進学先を選ぶとき、どんなポイントを重視しますか?
偏差値、通学時間、部活動、制服──どれもよくある判断材料です。
けれど、見落とされがちな“ある場所”が、子どもたちの進路や学校生活に思いのほか大きな影響を与えていることをご存じでしょうか。
それが、「トイレ」です。
この記事では、現役大学生3名の中学・高校時代の体験談をもとに、「学校のトイレ」が進路選択やメンタルに与えた意外な影響を紹介します。
たかがトイレ、されどトイレ。
これから学校選びを迎える親子にこそ知ってほしい、学校選びの“新常識”。
トイレは、実は“進路”にも、“心”にも関わる場所でした。
決め手は偏差値よりトイレの進路選択
「学校見学でトイレが汚くて、偏差値58の中高一貫校から48の学校に受験校を変えました。」
このように語るのは松井エリサさん(仮名)です。エリサさんは生まれてから13年間をアメリカ・サンフランシスコで過ごし、日本の中学校には「帰国子女枠」で進学しました。候補に挙げていたのは、愛知県内の中高一貫校で、偏差値58程度の南山国際中学・高等学校(2023年3月閉校)と、偏差値48程度の名古屋国際中学・高等学校。
「母の友人の娘さんが通っていて評判が良かったので、第一志望は南山国際でした。大学への指定校推薦が多いという噂もあって、母も私もここが一番だと思っていました。」
ところが、学校見学でエリサさん親子を出迎えたのは薄暗くて不衛生なトイレでした。
「トイレが薄暗くて汚くて、本当に怖かったです。幽霊がでるかと思いました。アメリカにいるときに、日本にはトイレの妖怪がいることを知っていました。本当にそのトイレには花子さんがでてくるのではないかとすごく怖かったです。」
「母も口には出しませんでしたが、これはちょっと……といった様子でした(笑)」
アメリカのトイレが決して豪華だったわけではありません。ただ、アメリカの中でもサンフランシスコはいわゆる富裕層が多く住む都市。トイレの清潔さは当たり前だったと語ります。
「私の住んでいたサンフランシスコは施設の設備がすごく綺麗な都市だったので、学校のトイレも綺麗なのが当たり前でした。だから余計にここには通えないなと思ってしまったかもしれません。」
「もう一つの候補だった名古屋国際は校舎もトイレもピカピカでした。初めての日本での生活だったので、私も両親も基本的な設備で不自由がないように、という考えが一致して、最終的には名古屋国際に決めました。」
「今思うと偏差値にかなり差がありますが、トイレは必ず毎日使う場所なので、綺麗なのは大事だと思います。」
偏差値は自分の頑張り次第で変わりますが、学校の設備は学生1人の意思では変えられません。だからこそ、毎日使う「安心できる空間」を優先したエリサさんの選択は、とても現実的な選択だと言えるでしょう。
学校生活の“QOL”を支えるトイレ
「高1のときの校舎のトイレは綺麗でした。でも高3のときに校舎が別の棟に変わったことで、和式のトイレにランクダウンしました。」
埼玉県の熊谷女子高等学校に通っていた中村綾菜さん(仮名)。創立100年を超える女子校らしく、校舎はところどころに年季を感じさせる造りでした。けれど、学校説明会で見たトイレは、そんな印象を一変させるほど明るく清潔で、「公立なのにここまで綺麗なの?」と驚いたといいます。
「公立だったので正直設備の綺麗さは期待していませんでした。でも、学校説明会で訪れたとき、トイレだけは綺麗に改装されていて、すごく嬉しくて、感動したのを覚えています。壁はほんのりピンクがかっていて、床はタイルではなくつるつるな素材のフローリング、でも便座は冷たかったかな(笑)明るくて、清潔感がある快適なトイレでした。」
ところが、高校3年生に上がり別の校舎に移動してから、彼女の“トイレ体験”は大きく変わります。
「その校舎のトイレは、すべて和式だったんです。照明も暗くて、床はタイル張りで掃除も大変……。トイレが変わっただけですが学校生活のQOLが下がりました。」
それは、単なる設備の違いではありませんでした。
