GAFAを生まない日本の教育と冒険する学びの必要性

 「うちの子、医学部志望なんです」──偏差値の高い子が次々と目指す進路。それが本当に本人の夢なのか、それとも“最も安全なルート”だから選ばれているのか。

 今回の鼎談では、ハーバード大学卒のパックン氏、『ホンネで中学受験』代表のユウシン氏、そして未来図代表の伊藤滉一郎氏(じゅそうけん)の三人が、「日本からGAFAが生まれない理由」と「教育と人材流出の構造的課題」について語り合った。

「東大→商社」という黄金ルートの落とし穴

パックン 実際、せっかく開成などの名門校に入った生徒が、「せっかくここまで来たんだから」と、迷わず東大から大手商社へ進むルートを選ぶのは自然な流れかもしれません。でも、それって最善の選択なんですか?

伊藤 確かにそれが多数派です。ただ、最近は少しずつ、開成から海外大学を目指す人や、東大からあえて起業に挑戦する人も出てきています。本当に少しずつですが、変化の兆しは見えます。

パックン 僕の出演する番組でも、「なぜ日本からGAFAのような企業が生まれないのか?」という問いがよく出てきます。その問いに対して、僕はやっぱり「教育」の問題が大きいと思うんです。お二人はどう思いますか?

ユウシン 僕も同感です。日本の私立中高一貫校って、ある種のパッケージ商品なんですよ。親が「これを選んでおけば安全」という感覚で、その進路を買っている。でも、本当はその子に合った学びを親がカスタマイズしてあげるべきなのに。

もちろん最近の中高一貫校では、個性を伸ばす教育を実践していて、一昔前の私立教育のイメージとは大きく変わってきている印象もあります。

ユウシン アメリカだとホームスクーリングなどで、子どもに最適な環境を親が提供するのが普通です。一方で日本では、その代替として「中高一貫校のパッケージ」が選ばれてしまう。本来もっと高く飛べる子が、真ん中あたりで落ち着いてしまっているのは、もったいないと思います。

伊藤 背景には、高度経済成長期の成功体験がありますよね。親世代が「いい大学からいい企業」のレールに乗って成功したから、子どもにもそれをなぞらせようとする。でもそれで、日本は世界の変化に遅れてしまった面があると思います。

パックン 確かに。では、それを変えるにはどうしたら良いと思いますか?

伊藤 やっぱり、親の価値観が変わることが第一歩ですね。「大企業に入って安泰」という発想の時代ではないことを理解し、「本人がやりたいことを応援する」方向に変えていかないと。

冒険する学びが、日本に足りない

パックン 僕が思うに、グローバル人材と平均的な日本人との大きな違いは「リスク概念」です。失敗してもいいから全力で挑戦する──そういう価値観が、日本にはまだ足りないように思います。

伊藤 日本では、本当に優秀な人が医学部に進んでしまう。もちろん医者は素晴らしい職業ですが、その人が本当に医者になりたいかというと、偏差値が一番高いからという理由だけで選んでいる場合もあります。

パックン それはもったいないですね。

伊藤 ええ。実際、町医者になっているケースも多い。それが悪いわけではありませんが、もっと大きなスケールで活躍できる人材が、そこにとどまってしまうのは残念です。

パックン ハーバードも今はまたウォール街志向が戻ってきています。超優秀な人材が結局「金を生む」方向に進んでしまっている。本当はリーダーシップをとって、社会を動かすようなことに力を使ってほしいんです。

ユウシン 学生起業も注目されていますが、それを支える環境がまだ整っていないですよね。ベンチャー投資の額なんかはアメリカと比べると桁違いです。

パックン “ベンチャー”は“アドベンチャー”と同じ語源ですよね。つまり冒険。投資も起業も、痛い目に遭うこともあるけど、それでもやる価値がある。それを子どもたちに早いうちから教えるべきなんです。

ユウシン でも、日本の受験制度にはその“冒険”がほとんどない。

パックン 敷かれたレールを走るための訓練ばかりですよね。

伊藤 中学受験も大学入試も、同じような構造です。本来ならもっと多様なルートがあっていいはずなのに。

 

本当に「グローバル人材」を育てたいなら

パックン 塾に通って一般的な入試で高得点を取って入学した子は、将来的にグローバル人材になる基礎を築けていると思いますか?

