共通テストが終わり、いよいよ受験シーズン本番を迎えました。
結果を見て一喜一憂するのは、決して特別なことではありません

これまで順調に見えていた子でも、初めての大きな試験で思うように力を出せず、気持ちが沈んでしまうことがあります。この時期、「明らかに元気がない」「急に口数が減った」と、わが子の変化に戸惑う親御さんも多いのではないでしょうか。

そんなとき、多くの親が立ち止まってしまいます。
声をかけるべきか、そっとしておくべきか。

励ますのがいいのか、触れない方がいいのか。下手に動いて、余計に追い込んでしまわないか。 受験期は、最終的には「本人次第」と言われがちです。

だからこそ、親がどこまで踏み込んでいいのか、どこで手を離すべきなのか、その線引きがいちばん難しい。特に、「うつ」という言葉が一般的ではなかった時代を生きてきた親世代にとって、子どもの心の不調は未知の領域でもあります。

声をかけるのも正解。
何も言わないのも正解。

ただし、その正解は子どもによって違います

そこで今回は、受験期に大きく“ダウン”した二人に話を聞きました。
このエピソードが、お子さんと後悔の残らない受験期を過ごすためのヒントになれば幸いです。

「放っておいてほしかった」受験生

「受験本番の一週間前でしたが、気分が落ち込んで動けなくなりました。とても心配をかけたかもしれませんが、『何もしなかった』親に対して、『何もしてくれなかった』こと自体に、とても感謝しています

もともと気分の落ち込みやすさを抱えていた宇喜田さん(20代・男性)は、1~2か月に一度訪れる気分の急落に悩まされていました。
のちに「双極性障害(いわゆる躁鬱)」と診断された彼は、鬱に大きく寄った気分の上下動を今も抱えています。

まだ若かった当時は「メンタルクリニックへの通院」が憚られ、訳も分からぬまま「ちょっと気分の浮き沈みが激しい子」として過ごしてきました。周りから若干の腫れもの扱いを受けつつ、調子の波を一人でやり過ごしながら、なんとか受験勉強を続けてきたそうです。

転機が訪れたのは、第一志望の入試を1週間後に控えたタイミングでした。
心も体も限界に近く、ほとんど動けないほど沈んでしまったそうです。

それまで不調を親に打ち明けてこなかった分、直前期に状況を説明する余裕はありませんでした。
理解してもらおうとする気力すら残っていなかった、と本人は振り返ります。

「むしろ、「分かったつもり」で何かをされることのほうが苦しかった

親が善意で動いてくれていることは、頭では分かっているのですが、私の親はギリギリ『うつ』とか『精神病』に偏見がある世代ですから、変な心配をかけるとか、カウンセリングに連れていかれるとかすると、そっちの方が面倒くさい。

経験上、2~3日以内に嵐が過ぎ去るとわかっていました。必要なのは、嵐を遠ざける祈願ではなく、やり過ごす避難所。そこに無駄なサービスはいりません。だから、ひとりで放っておいてほしかったんです

自分がしてほしくない関わりをされてしまったとき、衝突するのが一番よくないと思った彼は、思い切って親にこう伝えました。「今は、自分のことを放っておいてほしい」と。

見守られていると感じるだけでも気を遣う。お互いを思って取る行動が、衝突につながることもある

「基本は放置。その代わり、助けてほしいときは自分から言う」
そんな“関わり方のルール”を、自分から言葉にしました。

実際、入試1週間前に大きく不安定になったものの、本人は「今は効率が落ちている。無理に動いても生産性が低い」と判断し、1日まるごと休むことを選びました。
休む勇気を持ち、立て直してから再び100%に戻す。
それもまた、自分をコントロールするための大切な選択だったのだと思います。

宇喜田さんの再現画像↑

結果として、第一志望に合格した宇喜田さんですが、
「直前期に“休む受験生”を前にしても、『やりなさい』『いま休んで、落ちたらどうするの』と責めず、放任し見守る姿勢を貫いてくれたから、合格できた」と振り返ります。

