英検の価値は急上昇している

 かつては「英検なんて取っておいて損はない」程度の資格に過ぎなかった英検が、いまや進学・受験の世界で“分水嶺”になりつつあります。

 その背景には、2020年の教育改革以降、英語教育の評価基準が大きく変わったことがあります。「読む・書く・聞く・話す」の4技能を重視する方向へとシフトしたことで、大学や高校の入試制度の中でも、英検の活用が急速に広まりました。

 現在では、英検の級によって入試で加点されたり、英語試験が免除されたりする大学が増えています。一般入試だけでなく、総合型選抜ではもっと顕著で、「英検2級以上が出願の条件」の大学や、「準1級がなければ書類審査を通らない」という大学も存在します。

 つまり、英検の有無が進学機会そのものを左右する時代になっているのです。

 ところが、この「英検の取得」をめぐって、全国で驚くほどの地域格差が広がっています。東京では中学生の約半数が英検3級以上を取得している一方で、地方では2割にも満たない県が複数存在します。こうした差は単なる「英語力の差」ではなく、制度・情報・文化の格差が複合的に生み出す“令和型の教育格差”=英検格差として現れています。

 今回の記事においては、そのことについて考察を深めていきます。

英検取得率ランキング

 文部科学省のデータによると、令和6年の全国の中学生における英検3級以上の取得率は27.8%。中学3年生約96.5万人のうち、約23.5万人が英検3級以上を取得しています。

 しかし、この数字の内訳を都道府県別に見ると、地域による格差が非常に大きいことが分かります。

 取得率ワースト上位は以下の通りです(20%以下の都道府県を出しています)。

順位

都道府県

取得率

47位

宮城県

14.3%

46位

島根県

14.9%

45位

新潟県

16.9%

44位

愛知県

17.5%

43位

北海道

17.6%

42位

富山県

18.4%

41位

香川県

18.6%

40位

長崎県・奈良県

19.9%

 逆に30%以上を超える都道府県は下記の通りです。

順位

都道府県

取得率

1位

福井県

78.8%

2位

東京都

43.5%

3位

群馬県

39.1%

4位

埼玉県

34.3%

5位

熊本県

33.4%

6位

石川県

33.3%

7位

茨城県

31.1%

8位

徳島県

30.8%

地域差の背景にある3つの要因

 さて、ここから見えてくる格差について考察してみましょう。

① 関東圏の教育意識の高さ

 東京都・群馬県・埼玉県といった関東近郊では、全国平均を大きく上回る英検取得率が見られます。そしてその背景には、単に教育投資の文化・情報流通の充実などの違いがあると言えるでしょう。

 (1)教育への「投資意識」の高さ

 首都圏の保護者は、学習塾・英語教室・オンライン英会話などへの支出が全国平均を大きく上回っています。文部科学省の「子どもの学習費調査(2023)」によると、東京都の中学生1人あたりの年間学習費は約65万円と、全国平均(約48万円)を17万円以上も上回ります。

 この「教育はコストではなく投資」という発想が根付いており、英検のような資格試験に対しても早期から積極的に取り組む家庭が多いのです。

 英検は「合格」という明確な成果が得られるため、投資のリターンを感じやすいという特徴もあります。「子どもの努力が形として見える」ことが、親の継続的な支援を促す好循環を生み出しています。

(2)情報環境の充実と進学意識の高さ

 関東圏では、教育関連の情報が圧倒的に手に入りやすいという利点があります。

 大学附属校や進学塾が密集しており、英検・TOEFL・TEAPといった英語資格が高校・大学入試でどのように評価されるかを、親や生徒が正確に把握できる環境があります。

 例えば、早慶附属校や都内の進学校では「英検準1級で推薦枠が有利になる」といった情報が説明会で共有され、保護者の行動にも直結します。

 地方ではこうした最新情報が学校現場まで届くのに時間がかかる傾向があり、その差が結果的に“情報格差”=“英検格差”を生んでいます。

 以上のような要因によって、関東圏とそれ以外の地域での英検の格差が生まれていると言えます。

② 自治体による支援制度の有無

 例えば、北陸の中でも福井県78.8%・石川県33.3%と、かなり取得率が高いのに対し、同じ北陸の新潟県は16.9%、富山県では18.4%となっていてかなりの差があります。地域の中でも、英検などの資格試験に対してその重要度を自治体がどれくらい把握して支援をしているのかによって大きな差があります。

 石川県の中でも、宝達志水町では「宝たち検定チャレンジ事業」というものが行われています。これによって、英検をはじめとする各種検定において、検定料の補助及び上級に合格した児童生徒の表彰が行われ、中学1年生の「英検5級」受検・中学2年生の「英検4級」及び中学3年生の 「英検3級」受検に対し、1回に限り検定料の全額を補助がされています。

 こうした支援がある地域では、生徒の挑戦意欲が高まり、結果として取得率が上昇していますが、一方、支援制度のない自治体では、受験料や会場アクセスが障壁となり、挑戦機会そのものが減少している現状があります。自治体レベルでの支援が行われている地域とそうでない地域で、差がどんどん生まれている可能性が考えられます。

③ 高校入試制度との連動

 福井県が全国1位(78.8%)というズバ抜けた高さを誇る背景には、公立高校入試での「英検加点制度」があります。福井県の公立高校入試では、実用英語技能検定(英検)の取得者に対し、級に応じて点数が加算される制度があります。原則として英検3級以上が対象で、学校によっては準2級以上も優遇されます。そのため、生徒・学校ともに取得を強く推奨しており、このシステムがあるから取得率がずば抜けて高いわけです。

 一方で、北海道のように入試制度が40年前からほとんど変わっていない地域では、英検取得が直接的なメリットにつながらず、学習動機も弱いままです。

まとめ:教育格差は“制度格差”から生まれている

 英検取得率の格差は、単なる学力差ではなく、行政の制度設計と支援の有無が生み出す構造的な格差です。「個人の努力」だけでは解消できない壁が、すでに都道府県レベルで広がりつつあります。

 今後は、自治体や教育委員会が検定料補助・英語教育の仕組み・高校入試制度の見直しを行い、すべての子どもたちが平等に英語力を証明できる環境を整備することが求めらると考えられます。