日本でもおなじみのアメリカ人タレント・パックン(パックンマックン)。ハーバード大学卒業という華麗な経歴を持ちながらも、日本でお笑い芸人としてデビューして以来、テレビのコメンテーターやラジオ、執筆活動など幅広い分野で活躍しています。
この連載では、日本の教育を客観的に考えるために、パックンが実際に取材を行っていきます。パックンの目から見て、日本の教育はぶっちゃけどうなのか?海外の教育と日本の教育にはどのような違いがあるのか?第一回目となる本記事では、不登校というテーマについて語ってくれました。(インタビュアー:未来図編集長 西岡壱誠)
○「不登校」という言葉が悪い?
―――日本は今かなり不登校の数が大幅に増えています。2024年度のデータでは不登校の人数は34万人余りにのぼり、11年連続で増加して過去最多となっていることが文部科学省の調査でわかっています。これに関しては、いろんな要因が考えられると思いますが、どのように捉えていらっしゃいますか?
パックン「まずこの『不登校』という3文字の熟語で表せるようになったのは、はたしていいことなのかどうか、というのが気になりますね。不登校って、アメリカにはそういう言い方はないんですよ。学校に行かない子のことを指す単語はない。そういう意味では、漢字はとても便利です。なんでも一言で表すことができる。でもこれって、レッテル貼りになってしまいますよね」
―――確かにそうですね。学校に行かない人のコトバって、英語だと思い付かないです。
パックン「例えば、アメリカにはニートという言い方があります。『Not in Education, Employment, or Training』で、『何もしてない人』っていう言い方ですが、そこまでアメリカで流行った言葉ではなかったんです。でも、それが日本に入ってきたら、日本ではアメリカよりも何倍も、すごい速度でその言葉が流行ったんですよね。今やもうアメリカでそんなに聞かない言葉なのに、『ニート』という名前が日本でバズリ出して、社会現象になってしまったんです。このように、何か名前が生まれると、すぐ日本ではそれが広がって、共通の認識になっちゃう、ということはたくさん存在するんです」
―――日本人の特徴と言えるかもしれませんね。
パックン「名前が付くと、『なるほど私はそうなんだ』って、自分の中での認識も、社会の中での認識も変わるんです。これにはいい面もあると思うんですが、『不登校』に関しては結構マイナスイメージしかないんじゃないですか」
―――現状のところ、マイナスイメージしかないですね。
パックン「『いろんな理由で学校に行ってない子供』という説明文の方がフラットなんですよ。『不登校』という名前にするだけで、解決しなければならない問題というニュアンスが込められてしまいます。バイアスがかかってると思うんです」
―――かかってますね。不登校って、本来「登校できてない」っていう意味の言葉でしかないですもんね。「不」登校って、否定から入ってますしね。
パックン「別の言葉はないものですかね。在宅教育中、とか?何もかもラベル、レッテルをつけるっていうのももしかしたらこの勘違いとか、誤解を招いてるんじゃないかなとちょっと思うんですね」
○日本はレッテルを貼る国?
―――すごいよくわかります。やっぱり日本は、ラベルとかレッテルとか、好きなんですかね。
パックン「まさにそれが日本の文化だと思います。自分は流行語大賞の審査というのをやらせていただいてるんですけれど、あれもアメリカにないものですよ。でも、日本で流行った言葉は、ほぼ多分8割くらいの日本国民が知っているか、使っているかぐらいのものですよね。毎年みんな『そうだそうだ!あれ流行ったね』って認識があるんですけど、アメリカで流行った単語は多分3割ぐらいの人しか通用してないんですよ」
―――アメリカは人種とか民族とかがバラバラの文化ですしね。だから日本はその流行るものも流行る言葉も結構共有する確率が高いと思うんですよね。
パックン「それ少し変わりつつあると思うんですよね。メディアも多様化して分散していますから。今テレビ見てる日本人の割合は下がってて、それぞれのYouTubeチャンネルとかサイトとかユーザーが決めてるから、共有し合う文化が少し薄れてきていると思うんですが、まだまだアメリカに比べたら共通認識の方が強い。ちょっと専門用語になるんですけど、日本は『ハイコンテクスト文化』ですね。みんながその文化背景を共有してる国なんです」
―――この不登校っていう言葉の中にも、いろんな子が含まれていますよね。本当に学校に行けていない「行きたいのに、行けてない子」もいれば、在宅学習中の子もいる。アメリカだと「クラスのなかで、こういう子いるのも普通だよね」という状況になったりするものですかね?