子ども自身の自己理解が高い場合、
親ができる支援は「動くこと」ではなく、「信じて任せること」なのかもしれません。

「声をかけてもらえたから、戻れた」受験生の話

「受験の重圧で何もできなくなった時、自分では正解がわかりませんでした。そんな中で、母は“頑張らせる”のではなく、“立て直す環境”を整えてくれた。
勉強から引き離し、体と心を守り続けてくれたことが最後まで走り切れた理由です」 

大澤さん(10代・女性)は、元から心配性で気にしいな性格でした。他者の小さな発言が引っかかり、考えすぎて、悲しんだり……。元から繊細な彼女にとって、受験の重さは他と比べられないくらい大きなものであり、高3の夏頃、重圧に耐えきれなくなりました。何をしていても気力が湧かず、大好きだった食事さえ美味しく感じられない。

毎日涙を流す姿を心配した母親は、すぐにメンタルクリニックへ連れて行ってくれて、そこでうつ病と診断されたそうです。

真面目な性格だった彼女は、何もできない自分を強く責めました。本当は休んだほうがいいのか、無理でも机に向かうべきなのか。何が正しくて、何が最適なのかも分からないまま、ただ「勉強できない自分」を嫌いになっていく日々だったそうです。

彼女の母親も、娘を心配するばかりではありません。
体調が少しでもよくなるようにと、合う病院を探して何軒も回り、落ち込む姿を見る度に彼女が欲しかったグッズやGODIVAのチョコレートなど少し高級なお菓子を用意したり、好物を夕食に作ったり……。様々な手段で、わが子が元気を出せるようサポートしました。

成績が思うように伸びないときには、毎回外に連れ出しました。美味しいご飯を食べに行き、強制的に勉強から離れる時間をつくる。「切り替える時間が必要だ」という判断でした。

母親の支えは、それだけではありませんでした。
もともと体が弱く、体調を崩しやすかった彼女のために、あらゆる手段で環境を整えたのです。

頭痛、胃痛、過呼吸、痙攣……あらゆる症状に対応した常備薬。
気分を盛り上げるためのリッチなお菓子。加湿器や空気清浄機を置き、ウイルスを避けるために家族全員が外出を控える。

一つひとつは小さなことでも、「守られている」と感じられる積み重ねでした。

そこに「これをしてあげるんだから勉強して」という条件はなく、ただ純粋に、自分を励まそうとしてくれている姿に、彼女は胸を打たれたといいます。

「自分では、何が最適解なのか分からないことばかりでした。

理由も分からずメンタルが落ちて、虚しくて、家族や応援してくれている人たちに申し訳なくて、考えすぎてどんどん悪い方に行ってしまう。その負のループから引っ張り出してくれたのが母親でした。

気分転換には罪悪感もあったけど、必要だ』と、自分以上に私のことを理解してくれていた母のおかげで、立ち直れたんだと思います。
母がいなければ受験を走り切れませんでしたから、感謝しかありません」

親子で相互に対する解像度の高さがある場合、このように子供が全ての事象を共有して、親を頼り、親も子供にしっかりと向き合ってあげることがうまくいく秘訣かもしれません。

まとめ

結局、ものを言うのは「親子仲」なのかもしれません。

ただし、ここでいう親子仲は、仲がいい・会話が多いといった表面的なものではありません。大切なのは、親と子がお互いをどれだけ理解できているか、解像度の高さです。

とはいえ、解像度は一朝一夕で上がるものではありません。
「じゃあ、どうしたらいいの?」と感じる親御さんも多いと思います。

答えは大変シンプル。同じ時間を過ごしてください。
具体的には、「一緒に食卓を囲み、同じテレビやNetflixを見て、感想を言い合う」だけでいいんです。
「キャンプに行け」とか、「家族でYoutubeを始めろ」なんて言いません。

同じ時間を共有することが、現代社会の核家族にとってとても難しいことはよくわかります。
仕事で、部活で、中学・高校・大学受験の準備で、忙しくて顔を合わせる暇もないかもしれない。

それでも、だからこそ、互いに無理を通してでも時間を作って語り合うことが必要なのでしょう。
「家庭=いつでも帰ってこられる場所」として示すために必要なのは、お金ではなく、唯一「時間」なのです。