福井県といえば、恐竜。
世界三大恐竜博物館の一つがあるこの地に、2025年4月、日本で初めて、いや世界でも極めて珍しい「恐竜学部」が誕生しました。

 観光の象徴であり、研究の最前線でもある“恐竜”を、学びの中心に据えたこの学部は、一体どんな場所で、どんな学生たちが学んでいるのでしょうか?

今回は、福井県立大学恐竜学部の神谷教授と河部教授にお話を伺いました。 

今回お話を伺った神谷隆宏教授(右)と河部壮一郎教授(左)

恐竜学部の内情とは?

インタビュアー「今日はお時間いただきありがとうございます。早速ですが、2025年4月に誕生したばかりの“恐竜学部”、現在どんな学生さんたちが集まっているのでしょうか?」

神谷教授「現在は1年生が34名在籍していて、そのうち3人は社会人の経験のある学生です。男女比はちょうど半々、17対17ですね」

インタビュアー「“恐竜=男の子のロマン”というイメージだったので、男子ばかりなのかと思っていましたね」

河部教授「そうですね。私たちとしても少し意外でしたね。ただ、それは多分恐竜学部の位置付けによるものなのではないかと考えています」

インタビュアー「恐竜学部の位置付け、ですか」

神谷教授「恐竜学部というと、恐竜が好きで、いわゆる“古生物オタク”的な学生ばかりが集められているのではないかと考えている人もいるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。恐竜はきっかけであって、そこから地質や自然環境・生態系に興味を広げてくれることを期待しています。実は入学式でも、福井の恐竜学の創設者である東洋一県立大名誉教授が生徒たちに含蓄の深い祝辞をくださいました。『恐竜学部は、恐竜を学ぶ学部ではなく、恐竜で学ぶ学部だ』ってね」

インタビュアー「恐竜で学ぶ学部、ですか。」

神谷教授「そうです。地質や自然環境・生態系など、恐竜を学ぶ過程で得られる知識はとても多いです。そうしたことを学ぶ学部として恐竜学部が存在しているので、いわゆる『恐竜マニア』な学生ばかりが集まっているということではないんです。よく勘違いされるんですが、恐竜の名前をたくさん知っているからと言って恐竜学部に入れるというわけではないんですよ」

インタビュアー「それは意外ですね……」

河部教授「実際に、3年次からのコース選択も、 "恐竜・古生物コース”と“地質・古環境コース”の2つに分かれています。で、我々としては恐竜・古生物コースばかりになっちゃうんじゃないかと考えていたのですが、実はそんなことはないという感じです。恐竜学部を通して地学分野全体に興味を持ってもらえるのは、学部として非常にありがたいことです。」

 

県立大学だからこそ実現した恐竜学部

インタビュアー「元々福井県って“恐竜王国”とも呼ばれるくらい、恐竜で有名な場所ですよね?」

神谷教授「そうですね。実は福井で最初に恐竜の化石が見つかったのは1988年[D1] 。石川県との県境に近い勝山市北谷町の山の中でした。『ここにも恐竜がいるんじゃないか?』と、当時の博物館の先生方が地道な発掘調査を続けて、本当にどんどん見つかっていったんです」

河部教授「それこそ“コロンブスの卵”みたいな話でね。最初に“加賀竜”が見つかったときは『えっ、本当に福井に恐竜が?』と驚かれました。でもそこから30年以上かけて、福井は日本の恐竜研究の最前線になっていきました」

インタビュアー「その象徴が、2000年にできた“福井県立恐竜博物館”ですね」

神谷教授「そうです。あの博物館は “世界三大恐竜博物館”の一つに数えられています。単なる展示施設じゃなくて、実際に研究所や発掘拠点も併設されている。だから、ここ福井は“恐竜の観光地”であり、“恐竜研究の拠点”でもあるんです」

河部教授「その研究体制の一翼を担うのが、私たちの“恐竜学部”というわけです」

インタビュアー「なるほど、研究の最前線であり、観光の目玉でもある。その両方があるのは確かに福井ならではですね」

神谷教授「まさにそうなんです。恐竜博物館は、年間100万人が訪れる観光地になっていて、今や福井県の一大ブランドになっています。だからこそ、ここで恐竜を学ぶということには、大きな地域的意義があると思います。たとえば、恐竜をテーマにしたホテルやお土産、デザイン関連の仕事など、“恐竜を活かした産業”というのが福井ではどんどん生まれる可能性がありますよね。その中で、恐竜の知識を持った人材が関わることで、地域全体のクオリティが上がっていく。単なる学問じゃなく、社会との接点を持った“応用される学び”になる可能性があるんです」

