止まらない東京の住宅コスト上昇

「ただただ毎日おうちに帰って住んでただけで、500万は儲かる。こんないいことあるかなって感じでした」

こう話すのは、東京の超一等地で持ち家を購入し3年で売却したあゆみさん(29)だ。東京の賃貸価格、特に一人暮らし向け物件の賃料は現在急激に上昇し、同時に不動産価格もこの1年で38%という驚異的な上昇を記録した。

このような状況下で、20代〜30代の若い世代を中心に「今、家を買うべきなのか?」という議論が活発化している。持ち家派と賃貸派の論争は「宗教戦争」とも揶揄されるほど根深く、それぞれに一理ある主張が存在する。

今回は果敢に不動産を購入し大きな利益を上げた女性に、持ち家購入に伴う心情の揺れ動きをうかがった。

実体験者に聞く生々しい現実

外資系企業に勤務するあゆみさんは25歳の時に中央区のマンションを購入し、3年後に売却して700万円の利益を得た。購入価格は3,680万円、売却価格は4,300万円ほど。約20%の価格上昇だった。

「売却をした際、本当に1週間とかで購入の申し込みが2件来たんです。内見予約は公開した瞬間に届き、申し込みまで1日2回以上来ていましたね」

仲介手数料や税金を差し引いても、計算上500万円近い利益が出たという。3000万円控除があるため課税もなし。

「500万というと、平均的な新卒の年収より多くないですか。でも私、住んだだけなんですよ。ただただ毎日おうちに帰って住んでただけで、500万は儲かる。こんないいことあるかなって感じでした」

25歳での大胆な決断

あゆみさんが購入を決めたのは新卒3年目、25歳の時だった。なぜそんな若さで大きな決断ができたのか。その理由は意外にもシンプルだった。

「都心3区だしなぁ...と特に購入への不安はなかったです。聞いたことがない地域の穴場物件ならいざしらず私の購入した地域は、日本の中心のさらに中心。今から下がるとは思わなかった」

特に誰かと相談して熟慮したわけでもない。「中央区だから上がるでしょ」というシンプルに考え購入。個人として米国個別株への投資経験があるあゆみさんにとっては、個別の銘柄を選択するのと同程度か、むしろそれ以下の判断レベルだったという。

物件探しの方法もシンプルかつ一般的。「1~2か月くらい、スーモなどで条件を絞りつつ物件データを集め、レビューをチェックしつつ比較。特別なコネとかではなく、ひたすら時間と根性で漁りまわった」と振り返る。

家の購入と聞くと身構えてしまう人も多いだろうが、実は純粋な支出で比較すると、大きな差はない。以下のデータを見てみよう。

持ち家の場合(3,500万円のマンション購入想定)

  • 頭金:350万円
  • 住宅ローン月額:約10万円(金利1%、35年返済)
  • 管理費・修繕積立金:月約2万円
  • 固定資産税:年約15万円
  • 30年総額:約4,700万円

賃貸の場合(月12万円想定)

  • 敷金礼金・初期費用:約50万円
  • 月額賃料:12万円
  • 更新料:2年ごとに約25万円
  • 30年総額:約4,500万円

確かに持ち家のほうが200万ほど高くつく。しかし、持ち家は資産として不動産が残るのだ。家賃は払いっぱなしになるが、ローンは払った分だけ自分の財産の割合が増えていくと考えれば、むしろ魅力的な選択肢に思えるかもしれない。

住んでみてわかったリアルなデメリット

もちろん、うまい話ばかりではない。最も大きいデメリットは「気軽に引っ越せない」ことだった。数か月前に告知さえすれば簡単に転居できる賃貸とは異なる事情がある。

「極端な話、会社を辞めてオーストラリアにワーホリ行きます!みたいな行動は、さすがにしにくい。あとは隣人トラブルなどがあったとしても、サクッと動けない」

意外だったのは、婚活での反応だ。

「はじめてマンション購入をしたその直後に、マッチングアプリで婚活をしまして。でも家買ってるっていうと、一部の男性からは良い印象を持たれなかった気がします。自分一人で生活を完結させているなら、もう結婚する気ないんじゃないかって思うみたいで」

25歳女性が中央区にある45平米の部屋に住んでいることを不自然に思われ、購入したと説明することが多かったのだという。

「『家の購入=人生設計が確立してから、一生に一度だけ購入するもの』だと考えているみたいでした。考え方が合わない方は、やはりいましたね」

結婚後の新戦略:医師の夫とペアローン

現在は医師と結婚し、今年2月新たにタワーマンションをペアローンで購入している。3年前よりもさらにマンション相場が上昇している高値圏での購入について「確かにリスクは怖いが、むしろ今買わずにもっと上がった後の方が怖い」と語った。

ペアローン自体のリスクについても冷静に計算している。

「ペアローンにおける、離婚や一方が就業不能になるなど危険性は絶対にあると思ってて。でもそのリスクは、地震が起きたり災害で家が損壊するのと同じ。確率的に考えたときに、懸念事項が残ってもなお、持ち家を選択する方が利益が最大化できると考えたんです。

リスクを取るマイナスと利益リターンのプラス、どっちが大きいのかという計算式でしかない」

最悪の事態なども想定し、夫だけの収入でもローンは通る設定にしている。夫の職業が営利企業で勤務するよりはるかに雇用が安定した医師であることも、ペアローンでの購入につながった。

投資商品として半分捉える住宅観

あゆみさんの特徴的な点は、住居を投資商品として半分捉えていることだ。

「もちろん自分が住む家なので、住み心地であったり、利便性やそもそも住みたい街なのかも大事にしています。そして同じ程度、これって儲かるんだっけ?損をしないんだっけ?ということも大切にしています。2つの視点を半々で持っている感じです」

ライフステージの変化に応じた住み替えも想定済み。子どもの人数や夫の勤務地変更に応じた売却も視野に入れているそうだ。

「次の転居がいつなのかは分からないって感じで。でも遠い未来ではない。どれだけ見積もっても10年程度でしょうか」

一方で、不動産投資には興味を示さない。「住宅ローンで住居を買って売るのと、投資用ローンで投資物件買って売る・人に貸すのは違うゲーム。私が持ち家を購入したのは投資以前に住居を確保するのが目的なので、そこから外れた複数物件の所有は考えていません。

借り手がつかなかったり管理に工数がかかるなどのリスクと、収益のリターンがあまり見合ってないと感じています」

ケースバイケースの現実

あゆみさんの事例は確かに「成功例」と言えるだろう。しかし、これは中央区という立地、購入タイミング、そして何より価格上昇という外部要因に恵まれた結果でもある。

「不動産価格が上がるような土地で購入したというのは大前提であるし、買ったタイミングも良かった。これは結果論ですけど。絶対全員同じぐらいのことが起きるかって言われたら別なんですが、少なくとも私はそうだった」とあゆみさん自身も認めている。

持ち家vs賃貸の論争に明確な答えはない。純粋な支出だけで考えたときには、さほど差がないのだ。だからこそ、それぞれの価値観、ライフスタイル、リスク許容度によって最適解は変わる。盲目的にインフルエンサーの言説に踊らされるのではなく、自分の人生と向き合った末の自分なりの答えを導き出す「思考力」こそが、何よりも必要なのかもしれない。