日本には、思わず「そんな学校があるのか」と驚くようなユニークな学校が数多く存在する。
筆者の趣味は、そうした「オモシロイ学校」を研究し、実際に訪ね歩くことだ。
行事や制度、制服、校舎、校章、校歌など、学校を形づくるあらゆる要素を手がかりに、その個性を探っている。

前回の創成館高校取材に引き続き、長崎で訪れたのは長崎南山中学校高等学校
長崎市にある私立男子校で、1952年にカトリックの精神に基づいて創立された伝統校である。

筆者撮影


今回は、中学校教頭先生の秀島正俊先生、通信制副校長の松永克実先生、総合探究委員会委員長の德田憲一郎先生、国際部担当の田中孟先生、読書科担当の小林莉奈先生にお話を伺った。

日本でいち早く実践されてきた探究活動、数少ない男子校としての文化など、長崎南山ならではの魅力を探る。


左から、德田憲一郎先生、田中孟先生、小林莉奈先生

長崎南山ならではの特長とは?!

校舎は、平和祈念像のある平和公園や浦上天主堂から数分歩いた場所に建っている。
原爆の被害が大きかった地域として知られる場所でもある。

長崎南山は、この地に1952年、カトリックの精神に基づいて創立された。
校内には聖母像や宗教画が置かれ、カトリック校らしい雰囲気が随所に感じられる。

「創立記念日はミサがありますし、クリスマス会では聖歌も歌います。
毎朝10分ほど、神父でもある校長が話をする『朝の心』という時間もあります。キリスト教らしい行事は今も受け継がれています」

筆者撮影

宗教的な文化が日常に息づく一方で、長崎南山にはもう一つの特徴がある。
それは、九州でも数少ない男子校であることだ。

現在日本に男子校は100校弱しかない
そのうち、九州にあるのはたったの5校(2026年4月現在)。その一つが長崎南山である。

「体育祭にも男子校らしさがあります。
名物の種目は『力自慢』という競技で、俵を周りが脱落するまで持ち上げるんです。

あとはよさこいですね。佐世保はよさこい祭りが有名なので、団体の方に教えに来ていただいて踊っています」

「力自慢」の様子(学校提供)

男子校ならではの魅力について、先生方はこう語る。

「生徒に聞くと『盛り上がる』とか言うんですが、私が最近感じるのは『承認し合う雰囲気』ですね。
お互いにいじり合いながらも、ちゃんと認め合っている。

『飾らなくていい、ありのままでいい』と認めあえるのでしょうね。
例えば探究活動でも、『こう見られるかもしれないからやめておこう』と思うことがあるかもしれない。

でも、うちでは『まずは動いてみよう!』という空気がある。失敗しても恥ずかしくない。チャレンジしやすい土壌があります

こうした空気こそが、生徒たちが思い切って挑戦できる環境を生み出しているのかもしれない。
そして長崎南山では、その挑戦の場として、全国でも珍しい探究型の学びが長く続けられてきた。

「探究」ブームの先駆け!?

近年、教育界で注目されているキーワードの一つが「探究活動」だ。
大学入試でも総合型選抜などが広がり、生徒が主体的に問いを立て、課題を探究する学びの重要性が高まっている。

長崎南山では、中学校で「読書科」、高校で「総合的な探究の時間」が設けられている。
特に読書科は、世間で「探究」という言葉が広く使われる以前から続いてきた取り組みだ。

だが「普通科」「商業科」などは聞き覚えがあるが、「読書科」とはいったい……?
気になったので、伺ってみた。

学校提供

「中1は『知る』。いろんな考え方や価値観を知る段階です。

中2では『深める』。哲学対話をしたり、物語を手がかりに社会について考えたりします。

そして中3では『表現し、発信する』段階として、修了論文を1人1本書きます

その分量は、およそ1万字。中学生にとっては決して簡単な課題ではない。
この活動を支えているのが、図書館の存在だという。

「司書さんが、生徒一人ひとりのテーマに合わせて資料探しをサポートしてくれます。
必要があれば県立図書館から取り寄せたり、学校として新しい本を購入したりすることもあります。」

筆者撮影

完成した論文は、印刷してバインダーに綴じられ、学校図書館に保存される。

「一つひとつにバーコードをつけて、検索できる形で残しています。
『これだけの文字数を書き上げた』『一つのテーマをやりきった』という経験が、生徒の自信になるんです」

過去の論文集(学校提供)

こうした経験は高校での探究にもつながっていく。

「高校に入ってから『読書科でやったね』という会話はよく聞きます。
南山中出身の生徒と公立中から入ってきた生徒では、探究に対する土台が違うと感じることもありますね

『俺ら論文とか書いたことあるばい』って、ちょっと偉そうに言うんですよ(笑)」

先生は、読書科の授業に込める思いをこう語る。

「『問う力』や『自分で考える力』は、やがて自分の人生を切り開く力になっていくと思っています。
世の中の流れに流されるのではなく、自分の思いを持ったうえで選択できるようになってほしいですね」