インタビュアー「つまり、研究がそのまま観光や産業に繋がっていく可能性がある、ということですね」

神谷教授「ええ。だからこそ、こうした学部は“県立大学”だからこそできたんです。福井県として、“恐竜”を観光資源にも産業資源にもしたいという強い意志があって、それが学部創設の後押しになった。国立大学でも私立大学でも、このスピード感では恐らく難しかったと思います」

河部教授「県からの理解と支援がなければ、“恐竜学部”という名前そのものも成立しなかったでしょう。これは“福井だからできた”“県立大学だから形にできた”全国的にも極めてユニークな学部だと思います」

インタビュアー「まさに“地域と学問が直結したモデル”なんですね。それにしても、ホームページを拝見すると、学部創設から間もないのに、すでに多くの専門の先生方がいらっしゃいますよね。これだけの教員を集められたのも、福井県だからこそなんでしょうか?」

神谷教授「ええ、それは間違いないですね。通常、学部の創出に必要な人材をここまで一度に集めるのは難しいです。しかし福井にはすでに“恐竜博物館”という研究と展示の拠点があり、そこに専門家が集まっていた土壌があった。その蓄積が大きかったと思います」

河部教授「しかも、福井県が“恐竜は県の重要資産だ”と位置づけてくれたからこそ、学部としても20人規模の教員体制を構想できました。こういう投資を、民間や国立大学でやろうとしても、なかなか難しいでしょうね」

神谷教授「これはもう、“先人の努力の賜物”なんですよ。福井県で長年にわたって恐竜研究をしてきていただいた方々のお力や、博物館運営に力を入れてきた背景によって、今こうして“大学教育”という形にまで昇華できた。本当にありがたいことですし、私たちもこの財産を潰さないように、もっと発展させていきたいと思っています」

インタビュアー「まさに、研究と地域の信頼関係の上に築かれた学部なんですね」

  

意外にも卒業後のキャリアは安泰!?

インタビュアー「ここまでお話を聞いてきて、“恐竜学部ってすごく面白そう!”と感じる一方で、正直ネット上では『卒業してから何するの?』『その学部で本当に将来大丈夫?』という声も見かけます。率直に言って、将来の進路や就職ってどうなんでしょうか?」

神谷教授「よく聞かれる質問ですね(笑)。確かに“恐竜”と聞くと、“恐竜博士”になるしかないの?と思われがちです。でも実際には、恐竜学部では地質調査、環境分析、博物館運営、教育、さらにはデジタル技術やデザインなど、幅広いスキルを身につけることができます」

河部教授「たとえば地質コースの学生は、自然災害の調査や、地質解析の技術を学びます。これはインフラ整備や環境保全にも活かせる内容で、“地球の履歴書を読む力”を社会の中で活用できるんです。実際、地質調査会社などで即戦力になる人材は、今とても求められています」

神谷教授「観光業やデザイン関連とも連携が進んでいて、恐竜をモチーフにした商品開発やコンテンツづくりに学生が関わる機会もあります。今は“恐竜”を通じて社会とつながる新しい仕事がどんどん生まれてきているんですよ」

インタビュアー「“恐竜=博士”ではなく、もっと広いフィールドがあるということですね」

神谷教授「そうです。“恐竜を通じて自然を学ぶ”“恐竜で地域とつながる”という経験をした人材は、どんな職業に進んでも必ず強みになります。もちろん、研究者を目指す学生もいて、今後は大学院の設置も予定していますが、それだけが進路ではありません。“好きなことを全力で学んだ”という経験そのものが、社会に出てからの糧になると思っています」

 

“好き”を学ぶということ──恐竜学部がつくる自由な学びの空間

インタビュアー「ここまでのお話を聞いていて、“学びが本当に楽しそうだな”と感じました。でも一方で、大学ってどうしても“就職のため”とか“将来のために何を学ぶか”って考えがちですよね」

河部教授「そうですね。でも私は、大学4年間は、必ずしも“実益”や“将来の安定”だけを考えて過ごす必要はないと思っているんです。むしろ、“好きなことを全力で学ぶ”という時間にしてほしい」

