子どものトラブルとして一番恐ろしいのが「いじめ」。加害者・被害者どちらにもなりうる上に、場合によっては卒業後の人生観にも大きく影響する点で、なるべく関わりたくないものでしょう。昨今の中学受験ブームも、少しでもいじめと縁遠いような環境へわが子を送り出したい親の願いが反映してのものではないでしょうか。とはいえ、どこでもいじめは起きうるもの。
子どもがいじめられたとき、「とりあえず先生に相談しよう」と考えるのはごく自然なことでしょう。しかし、その選択がかえって状況を悪化させてしまうこともあることを、ご存じでしたか?
もちろん、大人が介入して解決するケースもあります。一方で、子どもが「先生の犬」と呼ばれ、担任に相談したことでいじめがエスカレートするなど、一義的に解決できるものでもありません。
そこで、今回は教育を専門とする中山芳一先生に、従来の常識を覆すいじめ対応術をお聞きしました。
いじめ回避の「メタ戦略」とは
――まずそもそも、いじめを防ぐことはできないのでしょうか?
中山先生: 僕はいじめをなくすことは難しいと思っています。いじめの引き金になり得るものはみんなもっているのです。その人自身の性格や外見、立場や周囲の人間など、自分自身に非がなくても標的になってしまえばいじめられるものです。
しかし、いじめを深刻化させる前に気づくことで心に大きな傷を負う前に回避することはできると思います。
いじめのターゲットになりやすい子の特徴は「人の変化に気づきにくい子」「危機感知が苦手な子」です。『あれ、なんか最近みんなの態度がおかしいな』という空気を察知できたらその段階で防ぐことができるのですが、察知できない子はいじめが深刻化してから気づくことになってしまいます。
――では、鈍感な子はどうすればいいのでしょう?
中山先生: これは、鈍感な子に限らず、みんな自分の身は自分で守らなければいけないという意識を持つことが重要です。いつもとの違いに、どれだけわずかな変化に気づけるか。どれだけ自分を好きでいられるかが大切です。
――では、もしかしてこれっていじめの始まりかも?と思ったら、どうすればいいのでしょうか?
中山先生: ズバリ、「メタ戦略」です。まず、メタというのは簡単に言うと「客観視する」こと。メタ戦略では、人間関係図を書いて、情報を客観視することから始めます。
手順としては以下の通りです。
① 人間関係図を作成
まず自分を中心に置く。その集団の人間をすべて書き出し、自分に害を与える人、自分の味方、害のある人の周りと自分の味方の周りでつながりを持つ人に注目。
以下は一例です。

②定数と変数を分ける
自分の力で動かせる関係(変数)と、そうでないもの(定数)に仕分ける。
③戦略と実行
「変数をどう変化させるか」を中心に戦略案を練り、実行に移す。
中山先生:いじめは、部活やクラス内など、なにかしらの集団の中で行われることが多いです。だから、誰が自分にとって害な存在なのか、逆に自分の味方は誰なのか、自分と害な存在が共通でつながりのある人物は誰なのか、こういう人間関係を図にして書き出します。
そして重要なのは、どうにもならないこと(定数)と、どうにかなること(変数)を仕分けすることです。変数の方を調整することで、解決の糸口が見えてきます。
また、一度状況を整理することで冷静になれるという心理的な効果もあります。
冷静になった後、自分はどういう行動を取るかを考えていくんです。誰に協力を求めるか、はたまた協力は求めないほうがいいのか、大人が出るべきなのか大人は出ない方がいいのか。こういう一連の流れを「メタ戦略」と呼んでいます。
その後の行動にも色んなパターンがあります。以下は実例ですが、これを元に解説していきます。
事例① 先生に褒められることで起きたいじめ
学級委員のAさんは、クラス目標の「1分前着席」を徹底し、先生から褒められました。ところが、そのことがきっかけで「先生の犬」と陰口を叩かれ、LINEで悪口を書かれるなどのいじめに発展していきました。
【メタ戦略で分析!】
①人間関係図の作成
Aさんを中心にすると、そばには担任の先生。対立する位置には、反感をあらわにするクラスメイトたち。そして、その周囲には直接嫌がらせはしないものの、どこか距離を置き、様子をうかがうだけの生徒たちが取り巻いていました。
「Aさん+先生」対「クラス全体」という二極化した構造が浮かび上がったのです。

②定数と変数の仕分け
このケースにおいて「定数」となるのは、絶対的な味方である担任の先生という存在、すでに高まってしまったクラスメイトの反感、そしてAさんが学級委員という立場にあることでした。
一方で「変数」として調整できる余地があったのは、Aさん自身の振る舞い方や、誰に相談するのかという選択です。

