答えのない問い』に対して考える時間を持つのは、とても重要になってくると思います。『自分はどう生きるべきなのか・どんな進路に進んでいくべきなのか・幸せになるにはどうすればいいのか』など。

 生きていくうえで重要になってくる問いのほとんどには『答え』は存在しておらず、その『答え』を考えるまでに費やした時間が、自分の価値観として育っていくのではないでしょうか。

 しかし、今の生徒たちはその『答えのない問い』に対して、粘って考えるという経験が少ない場合が多いです。この状態だと、人生の中で重要な選択をする際や、困難な状況に陥ったときに、『粘り強く考える』ことができなくなってしまうのではないかと思っています。」

ーーーなるほど。だからこそ「思考実験」なんですね。答えがない問いを考える訓練をしてもらおうということですね。

生徒とのコミュニケーションの仕方とは

ーーー生徒とコミュニケーションを取る際にどのようなことに気を付けているかお聞きしたいです。

「生徒から話しかけられたり相談を受けたりしたら、できる限りそちらに注力して話を聞くように心がけています。具体的な解決策を提示しなくても、ただ聞いてあげることで生徒の中で勝手に解決していく悩みや問題は意外とあります。職業柄アドバイスをしたくなってしまうのですが、アドバイスモードに入らず生徒の気持ちを受け止めてあげることで、生徒との信頼関係を徐々に築いていけることもあります。

また、自分から教員に相談しに行くことが苦手な生徒もいます。そこで、授業中に回収するプリントに時折自由記述欄を設けるようにしています。ここには『授業や勉強に関係ないことも記入していいよ』と生徒に事前に伝えているので、生徒の最近の流行や悩みを知ることもできます。次の授業の仕掛けの参考にできるので、何かと役に立っています。」

ーーー同じ学校でも様々な生徒がいると思います。生徒それぞれの強みをどのように活かしていますか?

「学校の勉強と直接関係ないことを突き詰める生徒は、どの学校にも一定数いると思います。新学期のクラスで自己紹介シートを書いてもらった時、プラトンの国家の理想の政治体系について聞いてきたり、世界五分前仮説について熱く語ってきたり、初対面なのに随分とエッジの利いたことを書いてくる生徒もいました(笑)。

そういった特定の興味がある生徒は、関心事に対して我々教員よりも専門家だと考えているので、私はあまり邪魔をしないようにしています。ただ、その興味分野に対する見方を多面的にしてあげる手伝いはできるので、様々な学問をどうにか生徒の興味分野に繋げられないか苦心することもあります。」

ーーー「特に自分の興味がない」という生徒に対してはどのようにアプローチしていますか?

「今は興味がなくても、いずれ何か見つかると思うので、中高の時点では面白そうな餌をまいてあげるようにしています。例えば、外部の大人と積極的に繋いであげることで、生徒が興味を見つける機会を増やすことができますよね。学校の中だと『先生』という大人像しかいませんが、生徒も外部の大人の話ならより興味を持って聞いてくれているような気がします。

外部の大人と生徒を繋げられるかどうかは、先生自身が持っているコネクションの広さに依存してしまいます。なので、学校外の人ともたくさん関わっていく先生が今後さらに増えたら、学校教育はもっと面白くなるのではないかと思います。」

自分の王国を作る先生たち

ーーー教員は業務量が多いというイメージがありますが、前田先生はどのように仕事と向き合われていますか?

教員は、プライベートが侵食されやすい職業であることは確かです。学校や先生によってもちろん差はありますが、17:00に退勤といわれても、生徒から急に相談されたら断れないものです。一つ一つの相談事やトラブルに誠実に対応しようとした結果、辛くなる場面もあります。

また、真面目な先生ほどクラスの規律を乱さず統率しようと意識し、自分の王国を築くようになってしまいます。生徒も先生も人間なので、一人の担任に対して生徒全員の相性が合うわけがありません。クラス担任制を廃止した学校も話題になっていますよね。なので、学年や分掌などでチーム意識をもって、先生同士で相談したり情報共有したりすることで、先生・生徒の両者が様々な相談先のチャンネルを持てて教育活動がスムーズになると感じています。

先生こそ勉強を続けなければならない

ーーー最後に、前田先生の思いについて教えてください。

「最近は、学校という組織の中で自分が何を求められているのか考える機会が増えました。特に高校生の進路相談を数多く受ける中で、自分はキャリアカウンセリングみたいなことが得意なんだな、とも感じています。今はその強みを突き詰めたら面白いのではないかと思い、研鑽を積んでいる最中です。

『数年前に勉強し終わったので、もう勉強しなくていいです』というような教員に生徒は教わりたくないはずです。まずは自分が学び続ける存在になり、昨日の自分よりも一つ引き出しが増えているように心がけていれば、生徒にとって良い影響を及ぼすことができる教員になれるのではないかと思っています。」