パックン「まずその『クラス』っていう言い方も日本的ですよね。日本人は大人になっても、クラスに全部例えるじゃないですか。例えばね、クラスが1年ずっと一緒に動いてて、大体翌年も半分ぐらい同じ仲間だったりするじゃないですか。アメリカは低学年までは同じクラスなんですけど、小学生高学年になったらもうクラス変えられちゃうんですよ、教科によって、中学生高校生は全部変えられちゃうから同じクラスメイトは同じ学年と交差するんですよ。クラスメイトとは同じ30人じゃなくて僕の場合は400人を指すんですね」
○オンラインで学ぶのは「左利き」と同じ
―――日本で言うところの大学に近いイメージかもしれませんね。
パックン「日本では働き方改革とかよく耳にするんですけど、今は学び方改革中かなと思ってるんです。アメリカの学び方は、公立の学校に通う子供、私立の学校に通う子供がいるのは日本と同じですが、その他にチャータースクールって言って、特別認可の民間学校法人があります。政府からお金をもらって、独自のカリキュラムで教育する学校です。例えば宗教とか思想とか、何かに特化した理系とか文系とか、その学び方を変える、みんな自分のペースで学んでいいからとか、もしくは半分オンライン半分対面式でいろんな学び方や教え方を実験してる、挑戦してる。そんな学校法人が、このチャータースクールですね。そしてホームスクールもあって、親が教えてくれるという場合もあります」
―――本当に、「自分の家」にずっといながら教育を受けているのが当たり前、という子供も多いということですね。
パックン「そうですね。僕も姪っ子達が2人いるんですけど、実は2人ともずっとそうでした。中高は近くの公立中高に行ったんですけど、小学生の間はお母さんの指導のもとで勉強してたんですよ。これ全部含めて、学生の質、別に不登校とかじゃなくて、みんな学生です。だから、『どういう学校行ったんですか?』『私はホームスクーリングだったんです』というのも全然普通の日常会話ですね。」
―――日本で言うともしかしたら公立だった私立だったのぐらいの感覚なのかもしれないですね。
パックン「ただ、『公立』『私立』の2択から、今は選択肢が増えて、オンライン教育が少し充実してきましたよね。前よりは多分認識も変わって、『私今N高に通ってる』とかいう子供はそこまで珍しくなくなっているみたいですね。」
―――前よりは浸透してきたっていう感じですね。今は割合としては全高校生中の通信制高校に入ってる子が10人の1人、というくらいの割合です。
パックン「10人の1人って言えば、左利きは10人に1人なんで、けっこう普通ですね」
―――それでいくと、オンラインで学ぶみたいなものっていうのが本当におっしゃる通りちょっと最近増えてきまして、アメリカでも、大学生の約2割が完全オンラインで授業を受けてるそうです。パックンは、オンラインでの学びっていうものに対してはどのようなご意見を持ってますか?
