2025年の第107回甲子園。8月7日に行われた広陵高校対旭川志峯高校の試合にて、衝撃的な光景がスクリーンに映し出されました。旭川志峯高校が試合後に行う握手を拒否したのです。これは、広陵高校野球部にて発覚した凄惨ないじめへの抗議が背景にあると言われ、事態を重く受け止めた広陵高校野球部は、直後に出場辞退を決定しました。
昨今いじめ問題は様々な地域、学校で問題となっています。いじめをきっかけにした登校拒否や、留年・中退に加え、自傷行為や自殺などに発展してしまうケースもあります。
なぜいじめ問題は起きてしまうのでしょうか? 非認知能力に関する著書を業界で最も多く出版し、環太平洋大学特命教授にも任命されている中山芳一先生によれば、
「いじめっ子は、いじめっ子として生まれてきたのではなく、いじめっ子にしてしまう環境にこそ問題がある」と語ります。
今回はわが子をいじめっ子にしないような育て方について伺います。
「いじめは誰にでも起こりうる」
なぜ子どもはいじめっ子になってしまうのか。
中山先生は、「子どもをいじめっ子にしてしまう要因は、環境にある」と言います。
「人は誰しも残虐性を秘めていますが、それを肯定する価値観を持つかどうかは環境次第です。性格のせいではありません」
いじめっ子の“芽”は誰の中にも潜んでいます。ただし、それが実際に芽吹くかどうかは、生まれ持った気質だけでなく、周囲の人間関係や生活環境からも強い影響を受けるというのです。
「環境にも2つあります。ひとつは親の作り出すもの。もうひとつは子どもによるものです。親が兄弟や同級生と点数などを比較していると、子どもにも『誰かと数字で比較する』癖がついてしまいます。親の満足いかない数字を出したときに子どもを叱ると、子どもはやがて『自分よりも下がいる』と安心したがるようになり、やがて『自分よりも下の人間』ばかりを見つけては見下すいじめっ子気質を呼び起こす一因になります。
また、子どもに暇な時間を与えすぎると、他人を見る時間が増えます。他人を気にし、比較し、やがて自分を優位に見せようとする。そうした過程で、誰しも“いじめる側”になる可能性を持っているのです」
私たちはつい「いじめっ子=性格に問題がある子」という固定観念を抱きがちです。
しかし先生は、それをきっぱり否定しました。
むしろいじめの背景には子どもを取り巻く環境や、親の無意識の言動が大きく関わっているのだと言います。
SNSに潜む「見えないいじめ」の正体
文部科学省の統計によれば、2023年度のいじめ認知件数は過去最多を記録しました。
特に顕著なのが、SNSやオンラインゲーム、グループチャットなどデジタル空間に広がる「見えないいじめ」です。

匿名性が高く、表面上は冗談にしか見えないやりとりでも、受け取った側は精神的に深く傷つきます。裏アカウントでの悪口や、グループチャットでの排除。大人が表面だけを見てもなかなか気づけません。
「現代のいじめの特徴は、一見仲良く見えても実はいじめが起きているケースがあること。証拠も残りにくく、学校が介入するタイミングも遅れてしまいます」と先生は指摘します。
実際に、大津市で2011年に起きた中学2年生のいじめ自殺事件では、加害者の親は「うちの子がいじめに関わっているなんて想像もしなかった」と語りました。
札幌市で2019年に起きた小学生の自殺事例でも、SNSでの悪口や無視が深刻化していたのに、保護者も学校も把握できていませんでした。
「うちの子に限って」という思い込みが、現実を見えなくしてしまう。この事例は、親が子どもの兆候をつかみ損ねる怖さを物語っています。
親子で守る「家庭内憲法」を作る
いじめを防ぐための第一歩。それは意外にも親の姿勢だと先生は強調します。
「完璧な親でなくていいんです。大切なのは、理想に近づこうとする姿勢を見せること。子どもはその姿勢を敏感に感じ取ります。我が家には『親より先に死ぬな』をはじめとした家訓がいくつかあります。親子共通で守る憲法のような家庭内ルールを確立し、お互いにそれを守りながら暮らすことで、お互いを尊重した暮らしを営めます。」
毎日の会話の中で「何が正しいのか」「どう振る舞うべきか」を親子で話し合うこと。
それがやがて“家庭の憲法”のような共通認識になります。

「子どもは、自分が自立した価値観を持つ前に、まず親をモデルにします。親が人を見下す態度を取れば、子どももそれを正しいことだと思って学んでしまうのです」
子どもは幼少期に親からの影響を強く受けます。小学校低学年までは特に、親の言葉づかいや態度、他者への接し方を日々吸収しながら育ちます。その後、学校でのコミュニティの中で再び人格が形づくられていきます。
例えば、兄弟げんかの仲裁で「相手はどう感じた?」と問いかける。親自身が店員さんや近所の人に「ありがとう」と伝える。小さな行動の積み重ねが、子どもの共感性を育てます。
逆に、「○○ちゃんより上だから偉い」といった比較の言葉や、親の愚痴・悪口は、子どもに“人を見下すことで自己を保つ”価値観を植え付けてしまうのです。
小さな言動がいじめの芽になる
逆に、どのような言動やふるまいは避けるべきなのでしょうか?
先生は、親の無意識な習慣が子どもの加害性を育ててしまうと指摘します。
「注意すべき点は3点あります。まず、過度な比較や評価は避けるべきでしょう。幼少期から「できる・できない」で評価され続けた子は、常に他人と比べる癖を持ちます。そして、自分より劣ると感じる相手を攻撃することで優位に立とうとします。
また、性格が温厚で反撃してこない子を狙った『スケープゴート思考』も避けるべきです。誰かを犠牲にして安心を得ようとする思考を促進させます。さらに、誰かと自分を比べるヒエラルキー構造を肯定するような言動も控えたほうがいいでしょうね。これもまた、他人と自分を比べさせ、上下の差で自他を評価させるような考え方だからです。何気なく過ごしている親の姿を教科書のように子どもたちは見て育ちます。悪い教材とならないように、親も注意が必要です」
子どもに与えるべきは“暇”ではなく“夢中”
いじめは特別な子だけがするものではなく、環境と価値観の積み重ねによって誰の中にも芽生えます。
そして、その環境を最も強く形成するのは親です。
「没頭できる活動がある子は、人を傷つける余裕なんてありません。けれど暇を与えられた子は、比較に走り、誰かを攻撃する方向に流れやすい」
SNSのコメント欄で心ない言葉を投げる人々。彼らもまた、夢中になれる対象を持たないまま、呼吸するように他者を傷つけています。
だからこそ、子どもに必要なのは“暇”ではなく“熱中できるもの”。そして親自身が「他人を見下さず、公正に生きる理想像」であること。
子どもにとっての理想像は特別な誰かではなく、毎日そばにいる大人です。
大切なのは“完璧な親”になることではなく、少しずつ理想に近づこうと努力する姿勢。
その姿勢こそが、子どもをいじめから遠ざける、最も確かな予防線になるのです。





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