清潔なトイレには自然と生徒が集まり、そこで会話が生まれ、ちょっとしたリセットの場にもなっていたことに、初めて気づかされたのです。
「プールのときには水着に着替えたり、手を洗いながら友達とおしゃべりしたり。“女子のたまり場”みたいな雰囲気があったんです。でも、和式のトイレになってからは誰も寄りつかなくなって、“ただの排泄スペース”になっちゃいました。」
「綺麗なトイレはいつも混んでいたけど、汚いトイレが混んでるのはあまり見たことない(笑)。みんな、できるだけ早く済ませて出て行く。滞在時間がすごく短くなりました。」
さらに彼女は、“掃除する側”の目線でも、格差を感じていたといいます。
「高1のときの綺麗なトイレは、掃除道具もクイックルワイパーだったんです。使いやすいし、やってて気持ちよかった。でも、高3の校舎では昔ながらのバケツとモップ。床も汚れてるから、頑張っても全然綺麗になった気がしなくて……。掃除そのものが憂うつでした」
棟によってトイレの綺麗さに差があることは、意外な落とし穴。毎日使う場所だからこそ、生活環境を重視する人は事前に見ておくといいかもしれません。
トイレが心のよりどころ「唯一の泣ける場所」
進路や日常の快適さだけではありません。トイレが“心の安全地帯”として、誰かの高校生活を支えていたというケースもありました。
愛知県にある、中京大学附属中京高等学校に通っていた石田真理さん(仮名)は、周囲から見れば“順調な高校生活”を送っているように映っていました。友達もいて、勉強もそれほど苦手ではない。
けれど、彼女の内側では、毎日の登校自体が「戦い」でした。
「がやがやした空間とか、集団で動く学校の空気がどうしても苦手でした。朝、制服を着るだけで涙が出てくる日もあって……登校中に泣きながら歩くこともありました」
とはいえ、保健室に駆け込むほどの体調不良ではない。むしろ「元気そうに見える」からこそ、弱音を吐くことすら難しかったといいます。
「保健室に行ったら、“ずる休みしたいだけ”って思われるんじゃないかって怖くて……。でも、教室にはどうしても入れない。そんなとき、トイレに逃げるという選択肢が自然とできていました。」
真理さんにとって、学校内で唯一“ひとりになれる場所”が、トイレだったのです。
「トイレって、“泣いても許される”唯一の場所だったと思います。もし教室で泣いてしまったら変に注目を集めてしまうし、保健室だとなぜ泣いているのか事情を一から説明しなくてはいけない。トイレが一番気軽に逃げ込める場所でした。」
決して“ホテルのようなきらびやかなトイレ”ではなかったと言います。けれど、そこには確かな“安心”がありました。
「便座はあたたかくて、毎日清掃員さんがきれいにしてくださっていて、嫌な臭いもしない。もし汚かったらトイレにはいることも苦痛なので、学校に居場所はなかったと思います。温かみのある雰囲気で快適だったのが安心できたポイントです。」
学校という集団の中で息苦しさを抱えたとき、逃げ込める場所がひとつでもあるかどうか。 それは、生徒の学校生活を大きく左右します。
誰にも言えない感情をそっと預けられる場所――そんな「静かな居場所」として、トイレが果たしている役割は、決して小さくありません。
まとめ
トイレの清潔さは、単なる“衛生の話”ではありません。
進路を左右し、学校生活の満足度を支え、時には生徒の心の安定を守る“教育環境”の一部です。
トイレは、誰もが毎日使う場所。だからこそ、そこにストレスや不快感があると、生活そのものの質に直結します。残念ながら、トイレのような設備は生徒だけで変えることは難しいのが現実です。
子どもたちが安心して通える場所かどうか。その判断基準に、「トイレ」という視点を加えてみることが、これからの学校選びの新常識になるのではないでしょうか。

.png&w=3840&q=75)



.png&w=3840&q=75)

.png&w=3840&q=75)
.png&w=3840&q=75)





.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
.png&w=828&q=75)