調整するべきは変数の方であるのにも関わらず、実際にAさんが取った行動は、味方である担任の先生に相談することでした。「これがさらに炎上させてしまった」とAさんは話します。
③戦略選択と実行
なぜ先生への相談が失敗したのか
Aさんが最初に選んだ「先生に相談」は、戦略的に見ると最悪の選択でした。
いじめの原因が「先生に褒められたこと」である以上、先生をさらに巻き込むのは逆効果でした。構図を強調するだけで、事態は炎上したのです。
その後Aさんが取ったのは「気にしない」戦略。普段通り学級委員としての役目を果たし、反応せずに過ごしたことで、やがて相手は関心が薄れて沈静化していきました。
新たな攻撃材料を与えなかったこと、毅然とした態度を崩さなかったことが功を奏したのです。
事例② 責任転嫁のターゲットにされたいじめ
調和を重んじるBさん。ある日の部活で、Cさんがメンバーのひとりを「あいつ、なくない?」と批判しました。ところが、その発言には周囲が賛同せず、逆にCさんが孤立しはじめます。するとCさんは「そんなこと言ったのはBさんだ」と責任を転嫁。これまで関係のなかったBさんが、突然標的にされてしまいました。Cさんは、集団内で“標的”を作り出す傾向がありました。
【メタ戦略で分析!】
①人間関係図の作成
Bさんを中心に、対立関係にはCさん。ただし部内には、DさんとEさんという「はっきり意見を言える信頼できるメンバー」がいました。その2人は場の空気に流されずに意見できるタイプです。

②定数と変数の仕分け
このケースで「定数」、つまりどうしても変えられない条件は、Cさんの性格そのものと、一度Bさんに責任転嫁されてしまったという事実でした。
一方で「変数」として調整できる余地があったのは、信頼できるDさんやEさんとの関係性、そして誰に相談するかといった選択の部分です。

③戦略と実行
Bさんは、DさんとEさんに相談しました。
二人は毅然とした態度でCさんに向き合い、「いや、それは違うよ。それを言ったのはCさん、あなたでしょ」とハッキリと反論しました。
第三者の客観的な指摘は説得力を持ち、Bさんへの疑いも払拭されました。
親ができることとは
ーーメタ戦略は少し難しそうに思いますが、大人がサポートしたほうがいいのでしょうか。
中山先生:小中学生だと難しいかもしれませんが、高校生以上はまずは自分でやってみるのがいいかもしれません。人間関係を整理し、立て直すことも人生において大事な経験になりますからね。その一方で、相談できる大人に現状を伝えたりしておくことはとても重要です。なにかあってからでは遅いですから。
大人ができることとしては、相談に乗ってあげることに加えて、被害を受けた記録や証拠を残しておくこともあります。スクリーンショットやメモなど、具体的な形で証拠を集めておくと、もし第三者に頼ることになった時、冷静に状況を伝えやすくなります。
そのためにも、普段から大事なことは相談しやすい関係を作っておきましょう。話しやすい環境を作るために、私は普段から自分のネガティブな体験を子どもたちに話しています。自分が過去に失敗したことや、いじめられていたこと、そういう自分の弱いところを子どもに素直に話すことが重要です。そして、武勇伝はできるだけ語らないようにしましょう。
――それはなぜでしょうか?
中山先生: 親のかっこいい姿を見ると、子どもは自分の黒いところを見せにくくなってしまうんです。「お父さんは学生時代、生徒会長でみんなに慕われていた」と聞かされた子どもは、親に相談したくなくなります。こんなにすごい親に対して自分なんて……と比較してしまうから言いにくくなってしまう。
だから武勇伝ではなく、「お父さんもそういう経験をしているからね」と伝えることで、遠慮なく言ってもらえるようにしています。子供が自分のネガティブなことを伝えやすい環境をどれだけ作れるかが、いじめの早期発見に繋がるため重要なんです。
まとめ
いじめは、性格や外見、立場に関わらず誰にでも起こり得ます。
大切なのは、いじめられないようにすることではなく、深刻化する前に対処すること。
今回紹介した「メタ戦略」は、客観的に自身の人間関係を見つめ直すことができるため、いじめになる前に対処できる効果的な方法です。
お子さんや生徒で困っている子がいたら、一緒に戦略を立てるお手伝いをしてみてください。
そして親は武勇伝ではなく、自分の失敗体験を語って、子どもが相談しやすい環境を作ることが重要です。いじめの早期発見と適切な対処のために、今日から始めてみませんか。

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