パックン「僕は選択肢として、『あってしかるべき』で素晴らしい展開だと思ってみていますね。おっしゃる通りアメリカでは割と一般的になってきてるし、さっき言ったホームスクーリングの子供も、元々は親が教える設定だったんですけど、今はそれ結構外部委託してるんですよ。
―――外部委託というと、オンライン指導ですか。
パックン「そうです。ホームスクーリング用のコミュニティがあって、それぞれの教科に強い先生がいるから、親が教えられないものはオンラインで他の人から学んでください、となっています。カリキュラムを全部親が考えるのは大変だから、ホームスクーリングのカリキュラムを用意した外部業者からコンテンツを買うとか、業者が運営するオンライン授業に参加させてもらうとか。ホームスクーリングでも孤軍奮闘ではないです。 最新の技術でできることが増えてるのは素晴らしいです。ただ、僕は一方で『オフラインの必要性』もなくならないとも思っています。」
―――それはどのような点で?
パックン「生徒会とかに参加したことない、体育祭に行ったことない、学園祭の準備をしたことない」となったら、この子は、この企業の風土に合うかなと、疑問に思う採用側の方が絶対いらっしゃると思うんですよ。学生さん同士だと、オンラインで当たり前の世界かもしれないけど、上の世代は少なくとも、それがまだ当たり前って言えないんですよ。少なくとも50歳代の僕から見れば、やっぱりちょっと「リアルな経験が少なくて、大丈夫かな?」と思うんですよ。自分の子供が全部オンラインでやりたいって言い出したら、ちょっと相談してください、と考えると思います」
―――なるほど。確かにそれは想像できる話ですね。
パックン「例えば、周りより速いペースでも、・周りより遅いペースでも、自分にあった速度とスタイルの学習ができるという意味で、オンラインの強みは貴重なものです。日本の底上げ教育は素晴らしいと思ってますけど、優秀な子や変わった学び方が適している子にとっては天井が低い教育にもなってると思うんですね。だからその天井を高くして、もういくらでも伸びるようにオンライン教育を導入するのもいいかなと思っています。 ただ、同じ場所で自分と価値観や考え方が違う人間とやり取りすることも大事な教育でしょう。」
―――未だに日本って、オフラインの学校が主流なのは、もやっぱりそういう意味はあるだろうなと思って。毎日毎日決まった時間に学校行って、席があって、他人と暮らすっていうのが普通ですよね。
パックン「社会性が身につきますよね」
―――そうですよね。同世代の子たちと集まってる日本の教育は社会性が身につきますね。同じ学年の人たちと一緒になって勉強してるからこそ学べることってあるんじゃないかなっていう感覚はあります。
パックン「オフラインの学校は、チームワークも学ぶ場でもあるしリーダーシップを学ぶ場でもあるし周りに合わせる必要性を学ぶことができる。世界全部知っているわけではないけど、日本は世界に比べても有数の、協調性を重要視する国でしょう。ずっと1人で学んだ方は、自分と合わない意見を持ってる方、自分と性格が合わない方が同じグループに入ったときの対応ができるかどうか疑問ですよね。それを早いうちから練習するのは、クラスルーム、給食、体育館とかにいなきゃいけない。自分が選んでない仲間といなきゃいけない。あの空気がすごく大事な学習の場だと思うんですよね」
―――本当にそうですね。
○経験は何かに生きる?
ーーーちょっと脱線しますが、パックンさんは、もともとみんなと仲良くできたタイプですか?
パックン「僕は色々なコミュニティで仲の良い友達を作れたタイプですね。西岡さんはどうですか?」
―――自分はそうではなかったです、むしろいじめられっ子でしたね。ただ自分の場合は、自分でこのクラスを変えなきゃなんないっていうふうな思いを持ったりするときがあったんです。だから自分がこのクラスに合わないじゃなくて、自分がこのクラス変えなきゃ駄目なんじゃないかみたいな。
パックン「へえ、それでどうなったんですか?」
―――生徒会長になりましてだけど、リコールされましたね
パックン「リコール制度なんてあったんですか?」
―――あったんですよね。ただ、それも含めて、そういう経験があってよかったなと思っています。
○日本でこれから、アメリカのように通信制が広がる可能性はあるのか?
