「慶応に出願するためには、10個の探究活動が必要。出願1か月前になっても10個は埋められなかったので、本当に必死に取材のメールを送りまくってました」
こう語るのは、慶応義塾大学法学部政治学科1年生の右田さん(仮名)。彼女は「FIT入試」という総合型選抜(AO入試)で、難関私大の門を潜り抜けています。慶応を志望校と決めるのは早かったものの、FIT入試の存在を知ったのは遅かったという右田さん。受かったコツは『政治家へのインタビュー』だと言います。
「最終的には100名以上の政治家の方にメールで取材の依頼をして、10名ほどの方が会ってくださった。どれも貴重な経験で、この取材がなければ慶応に入れてないですね」
高3の夏の時点でも活動が終わっていなかった彼女は、どのように政治家のインタビューを活かして合格したのでしょうか?合格までの道のりに隠された、独自の戦略と驚くべき行動力について聞いてみました。
「そつなくこなせるキャラ」だった中高時代
「私は先生から見たら『はっちゃけてる』生徒なんですよ。『なんでこいつ頭いいの?』って不思議がられるタイプ。普段は空気読まずはしゃいでるのに、テストになるとちゃんと結果を出す…そういうキャラで、それが自分でも気に入ってました」
神奈川県の中高一貫の私立校に通っていた右田さんは、典型的な優等生とは一線を画す存在だったそうです。授業中に空気を読まず質問をしたり、友人と騒いだりする「はっちゃけてる」生徒だと自認する一方で、学年200人中上位20人に入る成績を維持していました。
「定期テストはクラス4位くらいで、勉強が苦じゃなかったんです。中学受験もしたし、早くから習慣づいていたので」
右田さんは勉強以外にも、小学生の頃から様々な習い事を経験。バレエ、ピアノ、習字、水泳など「習い事を網羅して」いたという。しかし、「これといった特技はない」と話すように、器用にこなせる一方で大会で大きな実績をなどの経験はなかったそうです。
そつなくこなせるタイプだったこともあり、中学受験では第一志望の女子中高一貫校に進学。偏差値は高くなかったものの、両親も後押しもあったそう。
「とにかく校舎が綺麗だったことに惹かれて、小4の頃には第一志望にしていたと思います。偏差値は55くらいで決して高くはなかったんですが、憧れがすごくありましたね」
「宿題で行った」オーキャンで芽生えた慶応への憧れ
そんな憧れの中学校に入学した右田さんは、第一志望で充実した日々を過ごしたそう。そして高校1年生の初めに、「オーキャンに行くという宿題が出た」ことを理由に、慶応の日吉キャンパスに足を運びます。
そこで慶応義塾の雰囲気に一目ぼれしたといいます。
「最初から慶応のネームブランドがかっこいいなとは思っていて。『慶応バッグ』を持っている人もよく見かけるし…。オーキャンに行ってからどんどん行きたい気持ちが強くなっていって」
しかし、彼女には大きな課題があった。
「さすがに一般入試は絶対無理、本当に無理って感じでした。中学受験の段階でも、慶応は視野にもいれてなかったので」
指定校推薦があることは知っていたので、高校1年生は指定校推薦にチャレンジすることを念頭に評定を取る作戦を取ったそうです。
担任からの「上には上がいる宣言」
高校2年の終わり頃、先生との面談で実際に指定校推薦を勧められた右田さん。しかし担任からは「慶応のレベルはきついんじゃないか」と言われてしまったそう。
慶応への指定校推薦枠はわずか1枠。「上には上がいる」勉強のできる同級生たちを相手に競争するのは難しいと感じたと右田さんは言います。
「指定校じゃないと、慶応は目指せないって思い込んでて。レベルが達していないというのはどこかで感じてたんですが、やっぱり言われた時は悔しかったです」
そんな時に出会ったのがFIT入試だった。
「『それでも慶応に行きたい』と先生に調べてもらったら、『FIT入試っていうのがあるよ』って。名前も聞いたことなかったので、最初はすごい活動とかしないといけないのかなと思ったけど、そんなに基準が高くないように見えて…」
評定を意識してきたことが功を奏して、FIT入試で求められる基準を目指せると考えた右田さんは「出願まで半年もない」状況で入試方式を変え、受験に挑むことにしたという。
FIT入試とは:
「FIT入試」とは慶応義塾大学が実施する総合型選抜(AO入試)の一つで、Flexible and Intelligent Thinking入試の頭文字をとった名称。志望理由書や活動報告書、小論文、面接などを通じて、学力試験だけでは測れない多面的な能力や資質を評価する入試制度。右田さんのように学力のみでは合格が難しくても、他の優れた資質があれば合格できるチャンスがある。
「評定」と「活動」のダブル対策
FIT入試に向けて右田さんが取った戦略は二つ。