インタビュアー「“好きなことをやるだけでいい”というのは、なかなか勇気のいる言葉でもありますね」

河部教授「でも本当に、好きなことに打ち込んだ人って、最終的にはそれが“自分の力”になるんですよ。逆に、“とりあえず就職に有利だから”と選んだ分野では、途中で苦しくなってしまうことも多いのではないかと。だからこそ、“恐竜が好き”“自然が好き”という気持ちを起点に、自分の学びを広げていく──そういう時間が大学の4年間であっていいと思っています」

インタビュアー「それはとても大事なことですね」

河部教授「実際、恐竜学部では今それがかなり実現できている実感があります。みんなやりたいことをやりに来ていて、楽しく学んでくれている状況です」

 

社会人も学び直している?

インタビュアー「学生の皆さんが本当にのびのびと学んでいるというお話でしたが、実は社会人の学生さんもいらっしゃるんですよね?」

神谷教授「そうなんです。今年の1年生34人のうち、実は3人が社会人。うち2人は“社会人入試”、1人は一般入試で入ってこられました」

インタビュアー「えっ、一般入試で!?それはすごいですね…!」

河部教授「社会人の人の1人は、高校の先生として働いていたそうなのですが、それを一度辞めて、この学部で学び直しているんです」

インタビュアー「すごい…。どうしてそこまでして、この学部に?」

河部教授「“もう一度、自分の本当にやりたかったことに向き合いたかった”ということでした。将来はまた高校現場に戻って、生徒たちに“自然の面白さ”や“科学する視点”を伝えたいと。そういう“明確な目標”を持って学んでいるから、授業にも本当に真剣に取り組まれていて、周りの学生にも良い刺激になっています」

インタビュアー「“学びたい”という気持ちに年齢は関係ないんですね。今は“リスキリング”という言葉も注目されていますが、この恐竜学部は“人生の中で一度立ち止まって、もう一度学び直したい”という人にも、とてもいい場所なのかもしれませんね」

 

最終的なゴールは?

インタビュアー「最後に、恐竜学部の最終的なゴール・今後の展望についてお伺いしたいと思います。恐竜学部はまだスタートしたばかりとのことですが、これからどのような発展を考えていらっしゃるのでしょうか?」

河部教授「そうですね、今のところは“学部”だけで、まだ大学院は存在していません。ただ、すでに構想は進んでいて、2029年度には大学院──修士課程を創設する予定です」

神谷教授「今はまず、学部で基礎的な知識と技術をしっかりと身につけてもらうフェーズです。が、将来的にはここから“研究者”を本格的に育成できる体制を整えていきたいと思っています。恐竜学の最先端を担う人材を福井から輩出する。それが私たちの目標です」

インタビュアー「恐竜研究の次世代を、福井で育てるということですね」

河部教授「はい。もちろんすべての学生が研究者になるわけではありません。でも、地質や環境、防災、教育、観光など、社会のさまざまな現場で“恐竜で学んだ視点”を活かしてくれる人材は地域の即戦力になります。そしてその中から、“自分も研究を続けたい”“この学問を未来につなげたい”と思う人が出てきてくれたら嬉しいですね」

神谷教授「そうした人たちが、いずれ“教える側”として戻ってきてくれるような、そんな“拡大再生産”ができる学部にしていきたいです。単に卒業して終わりじゃなくて、次の世代を育てる人材が育っていく。そういう循環が生まれたら、本当に理想的ですね」

インタビュアー「福井で恐竜を学んだ学生が、また福井の恐竜研究を支えていく──そんな未来が見えてきますね」

神谷教授「ええ。この学部が、地域に貢献しながら、世界とつながる恐竜研究のハブになっていけたら。それが私たちの願いです」

 

神谷隆宏教授(左)と河部壮一郎教授(右)

「恐竜が好き」という気持ちから始まり、地球の歴史や自然環境の仕組み、地域との関わりにまで広がっていく──。
福井県立大学恐竜学部は、単なる“恐竜を学ぶ場所”ではなく、未来へと続く多様な学びの交差点になろうとしています。
ここで過ごす4年間が、学生たちにとって“好奇心を原動力にする”という、かけがえのない人生の土台になることは間違いありません。

「好きなことを学びたい」その気持ちに正面から応えてくれるこの学部の未来に、今後も注目です。


 [D1]1982年に見つかったのは、中生代ワニ化石。

最初に恐竜の化石(肉食恐竜の歯)が見つかったのは、1988年の北谷予備調査の時。

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