―――先ほどアメリカだと、通信制に対して、社会がそこまでネガティブになっていないというお話がありました。では、日本もいずれが、そうなってくるんでしょうか?日本も通信制高校に行かせるのが当たり前になってきていますが、それでも通信制高校に行かせるのは不安と思う方もずっといるんじゃないかと思うんですが。
パックン「そう思う人、おっしゃる人はずっといらっしゃるでしょうね。」
―――通信制高校は割合が30%までいくという見方と、30%までいかないという見方がありますよね。自分は、正直もう20%ぐらいで止まる気はしています。あと10年経ったとしても、そこで一旦打ち止めになるんじゃないかというふうに思っています。
パックン「社会人の生き方のノーマルがオフラインであれば、それはやっぱり準備としてオフラインをいっぱい体験してもらわないと駄目なのではないかと思います。日本の働き方改革で8割がオンラインになって、みんな在宅勤務になるなら、通信制がメーンの教育でいいじゃないかとなるんですけど、まだまだですよね。実はアメリカも、オンライン・フルリモートから、『はい、これから出勤制に戻しますよ〜』と多くの企業が言い出したんですよ。コロナでリモートが急増したけれど、結果を検証したところ効率性が悪いとなったわけですね。
新しいアイディアとかイノベーションが、オンラインではそんなに生まれないということがわかってきてしまった。同じ空気を吸ってるコミュニケーションスタイルが将来性があると判断されて出勤制に戻している企業が多いわけ。
ですからアメリカも、完全通信教育を受けた生徒だと、少なくとも出勤制の企業に採用されづらい子供になるのではないかと思います。同じように日本も将来出勤の多い仕事に就きたいなら、完全通信制じゃなくて、少なくともハイブリッド型がいいと判断する親はこれからも多いでしょう。」
―――なるほど。受験制度の違いもあるんですかね。
パックン「そうですね。アメリカでは、社会性も入学審査対象にするんですよ。だから点数だけではなく、その通信教育を受けて試験でめっちゃ良い点を取ったとしても、その学校以外の時間は何してたのか。例えば、それが全部オンラインの活動でもいいんですよ。ゲームをデザインして売り出した、YouTubeの活動をしましたでもいいし、ボランティアの仕組みを作ってクラウドファンディングで遠い国の子供を助けたでもいいし、オンラインの企業を立ち上げましたとかでもいいんですよ。でも、試験の数字を身につけただけじゃ駄目なんです。総合的ですから、全体像を大学が見て入学決めるんですね。」
―――通信制で自由な時間があるとして、その間に、しっかり社会性を身に付けなければならないということですね。
○パックンのハイスクール時代
ーーーパックンは、社会性をこれで身につけた!というハイスクール時代の部活とかありますか?
パックン「僕は多分、遺伝子的に社会性が強いんですよ(笑)。学校がすごく楽しくて、友達も好きだったし、スポーツも演劇も合唱団もアクティビティもたくさんやったし。でも『学校が辛い』ってクラスメイトはいっぱいいましたね。
アメリカでは、「クリーク(clique)」という言葉があります。日本で言えば、グループというか、派閥?みたいな言葉になるのかな。これが、学校の嫌なところの代表格。学校にはクリークがあって、人気者クリークに入ってないと不人気ものになる、みたいな。スポーツクリークとか演劇クリークとかバンドクリークとか、分裂社会になっています。」
―――日本でいうところの、スクールカーストですね
パックン「僕はそのクリークの全てに参加していました。例えば食堂でスポーツクリークに演劇部の友達を連れて一緒にご飯食べるとか、その垣根をなくす運動を毎日やってたんです。だから、さっき西岡さんが『クラスを変える』とおっしゃっていましたが、僕もその意識で、学年の雰囲気を変えた記憶があります。クラスメイトが30人だけじゃなくてその400人の間にも、縦割りから横割りの社会で垣根を取り外す。社会を変えることはある程度できたと思うんです。これはすごく自慢ですよ。」
―――それはとてもいいですね。そういう主体性を持って生活するということが日本にも求められるのかもしれませんね。
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