1つは高評定を維持すること。最終的に4.4という評定を獲得した彼女だが、「評定4.0は絶対最低ラインだと思います。正直4.4は低すぎて、それだけで足きりじゃないかとひやひやしてました」と語る。
もう一つは活動報告書を埋めるための「活動」だ。ここで彼女が選んだ驚くべき方法が、政治家へのインタビュー活動だった。
「おばあちゃんに後天的障害があって、それで障害者の個性を発揮する機会がある社会にしたい、というのが私の問題意識で。障害者支援をテーマにして、活動を始めました」
しかし、FIT入試の出願まであと3ヶ月しかない高校3年の夏。パニック状態で活動報告書を埋めるために、右田さんは思い切った行動に出る。
「本当に夏前からです。それこそインタビューをしたのは7月8月とか…この活動表を埋めるために必死でした」
政治家に「凸る」驚きの戦術
右田さんが選んだ驚くべき戦略が、国会議員を含む著名人への直接アプローチだった。
「文部科学大臣をされた柴山昌彦さんとか…すごい方々なんですけど、全部自分でメール送って」
元文部科学大臣らに自ら連絡を取り、インタビューをお願いするという驚きの行動力。大学生や研究者のサポートもなく、「全部自分でやったんです」と右田さんは語る。
「有識者の話は絶対聞かないとダメだなって思ったんです。自分で調べたことだけだと、ただの高校生の意見みたいになっちゃうので。自分の調べることの限界を超えるために有識者の話を聞いて、それを志望理由書に活かしました」
その結果、FIT入試の活動報告書には「国会議員インタビュー」「政治家インターン」といった他の受験生にはない特徴的な活動が並ぶことになった。
「最終的には100名以上の方にメールで取材の依頼をして、10名ほどの方が会ってくださった。どれも貴重な経験で、この取材がなければ慶応に入れてないですね」
「詰められまくる」面接の実態
FIT入試の面接は、右田さんにとって想像以上の厳しさだったそうです。
「面接は最初から最後まで詰められました。『障害者支援することって、マイノリティじゃなくて、マジョリティーにとってどうなんですか?』『弱者救済って普通の健常者になんのメリットがあるんですか?』とか」
想定外の質問に戸惑ったか、と思いきや、右田さんはここでも驚くべき対応力を発揮します。
「想定よりも厳しかったですが、そういう質問は全部、障害者がテーマなので準備していました。それに関してはもう全部話せるようになっていたので」
「2つありますって、まず答えて。1つ目は日本が弱者の救済に力を入れていることをアピールすることで、世界から日本が福祉国家として格付けされるメリットがあること。
2つ目は弱者に優しい世界は、健常者にも優しい世界だということ。自分がいつ弱者になるかわからない。明日交通事故にあって足を骨折したら障害者になるかもしれない。だから健常者にとっても安心できる社会になる…という感じで答えました」
見事な返答に面接官も「そっかあ」と感心する様子だったといいます。
合格の要因となったものは?
右田さんの合格要因を分析すると、いくつかの重要なポイントが浮かび上がる。
評定の確保:4.4という高評定を維持
テーマの一貫性: 障害者支援という明確なテーマ設定
圧倒的行動力: 政治家へのインタビューなど他にない活動
準備の徹底: 想定問答の用意と深い知識の獲得
自分の限界の認識: 一般入試は諦め、総合型入試にシフト
「普通の高校生には簡単に真似できない政治家インタビューが決め手だったのでは?」と聞くと、右田さんは意外な回答をしてくれた。
「予想ですが、活動も大事だけど、評定4.0と面接での受け答えは絶対必要なんだと思います」
彼女によれば、慶応FIT入試には2つのタイプの合格者がいるという。「評定はあんまりないけど活動とかバリバリしてきました」というタイプと、「評定もほぼオール5の優秀な層」のどちらか。右田さんは前者だった。
「特に面接で『そっかあ』と納得された時は合格を確信しましたね…面接に向けて相当練習したので、上手くいったんだと思います」
志望理由書は「アウトプット」までがセット
最後に、FIT入試に挑戦する後輩たちへのアドバイスを聞いた。
「評定は絶対ラインで、意識して取り続けたほうが良い。小論文と、人に話す力も重要です。志望理由を自分の言葉で人に伝える力が重要じゃないかな。友達とかに協力してもらって、自分の志望理由をアウトプットして、とにかく口に出すっていうことはしてました」
最近の大学入試では、単に頭がいいだけでは評価されにくくなっている。右田さんのように「特技がこれといってない」学生が難関大学に合格するためには、行動力でカバーする戦略的なアプローチが欠かせないのかもしれない。




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