都市部と地方部の格差問題が注目されて久しいですが、昨今では特に「教育格差」が脚光を浴びています。文部科学省の『学校基本調査』によれば、令和6年度時点で大学進学率は62.3%。しかし、都市部と地方部で大きな差があるのが現状です。同じ学力、同じ学習意欲をもった学生でも、都会生まれか否かで、進学結果に大きな差が生じている可能性がある。
実際に、2025年東京大学進学者輩出数の上位10校のうち、8校が首都圏部に校舎を構える私立中高一貫校となっています。これら学校群からの東大進学者を合わせると700名程度と全体の25%程度を占めている結果に。もちろん様々なファクターはありますが、都会に生まれたほうが、様々な点で有利になるでしょう。
これの最大の問題点は、都会に住んでいる限り、格差の存在に気付けない点。「何もかもが当たり前」な環境は、実は歪な傾斜の上に成り立っています。
今回は、長崎県の離島・対馬から、たった一人で東大進学を志し、周囲の大人の力も頼らず、自力で東大推薦合格を成し遂げた黒岩春人さんから、「都市部から見えない地方格差の実態」について伺います。
東大受験を目指したきっかけは?
__いつから東大受験を考えましたか?
黒岩:高校1年生の冬頃からです。当時推していたVTuberの方からゲーム理論について聞いたことから興味を持ち、国内最高峰の権威がそろう東大で研究したいと考えるようになりました。ただ、周囲の人たちはあまりピンと来ていない様子でしたね。私は対馬で生まれて、小中校と対馬の公立校に通い続けた生粋の島っ子でしたから、周囲を驚かせてしまったのかもしれません。もちろん、反対されたわけではなく、話半分で「まぁ、頑張ってみなさい」みたいな感じでした。
__どのような受験戦略を立てたのでしょうか?
黒岩:さすがに、東大を推薦で受験するノウハウなんてありませんでしたから、とにかく自分でいろいろ調べまわりました。ネットに落ちている合格体験記を読んだり、東大経済学部に推薦で合格されている方のブログから連絡を取って、直接話を聞いたりしました。あとは、志望理由書に付属する実績が必要なので、高校2年生の1年間をまるごと実績作りに費やしました。
研究テーマを深堀りして、課題や研究内容を具体化する必要もありましたが、「研究活動」自体の解像度があまり高くなく……。研究するといっても、どうやって進めていけばいいのか全く分かりませんでした。「基本的な論文や教科書をひとつ読んだら、その参考文献から読むべき本を選定して知見を深めていく」なんて方法を知ったのは、東大に進学してから。英語の論文なんて、もちろん読めません。英語の先生を頼ればよかったかもしれませんが、そもそも「周囲から助けを受けられる」と発想すらできなかった。もちろん、周りの先生方も尽力してくださいましたが、結局すべて自分で考えて進めました。
__都会の高校生との差を感じた場面はありましたか?
黒岩:実績作りの一環でエコノミクス甲子園全国大会に出場した時、周囲の高校生が塾の話や学校の話をしている様子を見て、ショックを受けましたね。「塾の宿題が~」とか言われても、対馬に進学塾はありません。中高一貫校もあるはずがない。「中学から同級生で、学校でも塾でも一緒の5年間を過ごしてきた子たちがライバルなんだ」と感じた時、「これが都会か」と実感させられました。
__いまは東大に進学されているわけですが、地元の設備と比べて、どんな点が気になりますか?
黒岩:とにかく、大きい本屋があったり、自習スペースがどこにでもあったりと、衝撃の連続です。地元の本屋は大きくないので、参考書は基本ネットショッピングで準備しました。でも、離島だから到着まで数日はかかる。しかも、実際に手に取って中身を確認できないので、それが自分に合うかどうかは取り寄せないとわからないんです。
自習スペースの問題もありました。都会にはカフェとか有料自習室とか、いろいろ選択肢がありますが、地元では学校か、自宅か、島の図書館かくらいしかない。図書館も、都会にあるような大きなものではなく、18時には閉館してしまいます。研究のために専門書を借りに行ったら、『マンキュー経済学』という入門書こそありましたが、2巻あるうちの1巻しか置いていない、なんてこともありました。
もちろん、これらの問題は船を使って博多に出れば解決します。ですが、一番安いフェリーを、島民割引きで使っても、片道5000円以上はかかる。往復にすれば1万円以上です。私の実家はそこまで裕福ではないので、「博多に行きたいから1万円出して」なんて、口が裂けても言えない。もっと設備が充実していたら、身近に推薦を相談できる人が暮らしているような環境だったら、と思うこともありました。
__金銭的な負担も大きくなるんですね。
黒岩:受験本番も、私と母で上京しましたが、これも大変な費用が掛かっているでしょう。受験日の2日前に東京入りして、2泊しましたから、おそらく15万円程度はかかっているのでは。地元の人とそれ以外とで差ができるのは仕方ありませんが、なかなか厳しい出費なのは間違いありませんよね。
地方の方がいいところもある?
__逆に、地方のほうが都会に比べて優れていると感じたことはありますか?
黒岩:「対馬から来ました!」っていうだけで一定ウケが取れるので、面接官の目を引いたかもしれませんね。熱意とか、主体性とか、そういった点において、認められる点があったのかも。同じ内容を都会出身の人がやったら、きっと「もっと深堀りできないの?」って突っ込まれていたでしょうから。
__いまはどんな活動をされているんですか?
黒岩:東大で勉強しながら、UTFRというサークルに所属して、地方高校で進路支援活動を行っています。去年は、母校である長崎県立対馬高校にもお邪魔しました。「大学ってどんな場所?」とか「こういう風に勉強するといいよ!」とか、色々な情報を伝えながら、地方格差の是正に少しでも貢献できればと考えています。
○まとめ
今回話を伺った黒岩さんは、超人的なバイタリティをもって、離島からたったひとりの東大受験を成し遂げました。もちろん創意工夫を通じて困難を打ち崩し続けた受験体験は素晴らしい財産として残り続けるでしょうが、同時に、もしも彼が都会に生まれていたならば、そのような苦労はしなくて済んだかもしれない。
東大推薦に強い都会の中高一貫校では、中1の入学時点から「東大に推薦で入学するために」という名目の研究指導が行われるそうです。生まれた場所や入った学校などの環境によって、本人の運命が大きく変わってしまう。完璧にフラットな状態を作るのは難しいでしょうが、現状を「仕方がない」と受け入れるべきではないと感じます。地方に生まれても、都会に生まれても、自由な進路選択ができるような環境を作っていくのが、現代を生きる我々の使命なのではないでしょうか。
黒岩さんは、東大進学後もゲーム理論を研究し、ゆくゆくは研究者を目指しているそうです。困難を跳ねのけて進学した彼の、今後の活躍が期待されます。





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