「良い人生を送るなら、良い学歴を手に入れねばならない」。大半の方は、そう考えていらっしゃるのではないかと感じます。
確かに、東京大学や早慶卒の学歴を手に入れれば、大学のネームバリューやOBOGのコネクションなど、様々なものが付随して手に入る。何者でもない自分でも、何者かとしてふるまうことが可能になる。
ですが、AIの出現によって、この価値観は根底から揺らいでいます。
これまでは技術がないから、知識がないから子どもにはできなかったあらゆる知的労働が、子どもでもやる気と最低限の学習能力だけあれば、可能になってしまった。これまではラベルを手に入れてからでないと身につかなかった力へ、最短距離でアクセス可能になったのです。
いまや日本の平均年齢はおおよそ48歳前後と推計され、10代や20代の子どもよりも「大人」のほうがずっと多い時代になりました。とはいえ、環境が違えば育つ能力も異なる。今の子どもが生きる世界は、数十年前、今の大人たちが10代や20代だったころとは全くの別物。
となれば、現代の子どもたちにとって、現状の教育システムや大人の接し方は、もはや実情にそぐわないものになっているかもしれません。
小学校6年生で起業し、中学3年生の現在では宇宙開発を手掛けるベンチャー企業Bedrock Space Inc.など数社のCEOとして活躍する杉原海さん(15)は「現在の学校教育は、遅くて古い。現状にそぐわないものになっている」と断言します。
かつて”学級を崩壊させた” という彼の話からは、むしろ公教育にも塾にも家庭にもできなかったことを提供する、新たな学びの形が見えるようでした。「これからの教育の在り方」を考えます。

”学級崩壊”の真実
__小6で起業されたと伺いましたが、どんな事業だったんですか?
杉原:簡単に言えば、CGモデリング業者と発注者をつなぐ仲介サービスです。起業に至ったのも、最初は自分が必要性を感じたことがきっかけでした。
もともと私が小学校4年生の頃になってから、コロナで閉校になったんですよ。当時はパソコンとかインターネット、ITにハマった時期でして、暇を持て余すうちにパソコンを作ってみよう!と思い立って。
それで、YouTubeで作り方を調べて、自分でパーツを色々注文して、動画の説明の通りに組み立てて、自作PCを作ったんです。

しっかりお金をかけて、当時としてはかなりハイスペックなものを作ったので、CGモデリングとかもできたんですね。そこで「宇宙ステーションをモデリングしよう!」と思い立ちました。
私は幼少期から飛行機とか宇宙が大好きで、ずっと設計図を眺めて過ごして生きてきまして、当時から、そして今でも「宇宙ステーションを作りたい!」と考えているのですが、それをやるにはまず設計図が必要だろうと。

