大学進学を機に、地方から上京する学生は少なくありません。
無事に志望校が決まり、次に直面するのが「住まい探し」です。
土地勘のないまま、12月から3月にかけて“物件争奪戦”が始まり、内見もできずに契約してしまう家庭も。
都内のワンルーム相場は10万円を超え、経済的負担は決して小さくないのが現実です。
そんな中で、今あらためて注目されているのが「学生寮」という選択肢です。
月8,800円で住める東京大学・三鷹国際学生宿舎と、家賃5万5,000円で設備もイベントも充実した早稲田大学・国際寮WISH。
6割が空室の不人気寮と、倍率4倍と噂される人気寮——。
真逆の2つの学生寮に暮らした大学生たちの声から、「一人暮らしでは得られない大学生活の本質」を探ります。
「月8,800円で東京に住む」三鷹寮のリアル
――東京大学・牛島侑さん(仮名)
「できる限り安いところに住もうと思っていて。この寮を見つけたとき、“さすがに月1万円ちょいより安いところはないだろう”と思って決めました」
光熱費を含めても月1万円ほど。東京でこの金額は、まさに奇跡のような安さです。
しかし、三鷹寮の魅力は“安さ”だけではありません。

「監獄」と呼ばれても——それでもここが好き
「“三鷹寮=監獄”って呼ばれることもあります。『刑務所2年、刑期を経て卒業』なんて冗談で言われたりもして(笑)」
実際、東大生の間では“おんぼろ寮”として知られており、学内でも人気は低い。
6割ほどの部屋が空いているといいます。
けれど、住んでみるとその印象は大きく変わる。
「静かで快適です。隣の部屋が空いているので、YouTubeを爆音で流しても怒られません(笑)。『牢屋』というより、“一人の城”という感じ。」
最寄り駅からバスで20分、徒歩なら40分という立地は決して便利ではない。
それでも牛島さんは「不便さも含めて、この寮が好き」と言い切ります。
「多少の不便を受け入れられる“寛容さ”がある人なら、三鷹寮は最高です。外交的な人も内向的な人も、それぞれの距離感で暮らせます」

設備は「最低限」でも、「人の温度」がある
部屋は6〜7畳ほどの個室。ベッドと机、収納が備え付けで、冷蔵庫だけ自分で用意します。
バス・トイレはユニット式。部屋によっては、シャワーを浴びるだけでトイレも洗面台も水浸し……なんてこともあるそう。決して広くはないが、数年前に学生の要望で網戸が設置されるなど、改善も進んでいます。
「最初は狭くて驚きましたけど、すぐ慣れました。夏は網戸のおかげで風も通るし、夜は静か。住めば都です」

食事は自炊が基本。キッチンは各部屋に小型IHが1口ずつ備わり、簡単な調理が可能です。
留学生の中にはハラール対応のために毎食自炊する学生も多く、自然と文化交流が生まれるきっかけにもなっています。
週末には、学部生と院生が共同で企画するバーベキューやお花見、ハロウィンパーティーなども開催。
すべて無料で、ビーガン・ハラール・一般食の3種類が用意されるなど、細やかな配慮も。
「国籍も文化も違う人たちと、同じご飯を囲む時間が本当に楽しいです」
“牢屋”じゃなく、“小さな大学”
寮の中には、70代以上のOB・OGが中心となって運営する「三鷹クラブ」という組織があります。年に数回、現役学生と食事会を開き、就活や研究、社会の話を聞かせてくれるのだとか。
「東大の中でも“三鷹寮出身”というだけでつながれるネットワークがあります。元東京都知事の舛添要一さんもOBらしくて(笑)、三鷹寮出身者って調べると意外に多いんです」
牛島さんが魅力を感じるのは、「安い部屋」というより、「多世代の大学コミュニティ」そのもの。
「外交的な人はもちろん、内向的な人でも楽しめます。共有スペースに行けば誰かがいて話せるし、静かに過ごしたければ自室にこもることもできる。そういう自由さが魅力です」
ただし、覚悟も必要です。
「駅まで遠いし、スーパーも1km先。『ちょっと不便だな』と感じても、“まあ、こういうもんか”と笑える人じゃないと続かないかも」
不便を受け入れ、他者との違いを面白がれる——。
そんな“寛容な学生”にこそ、この寮はおすすめだと彼女はいいます。
「『おんぼろ』って言われても、私にとっては最高の場所です」
静かで、自由で、時々誰かとつながれる。
三鷹寮は、“牢屋”ではなく、“人の温度を感じられる小さな大学”でした。
「出たくなくて泣いた」早稲田WISHのリアル
――早稲田大学・山内萌子さん(仮名)
一方、早稲田大学の国際寮「WISH」は、まるで“学生タワマン”のような環境です。
家賃は月5万5,000円(光熱費・Wi-Fi込み)。
共有ラウンジはピカピカに磨かれ、警備員が24時間常駐。音楽室、ジム、自習室、イベント用キッチンまでそろう充実ぶりです。
「防犯が完璧で、すごく安心できました。今の一人暮らしと比べても、あの頃が一番“守られていた”と思います」

