東京大学の藤井輝夫学長は3月6日、今後一般選抜による入学者の割合を減らす方針を示しました。早ければ、2年後の2028年度入試(27年度実施)以降の導入で議論されています。

 現在9割以上を占める一般選抜の割合を段階的に引き下げていくという、大学入試の根幹に関わる重要な方針転換です。

出典:東大、一般選抜以外の入試枠を拡充へ 学長「入試を多様化したい」(毎日新聞,25/03/06)

 一般選抜入試とは、大学入学共通テストと各大学が実施する二次試験の結果によって合否を決定する従来型の試験形態です。

 東京大学の現在の入学者選抜において、一般選抜による入学者は全体の約95.6%を占めています。この数字は国公立大学の中でも特に高い水準ですが、今後は徐々に減少していくことになりそうです。

 この方針は、総合型選抜や学校推薦型選抜を既に積極的に拡大している他の旧帝大と同様の流れとなり、日本最高峰の大学における入試改革として大きな注目を集めています。

 今回は現役東大生の反応と東大が一般入試の合格者枠を減らすことのインパクトについてまとめます。

現在の東大は「95.6%が一般入試」

 これまでの流れを振り返ってみると、東京大学の一般入試への依存度は他大学と比較して格段に高いことがわかります。2024年度の入試データによれば、東大の合格者総数3,130名のうち、一般入試合格者は2,993名と全体の約95.6%を占めています。

 学校推薦型選抜の合格者は91名(約2.9%)、外国学校卒業学生特別選考の合格者は46名(約1.5%)に過ぎません。

出典:東大24年度一般選抜、2993人合格 春合格の女性割合は減少の20.6%(東大新聞,240310)

 この数字は、他の旧帝大と比較して際立って高く、例えば東北大学の一般入試比率が約70%程度であることを考えると、東京大学がいかに一般入試に依存してきたかがわかります。このような状況で、藤井学長が一般入試の割合削減を明言したことは、まさに歴史的な方針転換と言えるでしょう。

現役東大生の反応は?

 「推薦入試に進む学生には、別ベクトルの能力がある」と語るのは、東京大学に一般入試で入学した大澤さん(仮名)。東京大学理科一類に現役で合格し、東大の進路振り分けでは物理学系で最も人気があるともいわれる、航空宇宙工学科に進学した学部4年生です。

「結局、応用できる人って圧倒的な知識がある人だと思うんです」と大澤さんは語ります。

 その上で「推薦では基礎的な知識の代わりに実績がある。例えば学会に出たことがあるとか、コンクールで賞を取ったことがあるとか。そういう人たちも必要だと思う」と推薦入試の意義を考えるそうです。

 大澤さんによれば、東大生の推薦入試組には特にコミュニケーション能力に長けた学生が多いという。

メディア露出してるなど、喋り慣れてる人が推薦では多い気がする。難しいことがあって、それを専門的な知識を持ってない人たちにも説明する人って絶対必要」

 具体例も挙げます。「例えばロケットを作るとして、なんで500億円かかるのかを税金を出してもらう一般の人たちに説明する人って必要。一般入試でひたすら勉強した学生は、学部生の段階ではその説明に苦労する。そういう難しいことを、知らない人たちにも説明する人材が必要だって感じたんですよね」

「推薦=実績集め」になることは不幸

 また「自分の場合は古文漢文は嫌いだったし、やらなくて良かったと今でも思ってる。その時間に、数学とか理科とか英語とかプログラミングとかやった方がいい。あまりにも広範な知識をペーパーテストで求められすぎてる感はありますよね」と、現行の一般入試の問題点も指摘します。

 また懸念も感じているそうです。「推薦入試が単なる実績集めになるのは心配。高校生活を将来研究者になるようなタイプの子が、3年間をより実践的な内容で有効活用できるのはいいけど」とのこと。

「本来基礎学力を身につけられる期間に、実績を求めるあまり応用ばかりしていると、大学に入ってから苦労する。周りの推薦受験での合格者も、本当に人によりますが、正直学力に差を感じる子はいますからね」

ペーパーテストで入る人も推薦で入る人も、どちらも別の対策が必要で、別の強さがある。推薦は、目の前に教授が複数人いて、自分の高校3年間やったことを説明しないといけない。それはそれで強いことだし、俺にはできない。そういう能力を見る試験じゃなくて、実績『だけ』を見る試験になっちゃうのがちょっと不安かな」と大澤さんは締めくくってくれました。

なぜ東大の一般入試減少が衝撃か

 東京大学は日本の高等教育のピラミッドの頂点に位置し、その入試制度は教育システム全体の方向性を左右しています。明治時代から続く一般入試中心の選抜方式は、日本の「学力重視」「一発試験重視」の教育観の象徴となってきているのです。

 そのため、東大の方針転換は日本の教育システム全体のパラダイムシフトを意味することになります。

 また、東大の動向は多くの大学に波及効果をもたらします。特に東大を頂点とする大学序列を意識する国公立大学や上位私立大学は、この動きに追随する可能性が、今後非常に高いでしょう。

東北大は「一般入試を完全に廃止」

 先日記事としてまとめている、東北大学も2050年までに総合型選抜100%にすると発表していることも記憶に新しいです。

 東大も同様の方向性を示したことで、この流れが全国的な趨勢となる可能性が高まります。

東北大学が一般入試を廃止!?日本の大学からペーパーテストがなくなる日

日本社会における「学び」の定義が変わる

 さらに、この方針転換は受験産業や高校教育にも大きな影響を与えることが予想されます。

 予備校や塾は一般入試対策から多角的な学習支援へのシフトを迫られ、高校では探究学習やプロジェクト型学習など、より多様な学びへの取り組みが加速するかもしれません。

 つまり、東京大学の一般入試割合削減は、単なる一大学の入試制度変更ではなく、明治以来の「学力一点主義」とも言える選抜方式からの脱却であり、日本社会における「学び」や「能力」の定義そのものを問い直す転換点となるのです。

 東京大学が今後どのような具体的な目標値や達成時期を設定するのか。また、どのような形で推薦・総合型選抜を拡大していくのか、その動向に大きな注目が集まっています。