でも、これが納得いくように作れない。
もちろん素人にしては悪くない出来かもしれませんが、私の理想には程遠いんです。
色々調べてプロに行き当たるわけですが、やっぱり30万とか40万とか、お値段が張る。調べるうちに価格決定に関する構造などがあまりにも不透明であることに気付いた私は、「プロと直接マッチングして交渉できないか」と考えたんです。そうして生まれたのが、先述の仲介サービス。
まぁ、こちらは思ったよりも需要がなくて、イラストの仲介に切り替えました。
こちらはある程度売り上げが立ったのですが、それ以上にスケールするビジョンが浮かばず、ピボットして、今度はウェブサイトのデザインを請け負うように。
これはイラスト仲介の時より数倍売り上げが伸びて、このあたりから学校には通わなくなりましたね。中学1年生の秋頃の話です。
__学校と言えば、小学校の時、学級崩壊させたと伺いましたが……。
杉原:確かに、あれは「学級崩壊」と呼ぶしかないですね(笑)。
ただ、別に勉強しなかったわけでも、遊びまわっていたわけでもありません。学級の全員で、授業ではない別のプロジェクトを立ち上げて、全員でそれを遂行したんです。
小4から始まった学級閉鎖も1年で落ち着き、5年生になってからは登校義務が復活しました。ですが、感染拡大を防ぐために、給食時間中は黙食だったんです。せっかくのランチタイムに、食べながら話ができないなんて、あまりにも退屈じゃないですか。
そこで、先生に「給食時間中に、教室前方でYouTubeを流そう!」と掛け合ったんです。しかし、これはコンプラ的にNGが出た。
「じゃあ自分で作ればいいの?」と聞いたら、今度はOKと。
そこで私を中心に「映像制作係」が誕生しました。
これは学校内で動画作品を制作する係でしたが、設立当初4人しかいなかった係が、小学校6年生の終わり頃には40人くらいに増えてしまって(笑)。
5年生の後期くらいからは、放送室をジャックして、みんな授業そっちのけで映画を作っていました。
ただ、これは私が先導して授業をサボらせたわけではなく、「先生方もみんな協力してくれていて、そうなった」という方が正しい。
私が校長室に何時間も入り浸って、「いかにこの活動が社会的貢献に至るものか」を説得しました。私たちは、生徒も教師も一体となって、「良い映像作品を作るプロジェクト」を完遂させようと走っていたんです。
授業をしていないから”学級崩壊”と喩えただけであって、荒れていたわけではありません。
「大人が決める公教育」の古くささ
__もともと授業とかは受けていなかったのですか?
杉原:「ずっと浅いことばかりやっているな」と感じていました。必要ではない情報までもむやみに教えようとしている。
個人的に早期英語は悪くないと考えていますが、それにしたって教え方はある。ダンスの授業とか、それはいったい何のためにやるの?と疑問が出てきますよね。
技術とかも専門的なことをやるわけではなく、ずさん。
論理的な思考能力を高めるならば数学・英語・国語あたりをやればよくて、論理的思考力が身に付けば、必ず自らを高いステージへジャンプアップさせられます。
もちろんチームビルディング的なことを学ぶのは重要でしょうし、せっかく学校はそれに適しているのですから、もっと環境を活かすべき。
学校主導ではなく、生徒主導のプロジェクト立案を支援する方がよいのではないでしょうか。
たとえば、ずっと文化祭的なことをやらせてみる。やりたいことを考えて、そのために必要な素材とか手順を考えて、それらを準備して組み立てて……。
これらは、社会に出てからいくらでも要求される能力ですが、学生時代にやったことがないことを大人になっていきなりやれと言っても、それは無理でしょう。
それならば、学生時代に企画立案から実行までを体験させるべきです。

もっといえば、時間割だってなくしていい。時間割を決めることって、ひいては「どの授業に自分が価値を感じるか」を可視化する作業ですし、それを通して自分の向き不向きとか好き嫌いと向き合うことができるようになるはず。
それが、いまは学校側から一律に決められた時間割を配られてしまう。これは、自分でトライアンドエラーに従事する機会の損失であり、莫大な経験値をロスとしてしまっている状況です。
そもそも、知識なんて、いまですらAIが一定強くなっているのですから、これからもっと進化していった先で人間が勝てる道理はない。
合理性の先に、人間の未来はないんです。それよりも、AIを利用する方向で考えたほうが良い。ChatGPTなどを的確に活用すれば、各生徒にパーソナライズした個人専用家庭教師をつけられます。問題の答えは出力せず、考え方のヒントを出力するような条件だって組める。そういう教材を作って配布すればいいのに、出現の気配はない。
配布されるクロームブック(ノートPC)だって、別にドキュメントを共有したり、スライドを作ったりで完結するようなパソコンではありません。かつて私の学級がやっていたように、それこそ動画編集だってできるんです。
ちゃんと活用すれば、自分から探究する楽しさなんて、いくらでも見つけられる。
それなのに、誰もそれをしていない。
きっと、大人も含めて誰もが、その扱い方をわかっていないのでしょう。
「何もかも遅すぎる」
__なるほど。いまでは学校にあまり通われていないと伺いましたが、それはなぜでしょうか?
杉原:時間がないからです。
といっても、みなさん驚かれるんですが、私は本当に「自分には時間が残されていない。何もかも遅すぎる」と常に自戒しています。
小学生の頃、私は火星移住計画を考えていました。「いつか宇宙へ!」は私の目標でしたから。
それで、当時は視野が狭かったのもあって、「起業家として、いつかやってやる!」って考えていたんです。
でも、間違いでした。
イーロン・マスクが、私と全く同じような計画をインタビュー動画の中で明かしていたんです。
当時中学1年生だった私には「自分と同じことを考えている人がいるなんて!」と、衝撃でした。それに、彼と比べたとき、私は本当に起業家なのか?と疑問も浮かんできたんです。
私は、人間とは「自分の存在を社会に証明するために何かをする」生き物だと考えています。ですから、起業家は「存在証明のために起業する人」となる。
自分の思想とか観念、哲学などを事業として広めるのが、重要でしょう。
ですが、当時の私はウェブサイトの受託開発が主だった。確かに会社を立ち上げてはいましたが、「誰かから何かを頼まれて、言われたとおりに作るだけの事業」だと気付いたんです。
あまりにも俗人性がない。
「自分は起業家ではなく、個人事業主なのでは?」と疑念が胸で渦巻きました。
月商は立っていたものの、それからは受託開発をやめて、「起業家」になろうと決意しました。