社会に飛び出すハイレベルな探究活動

高校で行われる「総合的な探究の時間」についても話を聞いた。

「高校1年生では、まず自分の人生の軸を考えるところから始めます。
そこから自分のマイテーマを見つけて、探究の計画を立ててみる。

そして、高校2年生になると活動はより実践的になります。
外部の人にインタビューをしたり、実際にプロジェクトを立ち上げたりするんです。

発表の機会も設けており、高1と高2が合同で『探究フェスタ』という会を開きます」

「探究フェスタ」の様子(学校提供)

生徒たちの取り組みは実に多彩だ。
タンザニアの教育に関心を持った生徒は、現地で野球を教えていた日本人の本をきっかけに興味を持った。

この方は、実際にタンザニアを訪れた後、長崎でアフリカについて知ってもらうワークショップを開催。
さらにクラウドファンディングで50万円以上を集め、再び現地を訪れる計画を立てている

学校提供

地域と関わるプロジェクトもある。

平和町商店街の活性化をテーマにしたグループは、「ブッククロッシング」というイベントを開催した。
読まなくなった本を持ち寄り、別の本と交換する取り組みで、本に“第二の人生”を与えるというコンセプトだ。

地域でも評価され、平戸でも開催してほしいと声がかかり、実際に出向いてイベントを行ったという。

ブッククロッシングの様子(学校提供)

もちろん、すべてが成功するとは限らない。

フランスに10か月留学した生徒が、現地の海辺のゆったりとした文化を長崎でも紹介しようとイベントを企画したことがあった。
しかし当日はあまり人が集まらず、悔しい結果に終わったという。

「この経験をしっかりと振り返って、次の4月のイベントに活かしていました」

こうした試行錯誤も探究の大切な経験だろう。

中には研究色の強いテーマに取り組む生徒もいる。

イカの研究で賞を受賞した生徒は、中学時代の読書科でイカの養殖について調べたことが出発点だった。
しかし、同じ頃に大学の研究機関が養殖に成功してしまう。そこで高校ではテーマを転換し、「養殖したイカをどう高く売るか」という視点から研究を進めた。

工場見学の様子(学校提供)

海外の市場を調べるためドバイを訪れたり、研究者の会社を訪ねたりしながら研究を深め、最終的には未利用魚を活用したブランド化の研究にたどり着いたという。

「長崎は魚文化が豊かですが、県外にはあまり知られていません。そこで、市場では価値がつきにくい未利用魚を使ったかまぼこを開発する研究を行いました」

こうした試行錯誤のプロセスが評価され、研究は大きな賞を受賞した。

先生方は話す。

「まず大事なのは、自分の人生の軸を見つけることです。だから『どんな力がついたか』を数値化したり、優劣をつけたりすることはあまり考えていません

その代わりに重視しているのが、生徒の「情熱」だ。

『何とか変えたい』『やってみたい』という気持ちが大事だと思っています。そういうマインドがあれば、必要な力は後からついてくるはずです」

「人間の尊厳のために」

全日制の校舎の隣には、通信制課程の校舎がある。取材で訪れた日も、課題提出のために登校している生徒の姿が見られ、職員室には多くの先生方が勤務していた。

この通信制課程は、学校の理念から生まれたものだという。

「校長の『愛の力で多様な人を受け入れたい』という思いが出発点でした。
もっと多くの生徒たちに本校の教育を届けたいと。本校の全日制は男子校ですが、通信制は男女共学です」

通信制の校舎。かつては神学校として使われていた建物(筆者撮影)

長崎南山の教育理念は「人間の尊厳のために」

見返りを求めないという姿勢を大事にしています。こちらから差し出すことに喜びを感じるという考え方です。

人間の尊厳とは、その人がその人であることを、本人も周囲も認め合うということ。愛や尊厳を大切にする価値観を学校として大事にしています」

同校教育理念(筆者撮影)

長崎南山の一番の魅力とは何だろうか。先生方は生徒と教員の距離の近さが特徴だという。

「生徒一人ひとりをちゃんと見てる先生が多いので、先生と生徒の距離が近いと思います。

最初は警戒している生徒も多いですが、少しずつ二人で話すことに抵抗がなくなっていく。そうなると進路の相談や悩みも話しやすくなりますよね」

生徒一人ひとりの個性を認め、その可能性を引き出す。
長崎南山の教育には、そうした姿勢が脈々と受け継がれている。

探究の土壌は「チャレンジングな空気」

長崎南山の探究活動は、いわゆる「探究ブーム」よりもはるか以前から続いてきたものだ。
中学の「読書科」で問いを立てる力を養い、高校では社会と関わるプロジェクトへと発展していく。
そのテーマは国際協力から地域活性化、科学研究まで実に幅広い。

背景にあるのは、「まずはやってみよう!」という自由な空気と、「人間の尊厳のために」という教育理念だ。
生徒一人ひとりの個性を認め、挑戦を後押しする環境が、次々とユニークな探究を生み出している。

長崎の丘の上にあるこの学校では、今日もまた新しい挑戦が始まっているのかもしれない。