異例の増加――2浪生が前年比1.4倍、既卒者全体も6,000人超の増加

2026年度(令和8年度)の大学入学共通テストで、驚くべき現象が起きている。2浪生(前々年度卒業者)の志願者数が前年比1.4倍の1万2,516人に達し、ここ数年で最大の増加となったのだ。既卒者全体でも前年比109.8%、6,000人以上の増加を記録している。これは近年の減少傾向を覆す、まさに"異例の事態"だ。

なぜ今、2浪生が増えたのか? この記事では、その理由について解説をしてきたい。

浪人生は減少していたはず

 まず前提として、ここ10年ほど「浪人生」は減り続けていた。18歳人口の減少、総合型選抜・学校推薦型選抜の拡大により、「現役合格志向」が強まり、浪人する学生は年々減少していたのである。

 実際、令和5年度の浪人生は71,642人だったが、令和6年度は68,220人と約3,400人減少していた。ところが今年、その流れが一変した。現役生が5,657人減少する一方で、既卒生が6,336人増加したのである。

 しかも、昨年までは学習指導要領に沿った「新課程」のテストの移行措置があり、「旧課程」のテストもあったにもかかわらず、今回はそれがない。つまり2浪以上は圧倒的不利な入試なのだ。それにもかかわらず、なぜか、1.4倍も2浪以上が増えたのだ。

たった一つの変更が、すべてを変えた

 ではなぜこんなことが起こったのか。

 結論から言おう。この急増の背景には、共通テストのWeb出願への完全移行がある。

 2026年度から、共通テストは全てオンライン出願に変更された。そして、共通テストは従来必要だった「卒業証明書」の提出が不要になったのである。

「母校への電話」という見えない壁――数字では測れない心理的負担

 以前の既卒生の出願には、想像以上に高いハードルがあった。

 まず、卒業証明書を取得するために母校に連絡を入れなければならない。かつての担任の先生に電話をかけ、「すいません、浪人をしていて……」「今年も受験をしていて……卒業証明書をお願いできますか」と伝える。この一言を口にするまでに、どれだけの葛藤があるか。受話器を握る手が震える人もいただろう。

 そして多くの場合、書類の受け取りには学校への直接訪問が必要だった。久しぶりに訪れた母校。懐かしさよりも、緊張と焦りが勝る。廊下を歩いていると、後輩に「あれ、〇〇先輩、どうしたんですか?」と声をかけられることもある。「ちょっと用事があって……」とごまかすが、事務室に向かう姿を見られれば、何のために来たのかは察しがつく。

 さらに恐ろしいのは、その情報が広まることだ。SNSが発達した現代では、「〇〇先輩、学校に来てた」という投稿が瞬時に拡散される。1浪ならまだ理解も得られるかもしれない。しかし2浪、3浪となれば、「あの先輩、多浪らしいよ」と陰口を叩かれるかもしれないという恐怖がつきまとう。実際には誰も気にしていないかもしれないが、当事者にとってその心理的負担は計り知れない。

 こうした一連の手続きが、再挑戦への大きな障壁となっていた。書類取得にかかる時間や費用よりも、むしろ「周囲に知られる」「恥をさらす」という心理的プレッシャーこそが、多くの人を出願から遠ざけていたのである。

 それが今回、Web出願化によって完全に消滅した。

 自室で静かにパソコンに向かい、誰にも知られることなく出願手続きを完了できる。母校への連絡も、訪問も、後輩との気まずい遭遇も、すべて不要になった。この変化が、「もう一度やってみよう」という決断をどれだけ後押ししたか――2浪以上の1.4倍増という数字が、その答えを物語っている。

心理的ハードルの消滅――「もう一度やってみよう」と思える環境

 2浪以上の受験者にとって、最も大きかったのは心理的な負担の軽減だろう。

 母校に卒業証明書を請求するということは、「まだ大学受験をしている」ことを母校に伝えることを意味していた。特に2浪以上になると、その心理的プレッシャーは計り知れない。

 今回のWeb出願化により、誰にも知られず、自分一人で出願が完結するようになった。この変化が、「もう一度チャレンジしてみよう」という決断を後押ししたのだと考えられる。

 ちなみに、筆者も2浪経験者だが、正直本当に本当に羨ましいとしか言えない。「なんでもう10年早くこれが行われなかったんだ、、、!」という気持ちである。

「仮面浪人」も増加傾向? 大学在学中の再チャレンジ

 今年は、大学に在籍しながら第一志望を目指す「仮面浪人」も増えていると見られる。

 仮面浪人は、入学した大学に通いながら他大学の受験を目指すスタイルだ。従来は卒業証明書の取得が必要だったが、Web出願化により在籍大学に知られずに出願できるようになった。経済的・精神的な負担は残るものの、「セーフティネットを持ちながら再挑戦できる」という安心感は大きい。

 さらに興味深いのは、40歳〜60歳代の受験者も増えているという話だ。「人生リベンジ受験」とでも言うべきかもしれないが、かつて諦めた大学や学部に、今挑戦してみようという動きである。終身雇用の崩壊、ライフステージの多様化も背景にあるだろう。

 とはいえ、今まではこういったことは難しかった。たとえば、数十年前に卒業した高校だと、もう存在していないということもあったのだ。統廃合で学校が消滅しているケースも少なくない。そうなると、取り寄せにかなり時間がかかる場合もある。そうなるとすぐには卒業証明書の取得が難しい。

 今回のWeb出願化は、こうした「人生リベンジ受験」を後押ししている可能性がある。

出願手続きの「めんどくささ」が、どれだけ受験行動を左右するか

 「出願手続き1つで、そんなに?」と思うかもしれない。しかし、出願制度の変更は受験者の行動に極めて大きな影響を与えるのだ。

 行動経済学では、人間は「面倒な手続き」を過大評価し、行動を先送りする傾向があることが知られている。卒業証明書の取得という「小さな障害」が、実は「再挑戦」という大きな決断を妨げていたのである。今回のWeb出願化は、その障害を完全に取り除いた。結果として、1万人以上の既卒者が「もう一度やってみよう」と動いたのだ。

データで見る、共通テスト出願状況の変化

区分

2025年度

2026年度

増減

全体

495,171人

496,237人

+1,066人

現役生

420,968人

420,311人

-5,657人

既卒者

64,974人

71,310人

+6,336人

2浪生

約8,900人

12,516人

+約4,000人(1.4倍)

この変化は、受験文化そのものを変えるか?

 私自身、2浪を経験した身として、当時の出願手続きの煩雑さは今でも覚えている。母校に電話をかけ、卒業証明書を請求し、発行を待ち、郵送する――そのすべてが、「まだ受験生なのか」という自己否定感を強めた。それが今、ネットで完結する時代になった

 この変化は、単なるシステム改修ではない。「何度でもやり直せる」という文化を後押しする、大きな一歩なのだと考えられる。

 そして、今回の変化が示唆するのは、受験は「18歳の一発勝負」ではなくなりつつあるということだろう。

  • 大学在学中の再受験(仮面浪人)
  • 社会人になってからの学び直し
  • 40〜60代の「人生リベンジ受験」

 こうした多様な受験スタイルが、制度の変更によって後押しされている

 今後も、この傾向は続くだろう。そして、さらなる制度変更が、どんな新しい受験行動を生み出すのか――注目していきたい。