そのためには、人脈を増やす必要が出てくる。
私の地元は北海道でしたが、やはり地方だと限界があります。
「これではダメだ、東京に行こう」と気付いたときには、東京のどの中学校に転校するかを探していました。
__事業のために転校を……すさまじいですね。
杉原:おかげで、東京に来てから人脈はすさまじく広がりました。U20に限ればですが、日本で一番の自負があります。
それに、2025年度最も高い成長率を記録した起業家である自信もある。
集まってくれた人の質もすごく高くて、例えば「受験勉強を一切せず3か月の付け焼刃で大阪桐蔭中学に入学し、全国模試では地理6位になったのに、高3の4月になって退学して、中卒で私と共同創業者になってくれた方」など、経歴的にもユニークで、覚悟ができた面白い人しかいません。

もちろん、そこに至るまでに色々な失敗もありました。
数えきれないほどのミスを積み上げながら、がむしゃらに進んでいった。
特にこの数か月間は濃くて、体感では5年分くらいの経験をしています。
重要なのは「やり切る覚悟」
__高校には進学されるのでしょうか?
杉原:いえ、時間がありませんから。結局転校した中学にも10日くらいしか通っていませんし。
私は、10年後には労働がロボットやAIに代替されることもあり得ると考えています。
そうなれば、働かなくてもモノやサービスが湧いてくるようになるわけで、モノの価値が極端に落ちていく。物質的には豊かでしょうけれど、みんなが持っているのだから、そこで納得できる人は少なくなるでしょう。
そうなると、次に重要になるのは、やはり精神的な価値。縄文時代的な物々交換とか、あまりにも非合理に感じるかもしれませんが、そういったところにバリューが見出されてくるのではないでしょうか。
絵を見て面白いと感じるとか、友達を作って楽しむとか、感性が重要になる時代はすぐそこまでやってきています。
だからこそ、学校で勉強に勤しむのも大事かもしれませんが、それ以上に自分の心の形をよく知ることが重要になってくる。
それに、特に東京では顕著ですが、学歴がなくても、ある程度の地頭さえあれば、今の時代何でもできます。
10年前とか20年前のトップクラスの起業家が作っていたような企画書を、今ならだれでも真似できる。となれば、重要なのは、覚悟でしょう。
__杉原さんは、何事にも一直線に取り組まれていますが、それが覚悟でしょうか?
杉原:そうです。私は、一度やろうと決めたことは、寝ないでやります。
小学校時代の映像制作だって、起業した時だって、全てどんなに先生に怒られても、親に連絡がいっても、何があってもやり抜こうと決めていました。
実際に、私は何度も先生方と衝突しましたが、それでも絶対に自分を曲げず、最後まで走り切った。