ユウシン 一部の学校では基礎を作れる環境もありますが、試験で測れていないことの方が圧倒的に多いですね。

伊藤 最近は“グローバル教育”や“STEAM教育”といった言葉だけが先行し、中身が伴っていないケースも目立ちます。専任の教員も不在のまま形だけ整えているような学校もある。だからこそ、教育の質を見極める目が必要なんです。

ユウシン グローバル人材に必要なのは、語学力以上に非認知能力です。例えば、気遣いや挨拶、リーダーシップ、責任感など。そして、それに専門性が加わって初めて“世界で通用する力”になる。だから、単なる国語・算数・理科・社会では不十分なんです。

パックン それに加えて「やり抜く力」も重要ですよね。受験で高得点を取った子には、それが備わっていると見なせるんでしょうか?

ユウシン 大事なのは、明確な目標を自分で持ち、それに向かって粘り強く努力できるかどうか。これが「やり抜く力」だと思っています。起業でもスポーツでも、この力が成功のカギを握る。受験勉強はそれを鍛えるための良い修行場になり得るんです。

伊藤 ただし、“本人がやりたい”ことに向かって努力しているなら、という条件つきです。親が決めた目標を子どもがただ追っている場合、その努力は本当の意味での成長にはつながりません。

パックン なるほど。アメリカでも『GRIT』という本がヒットして、困難を乗り越える力が注目されています。受験勉強で得られる「粘り強さ」は評価すべきだけど、四教科だけに限定されるのはもったいないですよね。

伊藤 まさにその通り。偏差値や英語力だけでは、グローバル人材にはなれない。非認知能力と専門性、この2つの軸が不可欠です。

パックン 専門分野に早期特化する必要はなくても、自分の「好き」を見つけて没頭する経験こそが大切。そういうプロセスを通して、自分なりの軸が育つと思います。

伊藤 その環境が整っているのが中高一貫校だと思います。高校受験がない分、自由に探究やクラブ活動に打ち込める時間がある。

ユウシン たとえば開成や灘といった学校では、そうした環境が結果的に起業や海外挑戦につながっているケースが多いですね。中学から自分の「好き」を追求している子は、本当に強いです。

 

グローバル教育のために、英語をやめる?

パックン 子どもが異文化に触れて視野を広げるのは素晴らしいことだと思います。でも、その「グローバル教育」を提供する学校に入るために、普通の塾に通わなきゃいけないんですか?

伊藤 はい。多くの私立中学の入試科目は、国語・算数・理科・社会の4教科です。

ユウシン 一部には英語を使う学校もありますが、まだまだ少ないですね。

伊藤 だから、小1から続けていた英会話も、小3でサピックスに入る段階でいったん中断する家庭が多いんです。

パックン えっ。受験に英語が入ってないから英語をやめるって……?

伊藤 入学のためには英語を休んで、また入学後に再開するという流れになっています。

パックン そもそも、その試験ってグローバル人材に必要な「クリエイティビティ」や「リーダーシップ」「コミュニケーション能力」を測れるんですか? それともただ暗記した情報を吐き出せるかどうかなんですか?

ユウシン 学校によりますね。本質的なグローバル教育をしている学校もありますが、人気目当てで「グローバル」を掲げているだけのところもあります。

ユウシン 例えば、イギリスのイートン校と提携して、現地でディスカッションをしたり、オックスフォードの教授を招いて英語で医療倫理を学ぶような取り組みをしている学校もあります。英語は手段であって、その背景に必要なのは、チームワークや思考力です。

パックン なるほど。でも、そういう学校も、入学するには“非グローバル”な普通の受験を通らないといけないんですよね?

ユウシン そうなんです(笑)。中学受験で私立に行くか、このようなグローバル経験を得られない公立に進むか──その二択の構造が変わっていません。

伊藤 つまり、グローバル教育を掲げながら、英語を一時的に断ち、結局は“国語・算数・理科・社会”の土俵で競わせているという矛盾があるんです。