設備は「学生版ホテル」。生活のすべてが寮内で完結
建物は地上12階建て。男女共有スペースが1階から2階、男子フロアが3階から6階、そして女子フロアが7階から11階まである。上階からは富士山を望むこともできるのだとか。
1ユニットには4つの個室と共用リビング・洗面台があり、プライバシーと交流の両立が可能です。
「部屋はコンパクト。でも机や冷蔵庫が備え付けで、思ったより快適でした。シャワーブースは各階にあって清掃も毎日入ります。汚いと感じたことは一度もなかったです」


食堂はありませんが、1階には広大な共用キッチン(16口コンロ!)があり、まるで家庭科室のよう。調理後はキッチン横のテーブルでそのまま食事ができ、学生同士の交流の場にもなっています。
「“今日一緒にご飯作ろう”と声をかけ合えるのが楽しかったです。半分、食堂みたいな雰囲気でした」

さらに、館内には3種類の音楽室(グランドピアノ、電子ピアノ、防音スタジオ)と全身鏡張りのジム兼ダンススタジオも。
「ダンスサークルの仲間と夜に練習していました。全部無料で使えるのが信じられないです」

“ナイトウォーク”と“研修旅行”がつくる絆
WISHの最大の特徴は、他の学生寮にはないイベント文化。
バーベキュー、ナイトウォーク、ハロウィンパーティー、季節ごとの研修旅行など、毎月何かが開催されています。
「5月のナイトウォークが一番印象に残っています。代々木から皇居まで歩いて、途中でお題に沿った写真を撮るんです。
東京の街を初めて夜に歩いて、“ここが国立競技場だ”とか“あのタワーが見える”とか、いちいち感動していました」
そして、参加率の高い学生には“研修旅行”というご褒美が待っています。
交通費・宿泊費・食費がすべて無料で、別府や新潟、富士山、沖縄などのコースから選べるとのこと。
「別府では温泉、新潟では雪山登山をしました。新潟では雪遊びの途中で彼氏ができたんです(笑)。本当に青春でした」
寮内ではこうしたカップルを「ウィップル(WISH+カップル)」と呼ぶのだとか。
恋愛だけでなく、学年・国籍を超えた人間関係が自然に生まれる場でもあります。
.jpeg)

ルールは“超厳格”。それでも人は集まる
WISHは「国際寮」として世界40カ国以上の学生を受け入れており、日本人6割・留学生4割の構成です。国際交流が盛んな一方で、文化摩擦や生活リズムの違いからトラブルも起きます。
「香港のルームメイトが夜中まで大声で電話していて、最初はすごくストレスでした。でも話し合ううちに、言いたいことを伝える大切さを学びました。
悪気があってやっているわけじゃない。文化の違いを理解できたのは貴重な経験です」
ルールはかなり厳しく、
- 男子・女子フロアの行き来は禁止
- 酒・タバコ・ペット禁止(料理酒もNG)
- 外部の友人は1階までしか立ち入り不可
と徹底されています。
「お酒が見つかると即退寮です。実際、知らない間に友達がいなくなっていたこともあります。“安全・平等な環境”を守るためのルールなので、仕方ないですね」
この徹底管理の裏には、24時間常駐の警備体制と、寮生代表RA(Resident Assistant)の存在があります。
RAは週1ミーティング・イベント企画・トラブル調整などに関わり、その見返りとして家賃無料+1人部屋が与えられます。
「責任は重いけれど、“住まいとリーダーシップを両立できる特別なポジション”です」
向いているのは「好奇心旺盛で、人と関わるのが好きな人」
WISHは“交流重視型”の寮です。
人との距離が近い分、騒音やプライバシーの問題もありますが、積極的に動く人ほど楽しめる環境です。
「人が好き、文化の違いを面白がれる、ちょっとしたトラブルも“経験”だと思える人にはぴったりです。逆に、静かに一人で過ごしたい人や潔癖な人には向かないかもしれません」
実際、退寮の際には多くの学生が涙を流すそうです。
「退寮の日は泣きました。出てからもしばらくホームシックでした」
富士山が見える部屋、16口コンロのキッチン、世界中の友人、そして研修旅行。
約5万円で“人生が広がる”場所——それがWISHという寮です。
「牢屋」と「タワマン」——それでも共通する“寮の力”
家賃8,800円の寮と、家賃5万5,000円の寮。
設備も雰囲気も、まるで別世界です。
それでも、2人が口をそろえて言ったのは同じでした。
「一人暮らしじゃ得られない“人とのつながり”があった」
どちらの寮にも共通していたのは、“共同生活の不便さ”と引き換えに手に入る“孤独にならない環境”でした。
大学1年生は「寮で暮らせ」
もちろん、寮にはルールや制約もあります。
門限、共有スペース、騒音、文化の違い——どれも最初は戸惑うことばかりかもしれません。
けれど、その「不便さ」こそが、人と人を結びつけるきっかけになります。
一人暮らしでは、生活も感情も自分だけで完結してしまいます。
でも、寮には、自分の“外側”が常にあります。
誰かの笑い声や生活音、ちょっとした助け合い。
そうした他者の気配が、大学生活の始まりをあたたかく支えてくれるのです。
初めての環境で、孤独に悩む学生も多いこの時代。
だからこそ、大学1年目の「暮らす場所」には、人とのつながりが宿る空間を選んでほしい。
家賃の額では測れない“人生の濃度”が、きっとそこにあるはずです。




.png&w=3840&q=75)

.png&w=3840&q=75)
.png&w=3840&q=75)





.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