熱量と覚悟さえあれば、やり切るしかなくなります。
退路なんてありませんから、「どうすればこの計画を成功させられるだろう?」と考えるしかない。
やりたいことをスケールするにあたって、足りない要素を必死で考え抜けば、自然とやるべきことは明確になります。そして、目の前に出てきた「やるべきこと」をすべて潰していけば、何かが完成しているはずなんです。
もちろん、みんながみんなこういう考え方で動けるわけでもないことは理解しています。ただ、そういった方も考えなくてはいけない問題がある。
先ほども述べたように、私たちは豊かになりたいから働くわけですが、それが物質に縛られなくなる時代がやってきます。
そうなれば、重要なのは「幸せであるかどうか」でしょう。
つまり、自分が楽しく生きるには、死ぬ間際に「楽しく生きた!」と感じるには、どうすればいいか?を考えればよい。
受験勉強などではなくて、もっと先のゴールから決めるべきでしょう。
すなわち、「死ぬときには、どこで、どれくらいの人に見守られて死にたいか?」です。それを実現するには、いつまでにどのような関係性を構築するべきかがハッキリしていくはず。
そうなれば、おのずとやるべきことは見えてきます。
__杉原さんは、ずいぶんと芯がしっかりしていらっしゃるように感じます。杉原さんは学歴ではないところに芯を置かれているようですが、「学歴に頼らず生きる」ためには、どのような力が必要なのでしょうか。
杉原:人に頼ることですね。とにかく連絡をするとか、お願いをするとか、色々な人と関係を持とうとすることです。
人間は、一人では何もできません。どうしたって、ほかの人の手助けが必要になる。
私だって、今の人脈を築き上げたのはSNSのおかげでした。有名な社長に連絡を取ってキャリア相談をするとか、同年代で活躍している人に連絡をして手伝ってみるとか、なにか人を巻き込んだアクションを起こしましょう。

もちろん、怖いですよね。「有名な社長に連絡なんて、いいの?」と立ち止まる瞬間もあるはず。
だからこそ、連絡をするには、覚悟が必要になる。
中途半端な思いで連絡を取れば、相手に失礼な何かが発生する不義理を働くことになります。それは、巡り巡ってやがて自分に返ってくる。
覚悟をもって、人に頼ってみる。それさえ守れば、ビジネスの話は無限に舞い込んできます。
私個人の話をすれば、ビジネスパートナーを選ぶ際には、正直賢い人よりも「いい人か」を見ている。一緒に働くためには、相手の人格が重要なんです。
ですから、自分の性格を見直すことこそが、意外と有効打になるかもしれませんね。
子どもの才能に光を
15歳にして数社を経営する若きCEOですが、その本質は社会人である私も舌を巻くほどの人格者でした。
彼が宇宙開発をする理由は、「人類文明の繁栄のため」。いつか来る地球の限界を回避するには、宇宙進出は不可避です。イーロン・マスクすらも超えていくと断言する彼の言葉には、確かにそれを直感させる力強さがありました。
同時に、彼が「現代教育が遅い」と断言する理由もわかってしまった。目まぐるしく変化し続ける技術に対して、教える側の理解やテクノロジーへの理解が間に合っていない。
そのため、子どもたちはテクノロジーを十全に活かすことなく、旧式システムの中で生きねばならなくなっている。
両親からは「自分の理解の範疇を超えているから」と、全ての人生における判断を一任されているという杉原さん。
彼も、もともとは「高校、大学に進学して、一般企業に就職してから起業すればいい」と説得されていたそうですが、圧倒的な才能は一般論をひっこめた。
彼は「これからはAIの出現によって、人の物差しが多様化していく。学歴はその中の一つにすぎず、相対的に価値は低下していく」と断言します。
高校に進学せず、空いた時間を事業開発にあてる彼と、中学高校で足しげく塾に通いつつ、大学受験に向けた研鑽をする子どもたち。
果たして、どちらが本当に未来志向といえるのでしょうか。





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